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原根健太の徹底解説!スタンダード・アナライズ

第18回:プロツアー『霊気走破』を経たスタンダード環境の現在地
皆さんこんにちは。原根健太(@jspd_)です。
今回は『霊気走破』リリースを受けてのスタンダード環境解説記事となります。今週末から開催されるストアチャンピオンシップなどに向けて、是非本稿を役立ててください。
また私事ではございますが、私原根は先日開催された「プロツアー『霊気走破』」にてトップ8に入賞いたしました!

スタンダード連載を担当する者として、同フォーマットのイベントで成果を残せたことで、自信を持って皆様に情報をお伝えできることを嬉しく思います。入念な準備を進めてきた練習の経験を活かし、今回も環境の最先端の情報をお届けいたします。
それでは早速はじめて行きましょう。
『霊気走破』

『霊気走破』は複数の次元を股にかけて繰り広げられるカーレース「ギラプール・グランプリ」を舞台としたセットです。上記キーアートのインパクトが凄まじく、普段のマジックとは異なった雰囲気が感じられますね。
多数の乗騎クリーチャーや機体、エンジン始動、勝負所でのアクセルの踏み込みを表す消尽など、レースにまつわる能力が多数登場しています。
旧カラデシュ次元(現在はアヴィシュカー次元)が絡んでくるという事もあり、《密輸人の回転翼機》や《キランの真意号》のような環境を激変させるパワフルな機体が登場するのではとの予想もありましたが、今セットの機体は少し癖のあるものが収録されています。
特定のデッキで効果を発揮しそうなデザインのものが多く見受けられますので、今後登場するカードやデッキとの組み合わせが見つかることが楽しみです。
また先のセット『ダスクモーン:戦慄の館』にて登場した境界土地も残りのカラーリングが収録されました。これで全10種が揃った格好ですが、境界土地は先に出る色マナ次第で最大20パターンデザインが可能なため、今後のセットで別バージョンが追加される可能性もあります。
プロツアー『霊気走破』
さて、冒頭で少し触れましたが、先日リリースされたばかりである本セットが使用可能なビッグイベント、プロツアー『霊気走破』が開催されました。

発売日の翌週という非常にスピード感あるスケジュールで開催された本大会ですが、世界中のトッププレイヤーの叡智が集った場であるため、分析の対象としてこれ以上のものはありません。今後のメタゲームにも大きな影響を及ぼすことでしょう。上位入賞したデッキを中心に本大会で活躍したデッキを紹介します。
まず大会のメタゲームブレイクダウンは以下の通りです。

新セットリリースから間がなかった事もあり、ほとんどのプレイヤーが前環境からの既存デッキを選択することになりました。特に「グルール・マウス」「エスパー・ピクシー」「版図大主」の三大勢力は前評判も非常に高く、3つのデッキがそれぞれシェアを15%以上ずつ担うなど、均衡した幕開けとなりました。
環境の三大勢力
逆にそれ以外のデッキは多くとも5%程度のシェアしか出ておらず、3デッキの人気が突出した構図となっています。
そして、最終的な大会結果は以下の通りです。
戦績 | デッキ名 |
---|---|
優勝 | 版図大主 |
準優勝 | 版図大主 |
トップ4 | 版図大主 |
トップ4 | グルール・マウス |
トップ8 | ゴルガリ墓地利用 |
トップ8 | グルール力線 |
トップ8 | ジェスカイ眼魔 |
トップ8 | 赤単アグロ |

優勝を遂げたのはマット・ナス選手。版図大主を使用し、予選ラウンドから決勝ラウンドまでスタンダードラウンドを無敗で駆け抜けました。圧巻の優勝です。
