MAGIC STORY

ストリクスヘイヴンの秘密

EPISODE 02

第1話 専用掲示板より

K. Arsenault Rivera
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2026年3月23日

 

みんなへ

通訳魔法に頼らなくても私は気の利いた詩を書けるということを教えてあげる。え、私の詩は素晴らしいって前から思ってくれていた? それなら少しだけ待っていて。

みんなが筆記板の立ち上げに上手くいっていれば、私が今書いているこの文章が見えるはず。私の筆跡で見えているかしら? 今はそれぞれ実地研究で離れているけれど、ローウィンで紡いだ私たちの友情はそんなことでは引き裂かれないわよね。運命の糸が今、私たちを繋いでいるように……

 

キーロル参上。これ、すごくいいね! 先輩たちがこういうのを使ってる所を見たような気がする。ねえ、ボクが何か絵を描いたらそっちで見えるのかな? たとえばこんな……もし見えたなら教えてね。

 

こちら再びアビゲール。大丈夫、絵も見えるわよ。建物ひとつを丸ごと頭の上に持ち上げているのね。キーロル、ロアホールドじゃなくてプリズマリへ行くことも考えていたなんて知らなかったわよ。とはいえ、文字での書き込みに限定した方が全員理解しやすそうよね。

上でも言ったけれど……今は距離に隔てられているけれど、それぞれの経験がきっとまた私たちを結びつけるはず。

それこそが、アミティの公開討論所で私が学んでいる教訓のひとつ。ここにはありとあらゆる場所から外交官さんたちが来ているけれど、ストリクスヘイヴンの各大学みたいに見た目から所属がはっきりわかるわけではないの。ここの会議場では、色は特定の色ではなくてむしろ個々の好みを象徴している。プリズマリは衣装の美しさやそこに込められた物語をいつも語っていたけれど、それについてこんなに深く考えたのは初めてだったわ。大使さんたちの衣服には出身地の繊維や染料が使われていて、だから織物についてよく学んでいれば、話を聞くまでもなくどこから来たのかを予想できることが多いということ。

もちろん、ここで交わされる弁論術も同じくらい興味深くて……少なくとも、私が意味を理解できる限りは。一度にとても大勢が話しているから、私の補聴器は追いつくのも大変。それに、耳が聞こえないってことが見た目でわかるわけでもないし。手で合図をしてもう一度言ってもらうのだけど、そんなことが何度あったかなんてもう忘れちゃった。

正直……なんだか孤独。

でも、だからこそみんながいるの! この筆記板では書くことに集中していればいい。今いる場所での意思疎通をするのがどんなに大変でも、私をいつでも待ってくれているみんながいる。

だからみんな、全部教えて! そちらの実地研究はどんな感じ? 面白い誰かはいた? 今いる場所はわくわくする? 私たちのこの前の旅ほどではないかもしれないけれど、まあ、その方がいいわよね。昼と夜の均衡を正すなんて、一生に一度あれば十分な出来事だもの。

どんどん書いて教えて頂戴! そして規則を守ること! 書き込みは必ず挨拶から始めて、自分の名前で締めくくってね。

愛をこめて、アビゲールより

 

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アート:Olivier Bernard

オレの同志、同胞、仲間のみんなへ

オレたち揃ってアミティの公開討論所に押しかけて、アルケヴィオスの外交官は手話の使い方を覚えた方がいいって訴えることを提案するね。正直言って、誰も習ってないなんてふざけてるよ。オレのこの素晴らしい考えに賛成してくれるみんな、実地研究の期間が終わったらまた会おうよ。あんまり長くはかからないはず、うん、「前回」と比べればね。早いとこ終わらせれば他のこともできるはず。

それはそうとアビゲール、その服装の話、オレは気になるね。ざっとでいいから描いてくれない? 来季に向けて服をそっくり新しくしたくてさ。もう2か月も新しいのを買ってないから、流行遅れだって周りに思われそうなんだよ。外交官っぽい格好、なんかいいなってずっと思ってたんだよね。

アミティの公開討論所がどんなに刺激的だとしても、壮麗なる頂に敵うわけないね。この名前を見ただけでわかるだろ?

朝は信じられないくらいきれいな景色で始まって……

 (極めて専門的な、それでも感動的な描写が26ページ続く。サナールは少なくとも5回はインクを変えているのが目に見えてわかる)

この調子でいくと、なんかの建物にオレがやってきたことの名前がつけられるかも! でも……んー……この長さを見るに、オレちょっと時間を忘れちゃってる?

楽しく読んでくれたならいいんだけど。

ねえアビゲール、これって書くたびに新しいページが勝手にできてくの? もしそうなら、思いもよらないすごい使い道があるかも! いい感じに設定すれば、誰も見たことのないパフォーマンスの形になるかもしれないよ。これを映し出すことができたらどうなると思う? 円形劇場に集まった観客がみんな、現在進行形で誰かが作曲するところを見るとかさ!

