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グランプリ・台北2016

観戦記事

決勝:Huang, Yung Ming(台湾) vs. 市川 ユウキ(神奈川)

By 矢吹 哲也

 今大会第12回戦において、この試合で激戦を繰り広げ、引き分けた市川 ユウキと高橋 優太の両名に、カバレージライターのシム・チャップマンからハンバーガーの差し入れがあった。

 このふたりがともにトップ8に入賞したことで、チャップマンは「僕のおかげかな、Lucky Burgerだったね」と言って憚らないのだが、それはさておき。高橋は惜しくも準決勝で敗退となったが、もうひとりの「Lucky Player」市川は決勝の舞台まで上がってきた。無論、彼がこの場にいることは「Lucky」なだけではない。実績に裏付けられたその実力は、グランプリ決勝卓へ座るに相応しい風格を彼にまとわせている。

 市川の対戦相手となるファン・ユン=ミン/Huang, Yung Mingには、目指すものがあった。

 彼は先週末に行われたワールド・マジック・カップ予選を突破し、今年のワールド・マジック・カップ台湾代表の一員となった。台湾代表は第1回のワールド・マジック・カップを制している。その栄光を再び。あのトロフィーをもう一度自国へ。地元プレイヤーとして、国の代表として、日本から大挙してやって来たプレイヤーたちの最後のひとりをここで討ち取り、箔をつけたい。「台湾にファン・ユン=ミンあり」と世界に名乗りを挙げたい。グランプリ・東京2016で使用して以来1ヵ月間磨き続け、ワールド・マジック・カップ予選優勝に至った「白緑トークン」という武器。彼は今大会でも75枚同じものを手に、グランプリ決勝の舞台に立った。


ファン・ユン=ミン vs. 市川 ユウキ。いざ、決戦のとき。

ファン・ユン=ミン(白緑トークン)vs. 市川 ユウキ(バント・カンパニー)

 先手のファンが1ターン目に《ニッサの誓い》を唱え、それで得た《森の代言者》を2ターン目に展開。対する市川の初動は3ターン目の《変位エルドラージ》となり、《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を繰り出したファンに押される形となった。

 ファンはさらに《ニッサの誓い》で《森の代言者》を獲得すると、地上を固める。市川は勢いよく《集合した中隊》を放つと、《反射魔道士》と《森の代言者》を繰り出した。

 クリーチャーの数では拮抗した両者だったが、ファンの《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》が着々と忠誠度を上げていく。市川は一度身体を伸ばし盤面と手札を吟味すると、《森の代言者》を繰り出してターンを渡した。

 そのターンの終了時、ファンは《大天使アヴァシン》をプレイ。市川はこれに対応して《反射魔道士》を《変位エルドラージ》で使い回し、ファンの《森の代言者》を手札へ送った。

 ニッサが生み出す植物・トークンによって地上の攻撃を阻まれた市川は、《大天使アヴァシン》に空から攻撃を受けた。だが彼は6枚目の土地を置き《森の代言者》を強化すると、《ドロモカの命令》で《大天使アヴァシン》を撃ち落とす。全軍攻撃でついに《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》の忠誠度を削る――かに見えたが、ファンは2枚目の《大天使アヴァシン》を繰り出し、破壊不能を得た植物たちは市川の攻撃を耐えた。

回転

クリックで変身

 再び《大天使アヴァシン》での攻撃を加えたファン。これで市川のライフは残り10点。ファンは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を盤面へ追加し、市川は大きく息を吐く。

 あまりに堅い防御。強力な2種のプレインズウォーカー。市川は《反射魔道士》を再利用してブロッカーを1体減らし、プレインズウォーカーへ反撃するものの、大量の植物という厚い壁が立ちはだかる。

 そしてこの戦闘で植物・トークンが死亡したことでファンのアップキープに《大天使アヴァシン》の「変身」が誘発したが、市川は優先権をパス。《大天使アヴァシン》は「変身」し、《浄化の天使、アヴァシン》の能力がスタックに置かれた。そして市川はこのタイミングで《反射魔道士》を再利用し、《浄化の天使、アヴァシン》をファンの手札へ戻す。ファンは手札に戻った《大天使アヴァシン》を出し直し、自身の《浄化の天使、アヴァシン》の炎から自軍を守ることに成功した。

 一見、市川が大きなミスを犯したように見えるこのプレイ。だがこのとき、彼は別の角度でこの場面を見ていた。試合後にこの場面について尋ねると、彼は「いや! さすがにわかった上(のプレイ)だから!」と筆者の疑問を一蹴する。

 このとき、ファンの盤面には植物・トークン3体と《大天使アヴァシン》、それから十分に忠誠度を持った《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》。

 《大天使アヴァシン》の「変身」を許さず《反射魔道士》でバウンスした場合、再度市川のターンに出し直すだけで植物・トークンたちは再び破壊不能を持ち、この盤面を打破できない。トークンがさらに増え、《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》の[-2]能力でも《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の最終奥義でもライフは削り切られる。

 結論から言えば、この時点で市川の敗北は決していた。それでも彼は、最後のひと筋にかけてこのプレイを選択した。すなわち、ファンが《大天使アヴァシン》をすぐに出し直せないと勘違いし、《浄化の天使、アヴァシン》の全体3点が植物・トークンを一掃することに期待したのだ。

