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グランプリ・神戸12

読み物

決勝: 平賀 優宏(神奈川) vs. 行弘 賢(和歌山)

By Yusuke Yoshikawa  対戦前、行弘が自身の背を指して言う。 「(仕切りが遠いので)これだと誰も見えないと思うんですけど......」  すぐさまスタッフが対応し、ギャラリーとの距離が近づけられる。  観られる、観るということを、行弘はいつも考えているのだろう。  テーブルジャッジに、余裕がありますね、と聞かれると、行弘は笑って謙遜する。 「いやいやいや・・・せっかくだし」  その次の言葉がわずかに緊張を帯びる。 「決勝まで来たの初めてなんで」  ライジングスターと目される行弘にとっても、タイトルは「せっかくの」舞台、特別なものだ。 「昨日からすごいツイてるんで・・・このまま行きたいですね」  対して、撮影のためスリーブの入れ替えを求められた平賀は、黙々と作業をこなしながら言葉を聞いている。  彼にとっては、「見られるマジック」ということは初体験なのかもしれない。  それでも、スリーブを入れ替えて、丁寧にシャッフルを繰り返すうち、平賀も自分のペースを取り戻してきた。  ここはグランプリの決勝。他の1115名が夢見た、タイトルを懸けた舞台。注目も当然のこと。  注目されることは、時にメリットはないかもしれない。緊張や制約ばかりがもたらされて、不都合しかないかもしれない。  でも、力に変えられたなら、そのときはタイトルのほうが一歩、こちらに歩いてきてくれるだろう。  丁寧に、丁寧にカードをたぐるその手に、平賀の秘めた気持ちが見えた。 Final 「お願いします」  そう言葉を交わして、いつものゲームをはじめよう。
Game 1
 ダイスロールで12を出した平賀が先攻の意思表示。 「こちらはキープを宣言します」  確かめるように平賀が言う。行弘もそれに応える。  行弘の《無私の聖戦士》に、平賀が《銀筋毛の狐》と、この環境の白優位を示すかのような立ち上がり。  行弘が《修道院の若者》を出せば、平賀は《アヴァシン教の僧侶》を出して対応の意志を。  行弘も《修道院の若者》は人間のままにしておいて、《礼拝堂の霊》を出す。  平賀は《アヴァシンの仮面》。  戦場の土地はいまだ《平地》のみ。  行弘が初めてとなる《》を置き、《村の食人者》。  見慣れたカードかもしれないが、誘発する条件を平賀が改めて確認する。  土地3枚で止まってしまった平賀は、《アヴァシンの仮面》を《銀筋毛の狐》に装備し守りを固めるのだが、《アヴァシン教の僧侶》の起動コストをまかなえない。  そこに行弘は2枚目の《》から《死の愛撫》で、《アヴァシン教の僧侶》を排除して、《礼拝堂の霊》が再び攻撃を始める。  傾き始めた戦況を立て直すには、平賀にも2色目の土地が必要だ。  力を込めて引いたカードは《戦慄の感覚》。  これも、《》なしでは魅力十分とはいいがたい。  さらに攻撃されて、次にようやく平賀が引いたのは土地、しかし《平地》。  でもこれが、平賀にチェックリスト・カードの提示を可能にする。 「スレイベン」  行弘がつぶやく。  もちろん、それは《スレイベンの歩哨》である。 「考えます......」  自らのターン、行弘はそう断ると、実際にカードを動かしながらシミュレーション。  そして「コンバット」と宣言して、《無私の聖戦士》を除く《不浄の悪鬼》《村の食人者》《礼拝堂の霊》を横に倒した。  《銀筋毛の狐》(3/5)が《村の食人者》(3/3)をブロック。《スレイベンの歩哨》はブロックに参加せず。  《無私の聖戦士》が起動されて、《村の食人者》が《銀筋毛の狐》を倒し、平賀ライフ5。戦場の変化に呼応して、《スレイベンの民兵》が怒りをあらわにする。  平賀、ドロー。  まだ《》を引かない。  平賀は落胆をおくびにも出さない。  平賀は攻撃宣言前に、《戦慄の感覚》で《村の食人者》《礼拝堂の霊》を抑えこんで猶予を求める。  それに対し、5枚の土地を片手で90度回転させて、行弘が提示するのはタイトルを前にした《高まる野心》。  デッキでいまもっとも必要とするカードが、行弘の手札に送られる。  平賀に猶予はなくなってきた。  なにせ、場で押されている上にデッキのエースの予告先発だ。  こちらも力を見せねばなるまい。  ここで力強く引き当てたカードは、《神聖なる報い》。  これで行弘の盤面を《村の食人者》を残して一掃し、ライフで押されてはいるものの、五分の戦況へと近づける。  だが、行弘の《未練ある魂》がすぐさま追加のスピリット、それも通常から即座にフラッシュバックで4体を追加してくる。 「苦しいー」  わずかな吐息に混じって、平賀の本音が漏れる。  土地はまだ5枚、力を込めてドロー、しかしそこには《無私の聖戦士》。《神聖なる報い》のフラッシュバックはまだ遠い。  ついぞ平賀の《》は現れず、スピリットを前に押し切られることとなった。 平賀 0-1 行弘
