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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

押して引いて

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押して引いて

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年4月25日


止まらぬ力と動くべからざるものと

 私は、マジックが変化のゲームであるということについて、よく語ってきている。常に進化し続け、自身を改革し続けている。しかしそれと同時に、不変のゲームでもある。諸君が今日プレイするマジックのゲームは、諸君が来年プレイするマジックのゲームと全く違うものになることはない。馴染みも見覚えもあるものである必要があるのだ。どうすればそれが両立できるのか。この2つは逆を向いているのではないか。確かに逆を向いていて、それがマジックのデザインにおける最も基本的な葛藤を生み出しているのだ。

変化のゲーム

 平均的なマジック・プレイヤーは。マジックをおよそ10年続けている。10年である! これは平均的なゲームの寿命よりも長い。なぜそんなことが起こるのか。その答えの軸になるのが、「さくさくハッシュポテト理論/Crispy Hash Brown Theory」と呼んでいるものである(これについて私が語ったのを何度も読んだことがある諸君は、次の段落を読む必要はない)。

 ハッシュポテトを食べるとき、一番美味しいのは外側のさくさくした部分だ。もちろんさくさくした部分を食べたあとで内側も食べるが、それは同じぐらい美味しいとは言えない。ゲームの場合、このさくさくした部分にあたるのがゲームの準備段階で、ゲームを成り立たせているものを見つけようとしている部分だと考えられる。ゲームの要素を綿密に組み立て、勝利のために最適な戦略を見つけるのは(いつもその戦略通りに進められるわけではなくても)とても楽しいものだ。その部分が終わってしまうと、ゲームを進めることはただの手順になり、記憶だけで探求が減っていく。例えばチェスの場合、まず序盤の研究をするものだ。スクラブルでは、まず2~3文字の単語を学ぶものだ。マジックは、常にその外側のさくさくした部分を新しくし続けることでこの問題に取り組んでいる。マジックの答えを見つけたと思っても、新しいカードが登場し、古いカードが使用不可能になることによって全てが変わっていくというわけである。

 マジックの独自性は、常に進化し続けるところにある。実際、我々がプレビューを公開すると、最初にプレイヤーが知りたがるのは新要素が何か、新世界がどこか、新テーマが何か、新メカニズムが何か、新カードは何か。つまり、新しいさくさくした部分はどうなるのか、である。

 デザイナーとして、プレイヤーに挑戦し続けることが我々の職務である。よく私は、プレイヤーはスタートレックに出てくるボーグのようなものだと冗談を言う。ボーグは共通した意識を持つ機械的な異星人で、一度使われた武器に対しては対抗策を見つけ出す能力がある。新しい仕掛けは一度は有効だが、プレイヤーはそれを吸収し、マジックの一部として受け入れていく。つまり、各エキスパンションごとに、我々はプレイヤーがまだ経験したことのない新しいものを探すということになる。

 この進化し続けることは、ただプレイヤーを楽しませるだけではない。これはマジックの独自性の鍵なのだ。常に新しいカードやアイデアを作り続けることは、もっともマジックを定義している特質である。例え話を続けるなら、マジックは泳ぎ続けなければ死んでしまうサメのようなものだ。マジックは変化したいのではなく、マジックには変化が必要なのだ。


逸脱した研究者》 アート:Nils Hamm

不変のゲーム

 マジックのプレイヤーの多くには、マジックをプレイしていない時期が存在する。プレイヤーを数年の間観察している中で、1つ共通していることが、プレイヤーの人生には変化があるということである。転職、引っ越し、社会的立場の変化、スケジュールの変化。人生を優先しなければならないことがあり、プレイヤーがある一時期プレイを止めるのはよくあることだ。触れ続ける者もいれば、ウェブサイトを見たりオンラインのコミュニティに参加したりする者もいる。まだプレイを続けている友人から話を聞く者もいる。「マジック:ザ・ギャザリング」と時々ググるだけという者もいる。状況は再び変わるもので、そうなったときにはマジックに帰ってくることが多いのだ。そして帰ってきた時、マジックが同じゲームであり続けていることが重要なのである。

 コミュニケーション理論に関する私の記事の中で、私は驚きの重要性について語っている。しかし、それよりも前に、安心感を作り出す必要があるという話もしている。そう、マジックは変わることができるが、その前提にはよく知っていることという下敷きが必要なのだ。プレイヤーには、基礎を知っているという安心感とともに新セットに飛び込んでもらえるようにしたいものだ。新しいものではあるが、それは多くの過去の、既知のものとともに示されるのである。

 よく知っているということは売り文句にもなる。以前の世界への再訪は人気が出ると示されている。過去のメカニズムを再録することは成功してきている。プレイヤーは、かつて知っていたものを手にすることを楽しんでいるのだ。マジックのプレイヤーはマジックのゲームに惚れ込んでおり、その安心感がマジックの継続的成功の鍵なのである。

