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マジック・スポットライト:FINAL FANTASY

マジック・スポットライト:FINAL FANTASY 決勝:平林 和哉(東京) vs. ハビエル・デル・ピノ・ポベダノ(スペイン) ~全てが思い出になる前に~
平林「10年以上諦めがつかなかった」

『マジック・スポットライト:FINAL FANTASY』の決勝の舞台へと駒を進めたプレイヤー、平林 和哉は、20年以上前から競技プレイヤーとして活動していたプレイヤーだ。
ベテランとして多くのプレイヤーを導いてきた存在でもあり、 彼の薫陶を受けたかつての福岡の一人の少年──行弘 賢は、先日開催されたプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』で優勝を果たした。
そんな平林だが、実は彼自身は大型トーナメントでのタイトルを獲ったことはない。競技歴も長く、かつて存在していたプレミアムイベントであるグランプリなどでの上位入賞経験はあれど、惜しいところで膝を折ってきた。
現行制度における競技者の一つの登竜門であるチャンピオンズカップファイナルは招待制の大会ということもあり、最近ではトーナメント会場で平林の姿を見かけることも減った。そこに来て、先週のプロツアーでのかつての弟子の躍進と、今回のスポットライトシリーズ──大規模なオープントーナメントの復活である。「10年以上諦めがつかなかった」というタイトルへの乾き。それを癒やす方法を、平林が知らないはずもない。
平林「『アゾリウス全知』分かんないんだよ。昨日1回当たったきりだから」
驚嘆すべきは、平林が「イゼット果敢」を用いてのサイドボード込みでゲームをしたのはこのスポットライトシリーズ本番が初めてだったということだ。相手の使用しているカードでテキストが分からないものがあれば都度確認し、サイドボードプランを考え、相手の強さを取り込むかのように成長してきた。
ベテランプレイヤーではなく、一人の挑戦者として。募る憧憬が、彼をここへと導いてきた。

相対するはスペインからやってきたハビエル・デル・ピノ・ポベダノ。スペイン選手権での上位入賞経験もある強豪だが、しかし彼にとって大型トーナメントでのプレイオフラウンドのスポットライトを浴びるのは「よくあること」ではない。
「バント《空を放浪するもの、ヨーリオン》」や「スゥルタイ《出現の根本原理》」など、スタンダードでは太い勝ち手段を備えたデッキを用いることが多かった彼が今大会で選択したデッキは「アゾリウス全知」。
その名を冠する《全知》を《アブエロの覚醒》によってリアニメイトするデッキは、最速で4ターンキルを実現できる一方でコンボパーツ以外のほとんどのカードをドロー呪文と妨害呪文で固めることができ、いわゆる「丸く戦う」こともできる強力なコンボデッキだ。
特に今大会でも大規模勢力をなしていた「イゼット果敢」や「赤単アグロ」に対して有効な《一時的封鎖》を採用できる点など、メタゲームの観点からも理に適っているデッキ選択と言えよう。

フィーチャーマッチテーブルには、平林を応援する日本のプレイヤーたちと、ハビエルの仲間であるヨーロッパのプレイヤーたちが集まっていた。日本では初開催となるスポットライトシリーズである『マジック・スポットライト:FINAL FANTASY』、その優勝者の誕生の瞬間を見守るために。
ゲーム1
第1ゲームの先攻後攻の決定権を持つのはスイスラウンドを2位で抜けた平林だ。7枚の手札をキープし、《嵐追いの才能》、《選択》と続け、土地1枚を立たせながら2ターン目を終える。

対するハビエルは《乱動するドラゴンの嵐》をプレイしてさっそく《全知》を墓地に置き、コンボ始動への準備を進める。ターンを受ける平林は(普段から時間をかけてプレイする方ではあるが)じっくりと考え込み、カワウソトークンでハビエルに1点のみダメージを与えると《ドレイクの孵卵者》を戦場に送り込む。

