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戦略記事

Beyond the Basics -上級者への道-

スタックとそのトリック

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スタックとそのトリック

Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing

2017年11月30日

 

 スタック。

 それはマジックの集まりでしばしば行き交う、ひそかに囁かれている言葉だ。その領域について教えられたり話題とするようなことはない。秘匿されている。

 そして、始めたばかりのプレイヤーに対して、スタックのことをしっかり教えていないのは事実ではある。マジックはスタック要素を除いたとしても複雑で圧倒的な奥深さを備えており、新規プレイヤーがマジックを学びその内容を追おうとしている時には、混乱を招く余分な情報になってしまう。しかしスタックは、マジックのゲームにおいて重大な要素でもあるんだ。

 なんというか、腰を据えてスタックについて説明するということは、鳥や蜂がマジックの話をするようなものなんだ。

 私の友人ディノ/Dinoは最近マジックを始めた。(これについては恐竜に感謝している。恐竜/Dino-saurだけに)そしてスタックの仕組みと、それを活用する方法についてうまいやり方がないか訪ねてきたんだ。私はDailyMTGの記事をあちこち巡っては関連する情報を集めていったが、スタックについての話題をまとめた記事がここ最近は無い、ということに気が付いた。

 いい機会だ。

 スタックとは何か、どのように機能するのか、そこから引き出せる策略はあるのか?

 調べてみよう!

スタック:はじめに

 端的に言えばスタックとは、マジックの呪文や能力が唱えられたり起動されたりしてから、それが実際に解決されるまでの間そこに置かれる待機場所だ。

 この限定的期間で、プレイヤーはこの後何かが起こるということを知るが、それはいまだ起こっていない。

 基本的には次のように機能する。

 プレイヤーである私が呪文を唱える。何でもいい――クリーチャー、インスタント、アーティファクト、どんな呪文でもかまわない。それはスタックに移動する。

 そのターンを進行しているプレイヤー(今回の例では私)が、それに対応する機会を得る。この対応する機会のことを「優先権」と呼ぶ。その後、対戦相手も対応する機会を得る。どちらのプレイヤーも何もしないならば、呪文が解決される。簡単だ。

 ではここで、対戦相手が対応して呪文を唱えてきたとしよう。ああ、お互いがまたそれぞれ対応する機会を得る。

 そしてどちらのプレイヤーもそれ以上何もしないならば、そのまま対戦相手の呪文が解決される。

 そして、私が唱えた最初の呪文はまだスタックに残っている。双方が優先権をパスすると、それが解決される。

 ここで注意すべきことは何だろうか? 2番目に唱えられたものが、最初に唱えられたものより先に解決された。スタックは後入れ先出し方式なんだ。

 これを視覚化するために実際の例を挙げてみよう。

 私は《歩く死骸》を唱える。

 私は優先権を得る。その自分の呪文に対応しないことを選び、私は優先権をパスする。そして対戦相手も何もしないことを選択した場合、《歩く死骸》は戦場に出る。

 しかし今回は、対戦相手が対応して《予期》を唱えた。

BB20171130_Stack01.jpg

 私は優先権をパスする。対戦相手も優先権をパスする。《予期》が解決される。

 その後、私はまた優先権を得る。《予期》は解決されたので墓地にあるが、《歩く死骸》はまだスタックにある。私は優先権をパスする。対戦相手も優先権をパスすれば、《歩く死骸》は解決されるだろう。そしてそうなったので、《歩く死骸》は戦場に出る。

 しかし、もし対戦相手が(《予期》で持ってきたかもしれない)《取り消し》を持っていたら、それで《歩く死骸》を打ち消せた、という点には気をつけよう。

 まあ、これは機能を事細かに述べたものだ。マジックのゲームのほとんどでは、ここまでの微細な確認は必要ないし、「《歩く死骸》、エンド」と言うだけで問題なく代替できる。しかし、スタックが重要になる場合もあるんだ。

 そこで次は、実践的な応用方法について話そう。

稲妻と熊

 大昔、稲妻と熊の物語があった。

 私は《ルーン爪の熊》をコントロールしている。攻撃だ。

 手札には《剛力化》があるので、それを唱える! 相手にさらに4点のダメージを与えられるぞ!