前評判通り三大勢力がトップ8の半数を占めましたが、その中で唯一エスパー・ピクシーは姿が見受けられませんでした。9位~16位の間には2名が上位入賞されているのですが、大会全体を通しての勝率は50%を切るなど苦戦を強いられています。
主要デッキの勝率
デッキ名 | 大会勝率 |
---|---|
グルール・マウス | 50.8% |
エスパー・ピクシー | 48.1% |
版図大主 | 55.9% |
ジェスカイ眼魔 | 52.7% |
赤単アグロ | 56.5% |
ディミーア・ミッドレンジ | 25.9% |
ディミーア・バウンス | 45.0% |
アゾリウス眼魔 | 49.3% |
ゴルガリ・ミッドレンジ | 43.5% |
セレズニア・ケージ | 44.9% |
一方で、本大会の優勝デッキでもある版図大主は高い数値を示しており、この二者間の相性は版図大主に分があることから、今大会における関係性が示されたと言えるでしょう。
それでは、各デッキをより掘り下げてご紹介します。
版図大主
1 《沼》 2 《フラッドファームの境界》 2 《森》 2 《迷路庭園》 1 《島》 2 《薄暗い裏通り》 4 《草萌ゆる玄関》 1 《行き届いた書庫》 1 《平地》 2 《ウェイストウッドの境界》 4 《ハッシュウッドの境界》 3 《魂の洞窟》 -土地(25)- 3 《ミストムーアの大主》 4 《ホーントウッドの大主》 1 《跳ねる春、ベーザ》 4 《永遠の策謀家、ズアー》 -クリーチャー(12)- |
1 《群れの渡り》 2 《太陽降下》 2 《審判の日》 1 《別行動》 2 《害獣駆除》 2 《花粉の分析》 1 《全損事故》 3 《失せろ》 1 《エルズペスの強打》 4 《力線の束縛》 4 《豆の木をのぼれ》 -呪文(23)- |
1 《向上した精霊信者、ニッサ》 2 《完成化した精神、ジェイス》 1 《偉大なる統一者、アトラクサ》 1 《跳ねる春、ベーザ》 3 《強情なベイロス》 1 《害獣駆除》 1 《ドッペルギャング》 1 《羅利骨灰》 1 《否認》 2 《安らかなる眠り》 1 《領事の権限》 -サイドボード(15)- |
この連載で版図デッキを紹介するのもこれで何度目でしょうか。このデッキは本当に強いですね。前回の記事で詳しく取り上げているので、是非そちらも見てみてください。
長い間環境に存在することでデッキリストも少しずつブラッシュアップされていき、今回マット・ナス選手が用いたバージョンは一つの完成形に至ったと言えるでしょう。
版図大主は主に白と緑を中心としたカラーリングを取っていましたが、その中でも《フラッドピットの大主》は異質の存在で、マナベースに強い負荷をかけていました。《永遠の策謀家、ズアー》をはじめ多少青マナを用いることはあってもダブルシンボルの捻出は困難で、よく事故要素の元になっていました。直近ではこの青い大主は減少傾向にあり、今回のリストでは完全に抜き去られた他、それに合わせて《魂の洞窟》も不採用とし、健全な色マナにマナベースに寄せています。従来のリストと比べて飛躍的に安定感が増しています。
さらに『霊気走破』からは《全損事故》を獲得し、除去能力が向上しました。2マナでプレイできる除去呪文ですが、元のマナ総量は5であるため《豆の木をのぼれ》とシナジーします。この枠にはこれまで《光明の叱責》が使われていましたが、追放要素分アップデートがなされています。サイズの大きな《心火の英雄》を対処する際など、破壊と追放では大きな差があります。今回のリストでは《全損事故》は4枚採用されており、《花粉の分析》の運用を支えています。これにより《永遠の策謀家、ズアー》にアクセスしやすくなるなど、先の追放手段へのアップデートに然り、グルール・マウスへの相性改善に大きく役立っています。
