by Jun'ya Takahashi
Drafting with 森 勝洋
2日目に進出したプレイヤー達がドラフトテーブルに着席し、目の前に置かれたパックの中身に思いを馳せて不安と希望の入り混じった表情を浮かべている中で一人、まるで興味が無さそうに腕を組んで開始のアナウンスを待つ男がいた。四方八方から闘牛の群れが突っ込んできそうな真っ赤な服で上下を包んだその人こそ、2005年度の世界チャンピオンである森 勝洋(東京)だ。
"赤"は自身が経営する店舗を象徴する色らしく、その宣伝活動として「真っ赤な男」になったとのこと。
初日の『シールド』ラウンドを9戦全勝で絶好調ロードをまっしぐらな彼に、1stドラフトにおけるピック譜を追いながらテクニックと考え方を聞いてみた。
パック1 闇の隆盛
1st Pick:《》
候補:《》、《》、《》
森 「最初から青黒を決め打ちをしようと思ってたんだよね。自分のスタイルにあってるし、勝てるし。」
その他の候補がパッとしないこともあって、タッチでも使用できる優秀な除去から地盤を固め始めた森は、自身の初手について呟いた。他の色と比較してカードのクオリティがやや低いと評価される黒のカードの中では最高級の1枚ならば最高のスタートに違いない。
2nd Pick:《》
候補:《》、《》、《》
森 「緑には興味はなかったね。《》は優秀だけど、《》の方がいいかな。初手と重なったことで色もハッキリとするし、デッキの方向性も見えてくる。」
筆者の《》は候補に入らなかったのかという質問に明確な解答を返してくれた。《》も強力に見えるが、同様の理由で《》には劣るのだろう。
3rd Pick:《》
候補:《》、《》
森 「マナ拘束も軽いし出たら勝つしね。取らない理由はないよね。」
森が目指す青黒では強力な一枚となりうる《》があったものの、この手順での型破りなクリーチャーは当然見過ごすことはできない。
4th Pick:《》
5th Pick:《》
森「この段階で上の席か、もうひとつ上の席に居るプレイヤーが青をやっていることは分かっていた。でも、それは俺が青黒をやらない理由にはならない。2パック目で被せ返せばいいし、青は強い色だから被ったところでそこまで致命的でもない。」
流れてこない青と溢れてくる白。ピックをその場で見ていた時には黒白というカラーコンビネーションになると思っていただけに、この段階でもまだ青黒を目指していたことを知って驚いた。なんたって青のカードはまだ1枚も無いのだから。それでも森は自身が信じる戦略を淡々と目指す算段を立てていた。
森 「青白は人気が高いし余り好みじゃないから使いたくなくて、この段階で白のカードに手を伸ばしたのはあくまでも最悪のケースを考えてだった。その点、青黒は青の取り合いを除いては誰かと2色を争うことは少ないし、多くのデッキがアグレッシブな構成を目指す中で多くの選択肢を持てるから柔軟性が非常に高い。これは青黒をプレイするかなり大きな理由だね。」
7th Pick: 《》
森 「ここら辺は良かったよね。青は被ってもいいとは言ったけれど、黒は弱い色だからできるだけ独占できる状態が望ましいし、上のプレイヤーが協力的だとも考えられることはこれ以降のピックに安心感が生まれるよね。」
まさかの3枚目の《》に加えて、コントロール指向の《》はタッチで使用する予定の《》の登場を確約してくれる。持ってくるカードが優秀なデッキでのTutorカードが強力であることは説明するまでも無いだろう。
8th Pick: 《》
9th Pick: 《》
10th Pick: 《》
11th Pick: 《》
森 「まあ、ここら辺は脇を固めるというか、想定される対戦相手に応じるだけのサイドボードを揃えた感じかな。
《》は収穫だったね。除去が多いから消耗戦になるだろうし、そうなったときのドロー呪文はマジゴッド。」
Pack2 イニストラード
1st Pick: 《》
候補:《》、《》
森 「青黒だと決めていたけど、《》は流石に悩むね。1パック目で出会った《》と同様の役割になるんだろうけど、《》の方が優秀だと思った。」
強力なレアが混じっていたものの、目線は一途に青へと一直線。いよいよ森の青への侵略が始まった。
2nd Pick: 《》
3rd Pick: 《》
