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EVENT COVERAGE
プロツアー『イニストラードを覆う影』
決勝:Andrea Mengucci(イタリア) vs. Steve Rubin(アメリカ)
Marc Calderaro / Tr. Tetsuya Yabuki
2016年4月24日
アンドレア・メングッチ/Andrea Mengucci(バント・カンパニー) vs.スティーヴ・ルービン/Steve Rubin(緑白トークン)
「サイドボードとの入れ換えを何度もやってきたから、もうちゃんと元通りになってるか分からなくなってきたよ」
最終戦へのシャッフルを行いながら、スティーヴ・ルービンは対戦相手のアンドレア・メングッチにそう嘆いてみせた。疲れの色は濃厚だが、それも当然だろう。彼らは3日間マジックをし続けただけでなく、最高レベルの舞台で戦い続けたのだから。
ルービンとメングッチの両者はともに、華々しい戦績を掲げてこの決勝までやって来た。しかし両者ともプロツアーの決勝自体は初めてだ。ルービンはプロツアーで度々終盤まで生き抜き、グランプリでは3度のトップ8入賞を果たしている。一方のメングッチは故郷イタリアにワールド・マジック・カップの優勝トロフィーを持ち帰り、プロツアー『ニクスへの旅』では準々決勝の戦いを経験している。だが今立っているこの舞台は違う。すべてを懸けた戦いの舞台だ。
きっと両者にとって感慨深いことだろう。と、メングッチが小さくあくびをした。
「カフェインいる?」と、ルービンが冗談を飛ばす。
メングッチは笑った。「いや、大丈夫、大丈夫」
第12回戦にて、スティーヴ・ルービンは初めてプロツアーでフィーチャーされたと言っていた。プラチナ・レベル・プロであり、トップ16なら何度も入っているにも関わらず、どういうわけか彼にスポットライトは当たらなかった。今、彼は一躍注目を浴びている。
同じ立場にある者なら誰でも、注目されるようになるのは決して簡単なことではないと言うだろう。両プレイヤーとも落ち着いた様子で自信を感じさせるが、この試合に懸かったものはあまりに大きい。
デッキの相性を見る限りでは、スティーヴ・ルービンの方が有利に見える。だが彼は、勝利に必要なプレインズウォーカーを何としても守らなければならない。ルービンがメングッチを下すには、実質的なカード・アドバンテージを繰り返しもたらすプレインズウォーカーの力が不可欠だ。そのため彼にとっては、プレインズウォーカーを守ることが最重要となる。
だがメングッチのデッキが繰り出す《集合した中隊》は、1枚で多くの恩恵をもたらし、手のつけられない状況を生み出す。特に《反射魔道士》が絡んだときの力は絶大だ。
大会前、「バント・カンパニー」は「現環境最強デッキ」の評価をほしいままにした。だが相応の敗北を経て、トップ8に送り込めたのはただひとり。そしてそのひとりも今、最終戦で不利な相手に当たっている。アンドレア・メングッチが、このデッキの強さを再び世に知らしめることになるだろうか? それとも新しいデッキたちが環境の上位に食い込んでくるのだろうか?
ゲーム展開
1ゲーム目、スティーヴ・ルービンは《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を守るのに十分な盤面を築き上げることからゲームを始めた。一方のメングッチは、《薄暮見の徴募兵》、《不屈の追跡者》、そして《集合した中隊》から《跳ねる混成体》と2体目の《薄暮見の徴募兵》と、「カンパニー」デッキおなじみの動きで戦端を開く。
メングッチの動きも強力だったが、ルービン側のトークンと+1/+1カウンター、そしてプレインズウォーカーの忠誠度が積み上がっていく。メングッチは戦線を突破するためにさらに兵力を増員する必要があった。
どちらのライフも動かず、盤面も膠着した。メングッチは《ヴリンの神童、ジェイス》と《薄暮見の徴募兵》でカード・アドバンテージを獲得し、ルービンはプレインズウォーカーの能力を起動し続ける。
この状況は、ルービンが《荒野の確保》をX=6で放ったことによって破られた。彼は6/6の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と4/5の《スレイベンの検査官》、4/4の騎士・同盟者・トークンたち、そして2/2の戦士たちを突撃させた。《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》の加護のもとに!
