EVENT COVERAGE

プレイヤーズコンベンション愛知2022

観戦記事

プレイヤーズコンベンションオープン 2022 supported by 日清食品 決勝:細川 侑也(東京) vs. 海沼 剛(東京) ~あの熱を覚えてる~

Hiroshi Okubo

 「プレイヤーズコンベンションオープン 2022 supported by 日清食品(以下:プレイヤーズコンベンションオープン)」、決勝。その至高の舞台に相並ぶのは、ここまでの長い戦いを勝ち抜いてきた2人のプレイヤーだ。

細川 侑也 vs. 海沼 剛

 ここまでの戦いとはすなわち全14回戦のスイスラウンドと準々決勝、準決勝。

 そしてさらに、この日に至るまでの2年と9か月。

 2020年の2~3月から現在まで、パンデミックによるリアルイベントの開催が見合わせとなる。まさかこのような形で、グランプリのようなテーブルトップでのプレミアイベントが我々の日常から失われようとは、いったい誰が予想できていたことか。

 このプレイヤーズコンベンションオープン開催と決勝に至るまでの道程は、このイベントに係わる全ての人の闘争だった。

あの熱を覚えてる

「いらっしゃいませ。検温にご協力ください」

 飲食店や図書館、あるいはオフィスや美容院。どこに行っても掛けられるこれら2つの言葉は、今やすっかりワンセンテンスで用いられるのが当たり前となっていた。今では誰もがわざわざ頼まれるまでもなく袖をまくり、検温器に手首の温度を読み取らせている。

 そうして体温が正常値であることが確認されたなら、続いて手指をアルコール消毒で清める。この一連の儀式を終えることで、その空間に滞在することの合意を得られる。東京都で初めて緊急事態宣言が発令された2020年3月13日から現在まで、世界の在り方が一変してしまった日々の中で、我々の行動様式に組み込まれたプロトコルのひとつだった。

 無論、この一連の行動を揶揄する意図は決してない。誰も好き好んで行っているわけではない。そうせざるを得ないからそうしているというだけで。

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、それまでの生活にあまりにも大きなインパクトを与えた。リモートワークが可能な職種は続々と在宅勤務にシフトし、学校は閉鎖され、テレビも新聞も雑誌もインターネットも「コロナ」の文字で埋め尽くされるようになり、そしてありとあらゆるイベントがオンラインシフトを余儀なくされるか、あるいは単に中止となった。

 その余波を受けたのはマジックも例外ではない。グランプリはなくなり、イベントはMTGアリーナによるオンラインイベントが中心になった。無論、オンラインイベントにはオンラインイベントの魅力があることは違いない。しかしマジックが根本的に対人ゲームである以上、プレイヤーが物理的に集まるための場が失われてしまったことは、あまりにも大きな喪失だった。

 だが、ワクチンの接種が進み、徐々に人類がこの感染症へと抗う術を獲得してきたことで、少しずつではあるが着実にかつての日々も取り戻されてきた。

 そうして私たちは帰ってきた。長かった冬を乗り越えて、雪解けとともに目覚めるように。

 このプレイヤーズコンベンションオープンの開催は、失った日々を取り戻す一歩だった。

そして決勝がはじまる

 決勝戦へとたどり着いたのは、細川 侑也(東京)と海沼 剛(東京)の2人だった。

細川 侑也(東京)

 細川についてはご存知の方も少なくないだろう。「ゆうやん」の愛称でも知られ、過去にはグランプリ・名古屋2018で準優勝、グランプリ・横浜2019でトップ8入賞といった戦績を残してきた強豪プレイヤーの1人だ。また、プレイヤーとしてだけでなくライターとしても活動しており、さまざまなマジック関連メディアでの記事の執筆や、MTGニュースサイト「イゼ速」の管理人としても活動している。

 そんな細川は特に構築戦を得意としており、デッキの調整技術に定評のあるプレイヤーでもある。特にコンボデッキやコントロールを使用していることが多く、今大会でも「アゾリウス・コントロール」を持ち込んでいる。

海沼 剛(東京)

