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MAGIC STORY
ギルド門侵犯
フブルスプ
読み物
Uncharted Realms
フブルスプ
Matt Tabak / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2013年2月27日
フブルスプの唇から洩れ出す音は、よく言ってむずかり程度だった。彼はラヴニカ市民に普及しているどんな言語も話せなかったが、死に物狂いで発した苦悶の響きは即座にそれとわかるものだった。不幸にも、フブルスプが今いる小路は見たところ無人だった、そもそもそのむずかりの原因となった本人以外は。
荒れた手が小さなホムンクルスの腕を掴んで、一人の屈強な人間と目を合わせるほどの高さにまで持ち上げた。その人間の顔は穴だらけの酷い形相で、軽蔑の笑みにねじれていた。フブルスプは押し黙り、本能的に震えだした。彼がこれまでに経験した最も怖いことだった。そして彼がこれまでに経験した、最も地面から高い場所だった。捕獲者は笑い声と、敷石をこする靴音を発した。急使が信書をそうするようにフブルスプを腕に抱え、近隣の人々にラクドス教団の支配地域として知られる方角へとその人間は去った。こんなはずではなかった。
フブルスプは再びむずかり始めた。
フブルスプはアゾリウス評議会にて、自身の奉仕を非常に快適にこなしていた。仕事場である安全で比較的簡素な行政官の庭園から離れることは滅多になく、彼の義務もまた比較的簡素なものだった。様々な泉や水路の行き交う広い歩道のごみを掃除し、有名な立法者の像下部に飾られた銘板を磨き、そして何か揉め事があれば警備担当へと知らせる。その場所ではいかなる争いも禁じられていたため、最後の仕事は滅多に行われなかった。
評議会へと奉仕する多くの者達と同様、フブルスプは法によって彼の持ち場へと定められた基本的な保護と手当てを満喫していた。事実、彼は主からの扱われ方に極めて慣れていた――つまり、無視されることに。彼は食事とちょっとした家のようなものを与えられていた。庭園の草花の中での仕事は時折、彼をアレルギーで悩ませた。そのため評議会は彼の瞳の痒みが悪化しすぎないよう、目薬を提供した。安全で素晴らしい生活だった。
行政官の庭園を他ギルドの構成員が訪問するのは珍しいことで、部外者の姿が見えるとフブルスプはいつも怯えた。葉をまとったセレズニアのドルイド達は全くわけのわからない祈り文句を唱えながら彼をかわいがったが、そう悪くはなかった。シミックの研究者達は時折、フブルスプを蝙蝠やイソギンチャクと掛け合わせようかと呟いていた。そんな時はいつもフブルスプは庭園の向こう側での仕事を忘れていたことを思い出し、走って逃げるのだった。
ある日捨てられていた食べ残しやごみを拾うために、フブルスプが庭園の西端を歩いていると、人間の女性が彼へと近づいてきた。彼はその女性の堂々とした姿を装い――印章で飾られた鎧とコバルト色の装具から認識した。拘引者。とても奇妙なことだった。庭園を訪れた拘引者の大半は彼を完全に無視し、そしてもし偶然彼が道を塞いだならばしばしば彼を蹴り飛ばす。彼女はしゃがみこんで、フブルスプの瞳をじっと覗き込んだ。
「君がスブルプス?」 彼女は尋ね、その最後の言葉はホムンクルスの顔に唾を浴びせた。
フブルスプは二度まばたきをすると、わずかにお辞儀をした。
「私は第九管区担当の拘引者、パリーシャだ。イスペリアの布告、支給条項IV.126.3に基づき、君の協力を要請する。私と来てくれないか」
彼女はその手を差し出した。フブルスプはむずかった。
フブルスプは新プラーフを構成する三本の威厳ある塔、そのどれにも足を踏み入れたことはなかった。それらは途方もないほど高く、しみひとつなく輝いていた。痩せたヴィダルケンの男性によって、説明もなしに彼は一階の飾りのない控室に預けられた。ゆっくりと瞬きをすると、フブルスプはびくびくしながら彼の新たな環境を受け入れた。味気ない壁と、彼が役立てるには背の高すぎる質素な家具。そのため彼は立ったまま待った。
やがてパリーシャが木製の扉を開いて入ってきた。決然として有能そうで、だが冷酷な雰囲気はなかった。彼女は腰を下ろすと巻物を二本、机に置いた。彼女はフブルスプを期待の眼差しで見て、そして反対側の椅子を一瞥した。その無言の願いが通じなかったことがわかると、立ち上がってフブルスプを持ち上げ、椅子に乗せた。フブルスプがこれまでに経験した、最も地面から高い場所だった。