森 「何も無かったよね。とりあえず3枚の《》が主軸になることは判っていたから、1パック目で取ることのなかったクリーチャーを集めてみた。」
4th Pick: 《》
候補:《》
森 「《》も悪くないけど、《》は軽いし、除去で相手を遅らせるデッキだから殴れるクリーチャーが欲しかった。」
どちらを優先して選択するかが難しい《》と《》だが、この場では《》を森は選択した。上で語っているように、そのクリーチャーのサイズが性質以上に重要だったようだ。墓地に落として効果的なカードが多くて初めて役割を果たす《》は、プレイしやすい1/4というサイズに求めるものが無ければ、制限があっても3/4飛行よりも強力にはなりえないということだろう。
7th Pick: 《》
森 「《》は良かったね。それの前の2枚がパッとしなかったから凄く嬉しかった。これで黒を選択したプレイヤーがテーブル内に少ないことがわかったし、何より使いやすい除去だし。」
まさかのボタ餅にホクホクの森。
10th Pick: 《》
2回目のボタ餅。
Pack3 イニストラード
1st Pick: 《》
候補:《》、《》
文句の無いトップアンコモンの登場にノータイムでテーブルに裏向きに伏せる森。イージーカム。
2nd Pick: 《》
候補:《》
パッとしない内容のパックに光る一枚。
森 「ここら辺は強いカードだから取るってだけだね。」
3rd Pick: 《》
候補:《》
1パック目に手に入れた白の天使を思い出してほしい。たとえメインの2色が青と黒だろうと、シングルシンボルのトップレアを使わない理由はない。つまり、色拘束の少ない白いカードであれば候補に挙がりうる。
森 「実はちょっと悩んだんだよね。でも、さすがに《》を2枚とか3枚入れたくないし、《》の方が効果は小さいけれど、無色のカードであることの使いやすさとの比較で優位があったと思う。いくら強いカードでも使いたい時に使えないカードでは駄目だからね。タッチするとは言っても限度は決めておくことが重要。」
デッキ内の《》の枚数の増加によるマナベースの不安定は、少なからず敗北の可能性を広げてしまう。それを恐れた森は、堅実かつ確実な選択肢で着実に前に駒を進める。
4th Pick: 《》
森「結局取れたから良かったね。さっきは流したけれど、必要じゃないわけじゃないし。」
7th Pick: 《》
候補:《》
またもや7手目の《》。それを見るなり明らかに元気になった森だったが、その後ろに隠れていた《》を目にしてため息をついた。
森 「せっかくの《》だったけど、デッキの中の《》を1枚まで減らせる《》の方が優先度は高いよね。え?いや、《》だって強いよ。でも、それ以上に価値のある一枚だよ。」
筆者であれば《》を泣く泣く取っていただけに、「残念だけど、比較して悩むほどではない」とばっさり切り捨てた森の選択には驚いた。十分にデッキが強力だからこその選択だったのだろうか?
森 「いや、そうじゃない。強いデッキっていうのは、強いカードが入っているデッキじゃない。強いデッキを自由に使えるデッキ。だから、現状デッキが強いからマナベースを強化したんじゃなくて、マナベースを強化することで強いデッキに変えたんだよ。」
先程の《》と《》でも話題に上がった『《》の枚数』と『マナベースの安定性』は、より意識して向き合うべき問題なのかもしれない。
ちなみにということで、《》と《》を比較した時点で《》をピックしていたらどうしたかという質問を投げかけたところ、
森 「それはもちろん《》だよ。マナベースの構成に関する問題はそれくらいナイーブなものだってことだね。」
9th Pick: 《》
候補:《》
開封したパックに含まれていたレアが、テーブルを一周して再び目の前に戻ってきた。このパックには《》も含まれていた。確かに除去は強力であるものの、相手のランダムな攻勢全てを対処できるほどに分厚い耐熱扉というわけでは決してない。そのため、筆者には《》が堅実な選択肢に見えた。
森 「どうだろうね。除去が多いことは消耗戦になるってことも示していて、消耗戦に強いカードである《》は明らかにこのデッキでは強力だよね。視点をどこに据えるかだと思う。俺は勝ちきれるゲームを目指す。あと、自分に起動して《》の餌を供給することもできるから、総合的に判断すると《》の方がムラのない選択肢だよ。」