思い出すなあ、まるで……

 

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アート:Justin Gerard

こんにちは、サナール。こちらタムよ。

割り込んで申し訳ないけれど、ふたつ言わせて。まず、サナールが書いている内容にはもう前例があるということ。アルケヴィオスとニューカペナの両方に記録が確認されているわ。それによると、だいたいの人は作曲中に見られるのは好きじゃないみたい。それよりも、カペナ人が後に作り出したような共同作業の方が上手くいくのだとか。そう、即興演奏ね。実際、即興演奏はニューカペナでとても人気があるって聞いたわ。何でも、楽譜に書かれた旋律にこだわるのは聴衆を侮辱することに同じ、なんて受け取られることもあるのだそうよ。

でも、今から言うふたつめの方が重要。書き込みは1、2ページにまとめてもらえないかしら? 朝起きて30ページも読むのは、楽しいというより宿題みたいに感じるのよ。

だから……1ページよ。いい?

敬具 タムより

 

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アート:Jodie Muir

タムへ

そんなの退屈じゃない?

サナールより

 

やあやあみんな!

メイジタワーの主力選手、大人気のキーロル参上! なんで1ページにまとめないといけないの? 本気で言ってる? 1ページじゃ全然収まりきらないよ。

読むって話で思い出した。教授に言われたんだけど、ボクたちが向かう所には読むものは何も持って行かなくていいんだって。むしろありがたいよ。この体型を保てるからね。でも「筆記用具はできる限り沢山持ってくること」とも言ってた。変じゃない? 読む時間はないけど書く時間はたっぷりあるってことなのかな。

ボクたちが向かうのは紛争の曠野。実地研究の行き先の名前としては最高だよ。サナールの所よりもずっとね。勝負しよう(そっちが負けるよ)。でさ、安全講習が信じられないくらい大がかりで。少なくとも5回は受けないとそもそもこの実習に出られないんだよ。

何たって、紛争の曠野では時間と魔法が正しく動いてないから。遠い昔の戦士がさまよってて、昔の沢山の戦争をひたすらずっと再現してる。それも、その戦争って同じ時期にあったひとつのものじゃなくて、何世紀も続いた戦争なんだ。どうしてそこでそんなに沢山の血が流されたのか? ボクたちはそれを解明しようとしているんだよ!

言わせてもらうけど、歴史に囲まれる体験に勝るものはないよ。もちろん講義で学ぶことはできるし、本も沢山のことを教えてくれる。でも、本物の戦士たちが自分の周りで本当に戦う、その姿を見るんだよ? 楽しみだなあ!

けどね、その講義がさ。ボクが取ったノートの一部なんだけど見てよ。

現地にいる間は、何かよくある平凡なものをいつも持ち歩くこと。よく知ってるものを。あたりのマナの流れにすっかり夢中になって自分を見失う危険あり。目に見えない流れに引きずられて古い遺跡の裂け目に迷い込んで、二度と出てこられなくなるかも。そんな悲惨な事故を避ける一番の方法は、思い出の品を身に着けておくこと。できればポケットにかんたんに入る小さくて触り心地のいいもの。一時間ごとにその品物を見つめて自分の身に意識を向ける。同行の仲間にも確実にそうさせること。

不気味だよね?

まあ、それでも行くんだけど。もしボクがどこかへ迷い込んで、忘れ去られた古代帝国同士の永遠の戦争に巻き込まれでもしたら、家族のみんなに絶対に許してもらえないだろうね。でも、いつどこでどうなるかわからない。とにかく……捕まらないようにするよ!

それと正直に言うよ。ボクね、もう霊に会ったんだ。

さてと、細かいところが間違ってても許してね。これを書いてるのは、事件が起こってから何時間か経った後だからさ。記憶はかなり新鮮だけど、うーん何て言えばいいかなあ? 微妙に曖昧なところがあるから、ちょっとどこか間違ってるかもしれない。あと、ちょっと創作も入るかも。でもこれから書くことの「精神」は正しいからね! 見ててねアビゲール? ボクだって上手に書けるんだから。

今ボクたちはヘリアンの野営地に陣取ってる。野外調査の拠点としていつも使われてる場所で、まさしく辺境って感じのところ。朝には遠くの草原に揺れて見えるものがあるんだけど、それは果たして真っ赤な花なのか、それとも今にも激突しそうな軍隊ふたつなのか、なかなか判断がつかない。たまに両方なこともある。でも大事なのは、全部遠くにあるってこと。安全講習を受けている間はここにいるから。

ここに来て5日目になるけど、靴の中に何かの種がいつのまにか入ってるのにも慣れてきたよ。今日、プランティクル峠で見つかった壊れかけの女人像を運ぶのを手伝ってくれって教授に言われたんだ。これからの研究に役立てたいんだって。もちろん、ボクは名乗りを上げた。丘や岩や草原を何マイルも越えなきゃいけないけれど、得られるものに比べれば軽いものさ。

問題は、それだけの距離を移動するのにすごく時間がかかったこと。何百ポンドっていう岩を肩に担いで、周りの空が紫に色づいてきて、だんだん寒くなってきた。荷物持ちの仲間は(ほとんどがオーリンだったけど、全員じゃない)疲れてきてた。たぶん靴が悪かったんだろうね。