 だがファンは市川の策に惑わされなかった。前述した通り《大天使アヴァシン》で自軍を守ると、盤石の戦線で市川を追い詰めた。タップ・アウトを余儀なくされた市川に対してファンは、《ウェストヴェイルの修道院》から《不敬の皇子、オーメンダール》を呼び出し、勝利を掴んだのだった。


不動の防御に不動の心。ファンが第1ゲームを取る。

 2ゲーム目、市川は《オジュタイの命令》、《反射魔道士》と残りが土地という遅めの手札をキープし、ファンはマリガンを選択した。6枚の手札を見て頭を抱えると、ファンはそれもライブラリーへ送り返す。彼は5枚となった手札にようやく笑顔を見せ、占術で見たカードもライブラリー・トップへ置いた。

 2ターン目に繰り出された《搭載歩行機械》を《反射魔道士》で戻した市川は、4ターン目に再び出し直された《搭載歩行機械》を《オジュタイの命令》で打ち消す。3ターン目に繰り出されていた《森の代言者》も2枚目の《反射魔道士》で戻し、《ヴリンの神童、ジェイス》を加えてテンポよく攻めた市川だが、ファンの《次元の激高》がその攻勢を阻んだ。

 ファンの2枚目の《搭載歩行機械》にも市川は2枚目の《オジュタイの命令》を合わせつつ、墓地から《ヴリンの神童、ジェイス》を戦場へ戻した。盤面に《精霊信者の賢人、ニッサ》も加えた市川は、ダブル・マリガンのファンに対してアドバンテージ差を広げていく。

 《保護者、リンヴァーラ》で飛行戦力を得たファンだが、市川の《変位エルドラージ》が攻撃を通さない。市川は《集合した中隊》で2枚目の《変位エルドラージ》と《森の代言者》を獲得すると、《大天使アヴァシン》を戦線に加えたファンの攻撃を2体の《変位エルドラージ》の追放能力で阻み、プレインズウォーカーたちの忠誠度を上げていく。

 ファンは再び全軍攻撃――空中から襲い来る攻撃は《変位エルドラージ》で、地上から攻め上がる《森の代言者》はブロックで、市川はファンの攻撃を抑える。

 そしてついに放たれた《精霊信者の賢人、ニッサ》の最終奥義。市川は浮いたマナで《変位エルドラージ》の能力を連打しファンのブロッカーをすべて排除すると、一撃のもとに彼のライフをすべて取り去ったのだった。


ゲームを取り返した市川。勝負は最終ゲームへ。

 最終決戦を前にした両者は視線を交わし、どちらからともなく笑みをこぼした。最高の舞台で、最高の相手と、最高の試合。心が昂ぶらないはずがない。

 今大会の会場は空港が近く、ときおり着陸に向かう飛行機のエンジン音が駆け抜けていく。最終ゲームの始まりの合図もまた、キーン、という甲高いエンジン音だった。

 しかし第3ゲーム、ファンは2ターン目に《棲み家の防御者》をプレイすると、土地が2枚で止まった。

 市川は3ターン目の《不屈の追跡者》でゲームを始めると、4ターン目の《集合した中隊》で《森の代言者》と《ラムホルトの平和主義者》を加える。

 3枚目の土地が一向に引き込めないファンはそれでも、《森の代言者》と《ドロモカの命令》の優れた2マナ域で懸命に戦うが、市川も《ドロモカの命令》でファンの《森の代言者》を退場させた。

 ファンは《石の宣告》を続けて放ち市川の攻勢を辛うじて防ぐ。まだ土地は来ない。市川の《集合した中隊》から《反射魔道士》が現れ、ファンを守るクリーチャーがいなくなる。彼は3枚目の《石の宣告》で市川の《森の代言者》を2枚まとめて対処するが......抵抗もここまで。最後まで土地を引き込めなかったファンは、手札の《大天使アヴァシン》を見つめて自身の運命を受け入れ、右手を差し出した。

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市川 2-1 ファン

 最後のゲームが土地事故によって決着してしまったことに一瞬残念そうな表情を浮かべた市川だったが、対戦相手のファンからの祝福の言葉と、集まってきた仲間たちからの愛ある煽りを受けて、いつもの楽しそうな笑顔を浮かべる。

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 そしてトロフィー・ショットの撮影を終えた市川は再び対戦相手のファンのもとへ行き、これまでの健闘を称え合った。勝者は常にひとりだが、実際に戦った相手としか通じ得ない想いもある。この戦いを経て「好敵手」となったふたりは、今一度固く握手を交わすのであった。

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――台北市郊外、麓に高級住宅地が広がる山の上に「国立故宮博物院」が建っている。ここには歴代の中国王朝が蒐集した宝物の数々が収められており、貴重な品を現代にまで伝えている。

 かつて、清代の名君「乾隆帝」は、自身の宝物を評して「貴似晨星(朝星の如く貴き)」との詩を残した。早朝の空に輝きを残す星のごとく、美しく、貴重な様子を表すこの言い回しは、希少価値の形容としてこの地にも根付いているという。

 市川は、試合後の優勝者インタビューでマジックに対するモチベーションの源泉について聞かれると、笑顔で「これが自分にとって得意なゲームであり、勝てるから」と答えた。数多くの勝利を集めてきた彼の目には、きっとひとつひとつの勝ちがきらめく宝物のように映っていることだろう。

 だから王者には「王」の言葉を贈ることにしよう――今回の勝利もまた、「朝星の如く貴き」ものである、と。

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市川 ユウキ、グランプリ・台北2016優勝おめでとう!
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