勝利手段とシナジーカード。土地であることから呪文のスロットを圧迫しないこともメリットとして挙げられるだろう。あくまでもただのブロッカーでしかない《》に比べて、多くの場面において確実な仕事をする《》に軍配が上がるというのは納得の選択だ。
この後はデッキに入らないカードを適当に消化し、デッキ構築の時間に移った。おおよその形は想定していたようで最後の一枚までは順調に並べていったものの、残るワンピースを《》、《》、《》の中から選び出すことにかなりの時間を要していた。
最終的にドロー呪文である《》に希望を託すことにして、フィーチャーマッチに名前が呼ばれたことを確認すると、全勝街道を走り続けて定位置となっていた会場中央にある4つのテーブルの一つへと歩き始めた。
Round 10: vs. 行弘 賢(和歌山)
森の2日目の初戦の相手は、若手の注目株こと行弘 賢(和歌山)だった。ニコニコ動画でのストリーム配信で多くの人気を集める彼は、現実と電脳の両方においてホットなプレイヤーだと言えるだろう。さらに今回の『グランプリ・神戸2012』においては森と同様に初日全勝の快挙を達成しており、森にとっては帯を締め直す必要のある脅威である。
『晴れる屋』の橙色のスポンサード・シャツを着た行弘と、自店舗『勝てる屋』のトレードカラーである赤を身にまとった森。スポンサードプレイヤー同士の対戦に、試合前の握手を交わす写真撮影時にも緊迫とした空気が漂っている。
行弘 「最近おなかが出てきたから、ロゴが歪んだまま写真に写ってしまったかもしれん。ちゃんと写ってます? 大丈夫ですか?」
一気に空気が弛緩して、和やかなムードで激戦となるであろう二日目のゲームが始まった。
Game 1
森 勝洋
森と言えば、その強さと共にプレイスピードでも定評のあるプレイヤーである。ライト二ングと称される手つきの早さを如何なく発揮して、《》から《》、《》を目まぐるしいスピードで展開していく。
対する行弘は《》と《》を繰り出して、展開量では遅れていない。
森は行弘の戦線を一瞥すると、《》と《》をブロッカーに残して、《》のみで攻めたてる。
返す刀で行弘は淡々と《》をレッドゾーンへと送り出すと、予想通りにブロックしてきた森の2体のクリーチャーを《》で強引にねじ伏せようとする。しかし、森は《》を抱えていたため、《》を《》の能力で生け贄に捧げた後、陰鬱を達成した状態で逆に《》を叩き伏せた。
これで盤上が落ちついたため、森は更なるマウントを取るために《》、《》と続々と航空戦力を並べていく。
行弘も《》と《》で飛行クリーチャーを順に対処することでなんとか活路を開こうとするが、森の猛攻によって削られていたライフはもう戻らない。ゆっくりとだが確実に行弘に残された時間は無くなっていく。
行弘の努力が実って落ち着きつつある空だったが、生き残った《》がつついた後、森が差し出した《》が時計の針をぐるりと回した。
森 1-0 行弘
Game 2
行弘 賢
行弘の先手で始まったGame 2は、《》からの《》という軽快なスタートダッシュで走りだした。
対する森はマナソースが《》1枚しかない7枚をキープしていたが、最初のドローで《》を引きこむと《》《》《》というロケットスタート切り返す。
3/4というドレイクのサイズを越えることのできない行弘は、《》に期待をかけて送り出したが、森はそれを淡々と《》でコピーする。
運命が決まった《》は《》に身を投げ出すと、《》の陰鬱を引き出して《》を強化して突破口を開く。
だが、その時点で森の抱えている手札は《》《》《》《》《》という完璧な取り合わせだった。
場に6マナを揃えると森は《》を送り出した。返すターンの行弘には対抗する手段はなく、《》を《》に装備するだけにとどまった。
これで有利を悟った森は守勢に回っていた《》と《》を攻撃に回すと、《》で更なる除去を手札に加えた。
6マナに辿り着いた行弘は《》+《》のダメージで、《》と《》を何とか処理するものの、森の抱えた《》が陰鬱を満たしたことで自身の戦線もボロボロに崩壊してしまった。
更に森からダメ押しの《》が繰り出されると、手札の無い行弘に対抗する手段は残されていなかった。
森 2-0 行弘