そこでボクは言った。「さあ、あと丘をひとつ越えれば到着だよ!」って。

そして野営地を指さした瞬間、仲間の誰かが叫んだ。2秒して重みがのしかかってきた。そいつが像から手を放したんだ。慌てて逃げる足音と悲鳴がそれに続いた。

ボクは像を肩に担いだまま後ろを見た。すると、それは間違いなくそこにいた。戦いで傷のついた鎧を着て、燃えるような両目の、しおれて枯れたような姿が。胸から槍が2本突き出てた。

「うわあ、どうしてそんな怪我したの?」ってボクは言った。

返事はなかった。それをボクは退屈だなって思った。けど相手は剣を振りかぶった。ボクは像をずらして自分がその攻撃に当たるようにした。そしてその古代の戦士に目を合わせて、精一杯のおたけびを上げた。

それはかなり上手くいったと思う。その戦士は、流れの中に戻っていったから。

ボクはにやりと笑ったよ。どうだ! って胸を叩けるならそうしてただろうね(手が塞がってたから)。こんなに簡単だったなんて。絶対に単独で霊に関わるなって先生たちは言ってるけど、ボクは何の苦労もなくやってのけた。遠い次元で迷子になってエルフに殺されそうになった経験(ごめんルーウェン、気を悪くしないでね)は、ものの見方を変えるんだよ! あれこそが実地体験ってやつなのかな?

だからとにかく、ボクは何の心配もしてない。考古学の学位がどんな役に立つんだって親に言われるかもしれないけど、ばっちりやってくつもりだから。

みんなもボクと同じくらい楽しんでくれてればいいな。

みんなのお気に入り、キーロルより

 

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アート:Bryan Sola

やあ皆。

こちらルーウェンだ。キーロル、気にしなくていい。気を悪くなどしていない。君が楽しんでいるのは何よりだ。

私は……最善を尽くせてはいないな。

物事は色々と……違う。そうだろうとは思っていたが。故郷を離れる時、全く新たな文化に慣れなければいけないとは覚悟していた。新たな価値観、新たな社会規範、そういったものに。アルケヴィオスの民は、私の故郷のように不快であるはずはないと思っていた。完璧であることや彼らにとっての美の基準に執着し、少しでも何かが逸脱しているなら即座に非難をぶつけ合う……あれよりも不快であるわけはないだろうと。

だが、どうやらそうでもないらしい。他のエルフたちに自己紹介をした方がいいと言われた。「強い絆を」と。正直に言うが、自己紹介をするというのは少し怖かった。何しろ私の出身地やその民の絆がどのようなものかは皆もよくわかっているだろう。もし他のエルフも同じだったなら?

同じではなかった。理由は沢山ある。私を故郷へ送り帰したがっている、いわゆる保護主義者たちはともかく、それ以外の者たちですら私をサテュロスと呼ぶ。この角があるせいだ。中には私の寿命の3倍も歳を経ているエルフもいる。私が何か新たなことを話そうとするたびに彼らは鼻で笑い、そんなことは遠い昔に学んだと言う。彼らの耳すら私とは違う……私には聞こえない音が聞こえているのだ。話しかけてくる時、彼らの声は時折その高音域になる。すると私は言葉に詰まってしまう。こちらが質問に答えられない時や、もう一度言って欲しい時がある。すると彼らは私をじっと見つめ返す。そしてそうしてはくれる。だがそこには一瞬のためらいがあり、そして……

済まない。こんなことを語るべきではないというのはわかっている。

ウィザーブルームでは今、タイタンの墓への旅が計画されている。私も参加しようと思う。きっと良い方向に向かうだろうから。

皆の友、ルーウェンより

 

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アート:Alix Branwyn

ルーウェン、ひとつ提案していい? タイタンの墓探検隊の責任者はフェル教授だ。友達から聞いたんだけど、そいつの兄貴の彼女が指導教官から聞いた話によれば、フェル教授はストリクスヘイヴンで一番の偏屈野郎なんだって。エムブローズ学部長じゃなくて、だよ。だからさ……考え直した方がよくない?あとこれはどうしても気になったんだけど、キーロルが1ページ超えて書いてるってのに誰も何も言ってないのずるくない?

 

サナール、きちんと名前を書いて。

こちら再びアビゲールよ。サナールの言うことには一理あるわね。一理というか二理かしら。まず、キーロルの書き込みは2ページ、これはサナールからすれば不公平だわ。みんな、1ページよ! ひとひらの花弁を語ることで読者に庭園全体を想起させる。それが詩というもの。もちろん手紙の方が気軽だけど、それでもね。最大限の効果を得るために、使う言葉をよく考えてみて。

ふたつめ。フェル教授は不機嫌な人だっていうのは私も同意よ。キーロルとは違って、私の記憶は完璧に正確だって断言できるわ。文章を良くするために多少の修正を加えてはいるけれど。前の学期に、有毒植物についての講義を受けたのよ。どんな花をいつ引き合いに出すべきかをもっと深く理解したかったから。あんなに面倒くさそうに講義台に立つ教授は滅多にいないでしょうね。まるで、質問ではなく石を投げつけているみたいな気分だった。

「君らの前に、それぞれ2種類の花弁のサンプルが置いてある。片方の皿はカスミソウ、もう片方はドクニンジンだ。茶を淹れ、正しいと思う花弁を入れること。それが終わったら前に出てきて飲め」

私は二の腕に爪を立てて、羽を膨らませて、少し身体の力を抜いて尋ねたのよ。“フェル教授、間違ったものを飲んだらどうなりますか?”

