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市川 ユウキのパイオニア解説 ~今から始めるパイオニア~

大久保 寛

 2019年10月に発表された新フォーマット、パイオニア。多くの期待を持って受け入れられた新フォーマットだったが、あいにくとコロナ禍の影響でオフラインのイベントが大幅に減ったことから、Magic Onlineとテーブルトップでしかプレイできないパイオニアはフォーマット成立から3年半以上が経過した今なお環境の全容が見えずにいる。

 そこで、今回はチャンピオンズカップファイナル サイクル3の公式生放送にて解説を務めるプロプレイヤー、市川 ユウキにパイオニア環境の解説をしてもらった。

パイオニアはデッキ多様性の宝庫

──「まず、パイオニアのざっくりとした特徴をお伺いしたいと思います」

市川「うーん、難しいな(笑) 最近始めたプレイヤーにはピンとこない例えかもしれないけど、一言で言うなら『少し前のモダンに似てる』かな(※1)。 いろんなデッキがあって、そのどれもが独自の強みを持ってる。他のフォーマットじゃちょっと見られないくらい多様性のある環境と言えると思う」

※1:参考:グランプリ・神戸2014(モダン)のトップ8デッキリスト。上位の8デッキはバーン2名と双子2名(純正のイゼット1名、《タルモゴイフ》採用型のテンポアグロ型1名)がいるだけで他のデッキはすべてバラバラ。

──「なぜそうした環境になるのでしょうか?」

回転

 

市川デッキパワーに大きな差がないというのが大きいと思う。『勝ちたいならこれだけは使うな!』みたいな酷い選択肢がほとんどない。どのデッキにもワンチャンスがあって環境に支配的なデッキが存在しないから、メタゲームをコツコツ追いかけることのバリューが少なくて、プレイヤーも一つのデッキの練度を高める傾向にあるね」

──「プロプレイヤーなどは『一強環境の方が好き』という方も多いですが、パイオニアは真逆ですね」

市川「そうだね。仮想敵がはっきりしている方がデッキやサイドボードを調整しやすいから、少なくとも俺はパイオニアは苦手(笑) 今だったら何使うかなぁ……ラクドス・ミッドレンジとかアゾリウス・コントロールみたいな受けるデッキだけは避けそう」

 

──「それはなぜですか?」

市川「環境が多様だと、その分ミッドレンジやコントロールデッキなどの対応する側に回るデッキは意識しなきゃいけないアーキタイプが増えて構築の難易度が上がる。今流行っているラクドス・ミッドレンジだって、ミラーマッチを意識するのか、緑単信心を意識するのか、アゾリウス・コントロール、白単アグロ、エニグマ・ファイアーズのどれを意識するのかで構築が変わってくる」

──「たしかに、すべてのデッキを完璧にメタったデッキを作るなんてことはほとんど不可能ですね」

パイオニアの環境分析

──「環境に多様性があって、メタゲームという考え方が成立しにくいというお話でしたが、それでもやはり大まかにラクドス・ミッドレンジと緑単信心が多い、などの大まかな傾向はありますよね。こうしたパイオニア環境についての分析をお聞かせ願いたいです」

市川「これは国内に限った話だけど、日本ではラクドス・ミッドレンジとアゾリウス・コントロールが特に多い。フェアデッキが好きな人が多いんだろうね。もちろんこれらのデッキは海外でもトップメタデッキの一角ではあるけど、この前開催されたヨーロッパ地域選手権ではボロス召集が勝っていたり、カナダ地域選手権でアゾリウス・ロータスが準優勝してから世界的にはこれらのデッキが増えてきてるよ」

──「なるほど、これから国内のメタゲームにも影響が出てくるかもしれないですね。逆に言えば、日本国内限定で言うならラクドス・ミッドレンジのシェアが大きい分メタゲームが機能しやすいとも考えられますね」

市川「そうかもしれない。ラクドス・ミッドレンジと緑単信心とアゾリウス・コントロールの3つが上位で、これにアグロとか《創案の火》を使ったファイアーズ系統のデッキが食い込んでる形かな。ただ、これらのデッキを含むすべてのデッキに言えることだけど、パイオニアではデッキごとの有利不利はあるけどそこまで絶対的な相性ではないから、デッキ選択でエッジが出にくい環境と言えるかな」

──「先ほど仰っていた、『デッキパワーに大きな差がない』という話にも繋がりますね」

市川「そうだね。だからメタゲームがどうこうっていう考え方よりも、結局は好きなデッキを使うのが一番いいと思う。プレイングが介在する余地も大きいし、ラクドス・ミッドレンジや緑単信心がどの相手をメタっているか・メタっていないかで相性なんて簡単に変わるからトップメタデッキに環境が定義されていない」

これからパイオニアを始めるなら?

──「ここまでの話をまとめると『環境に多様性がある』『どのデッキも力関係にそこまで露骨な差がない』などの要素がパイオニアの特徴と言えそうですね。逆に、これまでパイオニアをプレイしたことがなかった人にとっても参入しやすそうです」

市川「ローテーションもないし、モダンやレガシーほどカードプールも広くないから参入難易度もそこまで高くないしね。月に1~2回くらいの頻度で大会に出るくらいの人や、スタンダード以外のフォーマットに手を出してみたいって温度感の人にはうってつけだと思う。好きなアーキタイプを使い続けることができるし、メタゲームも流動的じゃないから必死になって最新の情報を追いかける必要もないし、マジックで一番カジュアルに遊べる環境なんじゃないかな」

──「たしかにミッドレンジ、コンボ、コントロール、アグロなど何でもいますもんね」

市川「それこそ一つのデッキの習熟を極めたときのバリューが大きいから、もし何かの大会でプロと当たったりしたときでもジャイアントキリングが起きやすいと思う。そういう意味でもじっくりプレイしたい人にはオススメのフォーマットだと思う」

──「なかなか夢のある話ですね」

市川「これまでも『多様性のある環境です!』みたいなフォーマットでプロツアーとかグランプリやって、蓋を開けてみれば実は一強でした、特定のデッキがめちゃくちゃ流行りました、おしまい。みたいなことってあったと思うけど、パイオニアはそれがないからね。禁止改定もあまり多くないのに、すごく絶妙なバランスだと思う」

──「ありがとうございました!」


 デッキを選択するとき、その選択理由は人それぞれであるが、競技で勝ちたいと思ったなら自由意志の比重はどうしても減ってくる。もちろん、たとえば赤単バーンが圧倒的に強い環境でスーサイドブラックを使うのは本人の自由だが、選択には犠牲がつきものであり、マジックが勝利を目指すことを大前提としたルールのゲームである以上、不利な選択をした対価として白星を失うこともあるだろう。

 しかし、パイオニアというフォーマットであれば、逆にそんな自由意志も一つの武器になる。「好きだから使い続ける」という選択理由が当たり前に存在するというのは、なんと自由で楽しいことか。

 パイオニアはフォーマット成立から比較的歴史も浅く、未成熟だ。もしもこの記事を読んでいるあなたがまだパイオニアをプレイしたことがないのであれば、ぜひこの機会にこのフォーマットの先駆者となって、愛するデッキを研ぎ澄ましてみてはいかがだろうか。

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