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Red Bull Untapped 2021 日本大会
第4回戦:井川 良彦 vs. 二俣 洋次郎 ~運命の4ターン目~
マジックには、どうしても覆しがたい相性差のある「不利マッチ」が存在する。
古くはバーンデッキに対する「無限ライフ」だったり、コンボデッキに対するパーミッションなどがそれに当たるが、このヒストリック・フォーマットにおいてもそのような相性差を持つマッチが存在していた。
3勝0敗と好調な滑り出しで第4回戦のフィーチャーマッチに選ばれたのは、ライバルズ・リーグからMPLガントレットに進出し、つい2週間ほど前には全世界で16名しか出場できない第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権にも出場したMPLプレイヤー、井川 良彦だ。
対する二俣 洋次郎は、7月に開催された日本選手権2021 SEASON2で準優勝という実績を持つ強豪。
そしてこの二俣の持ち込んだデッキが問題だった。井川が使用しているのが今回のメタ的にはローグ寄りの「白青オーラ」なのに対し、二俣はそのまたさらに使用者の少ないアーキタイプである「ジェスカイ独創力コンボ」なのだ。
だが、「白青オーラ」といえば4ターンキルもできるほどに爆発力のあるアグロであり、ぶん回ればどんなデッキでも倒せるはずである。それなのに「不利マッチ」とはどういうことなのか?
その真相は、対戦で明らかになる。
ゲーム1
後手の井川が《さびれた浜》のタップイン処理から2ターン目《エスパーの歩哨》という立ち上がり。だがこれは二俣にエンド前の《棘平原の危険》で、追加の1マナ要求を支払われながら綺麗に処理されてしまう。
さらに今度は3マナオープンの二俣に対して《コーの精霊の踊り手》を送り出し、そのまま果敢に《秘儀での飛行》を付けようとする井川だったが、これにも対応して《プリズマリの命令》が飛ぶ。
それでも4枚目の土地がなかったか、ここで二俣はメインで宝物・トークンを消費しながら《予想外の授かり物》を唱え、無事引き込んだ土地を置いてターンを返す。
対する井川はここがチャンスとばかりに《コーの精霊の踊り手》を召喚から《秘儀での飛行》を立て続けに2枚エンチャント。ドローを進めつつ6/8飛行として、火力の射程圏外に逃がしにいく。
だが、二俣の場に4マナと宝物・トークンが揃ったことで、「必殺コンボ」の準備は既に整っていたのだ。
返す二俣のアクションは、宝物・トークンを対象に《不屈の独創力》!
デッキ内で唯一のクリーチャーである《セラの使者》が降臨し、「クリーチャー」を指定すると、クリーチャーからのダメージはすべて封殺。いわば恒久的な《濃霧》状態となってしまう。
すべての戦闘ダメージを封殺するコンボがナチュラルに搭載されている……戦闘ダメージで勝つしかない井川にとって、このマッチアップが「不利マッチ」たる由縁がこれだった。
限界までオーラを搭載しているために除去に乏しい白青オーラでは、この時点で「詰み」かのように思われた。
だが、返すターンに井川がプレイしたのは《厄介払い》! これにより《セラの使者》の能力は失われ、二俣にダメージを与える算段が付く。さらに《圧倒的洞察》《歩哨の目》と《コーの精霊の踊り手》にエンチャントし、一撃12点を叩き出す!
超えられないはずのコンボを乗り越え、今や流れは完全に井川の側にある。そのように見えた。
しかし、二俣は残っていた宝物・トークンを対象に2枚目の《不屈の独創力》をプレイ! 再び降臨した《セラの使者》が「エンチャント」を指定すると、1体目の《セラの使者》に付いていた《厄介払い》が剥がれて「クリーチャー」「エンチャント」の両面指定になってしまい、完全に詰んでいることを確認した井川は潔く(アイコンが)爆発するのだった。
井川 0-1 二俣
余談だが、第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権に出場したプレイヤーは、「プレイヤー本人の顔のアイコン」が大会用に特別にMTGアリーナで使用できた。大会が終わった今、それらのアイコンは使用できなくなってしまったようだが、参加者たちの中には井川も含めて「自分の顔の爆発」という絵面を楽しんでいた者もいた。
それでも、この1ゲーム目のように僅差で競り負けた試合で自分の顔を爆発させることになれば屈辱感も相まってメンタルにきそうなものだが、「不利マッチ」でも無限に戦わざるをえず、その中でわずか1勝でも死ぬ気で拾うしかなかったライバルズ・リーグ、そして相性差といった前提をはるか昔に飲み下して高みでぶつかり合う世界選手権での経験を経た今の井川なら、きっとそのような些事に心を動かされることなく平常心で次の対戦に臨むことができるに違いない。