サイドボードの《強情なベイロス》は現在の緑系デッキの定番サイドボードで、エスパー・ピクシーが繰り出す《望み無き悪夢》への強烈な対抗手段です。このマッチアップはエスパー・ピクシー側が劣勢で、《強情なベイロス》のようなカードをケアしている余裕はありませんから、引かれていた場合は手痛い切り返しを受けることになります。
グルール・マウス
4 《カープルーザンの森》 1 《森》 1 《不穏な尾根》 2 《岩面村》 4 《銅線の地溝》 2 《魂石の聖域》 4 《ソーンスパイアの境界》 5 《山》 -土地(23)- 3 《叫ぶ宿敵》 4 《熾火心の挑戦者》 2 《探索するドルイド》 4 《多様な鼠》 4 《心火の英雄》 4 《雇われ爪》 2 《脚当ての補充兵》 -クリーチャー(23)- |
1 《抹消する稲妻》 1 《魔女跡追いの激情》 4 《塔の点火》 1 《噴出の稲妻》 4 《巨怪の怒り》 3 《亭主の才能》 -呪文(14)- |
2 《陽背骨のオオヤマネコ》 1 《叫ぶ宿敵》 2 《名もなき都市の歩哨》 2 《探索するドルイド》 1 《抹消する稲妻》 3 《石術の連射》 1 《魔女跡追いの激情》 3 《脚当ての陣形》 -サイドボード(15)- |
『ブルームバロウ』リリース以降環境の最先端でずっと活躍しているアグロデッキの定番です。その後どれだけのセットリリースを受けても勢いが衰えることはなく、常に環境の最前線をリードしており、本大会においても1番人気でした。
呪文や能力の対象になる度力を発揮するハツカネズミらを軸に、序盤から終盤まで終始力強く戦うことができます。《心火の英雄》から《多様な鼠》に繋ぐ最高速のビートダウンはもちろん、《多様な鼠》は新生化の能力を有しておりアドバンテージ面でも優れる他、《亭主の才能》や《探索するドルイド》など長期戦も十分に戦える備えがあり、アグロデッキにありがちな「捌かれて息切れして負け」ということがほとんどない異質な強さがあります。
サイドボードには《陽背骨のオオヤマネコ》が採用されており、最近は基本土地をあまり採用していないデッキが増えてきていますから、ゲームに与えるインパクトは非常に大きいです。ライフ回復を阻止する能力も《永遠の策謀家、ズアー》や《跳ねる春、ベーザ》といった強力な回復手段の対策になります。
グルール・マウスは単純なデッキの強さに加え版図大主に対して相性が良い点がセールスポイントです。今回決勝トーナメントでは惜しくも負けてしまいましたが、予選ラウンドにおいては高い勝率を記録しており、今後まだまだ活躍しそうなデッキです。
グルール力線
7 《山》 4 《ソーンスパイアの境界》 4 《カープルーザンの森》 4 《銅線の地溝》 -土地(19)- 4 《熾火心の挑戦者》 2 《無感情の売剣》 4 《精鋭射手団の目立ちたがり》 4 《心火の英雄》 4 《僧院の速槍》 4 《騒音の悪獣》 -クリーチャー(22)- |
4 《弱者の力》 4 《裏の裏まで》 4 《巨怪の怒り》 3 《蛇皮のヴェール》 4 《残響の力線》 -呪文(19)- |
4 《探索するドルイド》 2 《多様な鼠》 3 《石術の連射》 2 《脚当ての陣形》 1 《戦慄大口の怒り》 2 《噴出の稲妻》 1 《除霊用掃除機》 -サイドボード(15)- |