 《剛力化》はスタックに置かれ、私は優先権を得る。私は優先権をパスする。しかし対戦相手は《》をタップし、貧弱な熊に向かって《稲妻》を唱える好機を得てニヤリと笑う!

 私は再び優先権を得る。パスする。対戦相手もまたパスする。《稲妻》は解決され......《ルーン爪の熊》は死ぬ。《剛力化》はまだスタックにあるが、解決はされない。その呪文は失敗する――もはや適正な対象が無いため、ゲームのルールによって打ち消される。なんてことだ。

 さあ、手順を入れ替えてみよう。

 状況は同じく、私は熊で攻撃する。しかしその時、《剛力化》は唱えない。

 対戦相手には、熊が戦闘ダメージを与える前に《稲妻》を唱える機会があり、相手はそうした。その後私に優先権が与えられ――そこで《剛力化》を唱える!

 私の熊は6/6になり、《稲妻》は熊を倒すには至らない。そして対戦相手には6点のダメージが与えられる。

 これは極めて大きな違いだ!

BB20171130_Bear.jpg

 このような状況では、不利になることを警戒してお互いに何もしない、ということがしばしばありうる。基本的に、後から行動するプレイヤーのほうが有利になるということは覚えておこう。

 そしてこれは、対戦相手がコンバット・トリック(訳注1)を構えているときに、ダメージで攻撃クリーチャーに対処しようとすることの危険性についての教訓でもある。(それ以上のことについては、「インスタント即席講座」を読もう。)

(訳注1:コンバット・トリック/戦闘フェイズ中にクリーチャーを支援する呪文や能力)

スタックはどう使われる?

 スタックについてのよくある質問は、どんな種類のカードや能力がスタックを使うのか? というものだ。

 ほぼすべての呪文、マナ能力ではない起動型能力、あるいは誘発型能力は、上記の説明と全く同様にスタックを使う。《歩く死骸》を唱える、《蠱惑的な船員》の能力を起動する、《王神の贈り物》の能力が誘発する、いずれであってもスタックを使う。

BB20171130_Triggers.jpg

 参考までに、起動型能力には「コスト:効果」という書式が用いられる。コロンマークを探そう。誘発型能力は基本的に、「時に/At」「とき/When」「たび/Whenever」という言葉が書いてある。

(誘発型能力のテキストの一例:《ティシャーナの道探し》「ティシャーナの道探しが戦場に出たとき、これは探検を行う。」)

 能力は、いったんスタックに積まれれば効果を発揮する、ということにも気を付けるべきだ。《放蕩紅蓮術士》の能力を起動し、対応して《放蕩紅蓮術士》に《稲妻》を打つとしよう。《放蕩紅蓮術士》は死ぬが、それがいなくなってもその能力は1点のダメージを対象に与える。

 では、スタックを使わないものとは何だろうか?

 ああ、一例として、常在型能力はスタックを使わない。《白金の天使》は何度も何度も能力を誘発させたりはしない。その効果は戦場にある限り常に有効だ。(最初に《白金の天使》を唱えるときは、当然スタックを使うけれどもね。)

 自分のターンに土地をプレイすること――ターンの行動として手札の土地を1枚戦場に置くこと――はスタックを用いない。それはプレイされ、誰も対応できない。

 マナ能力はスタックを用いない。マナ能力とは、マナ・プールにマナを加える起動型能力のことだ。(まれに例外もあるが、今は無視してよい。)例えば、土地や《ラノワールのエルフ》をタップしてマナを得る場合、スタックは使用しないし、対応もできない。