 対する海沼は普段はカードショップ(MINT渋谷店)で働くスタッフであり、イベントは参加するより開催する側になることが多いと語る。自身のこれまでの勝利に驚いている様子で、試合前には「まさかここまで来れるとは。すでに『出来過ぎ』の成績なので、負けて元々だと思って臨みます」と謙虚に語っていた。

 マジック歴は5年ほどと比較的短く、このような大舞台での決勝に進出した経験もないというが、なんとこの日の成績はマッチ全勝。破竹の勢いで勝利を積み重ねて見事にここまでやってきた。言葉とは裏腹に口調は落ち着いており、闘志は十分のようにも見えた。

 戦績十分でマジック歴も長い細川と対照的に、比較的最近のプレイヤーであり、自身のキャリア初となる檜舞台に立つ海沼。プレミアイベントの大一番で相見える2人は、どのような戦いを繰り広げるのか――。

ゲーム1

 互いにタップインランドを処理する初動を終え、先に動きだしたのは海沼だった。第2ターンに《税血の収穫者》をプレイし、続くターンには《思考囲い》。

 これは細川の《ドビンの拒否権》で打ち消されてしまうが、海沼は2枚目の《税血の収穫者》をプレイし、盤面にクロックを並べることに成功する。

 細川はこのうちの1枚を《冥途灯りの行進》で除去するが、海沼は即座に《墓地の侵入者》をプレイして二の矢を継ぐ。ここまでに《税血の収穫者》による2度の攻撃もあり、細川のライフは徐々にだが減り始めていた。

 細川は2枚目の《冥途灯りの行進》で海沼の《税血の収穫者》を処理するが、海沼の《墓地の侵入者》の攻撃を受けて残りライフは11となる。さらに海沼は第2メインフェイズに《黙示録、シェオルドレッド》をプレイ!

open_f_kainuma_2.jpg

 海沼の盤面には7点のクロック。さらに《黙示録、シェオルドレッド》はその誘発型能力により実質的に9点クロックとなり、残りライフが11しかない細川が次の次のドロー・ステップを迎えるときにはライフがぴったりゼロになってしまう。

 よって細川はこのターン中に少なくとも《黙示録、シェオルドレッド》だけでも対処する必要がある。まずはドローを確認し、続いて自身のメインフェイズ中に《記憶の氾濫》。これにより「夜」の訪れは防ぐことができ、《墓地の侵入者》の変身は防ぐことができるが――

 しかし、肝心の《黙示録、シェオルドレッド》を対処する手段は見つからず。まずは海沼が第1ゲームを勝利した。

細川 0-1 海沼

ゲーム2

 続く第2ゲーム、海沼が1マリガンながらも《思考囲い》から初動を開始する好スタートを切った。

 明かされた細川の手札にあった呪文は、

 打ち消しとドローと除去のすべてが揃った強力な手札から、海沼の展開を諫める《至高の評決》を捨てさせる。

 ドローゴーを続ける細川に対し、海沼は続くターンに《苦難の影》をプレイして細川のライフを詰め始める。さらに続いて《砕骨の巨人》もプレイするが、細川も《苦難の影》を《魂の仕切り》で除去し、海沼の攻め手を減らす。

 ならばと唱えられた海沼の《鏡割りの寓話》は細川の《ドビンの拒否権》に打ち消され、逆に細川が《記憶の氾濫》で手札を補充すると、海沼も《真っ白》でカードアドバンテージを帳消しにする。

 一進一退の呪文の応酬の中、《砕骨の巨人》が戦場にいる分海沼の攻撃は完全には途切れておらず、細川はそのライフが減らされていく。

 だが、逆に言えば海沼はここまで盤面にクリーチャーを追加できていない。クロックが《砕骨の巨人》1体だけなら、細川のライフがなくなるまでには5回の攻撃が必要になるのだ。もちろん、それだけ時間があれば細川にとっては十分すぎる。

 細川は《ドミナリアの英雄、テフェリー》をプレイする。強力なプレインズウォーカーの登場に海沼も対処を迫られ、まずは《思考囲い》で前方確認をしにいく。これは細川の《ドビンの拒否権》が刺さるが、これによって続く海沼の《戦慄掘り》が通り、《ドミナリアの英雄、テフェリー》は破壊されてしまう。

open_f_hosokawa_2.jpg

 しぶとく食い下がる海沼の粘りに細川もいよいよ後がなくなってくるが、《放浪皇》で《砕骨の巨人》を処理することに成功する。いったん海沼の盤面はクリーンになり、やっと細川の反撃が開始されるところかと思われた。

