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背景世界のアイコニック 第2回:新ファイレクシアと五人の法務官
背景世界のアイコニック 第2回:新ファイレクシアと五人の法務官
by Mayuko Wakatsuki
こんにちは、若月です。
マジックの物語において「アイコニック」な悪役といえば何を思い浮かべますか? 古龍ニコル・ボーラス、無の巨怪エルドラージ、そして......機械の帝国ファイレクシア。
ファイレクシア。多元宇宙において、その名はただの地名や勢力という以上の恐ろしさをもって口の端にのぼります。第2回は『アイコニックマスターズ』で収録された新ファイレクシアの「法務官サイクル」とその背景を紹介します。
1.ファイレクシアとは
ファイレクシアの名が初めて歴史に登場したのはドミナリア次元、ウルザとミシュラの「兄弟戦争」よりも遥か昔の時代においてでした。繁栄を極めた古代スラン帝国に生きた一人の人間、ヨーグモス。首都にはびこる謎の病を研究していた彼は、あらゆる動力源として使用されているパワーストーンがその原因だと突き止めます。治療の為の隔離施設を求めた彼は、ある時出会ったプレインズウォーカーから、無人となって久しい「別の世界」――次元を紹介されました。ヨーグモスはそれをファイレクシアと名付け、意のままに作り変えるとともに「生命と機械の融合」を求めて実験と研究を開始しました。
やがて、ファイレクシアとスラン帝国との間に戦争が勃発します。その戦争は最終的に帝国を滅ぼし、ですがヨーグモスもドミナリアへ繋がる唯一のポータルを閉ざされ、ファイレクシアに閉じこめられてしまいました。プレインズウォーカーではない彼に、自力で戻ることは不可能でした。ヨーグモスは待ち続けることになります......やがてあの兄弟が訪れた遺跡で、偶然にもそのポータルを開いてしまう日まで。
その間の数千年をかけ、ファイレクシアは静かに発展しました。黒マナと金属と屍肉と生体で構築された弱肉強食の生態系、不自然に加速された進化、ヨーグモスを頂点とする教会組織にも似た階級社会。悪夢のような世界の生存競争、言語に絶する進化を経てファイレクシアはただ戦争のため、殺すための多種多様な生物とアーティファクト、その混合物からなる軍勢を作り上げました。
そして長い年月を経て、ファイレクシアはドミナリアへの侵攻を開始します。プレインズウォーカー・ウルザや飛翔艦ウェザーライト号を筆頭とし、ドミナリアの全てが団結して立ち向かいました。次元の門から艦隊が送り込まれ、疫病が世界中に撒かれます。敵の中には、数奇で悲惨な運命からファイレクシアへ堕ちた、かつてのウェザーライト号乗組員の姿もありました。
多大な犠牲を出しながらも、最終的にファイレクシアとヨーグモスは打ち負かされました......ですがファイレクシアは完全に滅んだわけではありませんでした。銀のゴーレム、カーンの内に潜んでいた「ファイレクシアの油」は、後に彼が創造したミラディン次元へ持ち込まれ、管理人であるメムナークを汚染しただけでなく、その金属世界で急速に広がっていきました。
機械生命を主とするファイレクシアにとって、全てが金属のミラディンは格好の苗床でした。油からファイレクシアは成長し、人々がその影響に気付いた時には既に遅すぎました。世界をかけた抵抗も空しく、ミラディンはその名を失って「新たなるファイレクシア」となったのです。
2.新ファイレクシアの五つの派閥と法務官
前述のように、かつてファイレクシアは黒のマナのもとに発展しました。ですがミラディン次元で再興した彼らは五つの強烈な太陽に影響され、色別の五勢力に拡散・発展しました。かつて持たなかった多様性を手に入れたわけですが、見方を変えれば統一性を失ったということでもあります。各色の勢力が「法務官」を筆頭に、その色の性質を体現する派閥を形成しています。
白:機械正典/エリシュ・ノーン
白のファイレクシア人はエリシュ・ノーンの主導のもと、「機械正典」と呼ばれる派閥を形成しています。彼らはファイレクシアの聖書「銀白の刻文」を非常に直訳的に崇拝しながら、ファイレクシアの名とその完全な階級社会のもとに多元宇宙を統一する手段を追い求めています。統一、彼らにとってそれは概念的な意味でもあり直接的な意味でもあります。思想を広め、吹き込むだけではなく、彼らの多くは身体の皮膚すらも個々を隔てる究極的な境界とみなしています。彼らは皮膚を剥がされるか元々持たずに生まれ、代わりにエリシュ・ノーンに見られるような白磁に似た金属をまとっています。
