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グランプリ・上海2017

戦略記事

デッキテク:岡田 尚也の「グリクシス・工匠」

By 矢吹 哲也

 プロツアー『アモンケット』では、「黒単ゾンビ」が優勝を掴んだ。

 先日のプロツアー『イクサラン』では、「白単吸血鬼」が望外の活躍を見せた。

 部族のシナジーを用いたデッキはマジックの長い歴史の中で幾度となく活躍し、多くのプレイヤーに好まれてきた。『イクサラン』でも恐竜、海賊、吸血鬼、マーフォークと4つの部族がフィーチャーされ、それぞれの部族を愛するプレイヤーたちが日々研究に勤しんでいることだろう。

 そして今大会、グランプリ・上海2017には、これまで注目を浴びてこなかった「ある部族」の研究に没頭し、7勝2敗の成績で初日を突破した男がいる。

decktech_okada.jpg

 「The Finals 2011」王者、岡田 尚也である。

 マジックの魅力を尋ねられ、「自分の妄想を世の中に形として示せる所」と答えた彼は、新たなセットが登場するたびに他に誰も使わないような「自分好みの」カードに着目し、それを使い続けてきた。

 これだけなら、同じ志を持ってマジックを楽しんでいるプレイヤーは他にも大勢いるだろう。

 岡田の非凡なところは、実際にそれを「世の中に形として示」していることだ。

 そんな岡田が今大会に持ち込んだのは――

岡田 尚也 - 「グリクシス・工匠」
グランプリ・上海2017 / スタンダード (2017年11月11~12日)[MO] [ARENA]
5 《
3 《
2 《異臭の池
4 《尖塔断の運河
4 《産業の塔
4 《霊気拠点
2 《発明博覧会
1 《廃墟の地

-土地(25)-

4 《霊気急襲者
4 《つむじ風の巨匠
1 《ピア・ナラー
4 《異端の飛行機械職人
1 《スカラベの神

-クリーチャー(14)-
2 《マグマのしぶき
4 《抽出機構
3 《蓄霊稲妻
3 《金属の叱責
2 《解析調査
4 《発明者のゴーグル
1 《霊気圏の収集艇
1 《領事の旗艦、スカイソブリン
1 《反逆の先導者、チャンドラ

-呪文(21)-
2 《屑鉄場のたかり屋
4 《強迫
3 《削剥
2 《没収の曲杖
1 《金属の叱責
1 《川の叱責
1 《橋上の戦い
1 《廃墟の地

-サイドボード(15)-

 見るからに妖しい光を放つ「工匠」デッキだった。


デッキの動き

岡田「エネルギーを増やして、そのエネルギーでトークンを出していくのを基本戦略にしています。同時に、出てくるトークンがアーティファクトなので『即席』を副テーマにしました」

 このデッキの主軸となるのは、エネルギーを生み出すカードとそれを消費してトークンを生み出すカードのふたつだ。とりわけ《抽出機構》が戦場に出てからのエネルギー・エンジンは力強く、瞬く間に大量のエネルギーとトークンが生み出される。

 しかしデッキのキー・カードを尋ねると、岡田は意外な1枚を挙げる。

岡田「やっぱり《発明者のゴーグル》ですかね。この環境の1マナ・アーティファクトの中で一番強いのがこのカードで、それ以降に出るクリーチャー(工匠たち)がすべて+1/+2されるというのが強いんですよ。《発明者のゴーグル》を出して、クリーチャーを展開していくだけで相手の攻撃はほとんど止まります」

 1ターン目に《発明者のゴーグル》をプレイし、2ターン目に《霊気急襲者》を繰り出せば、2/4となった《霊気急襲者》を前に攻撃に向かえるクリーチャーはまずいない。続く3ターン目に《霊気急襲者》での攻撃後《つむじ風の巨匠》を展開すれば、盤面には3/5のクリーチャーが残る。序盤からライフを守ることができ、特にアグロ・デッキに対して時間を稼げると岡田は述べる。

岡田「時間を稼げれば、《抽出機構》のような(力を発揮するのに)時間がかかるカードを使ってエネルギーをさらに増やせます。こちらは『戦場に出たとき』に能力が誘発するクリーチャーばかりなので、長期戦になれば《抽出機構》の能力でそれらを手札に戻して出し直し、アドバンテージ差を広げられます」


始まりは《探査の短剣

 このデッキの作成へ至る道を尋ねると、岡田はここでも意外な(と言うよりデッキに入っていない)カードについて言及する。

岡田「最初は《探査の短剣》を何とかして使おうとしたんです。具体的にどうするかって考えたときに、飛行を持つクリーチャーだけで構成し、上から殴ればいいだろうと。それがきっかけでした」

 その後岡田は《順風》を採用した飛行ビートの形にしていったが、強化エンチャントを入れればその分クリーチャーが少なくなり、なかなか噛み合う構成にたどり着けない。

 そこで彼が見出したのが、「工匠」だ。

岡田「工匠は飛行を持ったり飛行機械を生み出したりできるものが多いことに気づき、そこから『工匠デッキ』に移っていきました。《探査の短剣》もアーティファクトだし、シナジーも期待できるかなと」

 しかしクリーチャー不足感はどうしても払拭できず、最終的に《探査の短剣》は抜けていくことになった。岡田は「このデッキは、その『なごり』です」と苦笑したものの、「探査の短剣」デッキは見事に「工匠」デッキへ生まれ変わり、彼はそれをグランプリで操り初日を抜けている。

岡田「アグロ相手には横に展開して守れますし、『ティムール・エネルギー』に対しても地上を止めて空から攻め込めます。今のメタゲームなら悪くはないですかね。ただコントロール相手は厳しいので、サイドボードはそれを意識しています」


 1枚のカードへの熱意が思わぬ形で実を結ぶ。これもまた、デッキ構築の醍醐味だろう。

 稀代のデッキビルダー岡田 尚也の「発明品」。皆さんもぜひ味わってみてほしい。

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