教授は話し言葉と手話で同時に答えたわ。「解毒剤を投与する。そうすれば二度と同じ間違いをすることはなくなる。どちらがどちらかを知るために、これ以上効率的な方法はないと分かるだろう」って。

確かにその通り。生死がかかっている時に集中力を失うわけがないのだから。私たち全員、机をじっと睨んでどちらがどちらなのかを考えた。私は、ウィザーブルームの有望な子のひとりに判別を手伝ってもらえた。カスミソウの花びらは米粒ほどの大きさなんですって。

私たちが課題に時間を費やしている間、教授は講義室の中を歩き回って何かの調合物を準備していたわ。

そして、最初の生徒がお茶を飲むために前に立った。勇敢な笑みを浮かべて杯を傾けたけれど、緊張から瞳孔は小さく縮んでいた。

その子は息を吐き出すまで、私たちもずっと息を止めていたわ。そして……教室は歓声に包まれた。

フェル教授が解毒剤の瓶を叩き割って、私たちは黙った。怒っているわけじゃなくて、その時の教授はただ冷静に苛立っていたわ。「君らのひとりが時間を無駄にするためにここにいるわけではないというのは良いことだ。他の者もこの例に倣うこと。生と死の境界は水面に浮かぶ花弁のように薄い。場所によっては、もっと薄い」

その日の講義を私は途中で抜けた。

こんな感じの振る舞いを許容できるくらい寛容なら、フェル教授に関わって時間を過ごす価値はあるかもしれない。でも一緒に勉強するつもりなら、教授のやり方を覚悟しておいた方がいいわよ。これは警告。

みんなの友、アビゲールより

追伸:ここのエルフがすごく失礼な態度を取ってしまったこと、本当にごめんなさい。その一瞬躊躇されることがどれほど辛いか、私もよくわかるから。もしそれについて話したい時があれば、いつでも私に言ってね。

 

ボクの友達、ルールーへ

フェル教授は変な人だよ。どうしようもなくね。ボクの親も教授を知ってる。つまりそれは、ほとんどの人にとって悪いことの前兆だってこと。

でもみんなは例外だよ! もしボクの親に会っても、みんなはきっと何も変わらない。みんな今の時点でもう素晴らしい友達だからさ!

でも、フェル教授についてどう思うかボクから手紙を書いて聞いてみようか? 返事を待つだけの時間があるなら、別の所からの意見をもらうのはいいことかもしれないよ。

それと、他の生徒のみんなに完全に裏切られた。ボクたちが霊を見たって密告されたんだ。「指導教員」を見つけないと、ボクはこの実習から席を失うことになる。

だから……誰か心当たりとかない? 家族をここに連れてくるわけにはいかないんだよ。今いる場所にいて欲しいから。

敬具 キーロルより

 

皆へ

キーロル、どうか全力を尽くして。指導教員を見つけるあなたの冒険が上手くいけばいいのだけど。八階層微分方程式について考えるより、実際に解く方が簡単だとも言うし。いずれにせよ、確認すべきことはたくさんあるわ。

ルーウェン、エルフは沢山の次元にいるけれど、決して何もかもが同じではないの。あなたを同じ分類に入れることは、間違いなく望んでいないであろう先入観をあなたが持たれるということだった。顧問の人がそんなことをしたのは、本当に残念だって思うわ。私はシャンダラーから来たのだけれど、自分はすごく孤立しているって感じていたわ。言葉では言い表せないくらいに。文化というのは移り気で、全く同じように発展する場所なんてふたつとない。教えられたことを実行しようとしても上手くいかない時がある。それはまるで、ランダムな数値と規則を与えられて数列の次の数字を計算しようとしても、その規則が通用するのは最初の半分だけだった時みたい。

孤独よね。

さて、フェル教授は誰もに好かれるような教師ではないわね。私が聞いた噂では、昔オリークのために副業をしていたとか、ファイレクシア侵攻の調整に関わっていたなんて話も。何の説明もなく夜中にこっそり学舎を歩き回る習慣があるのだけれど、それも悪い噂を広めるだけよね。

でもある夜に、戦没者慰霊碑の近くで教授に偶然会ったことがあるの。片手に巻物を、もう片手には瓶を持っていて、中には何かの標本が光っていたわ。それで、起こったことはだいたいこんな感じだったかしら。

