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Making Magic -マジック開発秘話-
語られざる話
語られざる話
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年2月22日
先月、私は自分がかなりの量のソーシャル・メディアをどう使っているかという話をした。つまり、20年以上の間に、私は多くのことを語ってきたということになる。本当に多くだ。実際、複数回語っている話も多い。私が同じ話を何度も何度もする、というのはお約束のネタだ。ということで、今日の記事では今まで語ったことのない話を探して語ることにしよう。マジックの過去の話で、これまで記事やポッドキャスト、ブログなどで語ったことのないものだ。これは諸君が想像するよりずっと難しいことなので、我慢して付き合ってもらいたい。それでは、早速始めよう。
私の就職面接
私が開発部に雇われることになった経緯については何度も語ってきた。一言で言うと、私はデュエリスト誌にフリーランスとして関わり、パズルを作ったり記事を書いたりしたのが始まりで、それからウィザーズ・オブ・ザ・コースト社のほかの部署でもフリーランスとして働いていった。社内の7部門でフリーランスとして働き、レントンのオフィスにも何度も足を運んでいた。そんなある日、当時の開発部担当副社長のマイク・デイビス/Mike Davisに、シアトルに引っ越してウィザーズで働きたいと言ったのだ。彼の答えは、「いつ始められる?」というものだった。
これまで語ったことのない話というのは、私の就職面接に関するものだ。厳密に言えば、私は様々な相手から複数回の面接を受けたが、その相手はほとんどが私と親しい相手で、面接と言うよりも私が仕事について尋ねるだけだった。しかし、マジック開発部にふさわしい理由をその場で示さなければならない面接が1回あった。面接官はジョエル・ミック/Joel Mick。ジョエルは最初のプレイテスターの1人で(彼はブリッジ・クラブでリチャード/Richardと出会った)、開発部で働くようになっていた。当時、彼はマジックの主席デザイナー兼主席デベロッパーだった(当時は、両セクションを監修する1つの役職だった)。
面談のために部屋に入ったとき、私は多少緊張していた。ジョエルに会ったことがなかったわけではないが、他の開発部のメンバーほどは彼のことを知らなかったからである。私は彼に多少おびえていたのだ。「入って、座りたまえ」ジョエルはそう言った。
ジョエルは会議室のテーブルについていたので、私はそのテーブルの反対側に座った。彼は私が持ってきた鞄に視線を向け、そして尋ねてきた。
「言ったものは持ってきたかね」
私が頷くと、ジョエルは言った。
「それでは、始めようか」
そして、私は自分のマジックのデッキを取り出した。
つまり、ジョエルは私がマジック開発部で働く能力があるかどうかを知るための最高の方法はマジックで対戦することだと感じていたのだ。私は、この面接の前に他の人から、ジョエルに強い印象を与えたければ勝たなければならないと聞かされていた。ただし、ジョエルは非常に強いプレイヤーだとも。
私は数多くのデッキを持っていた。私はジョニーなデッキビルダーで、多くのデッキを組んでいたのだ。問題は、私がジョニーなデッキビルダーなので、私のデッキはほとんどがおかしな勝ち方を目指すものだったのだ。たとえば、《トンネル》(「壁1体を対象とし、それを破壊する」というルール文のカード)を唱えることで勝つデッキ。《Sorrow's Path》で勝つデッキ。すべてのカード・タイプをクリーチャー化してそれで攻撃するデッキ。ありとあらゆる非常に奇妙なデッキを使っていて、面接にふさわしいと思えるデッキはほとんどなかった。
私の最強のデッキは青緑ウィニーで、第1ターンに勝てる可能性があり、2~3ターンに勝つこともよくあるデッキだった。ただし、このデッキは不安定で、私のマジックに関する知識を示すものだとは思えなかった。
《Berserk》 アート:Dan Frasier |
結局、私は「エドガー/Edger」と呼んでいたデッキを使うことにした。当時、自分のデッキに人名をつけるのが私の中で流行っていた。エドガーはじわじわと削っていくデッキだった。紙で指を1000回切って殺すかのようにゆっくりと対戦相手のライフを削っていく間、ゲームの展開を遅くするようにデザインしてあった。エドガーには様々なカードが使われており、こちらの狙いを読み取るのが非常に難しくなるようになっていたのだ。興味がある諸君のために説明するなら、このデッキには当時まだ評価の低かった《土地税》が4枚入っていた。
ジョエルと対戦するのにエドガーを選んだ理由は、強さの面で2番目に強いと言えるデッキだったことと、興味深い組み合わせで大量のカードを使っているので自己紹介にふさわしいデッキだと感じていたことである。ゲームの序盤、強いとは思えないカードが出てきたのを見てジョエルはかなり自信ありげだった。しかし、ゲームが展開していくと、私が真剣勝負を挑んでいると理解し、私に面接の質問を投げかけてきた。なぜこのカードを入れたのか、そしてデザインやデベロップについての見解は?