Game 2
行弘 賢
行弘 賢
 互いにマリガンなし、今度は《》が姿を見せて平賀も一安心か。  《霧のニブリス》で、まず先攻の構えをとる。  しかし行弘から提示されたのは、先ほどの勝負を決めた《未練ある魂》。  これには2/1である《霧のニブリス》を向かわせる気にもなれないのか、平賀は攻撃せずにターンを返す。  1・2体目の攻撃を受けて、3・4体目の出現を確認してから、平賀は終了フェイズ《村の鐘鳴らし》から、これに《同族の呼び声》をエンチャントする。  これは・・・?  対戦相手の行弘だけでなく、ギャラリー全体が「そのカード」を不思議そうに見つめた。
 闇の隆盛の発売からまだ2週間ほど、出会う頻度が多くないレアでは、見つめるプレイヤーはもちろんのこと、さしもの行弘も、もしかすると使っている平賀自身も、真価を知らないかもしれない。  読む限りは猛烈なアドバンテージを生みそうであるが、ともあれ未知数ではある。行弘は気を取り直し、《銀爪のグリフィン》を追加する。  飛行の数で押されると厳しいかに見えた平賀だが、このままでは終わらない。  《同族の呼び声》の効果で、まずは戦場を支える《アヴァシン教の僧侶》を得て、さらに通常プレイで《銀爪のグリフィン》が航空戦力として与えられる。  《銀爪のグリフィン》には行弘の《信仰の縛め》。守りを構築させることなく、タイトルに向かって邁進する。  しかし、そのビクトリーロードは予想もしない曲がり角を迎えた。
 《突然の消失》が告げられ、トークンが二度と戻らない旅路へ。ついでに《信仰の縛め》も一時消失し、急激に盤面がクリアになった。  だがクリーチャーと返す攻撃に備え、攻撃はわずかにとどめ、平賀は慎重にターンを返した。戻ってきた《信仰の縛め》は元の位置=《銀爪のグリフィン》へ。  しかし《未練ある魂》への未練を断ち切って、行弘も《弱者の師》から《村の食人者》、すぐにドローとまだまだ押し込んでくる。  だが平賀は、《同族の呼び声》が有効に機能するデッキを仕上げていた。  《村の鐘鳴らし》の呼び声に応えた優秀な人間がどんどん集まり、その中の《エルゴードの審問官》で失ったライフを取り戻しにかかる。  アップキープに《金切り声のコウモリ》を《忍び寄る吸血鬼》に変身させるが、行弘の攻め手がついに止まる。  平賀は《深夜の出没》で、先ほどはあれだけ攻められたスピリット・トークンを我が手に得る。 Final_Game2  地上5/5になったことで《エルゴードの審問官》は攻撃できなくなったが、《霧のニブリス》とスピリットが攻撃を開始。  だが、まだまだ。行弘も《礼拝堂の霊》から《弱者の師》の誘発能力で引き増しつつ、戦場を固めにかかる。  戦線は延々と左右に伸び、ゲームは膠着戦の様相を呈するかに見えた。  ところが、《平地》《》2枚のみを残して終了宣言した行弘に対し、平賀が断りを入れて行弘のカードを動かす。こちらもシミュレーションに入った。平賀の手元、行弘のクリーチャーは、「2体ずつ」まとめられている。  そうして計算を終えると、平賀は鮮やかな収束に向かった。。  《戦慄の感覚》表・裏から《アヴァシン教の僧侶》起動、さらにアンタップを経てメイン起動。  次のターンはありえないという、意を決した全軍突撃。  行弘はただひとり残された《弱者の師》で最大限のブロックを試みるが、《無私の聖戦士》の起動で《スレイベンの歩哨》が反応し、行弘が受けるダメージは致死量を超えた。 平賀 1-1 行弘
Game 3
平賀 優宏
平賀 優宏