グルール・マウスとは似て非なるデッキ、グルール力線です。《残響の力線》の爆発力に特化させた構築をしており、大量のクリーチャー強化呪文でサイズを大きくしたクリーチャー陣を《無感情の売剣》で投げ込むフィニッシュ手段を有しています。《心火の英雄》や《騒音の悪獣》は墓地に送られた際自身のパワー分ダメージを与える効果があり、これを《無感情の売剣》することで凄まじい点数のダメージを叩き出せるほか、《裏の裏まで》などタフネスが上がらない強化呪文を使うことで敢えて戦闘で破壊されダメージに変換する戦い方も用意しています。
クリーチャー強化呪文を多用するため対応して除去呪文をプレイされる際のリスクが高く、そのため《蛇皮のヴェール》のようなクリーチャーを守る手段を多く採用しています。
サイドボード後は対戦相手も《残響の力線》の攻めを対処するべくエンチャント破壊やクリーチャー除去呪文を多くサイドインしてきますが、逆に《残響の力線》を全てサイドアウトして《探索するドルイド》や追加の《多様な鼠》と入れ替えることで消耗戦に強くしたり、戦略に幅を出すことが可能になります。最高速のビートダウンか、持久戦を見据えたアドバンテージプランか、対戦相手からすればやりづらいことこの上でないですね。
赤単アグロ
15 《山》 4 《岩面村》 3 《魂石の聖域》 -土地(22)- 4 《叫ぶ宿敵》 4 《熾火心の挑戦者》 4 《多様な鼠》 4 《心火の英雄》 4 《雇われ爪》 4 《僧院の速槍》 -クリーチャー(24)- |
2 《魔女跡追いの激情》 4 《稲妻の一撃》 4 《巨怪の怒り》 4 《噴出の稲妻》 -呪文(14)- |
4 《陽背骨のオオヤマネコ》 4 《石術の連射》 2 《魔女跡追いの激情》 3 《塔の点火》 2 《除霊用掃除機》 -サイドボード(15)- |
版図大主が活躍した大会ということで、それに伴い赤系アグロの活躍は目覚ましいものになっていますね。これで3つ目の紹介です。これらのアグロは版図大主に対し総じて相性が良いため、今後も数を増やしていく可能性が高いです。
この赤単アグロは3つの中で最も直線的で、シンプルな戦略を掲げています。色が少なくなった分《亭主の才能》や《探索するドルイド》といった絡め手はなくなってしまいましたが、その枠には《稲妻の一撃》という火力呪文が収まっており、クリーチャーデッキ同士の戦いにおける対処手段が増えている都合グルール・マウスなど赤アグロ同士の対戦で有利という性質があります。
また必要な色マナが少なくなったためマナベースの負荷が低下し、代わりに付加価値のある土地を多く採用できています。《岩面村》もフルで採用できますし、《魂石の聖域》も終盤の詰めで非常に良い働きをします。
グルール・マウスでも採用されていた《陽背骨のオオヤマネコ》は気迫の4枚採用です。色が減ったことで採用できるカードの選択肢が減っているという事情もありますが、コントロールデッキと戦う上で1つ重要な要素となっているのは間違いなさそうです。
ゴルガリ墓地利用
4 《沼》 4 《花盛りの湿地》 3 《ラノワールの荒原》 4 《地底の遺体安置所》 4 《ウェイストウッドの境界》 1 《森》 -土地(20)- 4 《鞘破りの群れ》 4 《虚ろなる匪賊》 2 《キチン質の墓地歩き》 2 《苦難の収穫者》 4 《ベイルマークの大主》 4 《迷いし者の魂》 4 《かじりつく害獣》 4 《脱皮の世話人》 4 《陥没穴の偵察》 -クリーチャー(32)- |
4 《やり場のない悔恨》 4 《豆の木をのぼれ》 -呪文(8)- |
1 《苦難の収穫者》 2 《強情なベイロス》 1 《飢えた亡霊》 4 《屑鉄撃ち》 2 《機能不全ダニ》 3 《恐怖の潮流》 1 《強迫》 1 《切り崩し》 -サイドボード(15)- |
版図大主同様《豆の木をのぼれ》を主体としたデッキですが、コンセプトは大きく異なる、いわゆる変わり種デッキです。《虚ろなる匪賊》《迷いし者の魂》といった「墓地にクリーチャーが溜まるほど力を発揮する」クリーチャーが主力のデッキとなっています。
