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第29回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

観戦記事

第29回マジック世界選手権 トップ8ハイライト

Corbin Hosler

2023年9月25日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものです。)

 2023年は、マジックと「集まること」が再びともにある記念すべき1年だった。

 その1年を象徴するイベントといえば、「MagicCon: Las Vegas」で行われている「第29回マジック世界選手権」をおいて他にないだろう。この1年にわたり、プレイヤーたちはシーズンを締めくくる最後の大会の席を切望してきた。彼らの道はラスベガスへと続き、世界王者のタイトルと総額100,000ドルの賞金を手にするチャンスを迎えたのだ。

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 初日の『エルドレインの森』ドラフトに挑んだのは105名。2日目へ進出し、最終日の舞台に上がるチャンスを得たのは50名。

 そして以下の8名がトップ8に駒を進めた。

  • リード・デューク/Reid Duke(ドメイン・ランプ)
  • サイモン・ニールセン/Simon Nielsen(アゾリウス兵士)
  • 小坂 和音(エスパー・ミッドレンジ)
  • ロレンツォ・テルリッツィ/Lorenzo Terlizzi(エスパー・ミッドレンジ)
  • アンソニー・リー/Anthony Lee(ゴルガリ・ミッドレンジ)
  • グレッグ・オレンジ/Greg Orange(バント・コントロール)
  • ウィリー・エデル/Willy Edel(ドメイン・ランプ)
  • ジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Depraz(エスパー・レジェンズ)
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 錚々たるトップ8の面々は、まさに世界選手権にふさわしい。そしてこの最後の1日は、ジャン=エマニュエル・ドゥプラと小坂 和音による素晴らしい決勝戦へ至るのだ。

 そこまでの道のりをここで振り返ろう。

準々決勝

 今大会には、世界王者のタイトルだけでなくプレイヤー・オブ・ザ・イヤーのゆくえも懸かっていた。そのタイトルを狙ってラスベガスにやって来たプレイヤーは多くいたが、トップ8が決すると残る候補者は2名だけになった――デュークとニールセンだ。

 この週末を迎えた時点では、ニールセンがわずかにデュークの先を行っていた。だから少なくともデュークと成績で並べば、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーはニールセンのものだった。デュークは今大会でニールセンを追い抜き、逆転する必要があったのだ。

 ニールセンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤー獲得への第一歩は、自身初のトップ8入賞を果たしたロレンツォ・テルリッツィだ。テルリッツィの「エスパー・ミッドレンジ」に対して、ニールセンの「アゾリウス兵士」は苦戦を強いられることになった。

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サイモン・ニールセン
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ロレンツォ・テルリッツィ


 一方テルリッツィにとって、トップ8入賞は長年追い続けてきた念願が叶った瞬間だった。

ときは2016年、ある12歳の男の子が両親とともに近くのゲーム店にやってきた。男の子は、ここでプロツアーへの参加権利が手に入る大会が開催されるかどうか尋ねた――プロツアーに参加したいんです、と。誰もが彼を笑った。その男の子が@terlollo15だ。彼は今、世界選手権のトップ8の舞台にいる。いけ、テルロ!

 「世界選手権」は、マジック・プレイヤーにこのような旅の機会を与えてくれる。テルリッツィの世界選手権への道は、誰もが憧れるようなものだ。彼が突き進む先には、かつてのプロツアー王者や地域チャンピオンシップ王者を含む強敵たちが立ちはだかった。それでも彼はその厳しい挑戦を耐え抜き、なんとかトップ8入りを果たしたのだ。

 しかし不運なことに、ニールセンとの準々決勝では奮わない結果になった。第1ゲームはマリガンを喫するとそのまま浮上の機会を与えられず、あふれかえった手札を何度か捨てることになった。そこからも状況は改善せず、テルリッツィに有利なマッチアップであるこのタイミングで不運なドローに見舞われたのだった。

 このような形で初のトップ8ラウンドを終えるのは、テルリッツィも望んでいなかっただろう。だが2023年を通して安定した成績を残したことと、今大会での活躍で、2024年に向けて確かな手応えを掴んだことだろう。それは間違いなく、世界選手権での成功と言えるはずだ。

 

 続く試合も同様のマッチアップになった。比較的最近頭角を現してきた小坂 和音が、殿堂顕彰者にしてブラジルのマジック・レジェンド、ウィリー・エデルと10年で初めてとなるトップ8の舞台で対峙したのだ。「エスパー・ミッドレンジ」と「ドメイン・ランプ」というそれぞれ現環境を定義する2デッキによる対戦は、非常に複雑な展開になり得る。2日目最終ラウンドでエデルの戦いを目にした方なら、この2デッキがどれだけじっくり攻めるものなのか知っているはずだ。

