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プロツアー『霊気走破』

プロツアー『霊気走破』決勝戦
2025年2月24日
2人だけが残っている。
ここ数年で最大規模の参加者がいたプロツアーも、最後の2人が残るのみとなった。彼らのマジック歴は対照的だが、2人とも版図大主と共に優勝へと手を伸ばしつつある。最後の障壁は、このトーナメントのトップデッキとの最終決戦だ。
マット・ナス/Matt Nassは今大会で注目を一身に集め続けていた。初日を無敗で終え、最初に12勝を手にしトップ8への自動進出を決めた。過去に2度のトップフィニッシュを果たした有名なコンボ愛好家であり、禁止やフォーマットのローテーションを通じて多くのデッキの誕生と消滅を経験してきた。最高のマジック・プレイヤーの1人でもある。彼は準備万端な状態でシカゴに訪れており、優勝を刻むまであと1試合のみとなった。
向かいに座るのは、初のトップフィニッシュだけではなく、初のプロツアー出場でもあるジェームズ・ディミトロフ/James Dimitrovだ。ジェームズは事前の評判を覆し、準々決勝で原根健太を打倒するなど、数々の快進撃を起こしてきた。続くリウ・ユーチェン/Yuchen Liuとの対戦でも僅差で勝利した。ニューヨーク出身のジェームズはプロツアー・ドリームを叶えるところまであと一歩のところにいる。
このファイナリスト2人が使うデッキはそう、版図大主だ。ビッグスリーの中でも最も高いパフォーマンスを発揮しているアーキタイプ(他はグルール・マウス、エスパー・ピクシー)である。2人ともこの盤面除去に長けたランプ・デッキでその実力を遺憾なく発揮し、メタゲームの隙間を突こうとするデッキで溢れた混沌の海を切り抜けた。このデッキに最適なプレイが組み合わさることで、いかに優れたパフォーマンスをもたらすかが証明された。
1本目の試合で、このマッチアップで何が重要なのかが明らかになった。マットはマリガンを繰り返し5枚のカードをキープしたが、そのおかげでジェームズの2ターン目の《豆の木をのぼれ》を《一時的封鎖》で即座に追放することができた。この決勝戦の肝は、どちらがより多くカードアドバンテージ・エンジンを確立できるかということにかかっている。
重要なカードの1枚が《永遠の策謀家、ズアー》だ。版図デッキにおけるこのカードは大主との強いシナジーを生むキーカードであり、クリーチャーに多くの能力を与えることで逆転の可能性ももたらしてくれる。
版図大主デッキが盤面を制圧し勝つための方法でもある。ジェームズはカードアドバンテージを得ていたが、ズアーの起動を阻止する十分なカードを持ってはいなかった。マットのズアーが妨害されずに着地すると、ズアーによって豆の木が追い付かない速度でアドバンテージが開いていき、ジェームズが止める前にゲームは決着した。
2戦目はより長期的な展開となった。ジェームズは《豆の木をのぼれ》2枚のスタートを決め、マットは大主と盤面除去という由緒あるムーブからスタートした。2人はリソースの交換を繰り返し続けたが、ターンが進むにつれ《豆の木をのぼれ》を持っていないプレイヤーの手札は目に見えるように減っていった。
このようにジェームズがじわじわとアドバンテージを稼ぎ続ける中、マットは決して諦めてはいなかった。ある時点で、ジェームズは《豆の木をのぼれ》を2枚コントロールしていることから手札が増えすぎ、7枚になるように捨てていた。そのとき、マットは手札にある4枚の3点火力と1枚の全体除去を凝視し、勝機を窺っていた。そして、ゲームはどちらかのプレイヤーのライブラリーが先に切れるかもという兆しを見せてきた。すぐにジェームズは豆の木4枚をコントロールするようになり、2人が除去呪文を握った中で、大主がゆっくりと時をカウントしていく。
しかしマットは手札に全体除去を複数抱えながらも、ジェームズの雪だるま式に膨れ上がっていく盤面に対抗するには他にも多くのカードを必要としていた。そしてジェームズは自身のライブラリーが残り11枚となったとき、攻勢に出る決断をした。毎ターン、最大のダメージが生まれるようトークンを雪崩込ませていく。ライブラリーが徐々に減っていく中、何とか最後のライフ数点を削り切り、ジェームズが勝利をもぎ取った。
ここで、少し息をつく時間が生まれる。版図ミラーは複雑で非常に疲れるものと予想されていたが、まさにその通りの展開になっていた。次のゲームからサイドボードが使えるようになり、各々がデッキへ好みのカードを投入していく。マットのそれは《向上した精霊信者、ニッサ》、《機械の母、エリシュ・ノーン》、《偉大なる統一者、アトラクサ》であり、ジェームズにとってはそれらに加えて《完成化した精神、ジェイス》であった。