 しかし、返す海沼がプレイしたのは《勢団の銀行破り》と《死の飢えのタイタン、クロクサ》の2枚。細川のリソースを減らしつつ、逆に海沼はドローエンジンを設置することに成功した形だ。

 だが、細川も負けじと2枚目の《ドミナリアの英雄、テフェリー》をプレイ。《放浪皇》と並ぶことで一気に細川の盤面が仕上がった。

open_f_hosokawa_3.jpg

 こうなると一気に苦しい海沼。手札も尽きてできることはそう多くなく、《死の飢えのタイタン、クロクサ》を脱出させて《勢団の銀行破り》に搭乗する。

 しかし、ここで海沼が痛恨のプレイングミス。4/4の《勢団の銀行破り》で殴った先は《ドミナリアの英雄、テフェリー》。これにより忠誠値を1まで減らすが、このターンの攻撃は《放浪皇》を対象にすべきだった。

 もしもこのターン《放浪皇》を攻撃していれば、細川は《ドミナリアの英雄、テフェリー》の[-3]能力を使って《死の飢えのタイタン、クロクサ》を対処するしかなかった。そうなれば海沼は《魂の仕切り》で追放されていた《苦難の影》を唱え直して《勢団の銀行破り》に搭乗し、攻撃を仕掛けることで細川の《ドミナリアの英雄、テフェリー》を処理できる。細川の盤面は空になり、海沼の盤面には《勢団の銀行破り》と《苦難の影》が残る形になったわけだ。

 だが、《勢団の銀行破り》が攻撃したのは《ドミナリアの英雄、テフェリー》だった。これに細川は「得した」とボソリと呟き、返すターンに《放浪皇》の[-2]能力で《死の飢えのタイタン、クロクサ》を追放。さらに《ドミナリアの英雄、テフェリー》の[+1]能力を使ってドローを進め、海沼が《苦難の影》をプレイするとこれを《検閲》で打ち消す。

 一気にマウントを取った細川はさらに2枚目の《放浪皇》をプレイしてトークンを出し、クロックを刻み始める。海沼は中盤、細川相手にかなり高度な呪文の応酬をして驚異的な粘りを見せていたが、それは逆に言えば呪文を多く引けていた分だけ土地を引けていなかったことを意味する。ダブルアクションが取れない「ラクドス・ミッドレンジ」は、細川の2枚のプレインズウォーカーに確実に絡め取られていく。

 海沼は《税血の収穫者》や《鏡割りの寓話》をプレイするが、手札もマナも潤沢でガチガチの盤面を築いた細川の「アゾリウス・コントロール」には何ひとつ届かない。

 完全にゲームを掌握されてしまい、第2ゲームは海沼が膝を屈することとなった。

細川 1-1 海沼

ゲーム3

 第3ゲームでは互いにマリガンを選択。新たな7枚を開き、先攻の海沼が力強くキープを宣言したのに対し、細川は小考しつつもキープし、互いに6枚となった手札からゲームを開始する。

 先攻の海沼はセット《》。そして手札から唱えたのは《強迫》。

 結論だけ先に書くと、この《強迫》が海沼に勝利をもたらした。

 公開された細川の手札にあったのは、4枚の呪文と土地1枚、そして《ジュワー島の撹乱》。

回転

 つまり、1ターン目に《ジュワー島の撹乱》を土地としてプレイする算段だったことが露呈する。

 無論、海沼もその目論見を看破し、《ジュワー島の撹乱》を捨てさせる。これによって細川はライブラリートップから土地を引かなければならなくなった。

 緊張の一瞬、ドローは呪文。やむなしに細川は手札にあった《神聖なる泉》をタップインする。

 幸い、海沼は2枚目の土地を置くもののアクションがない。細川にしてみれば、展開が遅れる恐れがあるこのゲームで2ターン目にクロックを置かれなかったことは幸いだったと言えるだろう。