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小坂 和音
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ウィリー・エデル


 だがトップ8ラウンドでの両者の戦いは、そうならなかった。一晩対戦相手のデッキに備える時間があった両者は、この試合で最もプレイすべき、あるいは守るべき重要なカードやプランを考えてきたのだ。その結果、この週末を通して会場中で見受けられたゲームよりも、はるかに効率的な試合展開となったのだ。

 そしてそれは、環境の大部分に優位を取れるが準備に時間がかかるエデルの「ドメイン・ランプ」デッキにとって不吉な予兆となった。一方の小坂はゲーム後半に脅威となるエデルに対して効果的な動きができ、除去や打ち消しは殿堂顕彰者が繰り出す最大の脅威を着地させなかった。ランプ・デッキの動きを抑え込むことができれば(《偉大なる統一者、アトラクサ》を解決させなければ)、《黙示録、シェオルドレッド》や《策謀の予見者、ラフィーン》がゲームを終わらせてくれる。サイドボードからさらに打ち消しを5枚加えた小坂は防御を固め、4ゲーム目でこの試合を決めたのだった。

 

11年ぶりに日曜日の舞台に立てて、とても嬉しいよ。たくさんの愛とアツい応援ありがとう――この子たちがいなければここまで来れなかった。トロフィーの代わりに、おねだりしてたおもちゃを受け取ってくれるかな。それじゃまたシカゴで(あるいは次のstandard challengeで)。#MTGWorlds

 準々決勝も2試合を終え、残るは2試合。注目は、リード・デュークがプレイヤー・オブ・ザ・イヤーをめぐるレースを続けられるかどうかに集まった。だがまずは、グレッグ・オレンジとジャン=エマニュエル・ドゥプラの試合に目を向け、「バント・コントロール」と「エスパー・レジェンズ」による奥深い戦いを見ていこう。両者ともこの週末に多くは見受けられなかったデッキを手にしているが、トップ8入賞に慣れた2人はまた1つ記録を伸ばしている。オレンジは「マジック25周年記念プロツアー」で優勝しており、ドゥプラはここ数年、決勝の舞台で戦うことが当たり前のようになっている。

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グレッグ・オレンジ/Greg Orange
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ジャン=エマニュエル・ドゥプラ


 2人のベテランによる試合は大方の予想通り最終戦までもつれることになったが、まさかオレンジが2連勝した後にこうなるとは思わなかっただろう。ドゥプラは壁際に追い込まれたところから、彼の最も得意なことをした。すなわち最高レベルの舞台でマジックをプレイするというプレッシャーの中でも、落ち着いて正着手を打ち続けることだ。

 

 これでドゥプラに弾みがつき、決着の第5ゲームは勢いに乗った。彼の「エスパー・レジェンズ」デッキはマナ・カーブ通りの展開を見せてプレッシャーをかけ続け、ついに「バント・コントロール」の防御を打ち破った。《復活したアーテイ》で能力を打ち消し、《黙示録、シェオルドレッド》を除去から守り、攻撃を食い止めると、ドゥプラと彼のデッキはエンジン全開で突き進んだ。それらすべてが勝利に結びつき、ドゥプラは準決勝へ進出したのだった。

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リード・デューク
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アンソニー・リー


 エデルと同様に、デュークも「ドメイン・ランプ」でミッドレンジ・デッキに対峙することになった。「ゴルガリ・ミッドレンジ」は、《苔森の戦慄騎士》のようなスタンダードの新戦力や、新たなフィニッシャーとなる《執念の徳目》を搭載している。除去や《ヴェールのリリアナ》のようなプレインズウォーカーも備えた「ゴルガリ・ミッドレンジ」は、「ザ・ロック」というアーキタイプが健在であることを証明している。

 だが最初の一撃はデュークだった。ランプ・デッキの過剰なまでの力強さに任せたデュークはさまざまな脅威で盤面を埋め尽くし、カードのドローも重ねてリーに回答を迫り続けた。サイドボーディング前の2ゲームでは回答を見出だせず、デュークが2連勝とリードを奪った。

 だがここは、普段のトップ8ではない。世界選手権のトップ8であり、試合はすべてBO5で行われる。つまり劣勢に立たされここから3連勝しなければならないものの、リーの戦いはまだ終わっていないということだ。サイドボードから助けがくるため、ミッドレンジにチャンスがあることはわかっていた。