機械正典は、一つの教えのもとに厳格な階級組織を形成しています。色こそ違え、その宗教的性質はかつてのファイレクシアに最も似通っているかもしれません。エリシュ・ノーンの肩書「大修道士」も、機械正典の聖職者らを統べる最高位の存在という宗教的な意味を帯びています。機械正典には幾つかの分派が存在しますが、エリシュ・ノーンはその全てを統べる長として尊敬されており、配下である何千というファイレクシア人を率いています。彼女はあらゆる生命へとファイレクシアの教義を教え込むことによって、全ファイレクシアが統一されることが重要だと固く信じています。
現在の新ファイレクシアにおいては、エリシュ・ノーンは他勢力に対して勝利を収め、最も有力な法務官として君臨していると伝えられています。
著名な人物
ファイレクシアがミラディンを征服する最後の戦いにおいて、とある天使が捕獲されました。ノーンはその不屈さに感銘を受け、ファイレクシアの「完成」によって彼女を称えようと決めました。ノーンが他の法務官らにも声をかけると、ウラブラスクを除く三人が賛同しました。そうして誕生したのがファイレクシアの天使、「法務官の声」アトラクサです。彼女はファイレクシアの完全勝利を示す象徴とされています。
黒:鋼の族長達/シェオルドレッド
信者は隷属する。不信者は隷属させる。「隷属」、それが黒派閥の唯一無二の目的です。
元々のファイレクシアは黒マナのもとに隆盛し、この次元でもまた屍気漂うメフィドロスから興りました。あるいはメムナークの時代から、そこに棲む者らはファイレクシア化していたのかもしれません。
黒の派閥は更に七つの勢力に細分され、それぞれの長である「族長」らが支配を巡り争っています。ある者は力をもって、ある者は外交手腕と策略をもって、メフィドロス、核内、はたまたオキシダ山脈との境に領土を維持し、最終的に頂点へ登りつめることを目指しています。彼らにとっては勝者こそ正義。どのような不実も裏切りも、勝ってしまえば正当な行為となるのです。
シェオルドレッドは小柄な女性の人型生物と怪物の大口からなる美しき異形です。ちなみに二つの身体は着脱が可能なのですが、その様子を見た者はほとんどいません。法務官でありながら彼女もまた黒派閥内の一勢力を統べる族長であり、絶えずその権力は試されています。シェオルドレッドは並外れた聡明さと知性をもって、直接的な力よりも情報収集と巧みな操作でその座から陰謀を巡らせています。その目的は無論、黒派閥だけではなく全ファイレクシアの支配です。
著名な人物
七人の族長はその姿も思想も様々です。そのうちの一人であるゲスは、メムナークの時代からメフィドロスの沼地を支配していました。かつて英雄グリッサ・サンシーカーと共に戦ったこともある彼は、首だけの姿になっていた所に新たな身体を与えられてファイレクシアに下りました。それからも彼は囁きの大霊堂に君臨し、黒派閥内での様々な抗争の中でもその座を維持し続けていた姿が確認されています。
青:発展の動力源/ジン=ギタクシアス
かつてのファイレクシアにおける「宗教」的な面を最も受け継いでいるのが機械正典だとしたら、「医学実験室」的な面を最も受け継ぐのがこの青派閥、発展の動力源でしょう。巨大な研究施設と化したルーメングリッドにて彼らは日々想像を絶するおぞましい生物実験を行い、法務官ジン=ギタクシアス自ら記した「大いなる統合の書」を規範としてあらゆる種族を完成させ、ファイレクシアの究極的な創造物をもたらすことを目指しています。
また、この派閥にはニコル・ボーラスの命令により侵入していたプレインズウォーカー・テゼレットが一時期身を置いていました。彼は一時ファイレクシア内でのし上がろうとしましたが、ファイレクシアがミラディンを完全に支配すると呼び戻され、異なる任務へと送り込まれました。
法務官ジン=ギタクシアスは科学だけでなくシェオルドレッドの屍術をも取り入れ、自身の哲学のもと熱心な生体実験を行い、彼自身が「完成」と目する究極的な姿と機能を持つファイレクシア人を生み出そうとしています。かつてのファイレクシアの長であるヨーグモスについては、その狡知と洞察力と野心は認めつつも、物事を最初から最後まで通して考えなかったために失敗したとみなしています。彼にとって完成とはその全体プロセスを含めた概念でもあるのです。また彼は緑の法務官ヴォリンクレックスを愚直な獣として嫌い、溶鉱炉階層に引き籠る赤のウラブラスクについては何かよからぬ事を企んでいるのではないかと疑っています。
著名な人物
エズーリはファイレクシアの影響に最初に気付いたミラディン人の一人でした。当初は絡み森にて抵抗勢力を率いるも、ファイレクシア勢力が拡大すると地下深くへと撤退せざるを得なくなりました。ファイレクシア病からの抵抗力を与える人間の少女メリーラを入手しようとするも叶わず、やがて青派閥に捕われて「完成」させられました。今やエズーリは完全にファイレクシアの一員となり、その大義のために働いています。