 コストの支払いはスタックを用いない。誰かが《投げ飛ばし》を唱えたならば、生け贄に捧げられるクリーチャーを捧げられる前に対応して倒すことはできない――コストは支払われる。

 「~に際し/As ~」とある能力は基本的にスタックを用いない。例えば《クローン》は、解決前にどのクリーチャーのコピーとなるのかを知ることはできないし、それが解決されてしまえばコピー先のクリーチャーを対応して倒すことはできない。

 これらがスタックを使わないものとしてよく見かけられるものだ。他にもあるが(ああ、3分以内に私に向かって「変異」を口にした人物がいるはずだ、わかってるよ)、スタックを使うか否かについては、これだけ押さえておけばほとんどのゲームでは十分だろう。

スタックでのトリック

 よし。ここまではスタックが実際にどのように機能するのかを見てきたが、スタックを活用するにはどうすればいいだろうか?

 マジックにはそれが可能な場面は数多く存在するが、ここでは言及すべき要素として4つを取り上げる。いくつかはかなり高度な技術を扱うことを先に知らせておく。つまり、スタックについて学び始めたばかりなのであれば、この続きが難解だと思っても気に病むことはないよ。

 上級のプレイへと進もう!

1.普段行動しないようなタイミングでの対応

 物事が起こる合間合間に対応する機会が与えられるので、その隙間に呪文を滑り込ませることが正しい場合がある。

 よくある例が、ドロー呪文を使われた時だ。

 対戦相手はカードを2枚引くために《予言》を唱えた。おそらくあなたは、それにより相手が《剛力化》や打ち消し呪文を引く場合を考慮して、ここで対応して《稲妻》を対戦相手のクリーチャーに唱えるだろう。相手はマナを支払ったが、報酬はまだ獲得していない。これは通常、行動を起こす絶好の機会だ。

 何も不思議ではないって? では、私のお気に入りのテクニックを紹介しよう。

 (《溢れかえる岸辺》などの)フェッチランドはいつでも人気のカードだが、その土地を持ってくる能力は起動型能力であり、マナ能力ではない。その土地を生け贄に捧げてから、出てきた土地を使って呪文を唱えるまでにはわずかな間がある。

 ほんのわずかな隙間だ......しかし《ヴェンディリオン三人衆》のようなものを唱えて、使おうとしていた呪文を手札から排除できる絶好の機会でもある!

 こういった、対応のためのわずかな機会を常に意識しよう。ほとんどの場合は特に代わり映えしないが、百回に一回、大きな違いを生み出すことがある。

2.優先権を維持する

 この記事では、こちらのターンにこちらが呪文を唱えたり能力を起動して、まずこちらが優先権を得てから、その後に対戦相手が行動する、ということについて何度も言及した。さて、これはごく稀に問題となる。自分の行動に対応したい状況など、めったに無いのだが......

 ......めったに無いとは、絶対にそうしたい場合も稀にあるということだ。

 単純な例としては、《余韻》などがある。自分が唱えた呪文をコピーするために、優先権を維持することになるだろう。

 少々複雑だがレガシーでは一般的とも言える行動としては、《冥府の教示者》を唱え、対応して《ライオンの瞳のダイアモンド》で手札を捨てて、好きなカードを探し出す、というものがある。

 この部分の例としてもっと古くて懐かしくも良き話、刹那を持つカードと戦う例も紹介しよう。(スタックの記事が刹那の話もせずに終わると思っていたかな?)

 《聖なるメサ》を唱え、6マナが残っているとしよう。しかし対戦相手は《クローサの掌握》を持っているかもしれない。刹那能力があるため、使われると対応ができないんだ。

 ああ、優先権をパスしなければ、相手に対応される前に《聖なるメサ》の能力を起動できる。対戦相手が《クローサの掌握》を持っていたとしても、3体のペガサス・トークンの生成が保証されるわけだ。

 自分自身に対応することについて言えば......