早いターンから大型のクリーチャーが複数体並ぶという強力な動きがあり、うまく回れば相手のデッキタイプに関わらず圧殺できる問答無用の力強さが売りです。
このデッキは性質上デッキ枠のほとんどをクリーチャーで占めることが求められ、その上で墓地を能動的に肥やしていく必要があります。《ベイルマークの大主》はその性質に完璧にマッチしたカードで最適ですが、一方で《蓄え放題》のようなカードは自身が墓地に置かれた際クリーチャーカウントを稼がず、このようなカードを入れれば入れるほどデッキ内のクリーチャー数が減って好ましくないなど、制約も多いです。
《脱皮の世話人》は『霊気走破』で獲得した、この制約をクリアしているカードです。貴重な1マナからの墓地肥しを得ることで強化されました。《キチン質の墓地歩き》も追加で採用できる墓地利用クリーチャーで、いくらか不足していたデッキの枠を埋めるカードを獲得し、今大会トップ8デッキにまで上り詰めています。
1ターン目から動き出すデッキということで、今回獲得できた《ウェイストウッドの境界》も大きな役割を有します。先に出る色マナが緑という点で噛み合いが良く、欲しかった強化点がしっかりともらえた格好ですね。
サイドボードに4枚採用された《屑鉄撃ち》はクリーチャーカウントを減らすことなく対戦相手がサイドボードから投入してくる墓地対策を対処できるナイスカードで、破壊するエンチャント・アーティファクトの種類を問わないことから《安らかなる眠り》にも《除霊用掃除機》にも対応可能です。合わせて採用されてる《機能不全ダニ》と異なり単体戦力が高いので対戦相手が墓地対策を引いていない展開でも十分な機能が望めます。
ジェスカイ眼魔
4 《感動的な眺望所》 4 《金属海の沿岸》 4 《尖塔断の運河》 4 《シヴの浅瀬》 2 《戦場の鍛冶場》 2 《轟音の滝》 2 《アダーカー荒原》 -土地(22)- 4 《忌まわしき眼魔》 4 《蒸気核の学者》 3 《太陽の執事長、インティ》 4 《逸失への恐怖》 4 《遠眼鏡のセイレーン》 -クリーチャー(19)- |
2 《再稼働》 4 《救いの手》 1 《洪水の大口へ》 2 《呪文貫き》 1 《跳ね弾き》 4 《塔の点火》 2 《苦々しい再会》 3 《プロフトの映像記憶》 -呪文(19)- |
3 《灯を追う者、チャンドラ》 2 《兄弟仲の終焉》 2 《紅蓮地獄》 2 《否認》 3 《邪悪を打ち砕く》 2 《金線の酒杯》 1 《除霊用掃除機》 -サイドボード(15)- |
そしてトップ8最後の一枠を飾るのはジェスカイ眼魔。このデッキは実際にトップ8に入賞した私をはじめ、チーム森山ジャパンの面々の内8名が使用したデッキです。
スタンダードの眼魔デッキと言えば《傲慢なジン》や《僧院の導師》と組み合わせたアゾリウス眼魔が定番ですが、このリストは青赤のカラーリングをメインに《救いの手》と《再稼働》のリアニメイト要素をタッチしたジェスカイカラーのものになります。
赤い要素は主に手札を捨てる要素で構成されており、これらで手札に引いた《忌まわしき眼魔》を墓地に送り込んでリアニメイトします。
代わりにアゾリウス眼魔で採用されている《錠前破りのいたずら屋》や《第三の道の創設》といった墓地肥し要素は採用されておらず、《忌まわしき眼魔》にアクセスできる確率は従来のものより下がっています。これだけ聞けばジェスカイカラーにする理由は何なのか不思議に思いますよね。
このデッキの狙いは眼魔リアニメイト以外にもう1つあり、それが《プロフトの映像記憶》を用いたビートダウンです。眼魔を捨てる役割を持つカードは合わせてドロー効果を持っているものがほとんどで、これらと《プロフトの映像記憶》は高相性です。自軍のクリーチャーはたちまちサイズの大きなクリーチャーに成長していきます。