「先攻いただきます」  1117人のザ・ラスト・ゲームは、行弘の丁寧な言葉とともに、互いにマリガンなく開始する。  行弘の《修道院の若者》がゲームを急加速させていく。  平賀も《銀筋毛の狐》で譲らない。  行弘は予告通りの《不浄の悪鬼》で攻め、《礼拝堂の霊》が守りを固めつつ次の攻撃戦力となる。  平賀も《ガヴォニーの鉄大工》で《不浄の悪鬼》への解答を提示するが、行弘も《修道院のグリフィン》で航空戦力を増員する。  だが、平賀も《声無き霊魂》《修道院のグリフィン》で譲らない。 「こちらスルーを選択します」  ひとつの戦闘で発せられた言葉にも、平賀の真摯な気持ちが感じ取れる。  平賀は《霧のニブリス》で戦線をこじ開けると、《修道院のグリフィン》と《声無き霊魂》で攻撃。  ここに3枚の土地を倒して少し悩み、行弘は《叱責》の対象を《修道院のグリフィン》にする。  クリーチャーは増えるがレッドゾーンの人口密度は低い。  気づけば、《不浄の悪鬼》は足を止めて、そればかりか行弘の足を引っ張り始めている。  急加速したゲームは、確かに長期戦へと減速を見せていた。  平賀はドローをするが、それは6枚目の土地ではない。  しかし黙っていれば射程圏に落ちてくれる。  しかし、欲が出れば悟られかねない。  行き来する思考は推察できる。しかし平賀は表情を変えない。変えないのか、変わらないのか、変わらなかったのか。  行弘の《礼拝堂の霊》の攻撃に、ライフ7の平賀は通して《ガヴォニーの鉄大工》の「窮地」条件を満たす選択もあったが、《邪悪の排除》による突然死を考慮に入れたのか、《深夜の出没》をキャストすると、このうち1体と《霧のニブリス》で《礼拝堂の霊》を撃退し、ライフの水準を保つ。  行弘は《村の食人者》を追加。  平賀は《エルゴードの審問官》を送り込む。  戦線が横に、横に、横に伸びる。  横に並べば。  そのときはあのカードが待っている。  平賀の希望であり、行弘の悪夢であるあの呪文が。  行弘は《銀爪のグリフィン》を送り込むのみ、1/4の《ガヴォニーの鉄大工》を前にして、行くも退くもままならない《不浄の悪鬼》が時を刻む。  行弘にも《突然の消失》の影は見えているのだろう。  ドローをするたび、わずかな緊迫の色が見える。  近づいたはずの勝利。それを前にして、にわかにかき曇った視界。  だが守りを固める平賀の前に膠着、動けない。  平賀を追い詰めるカードは、行弘にもたらされない。、  平賀は待望の6マナ源となる《壁の守部》をキャストする。  しかしその手つきには、特別な力は入らない。  行弘は引けず、ただ《不浄の悪鬼》が時を刻む。  どんどん横に伸びる戦線にあって、このまま黙っていても勝利は転がり込んでくるだろう。  踏み込めば思わぬトリックが、ということを考えてしまうこともあるだろう。  手を下さないでよいなら、どうしても自らの決断を避けてしまいがちだ。  しかし平賀は、慎重が落とし穴を生むかもしれない、ということを知っていた。  いつ何時、行弘が《邪悪の排除》を狙っているかもわからないのだ。  改めて、自軍のクリーチャーが叩き出すであろうダメージを試算する。  そして、それまでにも増して丁寧に、6マナのソーサリーをキャストし、決断に身をさらした。  果たして、「deathsnow」行弘は、苦笑いを浮かべながら両手でカードをまとめたのだった。 平賀 2-1 行弘 Shakehands 「白が強いと思っていて、無理矢理にでも白を取りに行くと決めていました」  ゲーム後に勝因を聞くと、いまだ緊張を帯びた声で、しかししっかりと平賀は答えてくれた。  《平地》が並ぶ決勝のゲームの光景は、その言を証明しているかのようであった。  その中でも大切なカード、中心にした戦略は? 「人間、ですね。それも、死んでもトークンが出るもの、ですね」  《宿命の旅人》や《エルゴードの審問官》といったクリーチャーを並べ、戦線を横に伸ばして膠着させ、《邪悪の排除》で決めるのが基本戦略だという。 「今回はたまたまレアでしたけど」  《突然の消失》を指して、平賀ははにかんだ。  フィニッシュは確かに大技であったが、確固たる戦略の延長線上にあったに過ぎないのだろう。  栄光のカップも、まず1回のドラフト、1枚のピックから。  おめでとう! グランプリ・神戸2012チャンピオン、平賀 優宏! チャンピオン・平賀 優宏
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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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