 だが、細川の第2ターンのドローは土地ならず。手札には《ドビンの拒否権》や《至高の評決》など、このマッチアップで強力な役割を持つ呪文が多くあったが、これでは唱えることができない。

open_f_kainuma_3.jpg

 返す海沼は《鏡割りの寓話》。本来であれば細川の手札にある《ドビンの拒否権》で打ち消すことができたはずの呪文だったが、これがすんなり通ってしまうと、一気に細川は厳しい展開となる。

 1ターン遅れてやってきた土地をセットする細川に対し、海沼は容赦なくゴブリン・トークンで攻撃。さらに《墓地の侵入者》をプレイして盤面にクリーチャーを並べていく。

 細川は土地を求めて《サメ台風》をX=0でサイクリングして、続くターンに無事3枚目の土地をセット。しかし、呪文を唱えることはなかったため《墓地の侵入者》を狼男へと変貌させる「夜」が訪れる。

 細川が痺れている間にゲームを終わらせたい海沼。《バグベアの居住地》をクリーチャー化して一斉攻撃の号令をかけ、一挙10点の猛打を浴びせる。これで細川の残るライフは8点。もはや細川に猶予ターンはない。

 細川はドローを確認する。そこにあるのがアンタップイン土地であれば、《至高の評決》を唱えてなんとか巻き返しを狙えるところだったが、万事休す。

 ここでも土地を引けなかった細川は素早くカードを片付け、プレイヤーズコンベンションオープンの勝者が海沼に決定した。

細川 1-2 海沼


 優勝が決定し、ジャッジによる優勝者のアナウンスが行われ、フィーチャーマッチテーブルを囲んでいたギャラリーが2人の健闘に拍手を送る。その音が、会場ホールの他の場所にいたライターやジャッジ、ブースのスタッフ、残っていたプレイヤー、この日のこのイベントを作り上げてきたすべての人たちへと伝播していく。広大な会場が祝福で満たされ、優勝の熱がうねり、拡散していく。

 勝利した海沼はまだ信じられないという様子で頭に手をやっていた。マスク越しでその表情は判然とはしなかったが、興奮よりも驚きの色が濃かったように見えた。プレイヤーズコンベンションオープン決勝戦という大舞台での対戦、そして勝利。そのいずれもが海沼にとって初めての経験なのだから。

 対する細川は悔しさを滲ませつつも、優勝者である海沼を称えた。あと一歩のところでタイトルを逃したのは、グランプリ・名古屋2018での準優勝からこれで2回目。悔しくないわけがない。しかしその1勝の尊さを知っているからこそ、再起し、挑み続けられるのだろう。この日届かなかった1勝を求めて。

 海沼も細川も、今回の入賞により次なるステージである「チャンピオンカップファイナル サイクル2」への参加権利を得ている。次なる決戦の舞台に向け、まだまだこれからも戦い続けることになるだろう。きっとそのあとも、これから長い間、こうしてイベントが開催されるかぎり。

 私たちは帰ってきた。今なお新型コロナウイルス感染症は終息したとは言えないし、完全にかつてと同じような生活を送るにはまだまだ長い年月が必要かもしれない。

 しかしそれでも、徐々に日常は着実に戻ってきている。きっとこれからもしばしば、プレイヤーズコンベンションオープンのようなイベントが開催されるような日々がやってくるだろう。

open_f_kainuma_win.jpg

 さて、優勝した海沼はまだしばらく忙しい。このあとはトロフィーショットとインタビュー、それから公式のYouTubeチャンネルの撮影が待っている。試合前に聞いた話だが、友人たちと予約したお店で食事をする予定もあるそうだ。優勝の熱に浮かされる時間はさほど多くはなく、さっそくカメラマンとジャッジに撮影位置へと誘導されていた。

 急がなければ。その熱さが冷めてしまわないうちに。

 季節は11月、日も暮れて、肌寒さを感じるはずのその時間帯に、2年9か月ぶりに発した熱。

 これから私たちは、きっと何度でもこの熱を思い出せる。

open_f_kainuma_champion.jpg

 プレイヤーズコンベンションオープン、優勝者は海沼 剛! おめでとう!!

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

サイト内検索