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チャンピオンズカップファイナル サイクル1
デッキテク:中村 修平の「緑単信心」 ~トッププロの思考を追え~
※本インタビューはチャンピオンズカップファイナル初日終了時に取材しました。
中村 修平。もしも「マジックのプロプレイヤーといえば?」というアンケートがあったとすれば、多くの人からまず名前が挙がるであろうというプレイヤーの1人だ。その20年超のマジックキャリアの中で積み重ねてきた戦績の数々は、少なくともグランプリでの優勝が7回に準優勝が5回。プロツアーのトップ8入賞回数は6回(世界選手権を含む)……もっと細かなものも含めると、ただ箇条書きにするだけでも凄まじいボリュームになろうというものだ。
そんな中村は、このチャンピオンズカップファイナルでもそのキャリアに新たな記録を加えんと、ここまで初日全勝という輝かしい成績を収めていた。その使用デッキはパイオニア環境のトップメタの一角と目される「緑単信心」だ。
果たして中村は、なぜ「緑単信心」を手に取ったのか? このインタビューでは、そのデッキ選択の思考の軌跡を追った。
中村 修平 |
15 《森》 2 《ハイドラの巣》 1 《耐え抜くもの、母聖樹》 4 《ニクスの祭殿、ニクソス》 -土地(22)- 4 《エルフの神秘家》 4 《ラノワールのエルフ》 4 《老樹林のトロール》 4 《茨の騎兵》 -クリーチャー(16)- |
4 《ニッサの誓い》 4 《狼柳の安息所》 4 《収穫祭の襲撃》 4 《ビヒモスを招く者、キオーラ》 4 《大いなる創造者、カーン》 1 《日没を遅らせる者、テフェリー》 1 《龍神、ニコル・ボーラス》 -呪文(22)- |
1 《ダークスティールの城塞》 1 《機能不全ダニ》 1 《街並みの地ならし屋》 1 《トーモッドの墓所》 1 《真髄の針》 1 《減衰球》 1 《石の脳》 1 《死に至る大釜》 1 《異形化するワンド》 1 《鎖のヴェール》 1 《王神の立像》 1 《未認可霊柩車》 1 《キランの真意号》 2 《領事の旗艦、スカイソブリン》 -サイドボード(15)- |
デッキ選択の理由
――全勝おめでとうございます。中村さんは先週、晴れる屋トーナメントセンターで開催されていた第9期パイオニア神挑戦者決定戦でも緑単信心を使用して見事に優勝されていました。やはり中村さん的には、このデッキが環境の最適解であるという見立てなのでしょうか?
中村「いや、いくつかあるデッキの候補の中で「緑単信心」だけが残っただけ。だから、デッキを選んだ理由を答えるとしたら消去法だね」
――消去法ですか。てっきり今日まで「緑単信心」をみっちり使い込んで仕上げてきたのかと思っていました
中村「いや、本当に使い慣れてなかったから、実は今日の試合もケアレスミスが多くて(笑)。たしかに先週末は『緑単信心』を使っていたけど、実はそれから今までずっと別のデッキを回していたんだよ。今回の大会もとりあえず仮で『緑単信心』のデッキリストを提出していて、提出期限がきたからそのまま『緑単信心』を使うことになったけど、本当にギリギリまで別のデッキと迷っていたんだ」
――具体的にはどういったデッキと迷っていたのでしょうか?