教授は私を見下ろして首を傾げたわ。「ゴルゴンか。珍しいな」

「ストリクスヘイヴンではあまり多くはありませんね。教授、どうされました?」

ふむ、と教授は言ったわ。そして「君に石化の力はあるのか? それは完全に物理的なものなのか? 石に閉じ込められた者はどうなるのだ? 救出は可能なのか?」てきぱきと尋ねてきたわ。私が質問に答えると、「それは私には不要だな。おやすみなさい」と。

物を投げたり、癇癪を起こしたりはしなかった。そっけない好奇心だけがあった。

教授と一緒に学ぶのも、価値はあると私は思う。

ルーウェン、もし誰かと一緒にいたいなら、私は喜んでそちらに向かうわ。正直言うと、他の皆と一緒に逆説の庭園にいるよりもそちらに行きたいのよ。もう少し……多角的な教育を受けたくて。私はフェル教授は怖くないし、神託者ジャズィ様も来られるらしいじゃない。あの方にいくつか質問したいことがあるから。

敬具 タムより

 

タムへ

ぜひ来て欲しい。本当に。それと、フェル教授について教えてくれて感謝する。ウィザーブルームに志願を出した時は、あの教授は……何を思っているのかがよくわからなかったのだ。

「君はローウィンからの志願者だな。噂は聞いている」と言われた。

「どのような噂ですか?」私はそう尋ねた。喉に棘が何本も刺さったような感覚だった。

「君は一匹狼、自分の殻に閉じこもりがちだ。君が何を考えているのか、級友たちは想像もつかない。君はよそよそしく威圧的だ」

その一言一言が、まるでこちらの皮を少しずつ剥がしていくようだった。けれど教授が意図的にそうしていたとは思わない。タムが言っていたように、教授は怒ってなどいなかった。まるで植物の性質を列挙しているようだった。「私には私の言い分があります」と私は答えた

すると教授は言った。「そうだろうな」と。

それでも教授は私の書類に捺印をしてくれた。それを持って執務室から出ると、並んで待っている全員が私を見つめていることに気が付いた。そのうちのひとり、エルフが口を開いた。おそらく、私には聞こえないあの音で喋っていたのだろう。

私は止まらずに歩き続けた。あのエルフが何と言おうと、私は申請を許可された。それがすべてだった。

友達と一緒に行けるのはとても嬉しいことだ。ありがとう。

君の友、ルーウェンより

 

やあやあ、キーロルだよ!

みんな、すごくいい知らせだよ! アジャニさんがボクの指導教官になってくれるんだ! 昨日、野営の真っ最中に現れて背中をぽんと叩かれて、「何か問題を起こしていませんよね?」なんてさ。

ボクは答えたよ。「ちょっと起こしたかも。でもアジャニさんがいれば大丈夫ですね! あの霊にもう勝ち目はありませんよ」

するとアジャニさんは、ふわふわの頭をこっちに傾けて聞いてきた。「霊と戦うつもりですか? 何故そう考えました?」

ボクたちはプランティクル峠を目指す最後の集団のひとつで、周りではみんな旅の準備に忙しかった。いい装備はもうほとんど残ってなくて、かばんにしまっておいた登攀用の装具も、革製だとわからないくらいすり減ってた。あんまり良くない。けど知っての通り、ボクは挑戦を前にして引き下がったことはないんだ。

ボクは答えたよ。「古代の戦争を研究するためにここに来たんですよね? やり方を少し変えて、実際に何度か戦ってみれば新しい発見があるかもしれません。観察だけでは限界がありますし。戦士が一番よく理解してるのは戦闘の言語だ、って言いますよね」って。

アジャニさんは何か低く呟いた。そこで級友のひとり、ブリーズって名前のオーリンが荷物をまとめながら首を回して見てきた。ボクたちの話に割って入ろうかどうか考えてたんだろうね。ボクは大丈夫だって合図した。それとアジャニさんの表情を見て、割って入っても何も変わらないだろうって思ってくれたみたい。アジャニさんは、何かじっと考え込んでるみたいだった。

何でそんなふうに遠くを見つめてるんだろう、とボクはだんだん不思議に思ってきた。その時、アジャニさんがまた口を開いた。そして大きな手をボクの頭の上に置いたんだ。

「私が君ほどの歳だった頃には……」

あ、これはまずいやつだ、って思った。

「……私もそう思っていましたよ。そうではないことを見せられれば良いのですが」

「できると思います?」ボクはそう言って、ふざけて肘打ちしたよ。「これでもボク、結構頑固なところがあるって言われてるんですからね」

「私の方がもっと頑固ですよ」アジャニさんはそう言って笑った。「対決するのが楽しみです。私の話を聞いてくれる意欲があるなら」

「議論は整理できました? 査読できるくらいのじゃないと駄目ですよ」

アジャニさんはトランクひとつ分の荷物を掴んで、荷車に積み込んだ。あれほどの大男ならそんなことも簡単なんだろうなって思うよね。でもアジャニさんは大きく息をして、腰のあたりが少し引きつったのが見えた。