メングッチはこの大波に立ち向かった。戦闘中に《集合した中隊》を唱えると、《跳ねる混成体》と《反射魔道士》を引き込み、可能な限り敵の勢いを削ぎ落とす。手札から2枚目の《反射魔道士》を追加すると、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》による攻撃をもう1ターン先延ばしにした。
抵抗したメングッチだったが、やがて大軍に飲み込まれてしまった。《荒野の確保》が彼を圧倒する。最後の攻撃は3/3の戦士と2/3まで育った植物が、相討ちをものともせず突っ込んできた。
メングッチはブロッカーを向かわせ、可能な限りのことをした。だがやがて「そのとき」が来るのはわかっていた。誰もが知っていたはずだ――やがて《大天使アヴァシン》が舞い降り、ルービンのアタッカーすべてを護ることを。この戦闘でルービンは何も失わず、メングッチはすべてを失ったのだった。
「そうくるよね」メングッチはそう口にし、投了を宣言した。
ルービンがサイドボードに手を伸ばすと、「サイドボードはまだだよ」とメングッチがそれを止めた。メングッチも、準決勝で同じ間違いをしていたのだ。
「僕も毎回忘れてるよ」と、メングッチは続けた。最初の2ゲームがメインデッキで行われるようになったのは最近のことだ。長年続いてきた習慣を急に変えるのは難しいだろう。長い週末を過ごしてきた両者にとっては尚更だ。
ルービンが1本先取して迎えた2ゲーム目、彼はアグレッシブに攻め立てた。攻撃に向かいながらクリーチャーを惜しみなく投入し、それらを強化する手段も駆使した。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》は着地後すぐに「紋章」に変えた。ルービンの狙いは、メングッチが手に負えないサイズのクリーチャー軍団を可能な限り早く築き上げることだった。
メングッチは素早い対処を求められた。《集合した中隊》で《森の代言者》を2枚引き込んだものの、それはただの2/3に過ぎない。今の盤面では有効に見えるが、この後繰り出される脅威に対応できないのだ。ここでルービンは再び、《大天使アヴァシン》を引き込んだ。
《大天使アヴァシン》が戦場に舞い降りると、それはいつも通り圧倒的な影響力を及ぼし、盤面の有利を確定させた。
それでもメングッチは、戦うすべを見出したようだ。彼は《薄暮見の徴募兵》2体を《爪の群れの咆哮者》へ「変身」させ、マナ軽減の能力を活かして手札を展開し切った。そこには《反射魔道士》2枚があったため、ルービンは盤面の大半を失うことになった。戦場に残されたのは《スレイベンの検査官》のみ。+1/+1カウンターをいくつも乗せた《搭載歩行機械》と《大天使アヴァシン》は、戦列を離れていった。
メングッチは全軍を攻撃に向かわせた。完璧な動きだ。
だが、ルービンはまだ《荒野の確保》を構えていた。それを唱えてブロックに回すと、ルービンのライフは残り8点で留まり、《森の代言者》と《跳ねる混成体》を相討ちに取ることに成功した。
メングッチは不吉な前兆を感じた。対戦相手の側に《ウェストヴェイルの修道院》が現れる。
戦闘前、先ほどの《荒野の確保》から残った戦士が生け贄に捧げられ、《ウェストヴェイルの修道院》から《不敬の皇子、オーメンダール》が現れた。さらに、《浄化の天使、アヴァシン》がメングッチのクリーチャーを塵ひとつ残さず焼き払った。
不敬の皇子と浄化の天使が手を組み、目を覆いたくなるほどの凄惨な攻撃を見せた。こうして、ルービンが2勝目を挙げたのだった。
3ゲーム目、後がないメングッチは《悲劇的な傲慢》と《反射魔道士》でルービンの序盤の攻勢をしのいだ。だがメングッチはルービンの前進を阻んだだけで、それを活かしてアドバンテージを得ることができていない。やがて、ルービンの盤面には《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と《大天使アヴァシン》が並ぶことになった。
しかしメングッチは、ここで勝機を得た。
ルービンは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の「紋章」を生み出す前に《大天使アヴァシン》で攻撃に向かった。同じ《大天使アヴァシン》を使う者として意識すべきことを、彼はつい見落としたのだ。破壊不能を持った4/4のアヴァシンが、破壊不能を持たず同じく4/4の《大天使アヴァシン》を斬って落とした。
「今のはダメだ」とルービンは自身に向けて言った。頭を振る。いよいよ疲労の影響がはっきりと表れ始め、その後も両者を苦しめた。
有利を得たメングッチはルービンのライフを残り9点に落とした。ルービンは平静を取り戻そうとした。先ほどのプレイに、明らかに動揺している。何度か深呼吸を繰り返し、落ち着かせる。
攻撃に向かってきた《大天使アヴァシン》に対し、ルービンは《ドロモカの命令》で《搭載歩行機械》との格闘を命じた。メングッチはここで動きを止める。ここは2枚目の《大天使アヴァシン》で守るべきかどうか――彼は逡巡し、そうすることを決断した。だが彼は、すぐにそれを後悔することになる。疲労の色は濃い。メングッチも頭を振る。
