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マジック・スポットライト:FINAL FANTASY

インタビュー

インタビュー:ブルナー実久 ~「マニア」というプレイスタイル~

Hiroshi Okubo


 マジックのイベント会場には、毎回さまざまなプレイヤーが集まる。カバレージではそうした中でも、特に競技シーンの最前線に立つプレイヤーの戦略にフォーカスした記事を多くお届けしてきた。

 しかしその一方で、マジックというゲームは、単に勝敗を競うためのものにとどまらない。大会運営者やジャッジ、コレクター、コスプレイヤー、拡張アートや立体アートの職人――さまざまな形でこのゲームを愛し、関わっている人々がいる。その多様性こそが、マジックの魅力のひとつだ。

 そして、その“懐の広さ”を体現するかのようなセットが、直近で登場した『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』である。競技性とカルチャー性を両立したこのコラボは、多くの新規・復帰プレイヤーをマジックへと引き込んだ。

 マジックというゲームは「関わり方の幅広さ」そのものが大きな魅力であり、それを体現している人物のひとりが、ブルナー実久だ。

 

 元ウィザーズ・オブ・ザ・コースト日本支部の社員であり、現在はマジック公式配信の実況としてもお馴染みの存在だ。プレイヤー、実況者、そしてなにより熱心なマジックファンとして、彼女はきわめてユニークな距離感でこのゲームと付き合っている。今回はその“特殊な関わり方”にフォーカスし、マジックというゲームの奥行きについて、改めて見つめ直してみたい。

 

マジックとの出会い

──「マジックに最初に触れたのはどんなきっかけでしたか?」

ブルナー「小学生のころコロコロコミックで連載されていた漫画を読んでマジックのことを知り、たまたま近所で『第7版』の構築済みデッキが売られているのを見て始めました。黒城 凶死郎……あ、"黒城"という名前は関西のプロプレイヤーの黒田 正城さんが元ネタになっているそうですが、彼のプレイスタイルに憧れて黒から入りました」

──「なるほど。当時の印象的なカードやエピソードはありますか?」

 

ブルナー「デッキを買ったはいいんですけど、ルールブックなどが入っておらず、遊び方がわからなかったんです。なので『第7版』のハンドブックも買って、それでルールを覚えました。でもいろいろと勘違いしていたルールもあって、たとえば《堕落》は支払ったマナの分しかドレインできないと思っていました。でも、当時は間違ったルールで遊んでいてもおもしろくて、夢中になっていました」

──「ブルナーさんといえば映画やゲームなど幅広くご趣味になさっています。傾向としてどういったジャンルのものがお好きなのでしょうか?」

 

ブルナー「映画とゲーム、好きですね。特に好きなジャンルとなるとホラー映画になると思いますが、クリストファー・ノーランみたいなSFも好きですし、わりと幅広く何でも好きです。ゲームはもっと雑多で、もちろん『FINAL FANTASY』シリーズもナンバリングタイトルはX2やXIII三部作、XIVを含め全てプレイしています。RPGだけでなく格闘ゲームなども好きですし、『DARK SOULS』や『SEKIRO』ではRTA(※)もしていて、『SEKIRO』のRTAの世界3位の記録を獲ったこともありますよ。ゲームはもう、本当に大好きです」

※RTA…リアル・タイム・アタック(英語圏ではSpeedrunとも)。ゲーム起動からゲームクリアまでのスピードを競う競技で、やりこみプレイの一種。

──「かなりディープにハマるタイプなんですね。そうした好みはマジックにも通ずるものがありますか?」

 

ブルナー「ええ。マジックは次元ごとにまったく異なる景色、様々な世界観を見ることができて、まさに私の好みにとても刺さっています。クリーチャーたちの異質な、何がモデルになっているのか分からないようなクリーチャーデザインも魅力的です。気味の悪さと神秘性が同居している、どことなくスティーブン・キング作品に出てくる化け物や上位存在のようなキャラクターが好きですね。そうそう、上位存在って海外のポップカルチャーではたびたび出てくる概念なんですけど、エルドラージとかファイレクシア人、特に《エリシュ・ノーン》などはそういう上位存在の概念をマジックっぽく解釈しているのかな?とか。あまりそういうキャラクターって人の形してないことも多いんですが、マジックはちょっと可愛げがあるというか、親しみやすいデザインになっている気がします。カードを眺めているだけでも妄想が膨らみますね」

伝播する熱

──「ブルナーさんといえば熱い語りですが今回の『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』にも熱い思いがありますか?」