中でも特に相性が良いのが《逸失への恐怖》で、このカードは昂揚を達成していれば追加の戦闘フェイズを発生させる能力を持っています。そして《プロフトの映像記憶》は追加された戦闘フェイズでも能力が誘発するため、この2枚はコンボし、一瞬で巨大なクリーチャーを生成できてしまう訳です。
また《逸失への恐怖》が発生させる追加の戦闘フェイズは警戒クリーチャーと相性が良く、《逸失への恐怖》の能力で対象にしなかったクリーチャーも警戒を持っていれば共に攻撃に向かわせることができます。《蒸気核の学者》は眼魔を捨てる役割を持つ警戒クリーチャーであり、カードを2枚引くので《プロフトの映像記憶》とも高相性で、デッキのすべてと噛み合っています。
このように、ジェスカイ眼魔は眼魔リアニメイトと《プロフトの映像記憶》要素のハイブリットデッキです。リアニメイトに依存しない分墓地対策に耐性があり、サイドボード後も簡単にやられることがない利点を持っています。
サイドボードには『霊気走破』の新プレインズウォーカーである《灯を追う者、チャンドラ》が採用されています。これはサイドボード後の墓地対策を乗り越えるための追加の勝ち手段を担う他、「+2」能力による手札入れ替えは眼魔のリアニメイトにも作用するなど、デッキに非常に適したカードです。
トップ8デッキの紹介は以上です。ここからは今後のトーナメントシーンに絡んできそうなその他の勢力について紹介します。
エスパー・ピクシー
3 《アダーカー荒原》 3 《コイロスの洞窟》 4 《秘密の中庭》 4 《闇滑りの岸》 1 《島》 1 《不穏な投錨地》 4 《金属海の沿岸》 1 《沼》 2 《地底の大河》 -土地(23)- 4 《孤立への恐怖》 4 《養育するピクシー》 4 《呑気な物漁り》 3 《悪意ある呪詛術士》 -クリーチャー(15)- |
1 《底なしプール // 更衣室》 1 《邪悪を打ち砕く》 4 《望み無き悪夢》 3 《悪夢滅ぼし、魁渡》 1 《勢い挫き》 4 《逃げ場なし》 4 《嵐追いの才能》 4 《この町は狭すぎる》 -呪文(22)- |
2 《魔法破り》 1 《荒らされた地下室 // 解剖室》 2 《邪悪を打ち砕く》 2 《不気味なガラクタ》 1 《悪夢滅ぼし、魁渡》 1 《第三の道のロラン》 3 《安らかなる眠り》 1 《一時的封鎖》 2 《魔女の虚栄》 -サイドボード(15)- |
まず忘れてはならないのが三大勢力の一角エスパー・ピクシーです。トップ8こそなりませんでしたが、トップ16には2名を輩出しています。
《嵐追いの才能》や《望み無き悪夢》といった戦場に置かれた際能力が誘発するパーマネントを《養育するピクシー》や《この町は狭すぎる》で再利用することで細かくアドバンテージを稼ぎ出すデッキです。前環境で突如現れ、瞬く間にトップメタの一角に躍り出ました。
このデッキの凄いところは「アグロにもコントロールにも変化する」多角的な戦略を有する点です。《呑気な物漁り》や《悪意ある呪詛術士》を用いて1ターン目からクロックを展開する高速のビートダウンデッキとなることもあれば、《逃げ場なし》を繰り返し使い回すことで対戦相手のクリーチャーを壊滅させ、盤面を制圧するコントールデッキにも変化します。《嵐追いの才能》で《この町は狭すぎる》を使い回すソフトロックモードも持ち合わせており、メインデッキ時点からあらゆる戦略を適応できます。