3試合目も、同じく《豆の木をのぼれ》が重要な戦いとなった。今度はマットが早期に豆の木を設置し、リソース差で確実にゲームを支配していった。マットの手札の質はずっとよい状態であり、ジェームズの盤面を圧迫していく。そしてトークンの軍団が盤面を覆い尽くし、マットはプロツアー王者の称号を得るのにあと1勝まで来た。
次の試合でも、マットは再び《豆の木をのぼれ》の早期設置に成功した。しかし、今回はジェームズも何枚もの強力なカードを手にしていた。最も注目したいのは《完成化した精神、ジェイス》のプレイである。ジェイスを《ミストムーアの大主》のトークン2体で守ることにも成功し、この完成化したプレインズウォーカーによってマットは窮地に追い込まれた。
ジェイスが最大の脅威となっていた。絶体絶命のナスは、貴重な《否認》を使用して自身の盤面を維持した後、ジェイスへ攻撃するという重要な決断を下した。これはジェームズにとって絶好のチャンスとなった。抵抗しつつジェイスを最終的には手放したが、続き自身のターンにマットのズアーへと除去呪文をプレイした。これによってジェームズの強化されたトークンと大主が勝利の道へ突撃していき、決勝戦は最後の第5戦目と続くことになった。
第5ゲームは結果として壮大な展開となったが、実は危ういスタートを切っていた。マットは緑マナの土地を引けず、最初の数ドローや諜報でさえ見つけることができなかった。しかし3ターン目にデッキの上から《迷路庭園》が降ってきたことで、ゲームを継続しつつ手札の《豆の木をのぼれ》をプレイするチャンスを得た。
一方、マットの手札はシンプルだった。《豆の木をのぼれ》を即座に《失せろ》で消すと、森の大主や《永遠の策謀家、ズアー》を展開した。続く呪文の応酬の結果、マットにはトークン2体が残り、ジェームズの手札には勝利への道標となる《完成化した精神、ジェイス》が控えていた。
これは非常に強力なプランのため、マットは直ぐに対抗策を打ち出す必要があった。しかし《永遠の策謀家、ズアー》はマナベースが整っていないマットにとって完璧な回答ではなかった。既に3回のトップフィニッシュを決めているマットも、ここでは手を打つことはできず、決着を狙うジェームズにターンを返すほかなかった。ジェームズは確信と共にズアーで大主をクリーチャー化し、突然の守勢に立たされたマットへと攻撃を仕掛けた。ダメージを与え合い、戦場が落ち着きを取り戻すと、マットのトークンは大主の1体を道連れにしてはいたものの、ジェームズは冷静に手札の最後の呪文の《ミストムーアの大主》を唱えた。それは《魂の洞窟》で打ち消されない状態だった。
ゲーム終盤の状況を説明すると、今や2人ともいつでも攻撃できる大主を持っており、ズアーはいつでもエンチャントをクリーチャー化でき、更にジェームズの《完成化した精神、ジェイス》が居座っていた。あるときマットのライフは僅か3点にまで削られたものの、大主が増えることでライフは17点にまで回復した。一方、ジェームズは一時59点ものライフを持っていたが、手札には《失せろ》と土地2枚のみしかなかった。
しかし、それもデッキトップから《偉大なる統一者、アトラクサ》が降臨するまでの間だった。アトラクサはマットの《否認》を躱しゲームを掴み取れる、数少ない有効札の1枚だ。ファイレクシアの天使が降り立つと、手札は補充され、冷静さを装いつつも内に衝撃を受けているであろうマットにターンが返された。
衝撃を受けつつも、マットは計算を始めた。計算し、そしてまた計算し続けた。頭の中で繰り返された計算は、ジェームズのライフの54点を超えた、その後、ズアーでどれだけ追加のパワーが生み出せるかを計算し続けた。足し算、掛け算、更に足し算。そしてついに求める答えを得た。
マットはゲームを決着させ、この決勝に勝利し、「プロツアー『霊気走破』」王者の称号を得るに十分なダメージを叩き出した。数学はブロックだけのものではないと証明したのだ。
プロツアー・タイトルを獲得するまでのマットの20年の道のりが今、ゴールへとたどり着いた。この重みを噛みしめながら、マットは地面へと横たわった。今日のマットの授業はこれにて終了だ。
ナスは次のように語る。「私は数学専攻で、コンボ・デッキをプレイするのが好きなんだ。だから計算には自信があるんだけど、これは人生で最も難しい計算だったよ」
そして、すべてが勝利への方程式の一部となった。マット・ナス、「プロツアー『霊気走破』」優勝おめでとう!

マット・ナス、「プロツアー『霊気走破』」優勝おめでとう!