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MAGIC STORY
基本セット2015
忌むべき者の夢
2014年8月6日
デーモン、オブ・ニクシリスについては謎に包まれている。私達は彼の起源を知らない――彼が何処からやって来たのかを知らない。それどころか、彼はずっとデーモンだったのかどうかさえ知らない。私達が知っているのは、「彼はかつてプレインズウォーカーだったが、数千年の昔に灯を奪い取られ、荒々しいマナで知られるゼンディカー次元に捕らわれた」ということだ。それ以来彼は、力を取り戻し、脱出する計画をゆっくりと練ってきた。
『マジック2015 ― デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』のストーリーラインにおいて、その計画の小さな一部が結実する。今、かつての――そしてもしかしたら未来のプレインズウォーカーは、その計画を次段階へと進める準備に入りつつある......
デーモンは眠らぬ。
無論、眠りというものは覚えている。そして、それが最初はどのような気分であったかも。眠りはちっぽけな慰めの宝。だがそんなものへと我が痛ましき定命を、限られた人生の三分の一を捧げる必要はなかった。この姿は少しの痛みも感じない。退屈ではない。だがそれはただ、怒りとともに過ごす孤独な時間を我に与えた。我は征服者であった。我は征服者なのだ。とはいえその過程で、我は二つの挫折をこうむった。一つは我が肉体を奪われた。もう一つは、我が灯を。
若かりし頃、我は無敵であると考えていた。無敵であることを証明したと考えていた。何しろ最も困難だったのは、最初の世界を征服することであった。我が力は世界から世界へと渡るごとに増し、あらゆるものを手に入れ、それによって次を更に容易く手に入れた。ヴェールについて耳にした時、それは拒めぬ程に素晴らしすぎる褒賞に思えた。我は愚かであった。そのような武器は持ち主を破壊するだけだというのに。
地下深く、そのデーモンは黙々と行動していた。その洞窟は壁に並ぶ何十もの面晶体に刻まれた、魔法的な文字のかすかな光でのみ照らされていた。彼は面晶体を少し回転させ、短い呪文を囁いた。魔法文字が鮮やかな橙色の閃光を放ち、だがその光はただちに消えた。彼は次の面晶体を回し、呪文を繰り返し、魔法文字がまたも光るのを見た。この時、その光はもう少し長く続いたが、それはかろうじて判別できる程に僅かな増加だった。そのデーモンは黒曜石の鉤爪で石の床に覚書を刻むと、三番目の面晶体へと向かった。
多元宇宙という自由を知りながら、それを奪い取られた――ここは、墓所だった。足元に無限の世界を従えることを知りながら、想像できぬほどの力の泉を飲み干すことを知りながら......それは失われた。そして我はこの胸糞の悪いちっぽけな世界に囚われ、支配されることすら知らぬ、走り回る虫の群生の上で無為に過ごしている。
その事実の深遠が我が内に沈んで満ちた時、我は初めて、眠りを願った。疲れたいと、休みたいと、この苦痛を終わらせたいと願った、ただ僅かな断続的な時間であっても。決してやって来くることはないそれを。
《アクーム》 アート:Rob Alexander |
ならば、何をして時を過ごす? この世界の者どもは少しの慰めにもならない。この地の人間どもは臆病者かごろつきどもだ。我はそれらを狩り、弄んでみた。面白くも何ともない。エルフどもは野蛮だが、少なくとも立って戦うことができる。奴らの骨は我が何世紀も以前、彼方の次元にて狩りの道具としていた猟鳥の鳴き声のような音を立てて折れる。そして実に多くのゴブリン。それらの行動に飽きる前に潰しても構わない数がいる。ああ、飽きる前にほとんど、だ。奴らは実に! 面白おかしい音を立てる。そして、コーども。奴らは我を避ける。我も奴らを避ける。あの気取った白い顔は、あの女を思い出すゆえに。
ゼンディカーみずから選び出した庇護者。ナヒリ。
地下深く、一つの力が身動きした。測り知れない重さの岩と泥の下に埋もれた魔法の網がゆっくりと生命を得て、道が開いた。薄緑の光が深遠から漏れ出ると、そのデーモンは翼を固く閉じ、その狭い道をこじ開けて進んだ。
久遠の闇に漂うあらゆる世界の中でも、これほど惨めな場所があるだろうか? 我は他の多くの者と同じように、それに引き寄せられた。この地のマナは豊かで力強い。この地は罠であった。我は考えた、この地で得られるであろう力をもって、我が呪いを浄化できるであろうと。この病を燃やしつくし、我が姿を取り戻すことができると。我はそれを発見する機会すら得られなかった。あの女の攻撃を受けた時、我はかろうじて方角を理解したのみであった。