縁に生きて

 それでは、この2つの力のうちどちらかが勝ったらどうなるのだろうか。

 マジックが変化だけで不変の部分がないものだったとしたら、セットごとに大きく違うものになる。そして時とともに、マジックは最初の姿から全く違うものに変遷してしまうだろう。マジックを再開しようとしたプレイヤーは理解できず、本質的には全く新しいゲームを学ばなければならなくなる。プレイヤーが常に新しいルールを大量に学び続けなければならなくなるので、複雑さはうなぎのぼりになるに違いない。マジックについて行けるのは最も熱心なファンだけで、他の人にはすぐに理解できなくなってしまう。

 マジックが不変だけで変化の部分がないものだったら、新セットすら存在しないだろう。マジックは常に同じものになる。戦略は解明され、デッキの革新もなくなる。平均的なプレイヤーがプレイすることも減るだろうし、ビジネス的観点から見ると、マジックには大きな金銭的問題が発生することになる。

 どちらの力もマジックにとって重要なものをもたらしており、我々はそのバランスを保つ方法を見つけなければならないのだ。

散文と対立

 ゲーム・デザインにおける緊張関係の、他の形を掘り下げてみよう。

主席デザイナー vs ルール・マネージャー

 私が分割カードというアイデアを初めて出した時、ルール・マネージャーはモードを持つカードとして作ることができると言った。カード2枚を描くような狂気じみたデザインにする必要はないと。私が両面カードを作ることを提案したときも、ルール・マネージャーは反転カード(『神河物語』ブロックに存在した、上下を反転させるカード)で作ることができると言ったのだ。私が何か新しいアイデアを出すと、ルール・マネージャーは既存の技術でそれを実現する方法を考えるのだ。


隠れるホムンクルス》 アート:Wayne Reynolds

 しかし、そこには問題がある。主席デザイナーとして、私は何かを行う新規な方法を探していることが多いのだ。反転カードをもっと作ることには興味はなかった。両面カードを作りたかったのだ。両面カードは、そのセットの大きな話題になる可能性があるとわかっていた。それまでと違うものにしたかったのだ。ルール・マネージャーにはまた違う目的がある。彼らはルールを作用させたいのだ。なにか新しいことを既存のルールで達成できる方法があるなら、その方がいい。新しい要素をルールに加えるということは、問題を起こしてしまう危険性に繋がる。ルール・マネージャーが新ルールを作ることに反対するというわけではないが、彼らは新ルールを作るのは他に手段がないときに限りたいと思っているのだ。

新カード vs 再録カード

 新カードはデザイナーにそのセットを成立させるために必要なことを何でもできる自由を与えてくれる。新カードはセットを作るときに制約をあまり生み出さない。新カードはデザイナーとしての自己表現の場である。新カードはエキサイティングだ。新カードはセットの売りになる。新カードは革新を生み出す。

 再録カードを作るのは簡単だ。再録カードならプレイヤーは手持ちのカードを使うことができる。再録カードは過去の履歴を参照できるのでデベロップが簡単だ。再録カードは馴染みがあるカードだ。再録カードは郷愁を生み出す可能性がある。再録カードは何が期待できるかをユーザーが理解できるので、セットの見込みを立てやすくなる。再録カードはプレイヤーが既にその働きを理解しているので複雑さが低くなる。

 この対立は、新メカニズムと再録メカニズムや、新世界と再訪などでも同じことが言える。初めてのデザイン空間を掘り下げるのも、かつて人気のあったところへ立ち戻るのも、どちらもかなりの重圧なのだ。

未知 vs 既知

 ハリウッドには、「三拍子」として知られているものがある。新しいアイデアを、人気のある古典的なもの2つを組み合わせて売り込むのだ(「これは『LEGO ムービー』と『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の合わさったものです」)。この手法がハリウッドでよく使われるのは、こうすると新しいアイデアを古典的なアイデアの文脈で売り込むことができるからである。それまでなかった形で組み合わせているので新鮮で新しいが、既存の成功した商品を使うので古典的で信頼できるのだ。

 何かを未知にして既知のものにするということは、マジックのセットを作る上でも発生する。例えば、なにか新しいブロックのためのアイデアがあったとしたら、私はそれがいいアイデアだと上層部を説得して回らなければならない。私のアイデアがあまりにも未知であれば、まだやったことのないがプレイヤーは気にいるだろうと彼らを説得しなければならなくなり、難しい。一方、あまりにも既知で新しいひねりがなければ、単に古典的なアイデアを再発明するだけで十分革新的とは言えないものになるおそれがある。

対立を超えて

 それでは、この問題にどう答えたらいいのか。いかにすれば、変化のゲームでありながら不変のゲームであるということができるのか。『イニストラードを覆う影』を例に説明していこう。

1.正しいバランスを定める

 私がよく言う言い回しに、「緊張しているからテントは立つ」というものがある。テントを立てる場合、何本もの柱を立て、お互いに反対向きの力がかかるようにする。それぞれの柱は別方向に倒れようとするのだ。お互いに違う方向に押すものを格子にすることでこそ、確固たるものを作ることができるのだ。

