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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:シャドー・シュート(モダン)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:シャドー・シュート(モダン)

by 岩SHOW

 「初見殺し」というゲーム用語がある。初めて見る・対戦するキャラクターやカード、デッキや戦術に、対戦相手が対応しきれず、その全容を把握する頃にはゲームに敗北している......と。知られていないことは武器になる。ことマジックにおいては、1ターン目に置いてきた土地から大体デッキの予想はつく。《神秘の僧院》を置いてきたら、ジェスカイ系に違いない。そう思わせておいて、対戦相手のアクションにある程度制限をかけつつ、全く違った動きをして裏をかく。予測不能のカードが飛び出し、デッキの狙いもわからず、混乱の後に自滅......なんてシナリオも、デッキについて事前に知っておくだけで防げる。

 ではモダンにて、1ターン目。対戦相手が《神無き祭殿》をセットしてきたら......どんなデッキか、モダンを日頃遊んでいるプレイヤーなら、10秒もあればある程度のデッキは思いつくことだろう。ではそれらの中に、果たしてこんなデッキはあっただろうか?

TheLousyZoot - 「シャドー・シュート」
Modern Constructed League #1296224 5勝0敗 / モダン (2016年3月12日)[MO] [ARENA]
3 《
1 《平地
4 《神無き祭殿
1 《湿った墓
4 《血染めのぬかるみ
4 《湿地の干潟

-土地(17)-

4 《死の影
4 《呪詛の寄生虫
4 《通りの悪霊

-クリーチャー(12)-
1 《殺戮の契約
4 《ギタクシア派の調査
4 《天使の嗜み
4 《信仰の盾
4 《大霊堂の戦利品
4 《思考囲い
3 《汚れた一撃
2 《オルゾフの魔除け
2 《暗黒への突入
1 《消耗の儀式
2 《ファイレクシアの非生

-呪文(31)-
1 《呪文滑り
1 《殺戮の契約
1 《外科的摘出
1 《流刑への道
2 《解呪
2 《安らかなる眠り
4 《神聖の力線
1 《残忍な切断
2 《この世界にあらず

-サイドボード(15)-

......What is this?

It's ... Shadow Shoot?

 いや、なんなんだこれは。一回整理しないと、よくわからんぞ。カードを構成要素ごとにまとめてみよう。

手札破壊/確認

 コンボデッキのたしなみ。まずは相手のデッキを確認。妨害やクロックを排除し、コンボ始動までの時間を稼ぐ。

除去

 相手に好き放題殴らせてはコンボが間に合わないことも。マナが不要な《殺戮の契約》はともかく......《オルゾフの魔除け》? ライフの損失が痛いのでは......?

サーチ/ドロー

 白黒のデッキなので、青のドロー呪文ではなく黒のサーチ呪文でコンボパーツを揃えることになる。どちらもライフがすり減る痛いカードだが......。《通りの悪霊》《ギタクシア派の調査》もデッキ圧縮の仕事を担う。これまた痛いカードやね......。

???

 さあ肝心のコンボ枠。こうやって並べてみると、設計思想が見えてきた。まず大事なのは《死の影》。上述した呪文の多くが、自らのライフをすり減らすものばかり。これらを使用してライフを減らし、《死の影》を運用する。もう1体のクリーチャーである《呪詛の寄生虫》も、基本的には2点のライフを払いまくるための装置だ。

 これらの大量ライフ損失を、《天使の嗜み》と《ファイレクシアの非生》でサポート。コンボを決めに行くターンには、これらのカードを唱えて《大霊堂の戦利品》! たとえライフが0以下になろうとも、敗北することはないのだ。このあたりはモダンに現存する「むかつき」デッキ(※1)と同じアプローチだ。

 残りの3枚は、《死の影》を勝利に繋げるカード。相手のライフよりもサイズが上がった《死の影》を《消耗の儀式》で投げ飛ばす、シュートルート。2体以上並んでいる状態で、対戦相手のブロッカーの色を《信仰の盾》で指定して無理やりねじ込む、殴り勝ちルート。そのルートの派生で、流行りの無限ライフや《崇拝》(※2)も物ともしない《汚れた一撃》での毒殺ルート。この3つのパターンで勝利することになる。デッキ名はここからとって「シャドー・シュート」としておこう。

(※1:《天使の嗜み》《ファイレクシアの非生》で不死身と化してからの《むかつき》でライブラリーのカードを引き切り、莫大なリソースを使ってストーム20の《ぶどう弾》を投げたり《稲妻の嵐》で土地カードを捨てまくったり、《研究室の偏執狂》を出してからドロー呪文を唱えたり......といった形で勝利する、芸術点の高いコンボデッキ。)

(※2:現在のモダンは各種エルドラージデッキの台頭により、殴り合いでライフを減らせなくなる《崇拝》の採用枚数がかつてでは考えられないほど増えている。また「アブザン・カンパニー」は《台所の嫌がらせ屋》+《臓物の予見者》+《シルヴォクののけ者、メリーラ》で無限ライフコンボを決められることからエルドラージ・デッキに強いため流行中。このデッキは無限ダメージを与えられるわけではないので、毒のようなライフ以外で勝利する手段があるに越したことはないのだ。)

 この一見荒唐無稽なデッキ「シャドー・シュート」を用いて、TheLousyZootはMagic Onlineモダンリーグで5勝0敗の成績を残している。初見殺しの力をいかんなく発揮しメインをもぎ取り、何をサイドインしたら良いのかわからない対戦相手を踏み潰してきたことだろう。こういった謎のデッキは、リーグ戦では勝ちやすかったりするのだが......本当の戦いは、世間にその存在を認知されたこの時点から始まる。「むかつき」も、「黒単エルドラージ」(※3)も、最初はなんじゃこりゃデッキだった。二度目三度目の結果を残し、さらに洗練されてモダンのメタゲームに食い込めるか? 個人的に注目しているデッキの1つだ。

(※3:《難題の予見者》《現実を砕くもの》でお馴染みのモダンのデッキだが、『ゲートウォッチの誓い』発売以前の初登場時のその姿は現在と大きく異なるもので、《ウギンの目》《エルドラージの寺院》から《忘却蒔き》《荒廃を招くもの》を展開、メインから大量に積まれた《大祖始の遺産》を初めとする墓地対策でカードを追放してこれらのエルドラージ・昇華者でアドバンテージを確保、最終的には《絶え間ない飢餓、ウラモグ》へと繋げる、少々大味なコントロールデッキだった。初登場時はなんじゃこりゃ?と騒がれたものの、着実に勝ちを重ねて注目されるようになった。)

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