あの女はその間、僅かな感情すら見せることはなかった。もしかしたら、ごく僅かに憐れみをほのめかしていたかもしれぬ。あの女の束縛の魔法は、我がかつて遭遇したもののどれとも異なっていた。それは戦いですらなかった。そしてあの女に面晶体へと束縛されながら、我は叫ぶことすら叶わなかった。
その瞬間、全てが終わった。
抜け道の壁がぐらつき、石が崩れてデーモンの背へと降り注いだ。道の両脇が突然一斉に崩れた。ゼンディカーの深遠は侵入者を発見し、石そのものが彼を罰しようとしていた。彼は壁の間でうずくまって自身を守り、そして一つの呪文を呟いた。石の生命力は吸い取られ、動く力は押し殺された。崩れた岩は、うずくまるデーモンの周囲に完璧な球体を成した。小さなひび割れを通して、緑色の輝きが彼を手招きしていた。彼は掘り始めた。
我が呪いは止まった。彼方の地の呼び声は、ただ消え去った。だが我が力も全てが、共に消え去っていた。遂に地表へと脱出できた時、我が肩の骨が崩れた。翼は使い物にならなくなっていた――それらは数日前に落ちていた。あの女が我が内に押し込んだものは我を小さく、弱き者へと変えた。我はそのような行いを許してはこなかった。そしてこれも、いつの日か、我は復讐を成そう。
《堕ちたる者、オブ・ニクシリス》 アート:Jason Felix |
何世紀も前のことだ。あれ以来あの女の姿を見ていない。だがまるで昨日のことのように、あの女の顔が心に思い浮かぶ。
この地の吸血鬼には長く生きる者もいる。だが奴らは狂気に走るか忘却するという良い分別を持ち合せている。この姿となったことで、我が精神は保たれた。あの女はそのことを承知の上だったのだろうか? 時が過ぎ、我が内なる面晶体は、大いなる力を蓄えた物体であることが明白になった。
力。それは世界共通の言語。
そのデーモンは数週間の間、石をひっかき続けた。硬い層をかきむしって進みながら、日々がのろのろと過ぎた。石の隙間の狭い空間の空気は薄く、彼がかつて、あるマーフォークの交易商人から奪った、魔法文字の小さな球体が唯一の補給減だった。二度、鉤爪を再生させるために彼は停止した。だが輝きの光源に近づくごとに、早く癒えていった。
我は面晶体を数世紀に渡って調べた。我はその魔法を誰よりも知っている――作り上げた者を除いては。そして一人のプレインズウォーカーがこの地を訪れたなら、我はちょっとした紹介をすることにした。奇妙な新たな地を訪れた者は案内を欲していた。彼らは情報を欲していた。我は喜んで手助けをした。ここで、数えきれない年月が過ぎた。彼らへと、我が状態を教えた。この澱みの境界を越えて沁み出してきた情報を与えた。そして確かに、横柄な子らが最終的に我が寄せ餌にかかった。
征服者が学ばねばならぬ最も重要な教訓は、自分自身がお前よりも賢いと信じている他者へと、それを信じさせておくことだ。奴らが何もかもを信じることを止めるまでずっと。この、待つ時が終わると、誇り高きプレインズウォーカーの雛が幾人か、我を発見しにやって来た。我を打ち倒し、面晶体を摘出するために。何百年にも及ぶ計画はこの日のため。そして我が集中すべきは、疑念を抱かせぬように十分な戦いを提示することであった。我は疑いなく、この日が来るであろうと確信していた。
我にできた全ては、この沼の中に横たわり、笑わぬことであった。
地中深くで、そのデーモンは生命の小さな球へとそっと手を伸ばした。彼は少量の土を取り除き、そして小さな、緑色と黄金に輝く花を、掌におさめた。それは力を、温かさを、健康を放っていた。古の小路が開き、彼は花を慎重に抱きながら、地表へと脚を向けた。彼の笑い声が壁にこだましていた。
エルドラージとその落とし子達が猛り狂う。それらが生命を根絶し、皆殺しにする能率の良さは称賛せずにはいられぬ。時折我は戯れに、このような軍勢を用いれば何を成し遂げられただろうかと熟考する。問題ではない。見当違いの魂が幾らか、エルドラージとの戦いにやって来るだろう。そのような者達を止めることなどできぬ。英雄とは捨てられた甘味に群がる蟻のようなものだ。この世界へと到着したなら、彼らは我が知を必要とするだろう。面晶体はこのために創造された――他の何とも異なる武器として、そして我は、その役割を知って生きている、唯一の存在かもしれぬ。
だが我は知っている、それらはその他にも役に立ちうることを。
《解き放たれし者、オブ・ニクシリス》 アート:Karl Kopinski |
我が力は戻りつつある。バーラ・ゲドが破壊された時、この世界が震えるのを感じた。その瞬間、我は再び、多元宇宙の匂いを感じた。我が灯は手の届く所にある。やらねばならぬ事はわかっている。そして我が灯を取り戻す唯一の対価は、我がその中で何よりも憎む世界の完全なる抹消となるのであろうか?
デーモンは眠らないかもしれぬ。
だが我らは、夢をみる。
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