『霊気走破』からは《勢い挫き》と《不気味なガラクタ》という2種類の除去呪文を獲得しました。地味ながらも着実な強化で、特に《不気味なガラクタ》は相性が均衡していた赤アグロデッキ相手に一歩リードするカードであり、明確に欲しかった要素です。《勢い挫き》も元々は《税血の刃》を使っていた部分で、《呑気な物漁り》とのシナジー分エンチャントに置き換わるのはとても好ましいことです。手札破壊モードも単なるおまけでは収まらず、クリーチャーを展開してこない相手には追加の《望み無き悪夢》として機能させることができます。
今回版図大主がトップ4に3名を送り込む大躍進を遂げましたが、この結果は今後のトーナメントシーンに間違いなく影響します。すなわち、版図大主を意識した、それに対して有利なデッキが増えることでしょう。例としてグルール・マウスですが、エスパー・ピクシーはそういったデッキに対しわずかに有利に立ち回ることができるため、今後のメタゲームにおけるポジションが良くなる可能性が高いです。
アゾリウス・コントロール
1 《解体爆破場》 3 《金属海の沿岸》 3 《不穏な投錨地》 2 《行き届いた書庫》 1 《アダーカー荒原》 2 《噴水港》 4 《フラッドファームの境界》 5 《平地》 3 《島》 2 《爆発域》 -土地(26)- 1 《有角の湖鯨》 3 《跳ねる春、ベーザ》 2 《ミストムーアの大主》 -クリーチャー(6)- |
4 《食糧補充》 4 《失せろ》 2 《喝破》 3 《一時的封鎖》 3 《審判の日》 4 《全損事故》 1 《太陽降下》 2 《否認》 4 《完成化した精神、ジェイス》 1 《方程式の改変》 -呪文(28)- |
1 《強情なベイロス》 2 《安らかなる眠り》 2 《ミストムーアの大主》 1 《敬虔な命令》 2 《解剖道具》 1 《否認》 1 《跳ねる春、ベーザ》 2 《萎れ葉のしもべ》 3 《ティシャーナの潮縛り》 -サイドボード(15)- |
今大会突如として登場したアゾリウス・コントロール。スタンダードにおけるコントロールデッキは《記憶の氾濫》がローテーション落ちしてしまって以降下火でしたが、《食糧補充》がその代わりを果たそうとしています。このデッキが注目を浴びる理由ももちろん版図大主に対して強く出られる点が挙げられ、メインボードから4枚採用された《完成化した精神、ジェイス》からは強い意志が感じられます。
また実にコントロール然としたメインボードの大量の全体除去はアグロデッキへの耐性を伺い知ることができ、カード単位の対策にはなりますが現時点のメタゲームに非常に合致しているように見えます。
スタンダードの青白コントロールは低マナの除去が乏しく、《失せろ》を全力で投入することでこの問題をカバーしてきましたが、今回ここに《全損事故》が追加されたことも追い風です。アドバンテージ源と低マナ除去という2つの課題を克服したコントロールデッキは今後台頭の兆しを見せています。
12位に入賞したアーネ・フーシェンベス/Arne Huschenbeth選手はスタンダードラウンドを9勝1敗で終えており、早くもデッキの可能性を示しています。
今回は以上になります。いかがでしたでしょうか?
発売から1週間程度のプロツアー開催ということで新セットのカードの使用はやや少なめでしたが、それでも環境への影響は確かなものがありました。またエスパー・ピクシーのようにセット発売から時間が経過し、研究が進められていくことで見つかるデッキタイプもあるかもしれません。
スタンダードのローテーションが3年に拡大されて以降、スタンダードは常に多種多様なデッキの活躍が見られ、自由度の高いフォーマットになってきています。自分のお気に入りのデッキを見つけてトーナメントに足を運んでみましょう!
それではまた次回。
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