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MAGIC STORY
基本セット2014
驕れる者は
驕れる者は
Adam Lee / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2013年7月17日
スクリックルは地虫を欲していた。
乾燥したスクリルねばねばは十分に美味だったが、真のゴブリンには地虫の肉でなければ満たされない時というものがある。そしてスクリックルは今まさにその時だった。
クッソ食らえ。彼は持っていた乾燥したねばねばをグロッグルへと投げ、肩を怒らせながら巣を荒々しく出ていった。怒って去っていく背中のほうで、スクリルごみを巡り、グロッグルと巣の仲間達がひっかき合って喧嘩する音が聞こえてきた。
太陽の下に出て、スクリックルは目を細めた。地虫を見つけるのはべらぼうに難しく、手に入れるためには遠く、ヤバヤバな所へと遠くへ旅する必要があるだろう。だが彼はそんなことは腐ったナメクジぐらい気にしなかった。今夜地虫の肉を食べるか、ごたごたになるかだ。とんでもないごたごたに。
スクリックルは掘り出し棒と革の帽子を手にし、そして地虫狩りの靴をはいた。彼は一人で出発した。
スクリックルが山の隠れ穴、岩と瓦礫から飛び出す時に邪魔をするのは賢明ではないと他のゴブリン達は知っていた。彼らはこういった気分のスクリックルを以前にも見てきており、彼の怒りを買いたくはなかった。もしくは彼の掘り出し棒の怒りを買いたくはなかった。槌角の歯が一つ縛りつけてあるその棒は伝説の杖だった。
スクリックルの偉大な祖父であるスナークルが、血まみれになってヤバヤバな所から戻ってきたのはある夜のことだった。彼の腕にしっかと抱えられていたのはとてつもなく巨大な、剃刀のように鋭い歯で、それは月光にきらめいていた。スナークルは深いねむねむに落ちる前に、それを槌角から引き抜いたことについて何か呟いていた。だがゴブリン達が目覚めないねむねむの類ではなかった。老スナークルに死地はない、その時ではない。
もちろん、その素晴らしい歯とそれが持つと噂される力について、陰謀と強欲が巣にざわめいた。だがスナークルはタフなゴブリン中のタフなゴブリンであり、そして深いねむねむにあってさえ彼の名声は怖れられるものだった。彼が目覚めると、その歯で何をするつもりなのかをゴブ達は知りたがった。ある者は言った、それは痒い所を治すことのできる魔法の力を持つと。またある者は言った、それは炎を噴き出して虎斑の猪を一瞬でこんがりと焼くことができると。他の者は言った、それは古のゴブ達の神であり、トウモロコシと花びら虫を捧げて崇拝しなければいけないものだと。
だがスクリックルの偉大な祖父には別の考えがあった。
「この歯で地虫を掘るぞ」 彼はうなり声を上げた。
スナークルはその歯を手にし、彼の偉大な祖父のヒッコリー材の杖に結びつけ、二度叩いてその丈夫な作品に頷くと、ヤバヤバな所へと元気な足取りで出発した。巣の者達は息を飲んだ。
そのためスクリックルは出発した時、彼は地虫狩りスナークルの炎が自分の血の中に燃えているとよく知っていた。あの時以来、地虫を狩るゴブリンはいなかった。
あえて狩りに挑むゴブリンはいなかった。
ワームは子である地虫を熱心に守っており、彼らは地上にいようと地下にいようと、結構な距離からゴブリンの匂いを嗅ぎつける。地虫狩りはその痕跡を知り、音を聞き、兆候を嗅ぎ取らねばならなかった。だがそのヤバヤバな所には持ち帰るべき別の宝があった。スクリックルが自分のものとして手に入れたいと何よりも望むのは、大牙獣の牙だった。
そうすれば彼はかなりの尊敬を手に入れて、グローブルの顔の気取ったにやにや笑いを消すことができるだろう。グローブルは自分がかなりのお偉いさんだとうぬぼれており、スクリックルは彼をこれっぽっちも好きではなかった。彼は時々、グローブルがその錆ついた剣をいじるのを見ていた。グローブルのあざ笑う顔と小さな目が放つ何かがスクリックルに、その鉤脚のゴブリンに対して優れた警戒をさせた。グローブルは危険な考えを持っている、そして危険な考えを持つゴブリンほど予測不可能なものはない。