緑:悪意の大群/ヴォリンクレックス
緑の思想は弱肉強食、適者生存。それはファイレクシアでも変わりません。悪意の大群はその自然の摂理を至上とし、生存競争こそが「完成」への道であると信じています。
この派閥が支配する領域、絡み森にはかつてエルフやトロールが緩やかな共同体を築いていました。ですが今やそこは一切の社会構造を排除され、捕食者の本能だけが支配する過酷な生存競争の場と化しています。彼らにとっては強者による支配が全てであり、個々の分別や組織といったものに価値はありません。そのため青の派閥、発展の動力源は彼らの生存競争を「進化」とは認めず、野蛮なものとして嫌悪しています。
ヴォリンクレックスは法務官でありながら、その身体には未だ多くの有機組織を保持しています。彼にとってこの次元は一つの巨大な闘技場のようなものであり、弱肉強食と自然淘汰の理念こそがファイレクシアのあらゆる弱点を克服するものだと信じています。
絡み森の支配者とされている彼ですが、滅多に姿を現すことはありません。実質的に悪意の大群を支配し、自軍内での生存競争だけでなく他勢力やミラディン人との戦いを率いているのは、ファイレクシア化したエルフのグリッサです。
著名な人物
かつてのミラディンにおいて狂気の管理人メムナークを打倒した英雄、グリッサ。ですがその後の混乱をもたらした犯人とみなされて追われてしまいます。親友スロバッドとも離れ離れとなり、彼女はミラディンの核へ逃げ込むと長い眠りにつきました。更にその間にファイレクシアの油に侵食され、やがて狡猾かつ残虐な支配者となって故郷であった絡み森へ帰ってきました。目的は、最強かつ最恐の存在こそが支配する体系を作り出すこと。
後に、プレインズウォーカー・テゼレットと対決する彼女の姿が目撃されています。やがてテゼレットは新ファイレクシアを離れてカラデシュ次元での別任務に就きますが、グリッサの生死はわかっていません。
赤:静かなる焼炉/ウラブラスク
赤の派閥はファイレクシアにおいて最も異質な存在です。赤のマナが表すのは感情、自由、個人主義。それらは機械と支配の階級組織として興ったファイレクシアとは相容れないものです。はからずもそのような性質を得てしまったこのファイレクシア人たちは実際、自身が抱く矛盾へと非常に困惑しました。
そしてその特質がミラディン人にとって思わぬ救いとなりました。赤派閥が支配する溶鉱炉階層へ避難民が逃げ込むと、ウラブラスクはそれを黙認しました。感情から生まれる「共感」を知ってしまったファイレクシア人は、ミラディン人を(少なくとも積極的には)排除することはせず、ただファイレクシアの支配のために燃料や原材料を供給するという自らの役割に専念することで葛藤を乗り切ろうとしたのです。そして他派閥を嫌悪してそれらを閉め出したことから、溶鉱炉階層には避難民が集まり、ミラディン勢力の生き残りにとって最後の砦となりました。
ウラブラスクは可能な限り沈黙を守り、他の法務官らによる召集にも滅多に応えません。鋭く鍛えられた鋼の殻、激しい熱や有毒ガスを発する極めて危険な身体にその気難しさと気性の激しさが合わさり、誰もがウラブラスクを可能な限り避けています。ミラディン人に対して見てみぬふりをする中、彼の心は少しずつ無視から他派閥への反発へと傾きはじめました。そして自らの役割に専念するためとして、他派閥へと溶鉱炉階層の立ち入りを明確に禁じました。
他の法務官らはその言葉を尊重し、自らの領域で自らの役割に勤しんでいると思しきウラブラスクをさほど気にかけてはいません。ジン=ギタクシアスだけは漠然とした疑惑を抱いていますが、何らかの行動を起こすには至っていません。
3.新ファイレクシアの現在
ミラディンが完全に変質してから、しばしの年月が経過しました。今や多くのプレインズウォーカーの間でとある噂が流れています。ファイレクシアが蘇った。多元宇宙の安全のため、その地に足を踏み入れてはならない......と。かつてミラディンを救おうとしたプレインズウォーカーも、今や槌のコスだけがその次元で不屈の戦いを続けています。「勝利が存在しないのなら、永遠に戦うまでのことだ」という自らの言葉をその行動で示すように。創造主であるカーンは油から解放された後、自らの足跡を浄化する旅に出ました。その行方は長いこと定かではありません......
「背景世界のアイコニック」は以上となります。次の記事は12月、『イクサランの相克』に向けてそのプレインズウォーカー達のおさらいを予定しています。どうぞお楽しみに!
(終)
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