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グランプリ・北九州2013

観戦記事

決勝:Raymond Tan(マレーシア) vs. 工藤 耕一(東京)

By Masami Kaneko

Raymond Tan(バントオーラ) vs. 工藤 耕一(グルールミッドレンジ)

 夏の熱気が冷めないグランプリ・北九州。

 1185人のグランプリのタイトルを手に入れるべく、決勝戦の席に付いた二人は、双方共にマジックの歴史を深く知る二人だった。

 関東の大会『五竜杯』の主催者でも知られる工藤は、「最強のジャッジ」とも呼ばれる。ジャッジでありながらもプレミアイベントに参加する関東の強豪だ。15年以上のマジック人生の中で、今までもグランプリ・大阪2005の9位をはじめ、数々のグランプリや日本選手権でトップ32に入賞しているが、タイトルは獲得できないでいた。そして今日、初めてのタイトルに手が届くところまで来た。もう、あと一歩だ。

......しかし、その一歩が遠い。本人もトップ8プロフィールで書いているが、このグルールミッドレンジというデッキはバントオーラに対して非常に相性が悪いのだ。


 一方のTanもまたマレーシアで12年間マジックを続けている古豪。今年6月に開催されていたグランプリ・バンコク2013では念願のグランプリトップ8に入賞したが、しかし準々決勝で負けてしまったためプロツアーの権利を獲得できなかった。そして今日、念願のプロツアーの権利を獲得、どころか「グランプリチャンピオン」というタイトルに手が届こうとしている。Tanの使うデッキはバントオーラ。工藤のグルールに対してデッキ相性はいいが、とはいえバントオーラというデッキは回らなかった時の脆さも際立つデッキだ。Tanにとってはデッキとの絆を試されるマッチとなりそうだ。


FN_tan_kudo.jpg

 両者、勝ちたいのは同じ。この北九州の地で、最後の熱戦が始まる。そのトロフィーを、タイトルを獲得し、長年の想いを実らせるために。

ゲーム1

 工藤が《エルフの神秘家》、《漁る軟泥》と並べたのに対して、Tanの最初の動きは《林間隠れの斥候》。ただの1/1のちっぽけなクリーチャーだが、バントオーラというデッキは、このちっぽけな1/1クリーチャーが、突然怪物になり襲い掛かってくるデッキだ。油断はできない。

 Tanはさらに「透明人間」こと《不可視の忍び寄り》をプレイしたうえで《怨恨》をまとわせ、防御できないクロックを用意していく。

 工藤も追加戦力を投入していくが、Tanは《ひるまぬ勇気》をプレイ。《ひるまぬ勇気》はこのマッチアップでまさにキーとなるカードで、「このカードさえ引けばバントオーラが勝つ」と言われるほどだ。

「5/3 呪禁・絆魂・ブロックされない」という怪物となった透明人間を前にして、工藤は根本的な対処ができない。対処ができない以上、先に殴り勝つしかない。このまま、あの怪物が成長しなければ。そう信じて工藤は追加のクリーチャーを展開していく。

 しかしTanの追加の《ひるまぬ勇気》が工藤の希望を打ち砕く。パワーが7まで成長したその怪物は、工藤の生命を大きく刈り取ると共に、Tanの傷を癒していく。

 大きな怪物となったその透明人間を前に、工藤はカードを片付けるしか無かった。

Tan 1-0 工藤

 お互いに渇望したタイトル。グランプリチャンピオンというタイトルに、Tanは足を一歩進めた。

 工藤も落ち着いてサイドボーディングを行い、デッキをシャッフルしていく。


 長く続けてきたマジック。そんな中、手が届きそうなタイトル。お互いにやっと訪れたチャンスだ。

 思い出が頭の中を駆け巡る。想いは熱く燃えていく。

ゲーム2

 勢いに乗りたいTan、しかし初手を何度見ても土地が見つからない。結局土地を見つけるまでマリガンを重ねた結果、なんと初手が4枚となってしまった。工藤が《東屋のエルフ》、Tanが《アヴァシンの巡礼者》とお互い理想のスタートに見えるが、実際のところTanの手札はこの時点でたったの3枚だ。