答えるのに集中するとゲームに集中できなくなるということをジョエルはわかっていたが、私はエドガーを何度もプレイしていたので質問に集中しながらも局面をつなぐことができていた。質問が続くうちに、その内容はカードに関する考えかたについてのものからそのカードがデッキ内で果たす役割についてのものに変わっていった。ジョエルは私に勝つ方法を探っていたのだ。
最終的に、私はすべての質問に答え、そしてゲームにも何とか勝った。最後の1点を与えたとき、彼は私に礼を言い、面接の終了を告げた。後になって、私は他から面接の成功を聞いた。私はジョエルに自分を印象づけたのだ。ただ勝てたからというのではなく、彼が完全には理解できなかったデッキを使って勝ったからである。
これが、私の就職面接である。
私の一番のデベロップ会議
私が最初に開発部に雇われたのは、デザイナーとしてではなかった。デベロッパーとしてだったのだ。私、ビル・ローズ/Bill Rose、マイク・エリオット/Mike Elliott、ウィリアム・ジョクシュ/William Jockuschの4人で(1年ほど後にヘンリー・スターン/Henry Sternも参加した)、我々はすべてのマジックのセットのデベロップ・チームを務めていた。我々4人が最初にデベロップ・チームを務めたのは(『アライアンス』は開発部の全員、13人で巨大デベロップ・チームを務めていた)『ミラージュ』、その後の『ビジョンズ』だった。その両セットをデザインしたのは最初のプレイテスト・チームの1つ(ビル・ローズ、チャーリー・カティノ/Charlie Catino、ジョエル・ミック/Joel Mick、ドン・フェリス/Don Felice、ハワード・カーレンバーグ/Howard Kahlenberg、エリオット・シーガル/Elliot Segal)だった。
ビルは『ミラージュ』『ビジョンズ』のリード・デベロッパーだった(また、両セットの共同リード・デザイナーでもあった。通常、セットに新しい視点を導入するため、両役職を1人に兼ねさせることはない)。マイクと私はどちらも本質的にデザイナーだったが、開発部で働きたかったのでデベロッパーとして働くことになった。我々はどちらもパワーレベルの判定に特に長けていたわけではないが、我々はそれに挑み続けた。ウィリアムは現代のデベロッパーに最も近い考え方をしていた。ウィリアムは奇妙なデッキを作る傾向にあり、プレイテストの結果を歪めることもしばしばだった(この話はあとでしよう)。しかし、全体的に見て、カードを正しくコスト付けする能力は彼が一番高かった。
最終的に、私はウィリアムの逆になることになった。ウィリアムが非常に保守的にコストを定める一方、私は非常に積極的だった。当時、私は、カードが強ければゲームはエキサイティングになると信じていたので、デベロップ・チームでは常に「もうちょっと強くできないか」と言い続ける立場だったのだ。
《最後の賭け》 アート:D. Alexander Gregory |
私は自分が無謀だと理解し、その上で他の3人、特にウィリアムが止めてくれることもわかっていた。私は自分のことを、チームがパワーレベルを上げることを検討するようにするための力であると考えていた。なんにせよ、『ミラージュ』での我々4人の仕事が終わり、『ビジョンズ』に取りかかることになった。
ここで登場するのが、先の就職面接の担当者だったジョエル・ミックだ。彼は主席デザイナー兼デベロッパーでもあった。彼は『ミラージュ』や『ビジョンズ』に、開発部でのその役職だけでなく両セットの共同リード・デザイナーとしても関わっていた。プレイテストの結果、『ビジョンズ』が弱いということがわかって、彼はうろたえていた。
デベロップはほぼ終わっていたので、ジョエルは何か手を打たなければならないと考えていた。彼は『ビジョンズ』のデベロップ・チームを呼び出し、言った。
「よし。これからやるべきことを言う。君たち4人は、デベロップ会議を開く。マークが提案しろ。ウィリアムは口を出すな」
マジックの歴史に詳しくない諸君のために言うと、『ビジョンズ』は平均以上のパワーレベルで、当時のすべてのフォーマットに大きな影響を与えたのである。
史上 最高の 会議。
よくない澱み