そしてアジャニさんは背筋を伸ばしながら言った。「正直に言いますと、よく分からないのです。一度は答えを見つけたと思いました。ですが……」

ボクは手伝うために駆け寄って、そして尋ねた。「何かあったんですか?」

「沢山の物事が。残酷すぎる話ばかりです。このようないい日に話すものではありませんよ」

ボクは答えたよ。「試してみていいですよ。何せローウィンではかなり大変な目に遭ったんですからね。想像もしてなかったような。それもまさに最初から大変なことばっかり」

最後の荷物を積み込むと、アジャニさんはまたボクと目を合わせた。「ローウィンは始まりに過ぎません。プレインズウォーカーがどのようにその力を呼び起こすかはご存じですか?」

ボクは荷車に寄りかかって答えた。「考えてみれば、知りません。ヴェス教授はそういうことについては全然喋らないし、ボクはフェル教授ともあんまり話さないし、それとあのオーコって人以外で会ったことのあるプレインズウォーカーはアジャニさんだけですし」

そこでアジャニさんは荷車のはじっこに腰を下ろした。隣に座れって合図されたので、ボクもそうした。そしてアジャニさんは言った。「心の傷です」

「どういうことですか?」

「心の傷こそが、灯を目覚めさせるのです。夜になると、空を見上げながら思うことがあります。果たしてどれだけの者が、自分自身とは何であるかを永遠に知ることなく生きるのだろうかと。最も幸運な者たちです。そのような者たちの幸せを私は願います。何も知ることなく、更なる日々を過ごして欲しいと」

ボクは何を言えばいいのかわからなかった。何か、言えることはあるんだろうかって。周りには仲間が沢山いたけれど、この話をしてるのはボクとアジャニさんだけだった。足元とその下の地面をじっと見て考えた。ボクの知ってるプレインズウォーカーさんたちは、どんなことを経験してきたんだろう。

アジャニさんはきっと、ボクが何を考えているのかがわかったんだろうね。話してくれた。「私は兄のジャザルを失いました。群れの中で私を気にかけてくれたのは、兄だけでした。ただ私の兄だからという理由で、死んだのです」

そして沈黙があった。たまに動物の鳴き声と、木材がきしむ音があるだけで。

「ひどい、ですね」

「その通り。そしてその出来事の後、私も君と同じように考えたのです。戦うことこそ、戦士が話せる唯一の言語であると」

アジャニさんのあの表情からして、話が始まる気配を感じたよ。でもまさにその時、現場長のひとりがやって来た。いよいよ時間だ。

出発の直前、荷物を取りに行く前にボクは尋ねた。「お兄さんについて、もっと話してくれますか?」

アジャニさんは頷いてくれた。

みんなの友達、キーロルより

 

やあ皆! こちらルーウェンだ。

先日、タムと共にタイタンの墓に着いた。辛い旅になるかと思っていたが、あっという間だった。いい仲間がいればそのようなこともあるのだな。学校では、時間の進みが本当に遅いように感じたこともあったが……自然界で見られるフラクタルについて語り合っていると、時間はいくらあっても足りない。

そして一番奇妙なことは、タムと話をしていると、他の者も私と話すのを嫌がらないということだ。誰かがやって来て、こんなことを言われたことは数知れない。

「あのクアンドリクスの子と……君たち友達?」

そして私は答えるのだ。「ああ、とても仲はいいな。何故かって? 確かにクアンドリクスの生徒がここにいるのは珍しい。だが彼女は私と一緒にいたいと言ったのだ。それと神託者のジャズィ様に質問をしたいのだとか」

すると「一緒にいたい? 何で?」まあそのようなことを言われる。私の言葉に、どれほど正確な表現を期待されているのかはわからない。

これが最善の解決策ではないことはわかっている。ここの皆が私に関心を向けるのは、タムが隣にいるからというだけだ。でも今はどうだ? 気分がいい。そして最初の一歩としては十分だった。安心してもう少し踏み出せる気がする。

神託者ジャズィ様は、ジョードックスの船着場で私たち全員を出迎えてくれた中のひとりだった。この上なく眩しい笑顔に私は思ったものだ、これまでに見た中で最も魅力的な人物のひとりだと。その顔に刻まれた皺のひとつひとつが、何百いや何千という人々を笑顔にしているのだ。老いという、私の民が恐ろしいと感じていたものも、あの方にかかれば美しいものとなる。まるで森の中に不意に現れた小道のように、惹きつけるものがあった。

出迎えの言葉も覚えている。「ジョードックスへようこそ! ウィザーブルームの生徒さんたちは、早いところ土にまみれて学びたいのでしょう。その気持ちは分かりますよ。ですがまずは落ち着いて、しっかり休んでくださいね。出発する前にお店でお土産を買っておけば、帰りの心配も少なくなります。私の言うことは本当ですよ」

フェル教授は本を手にしてその隣にいた。そしてその本から目を離すこともしなかった。「出発前に出席簿に署名するように。さもないと成績から50点減点するぞ」とだけ言った。

