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グランプリ・シンガポール2017

観戦記事

決勝:Lim, Zhong Yi(シンガポール) vs. Pan, Minxing(中国)

By 矢吹 哲也

 シンガポール出身のライター、シム・チャップマン/Sim Chapmanは、シンガポールのマジック事情について「小さな国だけど毎日イベントを楽しめるくらい人気がある(インタビュー記事より)」と語る。

 人口560万人ほどの小さなこの国で、マジックは赤道直下の暑さに負けないほどの熱量で楽しまれていた。その盛り上がりは近年ますます高まり、プロ・チームが生まれるほどだ。

 コミュニティが成長し将来有望なプレイヤーが現れ出している今こそ、彼らには必要だった。

 「プロになりたい」と熱意を燃やす次世代のシンガポール・プレイヤーたちを導く、新たな旗手が。

 シンガポールの中だけでは知りにくい世界の舞台をその身で体験し、それを自国プレイヤーたちへ伝える新たな伝道師が。

 アルバタス・ロウ/Albertus Law、ケルヴィン・チュウ/Kelvin Chew、フェリックス・レオン/Felix Leong。シンガポールが生んだ英雄たちに続く新たな英雄が。

 リム・ツォン=イー/Lim, Zhong Yiは、その期待に応えようとしている。

 昨年のグランプリ・広州2016で自身初のグランプリ・トップ8入賞を果たすと、プロツアーを肌で感じた彼は競技の世界にのめり込んでいった。その後の彼はスポンサードを積極的に受け、最前線にその身を置き続けた。

 リムの献身と努力は、今年のシンガポール選手権で実を結んだ。彼は自国の王者となり、代表チームの一員として再び「世界」を味わった。

 今、彼は再びグランプリ決勝ラウンドの舞台にいる。だがこの約1年半の間に、彼の技術や心構え、そして勝利への熱は、見違えるほどに大きくなっている。

 あとはそれらを、これから始まる最後の試合へぶつけるだけだ。

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グランプリ・シンガポール2017決勝戦、リム・ツォン=イー vs. パン・ミンシン

ゲーム展開

 今大会の決勝ドラフトは、『イクサラン』シーズン最後を飾るに相応しい各部族の強力カードのオンパレード......とはならなかった。全体的にカードの出が悪く、プレイヤーたちは苦心したことだろう。

 だがその中で、リムはこの卓唯一の白黒を組み上げ、準々決勝では原根 健太、準決勝では齋藤 友晴を破り、この舞台まで上がってきた。

 第1ゲームはパンがマリガンを喫し、彼は6枚の手札でゲームを始めた。

 後手のパンが1ターン目に《覚醒の太陽の神官》を繰り出すと、先手のリムは《女王湾の兵士》で対抗し、最初の攻撃に成功する。リムは続けて《薄暮まといの空渡り》を展開し、一方のパンは2ターン目、3ターン目と動きがない。

 リムが2体のクリーチャーで攻撃すると、パンはこれをブロックして《確実な一撃》を放ったが、リムも《卑怯な行為》を放ちこの戦闘を制した。パンの手からは、4ターン目もクリーチャーが繰り出されることはなかった。

 その隙にリムは4ターン目《聖域探究者》。クロックを一気に上げてライフ差を11対22へと広げる。パンは《輝くエアロサウルス》を送り出したものの、そこへ《崇高な阻止》を貼ったリムは全軍攻撃でパンの残りライフを2点まで追い詰めた。パンにここから返す手立てはなく、彼は表情を変えずカードを片付けた。

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リム・ツォン=イー

 第2ゲーム、今度はリムがマリガンを喫し、彼は《》1枚の手札をキープした。1ターン遅れたもののなんとか2枚目の土地を引き込むと、《凶兆艦隊の貯め込み屋》を送り出す。

 しかしその間にパンの盤面には《かき回すゴブリン》が展開されており、彼は手札の質を上げつつ《小綺麗なスクーナー船》を追加。続くターンには《身勝手な粗暴者》も戦線に加わる。