マジックのカードをセットに入れなければならない理由は様々なものがある。デベロップの問題であることもある。環境が腐っていてその問題を引き起こしたカードへの対策を入れなければならない場合だ。また、クリエイティブの問題であることもある。物語上の要素が入っていなくて、それを入れられるかどうか探さなければならない場合だ。しかしそれら様々な理由の中で、私がもっとも嫌いなことが『テンペスト』で起こっていた。『テンペスト』は私が初めてデザイン・チームに入り、そして初めてリード・デザイナーを務めたセットである(最初のデザイン・チームでリード・デザイナーを務めさせるということは今はあり得ない)。また、当時、マジック開発部の全員がデベロップ・チームにも所属していたので、私は『テンペスト』のデベロップにも関わっていた。
その要求はデベロップ中に起こった。当時、マジックと協力したビデオゲームを作っていて、新セットとそのゲームの間に関連を作りたいと考えていた。実際、少し重なりがあるのはいいことだ。我々はビデオゲームを作っている人々に『テンペスト』のファイルを見せ、ゲームに入れたいものがあれば何でも選ぶように言った。しかしそれは彼らの望むものではなかった。彼らはゲームに入れたいものをすでに決めていて、逆に我々がそのゲームから採用してほしいというのだ。我々はそれに取り組むことにした。
そして、それらのものにはもう名前が決まっていたので、我々はその名前に合わせる必要があった。『テンペスト』はラース次元を舞台にしたセットである。非常に型にはまった世界で、なんでもありというわけにはいかないが、我々はチーム・プレイヤーだ。カード全部を覚えているわけではない、6~8枚程度だったと思うが、その中で覚えているものが1つだけある。
我々は、それらのカードがラースに存在してもおかしくないようにするために尽力したが、《澱みのトンボ》だけは無理だった。ラースに澱みなんてない。しかしそういう名前である以上、何とかしなければならない。カードをデザインすることはできるが、《澱みのトンボ》には手立てがなかった。トンボなのだから飛ばなければならない。しかし、緑には飛行クリーチャーはいないものだ。しかし、例外を作ることはできる。私は、沼渡りをつけることで、「澱み」という語に意味を持たせようと考えた。
結局のところ、我々は協力のために四角い杭を何とかして丸い穴に入れることにしたのだ。そしてその翌日、文字通りの翌日、ファイルが提出された翌日、ファイルへの変更が不可能になったその翌日に、そのビデオゲーム会社からゲームの開発は中止するという連絡を受けたのだ。なぜラースに《澱みのトンボ》がいるのか、と思った諸君への答えは、こうである。
気になる話
長年にわたり、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社がマジック・キャンプを運営していたことを知っているだろうか。これは子供向けのキャンプで、1週間まるまるマジックをプレイしたり舞台裏の体験をしたりするというものだった。子供たちはワシントン大学の宿舎に滞在し、マジックのプロなど子供たちと1対1で過ごすカウンセラーもいた。各年のプロが誰だったかは覚えていないが(キャンプは確か3~4年行われていたはずだ)、最初の年のプロはマジック史上指折りの有名人、マーク・ジャスティス/Mark Justiceだった。
これについて私が知っている理由は、私が毎年招待されていたゲスト・スピーカーだったからである。マジックの有名人が来て舞台裏の話を子供たちにする必要があったので、リチャード・ガーフィルールド/Richard Garfieldと私は毎年、別々の夜に訪れ、話をしていたのだ。
私の話はだいたい1時間ぐらいだった。子供たちと一緒にマジックのカードをデザインし、その後の行程を進めていく。そして子供たちのマジックの作り方やマジックにおける選択の理由に関する質問に答える質疑応答の時間を設けていた。私の話の後、サインをしたり、子供たちのデッキを見てアドバイスをしたりしていた。
私はマジック・キャンプを本当に楽しんでいたし、毎年毎回話をしていた。マジック・キャンプで私に初めて会ったというファンに会うたび、そのときのことを思い出すのだ。
語られざる話の語られざる話
ハリウッドでのライターという背景から、しばしばマジックに関する脚本を書く気はないかと聞かれることがある。ほとんどの人々は、かつて私がマジックに関する脚本を書いたことがあるということを知らないのだ。正確に言えば脚本ではなく、マジックの小シリーズの本書き(脚本を書く前に、物語全体を段落単位で、何が起こるか書いたもの)である。
