（編注：この記事についての取材は１日目に行いました。）

　そのデッキリストを見た時、「？」という記号が脳裏をよぎった。

　４枚フル搭載された効果も全くわからないカードを調べて、さらに「？？？」と記号が増殖した。

　だが、それほどメタゲームや常識からかけ離れたデッキにもかかわらず、スイス最終第７回戦のフィーチャーマッチの映像において全世界に衝撃と勇気を与えた男がいた。

　その男の名は、児玉 賢太郎。

　彼が持ち込んだデッキは、273名というプレイヤーの中にあっても埋もれることの全くない強烈なアイデンティティを主張していた。

　４勝２敗１分という成績で見事２日目進出を果たした児玉に、インタビューをお願いすることにした。

――どうしてこのデッキを作ろうと思ったんでしょうか？

児玉「それはもちろん、私の名前が『コダマ』だからですよ！ 『神河：輝ける世界』で《西の樹の木霊》を見た時、これを４枚積んだデッキを組もう！と思って、このデッキを作りました」

――なるほど、素晴らしいカード愛ですね。この形に至るまでには、どれくらい調整されたんでしょうか？

児玉「それはもう、相性が良さそうなカードやカラーリングを変えて色々なパターンを試しました。誇張抜きで数百の木霊デッキを作成したと思います」

児玉「今は環境的に３色が強くて、そうするとサイドカードがいろいろと採用しやすいんですが、《西の樹の木霊》というカードが大量の基本土地を要求するというジレンマがあったんですよね。それでも直前までバント（白緑青）カラーで《契約紡ぎ、ファルコ・スパーラ》や《クアンドリクスの命令》を入れていたんですが、先週のニューカペナ・チャンピオンシップの結果から、器用さよりもアグロに動ける方が良いと判断して、思いきって白緑２色に絞りました」

――使用候補の時点でカウンター絡みのカードばかりで着眼点がすごいですね。それで、デッキリストを見ていても働きがよくわからないカードが多かったので、デッキ内の代表的なシナジーを教えてもらってもいいでしょうか？

児玉「まず、このデッキの一番強い動きは２ターン目《勢団の銀行破り》→３ターン目《西の樹の木霊》ですね。これはいわゆる『Ａ定食』で、《西の樹の木霊》の能力が発動するための条件である『改善』はカウンターの種類を問わないので、最初からカウンターが載っている《勢団の銀行破り》とは相性抜群です。このカード、もはや私の中では２マナ４/４マナブースト付きですよ。最強です」

児玉「『Ｂ定食』は《光輝王の野心家》からの《西の樹の木霊》ですね。こちらも《勢団の銀行破り》ほどではないですが十分強力です」

児玉「《西の樹の木霊》でマナが伸びたらあとは重い呪文を叩きつけるだけなんですが、そこで重宝するのが《剛胆な敵対者》で、２マナ圏でありながら４マナ、６マナとどのマナ域でも活躍しますし、《救出専門家》で蘇生した時にも追加マナを支払えて相性抜群、《勢団の銀行破り》に『搭乗』も可能と至れり尽くせりです」

児玉「トップメタのデッキに《西の樹の木霊》を足すパターンも色々と試したんですが、どれも《西の樹の木霊》が邪魔をしただけだったので、いっそ《西の樹の木霊》ありきで組もうということでこうしたカードチョイスになっています。あと前の環境では《古霊招来》が入っていたんですが、せっかくだから新しいカードが使いたい！ということで『ニューカペナの街角』からは《華やいだエルズペス》も入れてみました。カウンターも載りますしね」

――厳しすぎる縛りプレイのように見えて、カウンター絡みのカードには強力なカードも多いんですね。毎セット着実に強化されて楽しそうです。

児玉「そうですね、『自分の名前が付いたカードが出たからにはデッキを作るしかない！』という思いで始めましたが、《西の樹の木霊》がスタンダードにある限りは使い続けようと思うくらいには気に入っていますし、次は下の環境でも使ってあげたいですね。モダンくらいまではどうにかチャレンジしたいかな。レガシーはさすがにという感じですが……（笑）」

――ありがとうございました。

　自分の名前とカード名との合致という奇縁が導いた、独自のシナジーの数々を搭載したオリジナルデッキ。

　「マジックは楽しんだもん勝ち」とするならば、マジック楽しんでる度合という評価軸において児玉はもはやすでに優勝して実質日本王者とすら呼べるのかもしれない。