ゲーム2
先手で《エスパーの歩哨》から《エスパーの歩哨》と展開して除去を牽制した井川は、2マナを構えた二俣に対して構わず《上級建設官、スラム》を送り出すと、《エスパーの歩哨》に《秘儀での飛行》をプレイ。これは対応しての《棘平原の危険》で除去されるが、それでも2枚ドローで後続につなげにいく。
だが、返す二俣はカードを引かれながらも《プリズマリの命令》で《エスパーの歩哨》と《上級建設官、スラム》を同時に処理。クロックの定着を許さない。
ここで強化エンチャントを引けていない井川は《無私の救助犬》と《上級建設官、スラム》を展開だけしてターンエンド。対して二俣は手札が芳しくないのか、《ヴァラクートの覚醒》で大量に手札を入れ替えてターンを返す。
井川も今度は《厄介払い》を引けてはいなかったが、二俣の場に宝物・トークンが出ていないことで突然死の可能性が限りなく低いことがせめてもの救いだった。序盤の攻防で土地からのダメージを負っていた二俣のライフを残り9点まで追い詰めつつ、《コーの精霊の踊り手》を出しながら「相棒」の《夢の巣のルールス》を手札に加える。
二俣も《不可解な終焉》で《コーの精霊の踊り手》を除去してどうにか決着を延ばそうとするのだが、井川が満を持して《夢の巣のルールス》を送り出すと、墓地から《秘儀での飛行》、さらに《上級建設官、スラム》のドローがもたらした《圧倒的洞察》までもエンチャントして、残りライフ4点まで二俣を一気に追い詰める。
返すターンにコンボを決められなかった二俣は、3ゲーム目に移ることを選択した。
井川 1-1 二俣
どうにか1本を取り返した井川だが、次は二俣が先手の3ゲーム目。
最速4ターン目の《不屈の独創力》を井川が打ち破るには、早いクロックと《厄介払い》の両方を揃えなければならない。
運命の女神は、はたして井川に微笑むのか。
ゲーム3
秒で7枚キープを宣言した様子の二俣に対し、後手の井川がオープンした7枚は土地4枚に《アダントの先兵》とオーラが2枚という内容で、コンボデッキ相手にキルターンも遅いため通常ならばマリガンしてもおかしくないところ、井川は意を決してキープを宣言する。
先手の二俣のキープレンジはかなり広い上に、マリガンで《厄介払い》を探しにいったところで、除去に捌かれて低いクロックのせいで1ゲーム目のようにコンボを2回重ねられたらどうしようもない。それならばどうせコンボが決まったらほとんど負けな「不利マッチ」である以上、大体の除去は乗り越えられる《アダントの先兵》で後引きの《厄介払い》に期待しつつ、少なくとも相手の緩い除去キープに対する裏目のパターンを作る方がワンチャンスが狙える……と、そのように考えたのだろう。
ゲームが動き出すと、はたして二俣は《堅固な証拠》スタートで、井川が後手2ターン目に《アダントの先兵》を送り出したのに対して手掛かり・トークンを迷いなく起動という、土地さえあればコンボが決まりそうな立ち上がり。
それでもできることが少ない井川は、タップイン土地を置いてターンを返す二俣に対して2体目の《アダントの先兵》、《結束のカルトーシュ》と展開して4点アタックでターンを終える。
そして、運命の4ターン目。
「バザン」という効果音とともにショックインされる4枚目の土地。それが意味するところは一つ。
カニ・トークンを対象に《不屈の独創力》! 1ゲーム目同様《セラの使者》が「クリーチャー」指定で降臨し、すべての戦闘ダメージが一瞬にしてシャットアウトされる。
しかもこれが1ゲーム目と違う点は、井川が《厄介払い》を引けていないという点にあった。やることがなく《夢の巣のルールス》回収でターンを返した井川は、ライブラリーの上に祈りながら7点アタックを愚直に受け続けるしかない。そして。
賭けのキープに負けた代償として、井川は爆発するしかなかった。
井川 1-2 二俣
かつてプロツアー予選やグランプリを行脚してプロツアー出場を目指していた「グラインダー」の頃の井川なら、こんな試合の後には「さすがに無理ゲーすぎるよ~」と仲間たちに愚痴りに行っていたかもしれない。
だが、今の井川ならば嘆く前にきっと試合内容を振り返り、反省すべき点がなかったかを振り返っているに違いない。どんな試合内容からでも己の判断が間違っていたかを逐一検証して都度フィードバックを得るという、常に戦いの中に身を置くことを前提とするプロプレイヤーになったのだから。
「不利マッチ」であっても乾坤一擲の仕掛けができなければ、運命の女神を振り向かせることすらできない。結果こそ伴わなかったものの、3ゲーム目の井川の《アダントの先兵》キープの判断には、ライバルズ・リーグの死線を乗り越えた者だけが発揮できる、相性差3:7マッチにおいて全力で3を拾いにいく「死中に活」の気概を見た気がした。
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