ルービンはトップ・デッキした《悲劇的な傲慢》を放ち、メングッチを咎めた。その結果、ルービンの盤面には2/2の飛行機械が5体、メングッチの盤面は《反射魔道士》と《束縛なきテレパス、ジェイス》という状況になる。だが後に、ルービンはこれもミスだったと振り返った。メングッチもすぐに《悲劇的な傲慢》で返し、ルービンは肩をすくめるしかなかった。この1枚でゲームは大きく動いた。ここで《ウェストヴェイルの修道院》を起動できれば、ルービンは《悲劇的な傲慢》の影響を受けなかったのだ。
数ターン後、メングッチは勝利を掴み、言った。「このゲームで最後にならなくてよかった」
「どっちも酷かったね」とルービンは頭を振る。「さっきのゲームは浮かれてた」
スクリーンを通して見るか、私のように60cmほど離れて見るかすれば、この舞台での戦いも他と変わらないと考えることは簡単だ。だが実際にこの場に立つ両者にかかるプレッシャーは凄まじい。彼らは3日間にわたる長い戦いを経て、これまでのキャリアの中で最大のプレッシャーを感じているのだ。
だが両プレイヤーは、王者のようにそのプレッシャーを払いのけた。ルービンはゲームの間の短い雑談で平静を取り戻す。「まあ気にし過ぎても仕方ない」
メングッチもまた同様に、大会に優勝するならひとつのゲームに感情的になるのは良くないと言った。
ルービンの2勝1敗で迎えた4ゲーム目では、両者ともにマリガンを喫した。だがそれでも、両者の盤面には次々とクリーチャーが流れ込む。
だが早い段階で、メングッチ側の不利が明らかになった。サイズに勝る地上クリーチャーは植物に止められ、(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の「紋章」と+1/+1カウンターによって6/6になった)《大天使アヴァシン》が上空から彼に襲いかかる。
メングッチは《反射魔道士》で《大天使アヴァシン》をバウンスしようとしたが、このときルービンは2枚目を持っていた。彼はここでそれを繰り出すかどうか熟考する。先ほどのゲームでメングッチが不用意に2枚目の《大天使アヴァシン》を繰り出した盤面が頭をよぎったか、ルービンは注意に注意を重ねた。彼は慎重に考え自信を持って決断したようだが、呪文を唱えるその手は、初めて少し震えていた。
その決断は見事に功を奏した。続く攻撃でメングッチのライフは残り4点。飛行クリーチャーを止められないメングッチは、必死に解答を探した。
まだ終わりじゃない。彼は生き残るための力を求めてあらゆる手段を取った。大きく息を吐くのが、こちらまで聞こえた。
ルービンは全軍で攻撃――4/5の《スレイベンの検査官》、3/4の植物2体、2/3の植物、6/6のアヴァシン、6/7の《森の代言者》がメングッチに迫る。「バント・カンパニー」が敗れるその瞬間がやって来たのか?
メングッチは最後まで戦い抜いた。ブロック指定後に《オジュタイの命令》で《集合した中隊》を引き込み、そこから《反射魔道士》をめくる。
そして、最後のドローを確認すると、メングッチは右手を伸ばして力強く言った。「スティーヴ・ルービン、君がプロツアー王者だ」
初めてプロツアーでフィーチャーされたこの記念すべき週末に、スティーヴ・ルービンは初めてのプロツアー優勝も達成したのだった。
スティーヴ・ルービン、プロツアー『イニストラードを覆う影』優勝おめでとう!
7 《森》 7 《平地》 4 《梢の眺望》 4 《要塞化した村》 3 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地(25)- 4 《スレイベンの検査官》 4 《森の代言者》 4 《大天使アヴァシン》 4 《搭載歩行機械》 -クリーチャー(16)- |
3 《ニッサの誓い》 4 《ドロモカの命令》 2 《荒野の確保》 1 《進化の飛躍》 1 《停滞の罠》 4 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(19)- |
2 《ラムホルトの平和主義者》 1 《優雅な鷺、シガルダ》 1 《保護者、リンヴァーラ》 3 《石の宣告》 2 《翼切り》 1 《進化の飛躍》 1 《荒野の確保》 1 《隔離の場》 3 《悲劇的な傲慢》 -サイドボード(15)- |
4 《森》 3 《平地》 2 《島》 3 《梢の眺望》 4 《大草原の川》 3 《伐採地の滝》 2 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《進化する未開地》 -土地(25)- 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《森の代言者》 4 《跳ねる混成体》 4 《反射魔道士》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《不屈の追跡者》 2 《大天使アヴァシン》 -クリーチャー(26)- |
4 《ドロモカの命令》 4 《集合した中隊》 1 《オジュタイの命令》 -呪文(9)- |
2 《狩猟の統率者、スーラク》 1 《龍王ドロモカ》 2 《払拭》 2 《侵襲手術》 3 《否認》 2 《石の宣告》 3 《悲劇的な傲慢》 -サイドボード(15)- |
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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