いきさつを説明しよう。我々は常々マジックの物語を、映画やテレビと言ったより大きなメディアに広げたいと思っている。この話は今から15年前、『時のらせん』による再起動と新しいプレインズウォーカーたち(ジェイズ、チャンドラなど)の登場よりもずっと昔のことである。小シリーズというアイデアがどこから生まれたのかは覚えていないが、オフィスで話し合っていて魅力的だったのだろうし、小シリーズを長く続けることでマジックのあらゆる側面を描くことができるとわかったのだろう。
私は小シリーズのいいアイデアがあった。それを見せたところ、ある程度時間をとって清書し、本書きを作るように言われたのだ。正確に言えば、彼らが必要としたのはより詳細な企画で、私は最初の工程は本書き作りだと言ったのだ。ハリウッドから誰かを雇うこともできるが――。彼らは納得し、私に1ヶ月の時間をくれたのだった。
私の小シリーズの舞台は、毎日誰もがマジックで勝負している世界だった。主人公は白の村出身で、マジックにおける白の理念や白のプレイスタイルそのものである。小シリーズを通して、彼は色について学び、探索を広げていく。そして最後に、かつて彼の父親を殺した相手との大決戦に挑むのだ。小シリーズは3晩におよび、その中で5色それぞれが表すものを視聴者にしっかり理解してもらうことを意図していた。また、マジックのクリーチャーや呪文、デュエルそのものも多く登場していた。
私はその本書きの出来に非常に満足していた。不幸にして、開発部の小シリーズ企画は実現されることはなく、その本書きも日の目を見ることなくしまい込まれた。実際のところ、この記事のために語られざる話を探すまで、何年も思い出すことすらなかったのだ。
ニワトリぐるぐる
ここで4枚の青のカードをお見せしよう。これらをパワーレベルで格付けてもらいたい。
私のデベロップ的には、《対抗呪文》と《対立》が並んで最上位。どちらも強力な構築デッキで有用だ。次が《魔力の乱れ》で、これは《対立》や《対抗呪文》には及ばないが様々な構築デッキに入ることがある。《地の毒》はずっと離れて4番目で、構築デッキに入るレベルのカードではない。これは、なぜ《対立》《対抗呪文》《魔力の乱れ》が『第7版』に入り、《地の毒》が「パワーレベルの懸念によって」除かれたのか、という話である。
この話の中心人物はウィリアム・ジョクシュ。先の話の中で登場していた(『ビジョンズ』のカードのコスト調整の間黙っているように言われた)人物である。『ミラージュ』時代のデベロッパーの中で、ウィリアムはパワーレベルに関しては随一だった。しかし、彼にはある奇癖があった。その1つが、カードをテストする上で最適なのは4枚制限を取り去ることだという信念だった。その理由は、何らかの効果が倍増されたときに起こることは、そのカードをデッキビルダーが望む枚数入れることでわかる、というものだった。
『第7版』のデベロップ時に、ウィリアムはほとんど3種類のカードだけからなるデッキを作った。《島》《地の毒》《ぐるぐる》である。このデッキのやることは、ひたすら《地の毒》を相手の土地につけ、相手のターンの最初に《ぐるぐる》でタップする、というものだった。基本的に、土地をタップされるとマナの展開が遅くなり、ウィリアムに20点のダメージを与えるより前に《地の毒》のダメージで死んでしまうのだ。ウィリアムが3枚目の《地の毒》を私の土地につけ、それを《ぐるぐる》でタップし(6点のダメージ)、2枚目の《ぐるぐる》でアンタップして3枚目の《ぐるぐる》でさらにタップして私を倒したゲームのことを覚えている。
ウィリアムはこのデッキへの対策は《地の毒》をセットから取り除くことだけだと確信していた。わざわざウィリアムに反論するほど《地の毒》に思い入れがあったわけではなかったので、公式に「カードパワーの懸念によって」取り除かれ、青のプレイヤーは《対抗呪文》《対立》《魔力の乱れ》に甘んじることになったのだった。
真の紳士のように口をつぐむ
今日はここまで。語られざる話を楽しんでもらえたなら幸いである。今日の記事を楽しんで、将来同じような記事をまた書いてほしい(あるいは嫌いだったので二度とやらないでほしい)という諸君は、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『タルキール覇王譚』への別れを告げる日にお会いしよう。
その日まで、長年忘れていたあなたの話があなたから語られますように。
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