 この問題への1つ目の解決策は、緊張を生産的なものだと見ることである。それぞれの力は、お互いを監視し続ける助けとなってくれるのだ。例えば、『イニストラードを覆う影』では、このセットが愛された次元への再訪らしく感じられるとともに、このセットの独自性を持つものにする必要があった。解決策は、ゴシックホラーを起点としてなにか新しいアプローチを探すというものだった。そして謎と狂気をテーマにするというアイデアにたどり着き、我々は、単に前回イニストラードを舞台とした時にやったことを繰り返すのではなく、ゴシックホラーをうまく描くことができると気がついたのだ。


手掛かり・トークン アート:Zezhou Chen

 これを達成するためのもう1つの方法が、力について理解し、それぞれに適切な量のリソースを配分することである。プレビュー期間中に話したとおり、旧『イニストラード』ブロックでメカニズム的に扱ったものすべてを書き出し、そして再訪にあたってそれぞれがどれだけ重要かをランク付けし、それからその優先度順に並べ替えた。それから、どこまで再録するかを変更したらどうなるかという検討を行った。先ほどのテントの例えを使うなら、柱をお互いに確かめ、安定するような正しいバランスを探したのだ。

 正しいバランスは正しく感じられるものである。長年やってきているので、正しい直感が身についているのだ。とはいえ、境界線をどこに引いたとしても、我々はプレイテストを行う。実際にそのセットでプレイしてみなければ、その直感が正しいかどうかはわからないからである。

2.それぞれの力の長所を理解する

 1つ目では、量について話した。つまり、2つの力がお互いを監視できるようにするには、適切な割合が必要となる。この2つ目の項目では、量ではなく質について話そう。2つの力はお互いに対立するが、同じであるかどうかはわからない。それぞれは異なった役割を持ち、異なった長所を持つのだ。

 『イニストラードを覆う影』は再訪ブロックである。つまり、その世界が過去のイメージと合致するようにすることが目標の1つとなる。馴染みがあり安心できるようにする、つまりそれは不変という力の長所を活かすということである。それはセットをどう組み上げるかに影響する。最も単純に考えると、セットには2つの主な要素がある。キーワードと環境である。新しい世界では、環境は変化らしさを生み出すものになるので、キーワードで不変らしさを作っていくことになる。『イニストラードを覆う影』ではその逆に、環境で不変らしさを、キーワードで変化らしさを生み出すことになった。

 これが、多くのキーワードを再録しなかった理由である。我々はキーワードで変化らしさを出す必要があったのだ。その代わりに、環境を作る助けとなるメカニズム的要素、すなわち両面カードや部族シナジー、墓地の相互作用など、キーワード以外でその世界のメカニズム的イメージを補強するものを採用したのだ。それぞれの力の役割を理解することは、デザインの焦点をどこにするか、革新すべき部分はどこかを知る上で有益なのである。

3.それぞれの力を使う場所を変える

 この項目は前の項目から導かれる。それぞれの力にそれぞれの長所があるなら、セットを組み上げるときにそれぞれの長所を扱えるように組み合わせることは重要である。これが、世界の半分を新しく、残りを再訪にすることにした理由の1つである。それぞれは、それぞれ異なる力の長所を活かしているのだ。

 私は常々、デザインごとに異なった視点で始めるのがどれほど好きか語っている。同様に、デザインごとに異なるマジックの側面を活かすことも好きなのだ。変化の力が私を導いてくれる時もあれば、不変の力のほうが主になる場合もある。鍵は組み合わせにあり、私はいつもそれらの力を同じだけ使っているわけではないのだ。


内面の葛藤》 アート:Mathias Kollros
4.その2つを統合する要素を作る

 ほとんどのブロックには、そのブロックのメカニズムの1つを使った《巨大化》系のカードが存在する。これはよく使われており、プレイヤーはそのことをからかうが、諸君はなぜこれがデザインの定番になっているか考えたことはあるだろうか。これは、我々が変化の力と不変の力を組み合わせる方法の1つなのだ。

 周知の通り、マジックには、マジックのゲームの基本的な体験の鍵となる、どのブロックでも必要な効果がある。マジックを慣れ親しんだものに保つために重要なことは、それらの鍵となる要素が全てのセットに存在するようにすることなのだ。一部は再録でもいいが、どのセットでも同じものを使い過ぎると陳腐なものに感じられるようになってしまう。ここで新メカニズムが投入され、最新セットを違うものだと感じさせることができるのだ。

 新メカニズムと必要な効果を組み合わせることで、本質的に一石二鳥のメリットができる。《巨大化》系カードは《巨大化》の役割を果たし、マジックのゲームが通常通り動くようにしてくれる。その一方、新メカニズムがあることで、過去とは少し違う振る舞いを見せるように調整できるのだ。この新旧の組み合わせが、2つの力のバランスを探す上での鍵なのである。

これらの力があなたとともにありますように

 結局のところ、私はこの緊張をマジックを作る上で有効な道具だと思っている。それぞれの力が存在することで、私や他のデザイナーは適切なバランスを取ることを忘れないことができるのだ。このマジックの基本的な要素を見たことで、デザイン(やデベロップ)が常時気をつけなければならないマジックの一面に光を当てることができていれば幸いである。

 いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ストーム値を古いメカニズムに当てはめる日にお会いしよう。

 その日まで、マジックが同一にして異なるものであり続けますように。

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