 工藤は《火打ち蹄の猪》、Tanも《林間隠れの斥候》と展開していくが、ここで工藤は《ドムリ・ラーデ》の「格闘」能力によって、Tanの《アヴァシンの巡礼者》を撃ち落とす。Tanはそのお返しとばかりに《林間隠れの斥候》に《ひるまぬ勇気》をまとわせて《ドムリ・ラーデ》を破壊。


FN_kudo.jpg

 マナが《》《根縛りの岩山》《東屋のエルフ》のみで止まってしまっている工藤は、ここでいったん守りに入った。カード枚数の差は圧倒的だ。だったら、手札を使いきれば勝てる。幸い、《林間隠れの斥候》は強化されても地上のクリーチャー、ブロックも可能だ。《火打ち蹄の猪》の追加を用意し、盤面を固めに行った。もしも追加のオーラ、例えば《幽体の飛行》があった場合などは考えない、割り切ったプレイだ。

 しかし、待てども待てども土地を引けない。何もせずにターンを渡す。その間にTanは《不可視の忍び寄り》と《林間隠れの斥候》を追加している。Tanのトリプルマリガンで工藤の元に引き寄せたはずの天秤が、少しずつ天秤はTanに傾いてきている。

 ようやく追加の土地を引いたが、これは《》。手札には《地獄乗り》などの赤いカードたちが溜まっていく。


FN_tan.jpg

 そしてTanはついに辿り着いた。《幽体の飛行》により《林間隠れの斥候》は飛行を手に入れ、5点のライフが工藤からTanに移動した。この「5/5 呪禁・飛行・絆魂」という怪物にまた再び工藤は対処しなくてはならない。


 対処したい、したいが工藤は赤マナを引けない。対処以前にそもそもできることが限られている。兎にも角にも守る意味が無くなってしまったため《火打ち蹄の猪》が攻撃に回るが、《》の無い猪はただの《灰色熊》だ。ライフレースを挑むために《ゴーア族の暴行者》を場に出してみるが、根本的な解決にはなっていない。また5点のライフがTanに移動する。

 しかし転機が訪れた。次のドローで《》ではあるが5マナ目を手に入れた工藤は《ウルフィーの銀心》をプレイできた。《ゴーア族の暴行者》と結魂し、Tanに強烈な一撃を与える。

 工藤のライフは7。そして、Tanの場に唯一残った《林間隠れの斥候》は《ひるまぬ勇気》と《幽体の飛行》が付いてパワーは5。このままでは足りない。そう、何か引かなくては、次の工藤の攻撃でTanのライフは削りきられてしまう。一気に天秤が傾く。

 Tanは祈るように山札に手をかけて、ゆっくりとカードをめくった。

 Tanの《林間隠れの斥候》はその鎧をまとい、工藤の最後のライフを削りとった。

Tan 2-0 工藤

FN_last.jpg

 マジックというゲームが始まって20年。このグランプリの決勝に座ったのは、その20年の歴史の半分以上を実際に見ている二人だった。カードがかわり、ルールがかわり、人がかわり。様々な変革が訪れ、色々な環境が変わった。数多のマジックの歴史が紡がれた。この二人も、変わっていくマジックを見てきただろう。思い返せば彼らも数多くの思い出が浮かぶだろう。

 しかし、それでも変わらないものも有った。彼らは、変わらずマジックを続けた。その変わらない想いは、決勝戦でぶつかった。

 そして12年間のTanの想いに対して、デッキは勝利という満点の回答を出した。12年間のキャリアでも最高級の瞬間を演出した。これから一生残る思い出を創りだした。

 人は歴史を紡ぐ。歴史は人が紡ぐ。そして今日、彼らの、マジックの歴史がまたひとつ紡がれた。

 チャンピオンというそのタイトルは、今その手の中に。


おめでとう、Raymond Tan、グランプリ北九州チャンピオン!
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