「点を減らすのは後でいいでしょう。デリアン、まず子供たちには息を整えさせてあげなさいな」

「生徒たちは目的を持ってここに来たのだ。このような場所は……安っぽく俗なだけだ」教授は店が立ち並ぶ方向に手を振ってそう言った。「財布から金を、心から知識を引き離すための娯楽に過ぎん」

他の皆はもう列に並んでいた。タムは私のすぐ前にいた。列は素早く進んだが、ジャズィ様の方を振り返っている者たちは沢山いた。そして皆、小声で話していた。

「あのふたりが知り合いだったとは」私はタムにそう言った。

すると彼女は肩をすくめた。「驚きはしないわ。フェル教授は好奇心旺盛だから」

「だから君はフェル教授のことをそんなに悪く思わないのか? 好奇心旺盛という所がとても似ているから」

タムは返事をしてくれなかったが、あの視線を向けてきた。わかるだろう? そしてきっと、これを読みながら同じ視線を送っているのだろう。

 

(こちらタム。一応言っておくけれど、私はフェル教授のことは尊敬しているわよ)

 

名前を書き終えると、級友たちは風に舞うタンポポの種のように散っていった。ジャズィ様の言う通り、辺りの店では欲しいものが何でも揃うようだった。タイタンの小型模型はもちろん、適性価格の5倍もする「職人技の配合種子」などというものもあった。だが他にも様々なものが。様々なキノコの形をしたチョコレートだとか。タムと私は数軒の店を覗いただけだった。だが何というか……

タイタンの墓は本当に、本当に美しいのだ。死と生が完璧に、ひとつの形に融合している。新たな緑が芽吹き、誰も覚えていない何かを取り戻す。死した巨人の残骸を食べる幼虫や昆虫、そしてその幼虫を鳥たちが食べる。

そういったもののすべてが、安物の石とゴムで小さく再現されているというのは間違っている。

拠点に戻ると、ほぼもぬけの殻だった。ジャズィ様だけがいた。肋桁街を見下ろす丘の上で瞑想している姿があった。私はタムへと囁いた。「何か質問があるのだろう? 今は他に誰もいない。いい機会だ!」

だがタムは言った。「神託者様はお忙しいのよ。邪魔するなんてとても。それに邪魔をしたら、あの方の周りのマナの流れがどうなるか」

「そうだろうか? 神託者様はマナの流れよりも、知識の流れをもっと大切にしていると思うが」私はそう言ってタムの背中を押してやろうとした。その時、ジャズィ様の笑い声が聞こえた。

「その子の言う通りですよ。あなたがたふたりは、土産物屋よりもこの場所の方が大切ということですね?」

「正直、何故ここに土産物屋などがあるのかわかりません。花は素晴らしい贈り物になります。金もかかりません」と私は言った。

「しっかりした考えを持っているし、財布の紐も固い。いい子ですね」神託者様はそう言って私たちに向き直り、宙に浮いた。「何か助けになれますかね?」

それから何時間か、私たち3人だけで話をした。そしてフェル教授が現れて、神託者の時間を無駄にしたと叱責してきた。

だがジャズィ様は言ってくれた。「生徒さんと過ごす時間が無駄であるものですか」と。

フェル教授は鼻で笑った。だが少なくともその時はそれで納得したようで、それ以上叱られることもなく私たちは解放された。

この旅は……上手くいくかもしれない。

 

たて続けに失礼、ルーウェンだ。

どうやら、私の早とちりだったらしい。

昨日、ついに毒キノコの林を訪れた。タイタンの墓の他の場所とは異なり、この辺りに地元民はあまりいない。繊細な生態系が完全な調和のうちに機能していて、中をつついて回るには許可が必要だ。遺跡も沢山ある。フェル教授は「無駄にしない」という条件で私たちに許可をくれた。

教授を怒らせようとしたわけではない。むしろ、教授を感心させてやりたかった。フェル教授を感心させられるような者はいない。もしそんな難しいことを成し遂げたなら、誰も疑問を抱かなくなるだろうと思ったからだ……何故私がここにいるのか、何故タムが私と話すのを好むのか、何故神託者ジャズィ様がわざわざ私と一対一で話をしてくれたのかを。

そうだ。色々な話をした。

フェル教授は私たちに、誰も見たことのないものを探して見つけるよう指示した。つまり「前進」を示すものを。級友たちは昆虫や植物に注目した。確かにそれはいい選択だ。けれど私にはもっといいものが必要だった。

何か普通でないものを見つけるたびに実習助手の先輩に尋ねたが、どれも既に記録されているものだった。次第に日は陰り、もし時間内に何も見つけられなかったとしたら……この機会を「無駄にした」ことへの罰がどうなるのかは知りたくなかった。

土にまみれた姿で肩を落とし、私はため息をついた。

その時、見たものがあった。

小さな生き物だった。植物と動物のような……何か。大きさは私の掌ほど、2本の腕に2本の脚、身体全体に葉脈のような模様があった。草むらの中、その生き物の目が柔らかく輝いていたので見つけることができた。それは樹皮の破片を掴んだ小さな手を伸ばし、頭を左右に揺らしていた。何も知らずとも、それは地図を見ているようだったと言えるだろう。

それはキノコの下に立っていた。私に隠れてそこにいるのだ。そして、これこそ私が探していたものだと直感した。ルマレットに関する情報は案内書に沢山載っている。だがこれについての記述は存在しなかった。この小さな生き物は一体何をしているのだろう?