スクリックルは巨石を越えて小さな峡谷を抜けた。彼はゴブの名のもとに地虫を掘り、それを巣に持ち帰り、お世辞と称賛で迎えられ、王様のように食い、物語をいくらか語り、ブクブク酒をいくらか飲むつもりだった。そして彼は槌角の歯のついた掘り出し棒をグローブルの腹へ突き刺すだろう。そして心地よいねむねむに就いて、おしまい。
それは長い旅で、スクリックルはそのゴブリン脳が処理できるあらゆる感覚を駆使した。ゴブリンは通常集団で旅をするものだった。ヤバヤバな所にゴブリンが一人だけいたら、たやすく軽く食われてしまう。スクリックルはそれを知っていた。彼は全くもって騙されやすいゴブリンではなかった。スクリックルは硬く丈夫な皮と鋭い歯、鋭い嗅覚を持っていた。だが彼は知っていた、もしスクリルねばねばを手に入れるのが危険な仕事だというなら、いい大きさの地虫を自分で引っ張るのというはなかなかできないことだろうと。それを見極める必要があった。
だがスクリックルのクルミ大の脳は恐ろしい思考で占められていた。彼はその分厚い指の間に、掘り出し棒の滑らかな軸を感じた。彼は、自分が支配者だと運命づけられていると感じた。槌角の歯の重みは彼に、確かな権威の意識をくれた。彼こそが、他のゴブリンが夢見ることさえできなかった杖を持つ者だった。確かに、グローブルはスクリックルも含むあらゆるゴブリンが妬むナイフを持っている。だがそこに、スクリックルの棒にあるような印象的な衝撃や先祖代々からの価値はない。この棒には力があり、それはスクリックルを他の全てのゴブリンよりも......何かこう......優れたものにしてくれる。もしかしたらそれは古のゴブの神によって彼に与えられたのかもしれなかった。
スクリックルの顔に僅かなにやにや笑いが広がり始めていた。
他の皆よりも優れているという感覚はいいものだった。
スクリックルは新たに見出した独自性を支えるための世界を創案し創造すべく、興奮して頭脳を働かせ始めた。ゴブリンの王に自分はなる。スクリルねばねばはもう要らぬ。何百人もの不潔な仲間を地虫平原に放り、その汁気たっぷりの肉を彼の食卓に運ばせるだろう。彼は法を作り、下等な仲間達へと高らかに宣言するだろう、犬の毛皮の敷物へと鼻たれゾウムシのように急いでひざまずけと。
愉快なことになるだろう。
王となるべきスクリックル、ヤバヤバな所さえも彼を見て身震いをするだろう。そして先祖伝来のすごすぎ掘り出し棒は彼だけが所有すべきものだ。彼の手はその棒をきつく握りしめた。誰もこれを奪うことはできない。もし試したなら、そいつはその腹で直接、棒に取り付けられた歯を食らうことになるだろう。
スクリックルはグローブルの顔を目の前に思い浮かべ、屑食らいのように歯を見せて笑った。
「ふうむ、それは本気かね?」 スクリックルは架空のグローブルに向かって声を上げた。「お前のそんなナイフで俺様から奪おうというのかね?」 スクリックルは「お前の」という言葉に格別の毒を込めた。
スクリックルは槌角の輝く歯がついた棒で、積み上げられた丸石へと狙いをつけた。彼にとってそれは今や、にやつくグローブルだった。
スクリックルは不器用で劣った架空のグローブルがくり出したナイフを避けた。
「はッ! 馬鹿な臭虫め!」 スクリックルは棒をひねって振り回し、架空のグローブルの手からナイフを叩き落した。「わかっただろう、グローブル、お前が王にふさわしくない理由を。お前は生きている事さえふさわしくない!」 スクリックルは叫び、棒を持って突っ込んだ、そして自身の横柄な棒術だけではなく圧倒的な機知に惚れ惚れした。彼は確かにそれを架空のグローブルに叩きつけた。それはいい気分だった。本当にいい気分だった。
いい気分すぎて彼は気付いていなかった。地面が振動する鈍い音も、巨大で足の形をした物体が彼と架空のグローブルの哀れな屍に今や影を投げかけていることにも。
轟く衝撃、そしてそれはこだまを残して、狂気から生まれた虚栄の希望とともに消えた。
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