 リムの土地は2枚から伸びない。それでも彼は《軍団の上陸》で吸血鬼・トークンを生み出すと、続くパンの攻撃に対し、《小綺麗なスクーナー船》を《凶兆艦隊の貯め込み屋》でブロック。《卑怯な行為》で《かき回すゴブリン》も巻き込む2対1交換を取りにかかる。

 だがパンは《小綺麗なスクーナー船》に《吸血鬼の士気》を放ち、事なきを得た。リムは《溺死者の行進》で先ほど失った《凶兆艦隊の貯め込み屋》を取り戻し、再展開。続く攻撃へダブル・ブロックを敢行し、《身勝手な粗暴者》を打ち倒した。

 苦しい戦いを強いられるリムに対し、パンはさらに《プテロドンの騎士》、《不動のアルマサウルス》と展開。リムは《凶兆艦隊の貯め込み屋》が遺した宝物・トークンを用いて《聖域探究者》を送り出したものの、《小綺麗なスクーナー船》を相打ちに取るのがやっとだ。

 パンは空からの攻撃ののちに、《決別の砲撃》でリムに残るライフを焼き払った。

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パン・ミンシン/Pan, Minxing

 迎えた第3ゲーム、ここでパンは再びのマリガン。黙々とデッキをシャッフルするパンに対し、リムは中国語で話しかける。会話の内容はわからないが、周りでそれを聞くギャラリーたちからも温かい笑いが生まれたことから、最後のゲームでパンに訪れた不運を慰めたのだろう。

 ゲームが始まると、パンが《覚醒の太陽の神官》、リムが《女王湾の兵士》という、第1ゲームと同じ立ち上がり。リムは《流血の空渡り》で展開を続け、今度はパンも《巣荒らし》で対抗する。

 リムは4ターン目のドローをゆっくりとめくった。ここで土地を引き込めていれば、手札の《聖域探究者》が出て盤面は一気に有利になっただろう。しかしそれは、このターンで実現しなかった。

 それでも彼は《卑怯な行為》でパンの《覚醒の太陽の神官》を墓地へ送りつつ攻撃を与えていく。そしてパンの方も土地が3枚で伸び悩み、動きが止まった。

 リムの攻撃に対し、パンは《女王湾の兵士》を《巣荒らし》で相打ちに取り、残る《流血の空渡り》にも《鉤爪の切りつけ》を差し向けた。リムが《凶兆艦隊の貯め込み屋》を繰り出せば、パンも2枚目の《巣荒らし》で喰らいつく。

 ライブラリーをめくったリムは待望の4枚目の土地を引き込み、戦場へ叩きつけるようにセットした。周りで見ていた仲間たちが小さく歓声を上げる中、彼は《饗宴への召集》をかける。パンも4枚目の土地を引き込み《不動のアルマサウルス》を繰り出すが、それは《崇高な阻止》で無力化され、リムの侵攻を許すことになった。

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決着の瞬間を固唾をのんで見守るギャラリー。

 そしてついに、決着のときが訪れる。リムは満を持して《聖域探究者》を盤面へ送り、パンの残りライフを2点まで追い詰めた。逸るように手札の《闇の滋養》をパンに見せると、それを目にしたパンは微笑を浮かべ、右手を差し出したのだった。

リム 2-1 パン

 シンガポールのマジック界にプロ・チームを作り上げた「Gray Ogre Games」の代表、マーク・タン/Mark Tanは次のように語る。

「シンガポールにはプロになりたい若者がたくさんいます。でも、彼らはそのためのノウハウを知らないんです」

 若者たちは、戴冠したリムの姿を見て決意を新たにするだろう。これから彼に教えを乞い、彼のような王者になると。

 そこには未来があり、大志がある。

 シンガポールは今、熱く滾っている。

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リム・ツォン=イー、グランプリ・シンガポール2017優勝おめでとう!
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