3.呪文や能力の置き方

 スタックに置かれたものは、最後に置かれたものから解決される。それは確かだ。

 そして、適切に行動すればとても奇妙な結果を得ることもできる。

 あなたは戦場に《差し迫る破滅》を出していて、手札には2枚の《ショック》があり、対戦相手のライフは6だとしよう。

 とどめを刺すには足りない、かな?

 ああ、実はここから勝てるんだ!

 1枚目の《ショック》を唱えると、《差し迫る破滅》の能力が誘発する。それが解決される前に対応して2枚目の《ショック》を唱えると、《差し迫る破滅》の能力がもう一度誘発する! 対戦相手に合計6点のダメージだ!(付け加えると、《差し迫る破滅》はカウンターが3個置かれた状態になる!)

 他の例も考えてみよう。

 これは私が好きなひらめきパズルの1つだ。《師範の占い独楽》でカードを引きたいが、ライブラリーの一番上を《師範の占い独楽》にはしたくない。どうすればいいだろうか?

 分かったかな?

 方法は次の通りだ。ライブラリーの上3枚を並べ替える能力を起動し、それに対応してカードを引く能力を起動する。カードを1枚引いてライブラリーの一番上に《師範の占い独楽》を置く。それから、ライブラリーの上3枚を並べ替える能力が解決されるので、並べ替えればよい。遠慮なく独楽を少し下に送ってはいかがかな?

 同じようなことが呪文で派手に行えるかもしれない――とりわけ瞬速を持たせることができればね。例を挙げてみようか。

 《呪文織りのらせん》というカードを使って一度に2つの呪文をプレイする、奇抜なコンボデッキがあった。

 どんな呪文を? 《世界火》と、ダメージを与える何らかの呪文だ。

 火力呪文の上に《世界火》を置き、まず《世界火》を解決する。火力呪文はまだスタックにあり、ゲームを終わらせる準備ができている。

 あなたなら、このような奇妙なタイミングで呪文を組み合わせるために、どんな手段が思いつくだろうか?

4.カウンター合戦

 打ち消し呪文の戦いをいかに乗り切るべきかを知ることは、とても重要だ。多くのカードがスタック上を飛び交う――そこに解決したくない呪文が残っていないことを、しっかり確かめなければならない。

 正しい呪文を対象とすることが重要だ。とりわけ、打ち消し呪文が呪文を打ち消す以上の意味を持つ場合はね。

 私がここでお気に入りの例として挙げるのは、《差し戻し》だ。

 このカードができることはたくさんある。何か呪文を唱えたとしよう。対戦相手はそれを打ち消そうとする。さて、相手の呪文を打ち消すのではなく、自分の呪文を《差し戻し》してみよう! その呪文は問題なく手札に戻り、相手の打ち消し呪文は何もしない。

 あるいはもう一段階先の話をしてみよう。

 対戦相手が呪文を唱えた。それに打ち消し呪文を唱える。相手はその呪文に打ち消し呪文を唱える。さて、この場合、自分の打ち消し呪文に《差し戻し》をして、もう一度使ってみてはどうかな!

 《差し戻し》、《即時却下》、《記憶の欠落》、あるいは他の打ち消し呪文を使うときに、そういった機会がないか意識しておこう。

お気に入りを積み上げよう

 スタックを十分に活用するには細心の注意が必要だが、どのように機能するのかをいったん理解しておけば、こういった状況で優位をたぐり寄せるための道具として利用できるだろう。

 この記事が役立ったなら幸いだ! 読んだ感想を聞かせてほしい。何か言及が足りないと思ったものはあるだろうか? スタックを使ったお気に入りのテクニックは? TwitterTumblr、あるいはBeyondBasicsMagic@gmail.comにメールして教えてくれると嬉しい。(編訳注:それぞれ英語にてお願いいたします。)

 また会おう!

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com


(※編訳より:当コラムの本年の掲載は今回が最終となります。次回は、『イクサランの相克』プレビューとして、英語記事と同時の2018年1月5日午前1時に掲載いたします。)

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