ブルナー「そうですね。さっきも言った通り『FINAL FANTASY』シリーズは全部プレイしてきていますし、最高のコラボです。カードのデザインが原作に忠実というか、絶妙に思い出を想起させる作りになっていて……たとえば召喚獣が英雄譚かつクリーチャーという新しい組み合わせのデザインになっていることや、《暗黒騎士、セシル》のライフを失ったり、変身したりといった能力など、マジックのメカニズムを踏襲しつつ、『FINAL FANTASY』シリーズの要素がしっかりと調和していて、リミテッドなどをプレイするたびにテンションが上がります」

──「今回の『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』のコラボがマジックの入口になっている方も多いと思います。マジックをプレイし続ける上でどのように遊んでいくのがおすすめですか?」

 

ブルナー「難しい質問ですね……(笑) 強いて言うならマジックは冒険なので、セットごとにまったく新しい戦略やカードが登場します。与えられる条件が変わればデッキも変わっていったり強化されていったり、そういう過程を楽しんでほしいです。それから、マジックは競技の面がフォーカスされがちですが、カジュアルなイベントの方が数は多いです。統率者戦やマジック・リーグのような遊び方もありますね。Discordでリモート対戦を募集している方もたくさんいらっしゃいますし、もちろんMTGアリーナだけで遊んでもいい。遊び方の幅が広く、対戦以外にも楽しみがあるゲームなので、ぜひご自身に合った遊び方を見つけていただけたらなと思います」

──「ありがとうございます。話は変わりますが、ブルナーさんは国内・国外問わず競技プレイヤーについてとてもお詳しいです。どのように情報を仕入れていますか?」

 

ブルナー「基本はXの情報を見たり、配信を観たり、あとはDiscordサーバーを立てているプロプレイヤーがいれば、サーバーに参加したりすることもあります。先ほども映画が好きだという話をしましたが、私はプロプレイヤーにも同じものを見てるといいますか、好きなものに打ち込んで勝利を目指すプロプレイヤーたちは生きた物語そのものだと思っています。最近ですと『プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』で日本人の行弘 賢さんが優勝されましたが、そこに至るまでの行弘さんのご苦労を知っているとエモさもひとしおです」

好きであるという才能

──「まさに『趣味を仕事に』を体現されているブルナーさんですが、マジックは仕事と趣味どちらのウェイトが大きいですか?」

ブルナー「マジックは私にとって『好きなもの』なので、趣味です!と言いたいところなんですが、正直マジックをプレイしたり配信を観ているときに、『これ全部仕事に活きるな』という感覚はありますね。なので、ウェイトを占めるという意味では『マジックは仕事』なのかもしれません。ただ、大別するならそうなるというだけで自分の中で垣根を設けているわけではありません。たとえばプロプレイヤーの配信を視聴する動機はもっとシンプルに、"愛"です。そのうえで得た知見が実況にもつながっている感じです。メタゲームは選ぶことができませんし、場合によってはずっと同じデッキが配信に写っているようなトーナメントもありますが、プレイヤーの話はメタゲームに依存しませんから」

──「いい意味で公私混同している、という感じですね。ブルナーさんは今後マジックとどのように関わっていきたいですか?」

 

ブルナー「マジックにはたくさんの楽しみ方がありますが、私が主に携わっているのは競技マジックの実況ですので、たくさんの方に競技の楽しさを伝えていけたら嬉しいです。なんとなく競技に対して『全員勝つことにしか興味がなくて怖い人ばかり』みたいなイメージを持っている方もいると思うのですが、実際には笑顔で楽しんでいるような方ばかりですし、そういう面をもっと伝えていきたいです。競技マジックの入口を広げて、入口で立ち往生している人の背中を押したいです」

──「これからマジックを遊んでいきたいと思う方や関わり方を模索している方にメッセージを教えて下さい」

ブルナー「ぜひマジックを好きになってほしいですし、好きな気持ちをどんどん前に出していってほしいです!基本的には勝ち負けが存在するゲームなので、勝てないとどうしても落ち込むこともあると思いますが、マジックは本当に勝ち負けだけじゃない──ストーリーを好きな人もいればイラストが好きな人、プレイヤーを応援している人、お店で統率者戦などを遊んでいる人、競技に取り組んでいる人など、様々な楽しみ方をしている方がいます。ただマジックを好きなだけでいい、楽しむために必要な資格はありません」

 

 競技プレイヤーの熱量を語るときも、カードアートの魅力を語るときも、ブルナー実久の言葉にはいつも“愛”がある。マジックに対する視線は、プレイヤーでも、実況者でも、ただのファンでもあり続ける。どこかに線を引こうとしても、その境界はすぐに溶けてしまう。

 だからこそ彼女の語りは、聞く人の背中をやさしく押してくれるのだろう。勝ちたい人も、語りたい人も、ただカードを眺めていたい人も──どんな人にも、このゲームは開かれている。

 あなたは、マジックとどんなふうに関わっていくだろうか?

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