平林のゆったりした攻めはハビエルにとって追い風だ。3枚の土地をタップし、プレイしたのは《フラッドピットの大主》。《アブエロの覚醒》を探しに行く。
一方平林は《手練》で果敢を誘発させ、蓄えた力を発散するかのように《ドレイクの孵卵者》に《巨怪の怒り》。
これによって一気に9点のライフを削り、返すハビエルの《一時的封鎖》に対し《呪文貫き》で応じるとハビエルのターン終了時に《ドレイクの孵卵者》の能力を起動。
これによって2体のドレイクトークンが並び、ターンを受けた平林が《選択》をプレイすると、平林の擁する打点は8点──ハビエルのライフをぴったり削り切るだけの点数となる。ハビエルはすばやく土地を片付け、「Next game」と一言発して平林へと自身の敗北を告げた。
平林 1-0 ハビエル
ゲーム2
マリガンを喫したハビエルに対し、後攻ながらも絶好の手札をキープした平林が《嵐追いの才能》から動き出す。対するハビエルは《島》2枚を並べるだけという静かな初動だ。
第2ターンに平林は《手練》、《選択》とドロー呪文を連打して果敢によって打点を伸ばす。ハビエルはそんな平林のカワウソトークンに《エファラの分散》をプレイしてライフを守ると、返すターンに《乱動するドラゴンの嵐》で手札を整える。

土地をタップした隙を突いて《コーリ鋼の短刀》と《嵐追いの才能》を並べれば返すハビエルの《一時的封鎖》が刺さり、ハビエルは堅実に平林の攻撃をいなす。
ガス切れに陥った平林は2枚目となる《コーリ鋼の短刀》を置くのみでターンを終え、ここまで18点のライフを維持してきたハビエルが動き出す。《ミストムーアの大主》が唱えられると、なおも動きのない平林に対してハビエルが昆虫トークンの攻撃を加える。
平林は《洪水の大口へ》でハビエルの昆虫トークン1体を除去しながら《コーリ鋼の短刀》の能力を誘発させる。さらにハビエルがただ昆虫トークンで2点の攻撃を続けるターンを終えると、平林は《選択》、《迷える黒魔道士、ビビ》と続ける。
《迷える黒魔道士、ビビ》にこそハビエルの《方程式の改変》が刺さるが、平林は残された2体のモンクトークンで攻撃を行い、着実に戦力を回復させていく。
しかし、6枚目の土地にアクセスしたハビエルも負けじと《マラング川の執政》をプレイ。平林の2体のモンクトークンを除去すると、いよいよ《ミストムーアの大主》のカウンターもなくなり、一気に戦況がハビエルに傾き始める。
しかしここで、平林は《この町は狭すぎる》を5マナでプレイ。対象はハビエルの《一時的封鎖》と《ミストムーアの大主》だ。

これによって2枚の《嵐追いの才能》と1枚の《コーリ鋼の短刀》が戦場に戻り、平林の最後の反撃が始まる。残された手札から最適解を探るべくプレイングを熟考する。
《巨怪の怒り》に対し、ハビエルはスタックで《失せろ》。平林はその解決を見届け、そして手札からさらにもう1枚のカードをプレイする。

2枚目の《巨怪の怒り》。これが解決されると、ハビエルはその右手を平林へと差し出した。
平林 2-0 ハビエル

平林はハビエルの差し出す右手を力強く握り返すと、そのまま両手を突き上げ、「よっしゃあ!」と吠えた。普段の平林を知る人間なら、これほどまでに感情をあらわにする姿は少し意外に映ったかもしれない。
ギャラリーから「初タイトルですね」と声がかかると、彼は少し照れたように、しかし迷いなく言った。「10年以上諦めがつかなかったから」と。
競技の最前線からは一歩引きながらも、心のどこかではずっと夢を見ていた。それは、いつか掴みたかった“タイトル”という名の手触り。かつて存在したトーナメント「グランプリ」の記憶を受け継ぐ、どこか懐かしさを孕んだ新たな舞台――スポットライトシリーズ。そのタイトルが、平林に答えをもたらした。
これまで彼は、記事や動画、様々なかたちでマジックの記憶を語ってきた。過去の競技シーン、スタンダードの歴史、誰かとの思い出。それらは原体験であり、青春であり、ただ一つとして色褪せることのないものだ。
しかし平林にとって、マジックを思い出として封じ込めてしまうには、まだ早すぎた。
通り過ぎるだけではなく、挑む。語るだけではなく、自らの手で刻む。そうして初めて、思い出は物語になる。
平林がこれから最も鮮明に思い出すのは、果たしてどの日になるのか。

競技者としての最大の充足。
栄冠を掴んだその表情は、その答えを示している。
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