中村「最終候補に残っていたのは『アゾリウス・コントロール』だね。ただ、環境のトップメタと言われる『ラクドス・ミッドレンジ』にしても『アゾリウス・コントロール』にしても、1枚1枚のカードパワーで戦うデッキなんだよね。そういうデッキは往々にして『緑単信心』みたいな理を外れたデッキ、いわゆるコンボデッキに対して弱い。サイドボードで対策すれば『緑単信心』とも戦えるようになるけど、そうすると今度は他のデッキに弱くなる」
――対応する側に回る時点でイニシアチブを失ってしまうわけですね。
中村「そう。逆に『緑単信心』側は常にやることが同じで、プレイングがマッチアップに左右されにくい。そこが緑単信心の強みということになるかな」
台風の目
――ここまでの話を伺うと、やはり「緑単信心」は完全無欠のデッキであるかのように思われます。
中村「もちろんそんなことはないよ。実際、チームで調整していたときも緑単は環境デッキとのマッチアップで勝率が決して飛び抜けて高いわけではなかったからね。だけど、調整をする中で『緑単信心』に明確に有利がつくデッキを組むのもかなり難しそうだということも分かった。といっても、そういうデッキが存在しないわけではないよ。たとえば対『青単スピリット』とのマッチアップでは、『緑単信心』側はほとんど勝てない。しかし、そんな『青単スピリット』は『緑単信心』以外のデッキには勝てないんだ」
――「緑単信心」に勝つためにはデッキ単位で対策をするしかない、けどそうするとデッキパワー自体は下がってしまうということですね。
中村「そのとおり。たとえば『イゼット・フェニックス』に《安らかなる眠り》が、『ラクドス・ミッドレンジ』には《領事の旗艦、スカイソブリン》が刺さるように、パイオニアのデッキにはそれぞれサイドボードから入れられる強力なメタカードが存在する。だけど、『緑単信心』に劇的に効くサイドカードは存在しないんだよ。『緑単信心』が最強のデッキかどうかという議論は別としても、間違いなく現環境を歪めているデッキの1つではあると思うね」
――パイオニアのメタゲームの中で、他のデッキにはなくて「緑単信心」だけが持っているアドバンテージが存在するわけですね。
調整の過程
――ここまでデッキ選択の理由と「緑単信心」の強みについてお伺いしてきました。続いて調整についてもお聞きしたいのですが……
中村「今回、デッキの調整はほとんど同じ調整チームの井上 徹くんにお願いしていたから、正直語れることはあんまりないんだよね。さっきも言った通り、僕自身はギリギリまで『緑単信心』を疑ってて、今日までほとんど回してこなかったから。だから、調整については井上くんを信じることしかしてない(笑)」
――そうなんですね。チームで調整されたとのことですが、具体的にどういったことをされていたのでしょうか?
中村「基本的には情報交換が主だね。あとは調整メンバー全員でメタゲームの予想をしてスプレッドシートで共有して、上位デッキ同士のマッチアップの有利不利に関する所感をまとめたり。このメタゲーム予想はかなり合ってたよ。『イゼット・フェニックス』だけ予想よりちょっとだけ少なかったかな?」
――ありがとうございます。ちなみにデッキには《龍神、ニコル・ボーラス》が採用されていますね。最近の「緑単信心」では採用されているようですが、これはなぜなのでしょうか?
中村「『緑単信心』は《大いなる創造者、カーン》のマイナス能力を使ってコンボに入るけど、《真髄の針》などで《大いなる創造者、カーン》の起動型能力を封じられてしまうことがある。そんなときに《龍神、ニコル・ボーラス》がいれば、常在型能力で《大いなる創造者、カーン》のマイナス能力を使用することができるから、コンボに入ることができる。最近勝ってる『緑単信心』のリストにはほとんど入ってるカードだね。全部井上くんの受け売りだけど。」
さて、インタビューの冒頭でも書いたが、中村は晴れる屋トーナメントセンターで開催されていた第9期パイオニア神挑戦者決定戦でも「緑単信心」を使って優勝を収めている。そのことを踏まえると、今大会でも「緑単信心」を持ち込んだのは至極当たり前のことであるかのように思えた。
しかし実際には、提出期限のギリギリまで「緑単信心」を疑い、別のデッキを試していたという。自分自身の手でデッキを回して結果を残してなお、さらによりよい選択肢がないか貪欲に可能性を追求する。その姿勢に、中村が20年以上もの間トッププレイヤーとして第一線を走り続ける理由を見た。
自分の選択を信じることと同じくらい、その選択を疑い続けることが大切である。デッキ選択の際は、そんな中村の思考を思い返したい。
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