ローウィンで育ったことの利点がここにある。森の中で私以上に静かに動ける者はいない。キノコからキノコへと小走りに移動するその小さな生き物を、私はこっそりと追いかけた。キノコに到着するたびにその生き物は木の皮を見下ろし、次の方向へと進んでいった。

8つのキノコを経て、私はようやくその行動の目的を知った。仲間がいたのだ。棚のようなタテガミダケの下、ひときわ太い樫の木の根元に20体以上のルマレットが群がっていた。そしてこのルマレットを見つけるとそれらが飛び上がって喜び、手を振った。

 

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アート:Lie Setiawan
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想像してみてくれないか。少しの間、頭の中で考えてみて欲しい。これほど可愛らしいものがあるなどとは! しかも、集団に向けて話している。地図を作り、意思疎通をし、果てには……これは彼らの団体旅行なのではないかと思わずにはいられなかった。

私は踵を返し、全力でフェル教授のところへ走った。

教授はいつものように片方の眉を上げ、厳しい顔で私を迎えた。「ルーウェンか、何か見つけたのかね?」

私は語った。自分が見たものを、ルマレットのことを、彼らが明らかに意思疎通をしていたことを。

「あれらに魔法はない」教授はそう言い、読んでいた本を勢いよく閉じた。

私は反論した。「何故そんなことがわかるのですか? 記録にも載っていないのに」そして顔と耳が熱くなってきた。

フェル教授の答えはこうだった。「記録にないのは、研究するだけの価値がないからだ。調査を続けて何か有用なものを持ち帰ってくるのだな、さもなくばクレバー・クリケットの社会奉仕活動向けに報告するといい。子供たちが魔法の実演を見るために毎日やって来る。君の話にもきっと夢中になるだろう」

それは……まるで……

とても書くことなんてできない。

本当に辛い。何故そのようなことを言うのだ。一日中ずっと頑張って探したというのに……

 

ねえ、ルールー?

今、他のみんなは起きていないよね。ボクたちだけだよね。

独りだなんて思わないで。教授にそんなこと言われたの、ボクも本当に悲しい。その小さな生き物のこと、ぜんぶ教えてくれない? 面白そうだし、そんな知性のありそうな生き物を無視するなんて信じられない。きっとそのルマレットにも、ルマレットなりの歴史とか色々あるんだよね? 故郷に家族がいて手紙を書くとか、教育の仕組みとか、そういう色々。ぜんぶ、研究する価値はあるよ。いつかストリクスヘイヴンに迎え入れる日が来るかもしれないね。

正直に言うとね……ボクにとっても、今日はいい日じゃなかった。

最初の遠征だったんだけど、その……

あの霊をまた見たんだ。前に見たのと同じ。何でわかったかというと、ボクたちを見て叫んできたから。「汚らわしき者よ! 何の権利があって私の任務を邪魔する?」って。

そして、霊の槍を投げつけてきた。槍は宙を切り裂くみたいに飛んできて、ボクは槍を折ってみせた。嘘、投げ返した。これも嘘。ごめん、そんなふうに言えればよかったんだけど。でも今ふたりきりだから本当のことを言うね。ボクは、おびえた。

あのね、その幽霊はボクの家族の誰かに似てたんだ。いとこか何か。最初に見た時は気づかなかったんだけど、顎にある傷とか、額の形とかが。

ボクは動けずに立ちつくしてて、けどはっとした。どうすればいい? やり返す? 話をしてみる? 戦士も戦い以外の言語を話せるってアジャニさんは言ってたけど、どうだろう? 霊のエネルギーでできた長さ9フィートもある槍が向かってきてる時に、話をすることなんて本当にできるの?

けれどどうしようか決めるよりも先に、アジャニさんが動いた。

アジャニさんは槍をまっぷたつに切り裂いて、そのままの動きで斧の腹のところを霊の頭に叩きつけた。すると一瞬でその霊は消えた。エネルギーが尽きたんだと思う。また姿を現すかどうかはわからない。

 

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アート:April Prime

全部があっという間の出来事だった。一瞬前には、すぐ隣でレオニンの文化について話してくれてたのに、次の瞬間には……

それが終わると、アジャニさんはボクを見た。恥ずかしさのような、後悔のような、そんなものがその目にあった。それと、別のものも。暗い影があった。

アジャニさんは肩を回して言った。「もっと気を付けるように」って。

ボクは衝撃が大きすぎて、返事もできなかった。

でもこうしてボクはキミに話してるし、キミは話してくれてるし、お互い両方とも辛い目に遭って、でも……

少なくともボクたちには、お互いがいるよね?

少なくとも……お互いがいるよ。

 

 

(Tr. Mayuko Wakatsuki)

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