 だから試合を投げ出すつもりはなかった。強い決意で立ち直った彼は、新たなカードを手に、次のゲームへ挑んだ。そして思いもよらないものをテーブルに置いてみせた。

 

 続く2ゲームでは両者とも一進一退の盤面の奪い合いを繰り広げ、リソース管理の達人ぶりを見せた。だがゲームが進むにつれてリーの戦略が功を奏し、徐々に差を広げていく。そしてついに、リーは類まれな大逆転を完遂し、デュークは再び世界選手権トップ8入賞からタイトル獲得を逃すことになった。とはいえ今年はプロツアー優勝を果たし、こうしてまた1つ大型イベントでのトップ8入賞を加えたデュークは、2024年も最もホットなプレイヤーの1人で(そしてマジック史上最も偉大なプレイヤーの1人で)あり続けるだろう……

 

 そして、これでもう1つのレースも決着となった。サイモン・ニールセンが今シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーだ。

@ReidDukeと@MrChecklistcardのPOTY決定戦も観たかったし、リードが敗れたのも悲しいけれど、サイモンがこのタイトルを獲得できたことをとても嬉しく思う。いやはや、すごいシーズンだった。おめでとう!

準決勝

 プレイヤー・オブ・ザ・イヤーが決まった今、「第29回マジック世界選手権」の王者を決めるときが来た。リーとドゥプラ、小坂とニールセンの戦いが始まる。手にしたデッキも国籍も異なる4名。世界王者の座につけるのは、1人。

 一進一退の攻防が続いた準々決勝に対し、準決勝は電光石火だった。「ゴルガリ・ミッドレンジ」に「エスパー・レジェンズ」、「アゾリウス兵士」、「エスパー・ミッドレンジ」はいずれも、「ドメイン」デッキのように長期戦に向いていないため、必然アグレッシブな試合展開になり得る。そしてその通りになったのだが、予想以上に偏った結果だったと言えるかもしれない。

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サイモン・ニールセン
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小坂 和音


 準決勝第1試合は、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを決めたばかりのニールセンと小坂の対決だ。ここまでのニールセンは、完全に道を切り拓いたように見えた。今大会の最初の2ラウンドを落とした彼は、そこから11連勝を遂げてきたのだ。しかし、この準決勝では、物事が別の方向へ転がることになった。

 マリガンと奮わないドローに沈むニールセンに対し、小坂はこの週末に経験済みのマッチアップをしっかり乗りこなしていく。

 

 小坂の積極果敢な攻勢も厳しかった。自身初のトップ8の舞台で恐れることなく戦う日本人プレイヤーのもとに、ネズミが群れを成して集まった。リスク承知の攻撃で反撃を試みるニールセンだが、小坂はそのブラフに応じ、ゴールラインまで一気に迫った。気さくなプレイヤー・オブ・ザ・イヤーはすぐに手を伸ばし、小坂の世界選手権決勝進出を祝うのだった。

 

 小坂が倒すべきは、あと1人。リーかドゥプラか、「ゴルガリ・ミッドレンジ」と「エスパー・レジェンズ」の戦いを制した方が相手となる。

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アンソニー・リー
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ジャン=エマニュエル・ドゥプラ


 ドゥプラのデッキには《英雄の公有地》とともにスタンダードで最高の伝説のクリーチャーが詰め込まれており、試合中に柔軟な動きができる。マナ・カーブに沿って脅威を展開しつつ、《離反ダニ、スクレルヴ》や《スレイベンの守護者、サリア》でそれらを守ることもできるのだ。

 強烈なスタートを切ったドゥプラは、そのままゴルガリ・デッキに浮上を許さなかった。出来事や除去呪文、プレインズウォーカーを大量に擁するデッキは、マナに課税するデッキを前に苦戦を強いられていた。地域チャンピオンシップ王者のリーはどれだけ困難な状況になるかしっかり把握しており、最悪の脅威だけは回避しようと努めた。

 

 だがリーはベストを尽くしたものの、この準決勝でのドゥプラのデッキはまさに伝説級の活躍を見せた。開幕から3ゲームともドゥプラの側に軍配が上がり、こうして「第29回マジック世界選手権」決勝の舞台が整ったのだった。ともに準決勝を3連勝で勝ち上がった小坂 和音とジャン=エマニュエル・ドゥプラによる、決戦だ。

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