「これは」 パリーシャは最初の巻物を解きながら示した。「ヴァダクス・ゴー。この一ヶ月、こいつはあるラクドスの施設に関わっている。確か『娯楽クラブ』とか呼ばれている」 パリーシャはその言葉を苦々しく吐き出した。フブルスプはその奇妙な人間の絵を見てわずかに身震いした。その顔は傷跡やピアス、刺青で荒らされていた。そのやせ細った身体からは、かろうじて衣服としての条件を満たすぼろぼろの布切れが下がっていた。フブルスプは彼のような人物に遭遇したことは一度もなかったし、今後もそうであるように心から願った。
「ヴァダクス・ゴーはあらゆる類の悪行を楽しんでいる」 パリーシャは続けた。「だけど近頃彼の好みは邪悪なほどに特殊化してきた。彼の愚かさはもはや教団内に留まってはいない。彼は我々の市民二人の失踪に関与していると推測される。君の助けがあれば、三人目はない。調査団はゴーが誘拐と関係する直接の証拠を見つけるには至っていない。現行犯で逮捕しなければならない」
フブルスプはその大きな目をさらに見開いた。彼は一瞬、パリーシャに捕まる前に扉まで辿り着けないかと思案したが、それは馬鹿げたことだとわかっていた。もし拘引者に従わなかったら、元の仕事に戻ることは決して許されないだろう。それだけでなく、彼は今も高い椅子の上にいた。飛び降りても怪我をしないかどうかは定かではなかった。選択肢はなく、フブルスプはそっとむずかった。
「先の誘拐二件はこの革職人の店から二ブロック内で起きている」 パリーシャはそう言って地図を指差した。「我々は、この店の持ち主が何か関わっているのではと踏んでいる。もしかしたら、有望な目標が現れた時にゴーへと指示しているのかもしれない。君にはその店までこの税金書類を届けてもらいたい。同じものを三通、直ちに記入してもらう必要がある。もし我々の疑いが確かならば、君が出発してすぐにゴーは動きを見せるだろう」
もし彼女がそこで立ち去っていたなら、フブルスプは仕事のあるなしに関係なくきっと最愛の庭園へと走り去っていただろう。だが彼女は視線がふと和らげ、言葉を続けた。「怖がらなくていいよ、おちびさん。私が部下と一緒に、その地区のあちこちで見張っているから。君を見失わないようにずっと見ているから。危険な目に遭いはしないし、ゴーには君に指一本触れさせはしない。数日のうちに、行政官の庭園に戻ることができるから。イスペリアの布告は、君を失わせてはいけないと私に告げているんだ」 そして彼女はわずかに微笑んだ。
フブルスプ自身、その言葉を頭から信じたわけではなかったが、彼は身震いをやめてゆっくりと頷いた。
フブルスプは昔から人ごみが嫌いだった。その視線を通行人から通行人へと素早く投げかけながら、彼は混みあったラヴニカの往来を駆けた。彼が好む通りに、彼へと特別注意を払う者はいなかった。同時に彼を避けようと何かしら努める者もいなかった。フブルスプは目的地へと到着するまでに、何度も蹴飛ばされかけた。
《道迷い》 アート:David Palumbo |
その革職人兼経営者は人間だったが、それは法律上のものでしかなかった。体躯はオーガほどもありその倍は不細工な彼は、フブルスプの前にそびえ立つと不平を言った。フブルスプが大人しくその鞄を差し出すと、男は再び文句を言ってそれを開いた。彼が書類を読み始めると――考えてみると、それは印象的な妙技だった――食べ物の欠片がもじゃもじゃの髭から落ちた。男は雷のような騒音を轟かせながら物置へと向かった。フブルスプは瞬きをして、床に落ちた食べ物を疑わしげに一瞥した。
少しして、店の所有者が現れてフブルスプへと完成した書類を押しつけた。フブルスプはお時儀をすると踵を返して去ろうとした。その男は再び騒音を上げたが、フブルスプはそれが何故だかはわからなかった。教えられた通りに、彼は小路を曲がって店の裏へと向かった。彼が小路へと姿を消す寸前、近隣の果物市場の店員に変装したパリーシャがホムンクルスへと目配せをした。それは彼を安心させた。
フブルスプは小路を歩いていった、ゆっくりと、だが大きくなる信頼とともに。彼はパリーシャと彼女の部下が今にも逮捕する様子を想像した、そうすれば庭園へと戻ることができる。庭園の水路を緩やかに流れる水に想いを馳せた時、彼の背後で恐ろしい破壊音がした。彼はパリーシャや拘引者の誰かがいないかと慌てた。その代わりに、ヴァダクス・ゴーの恐ろしい姿が影の中から現れた。フブルスプは鞄を落とし、むずかった。
背後に犯行現場を残し、ゴーの確信と速さは共に増していった。フブルスプは目を閉じて、その運命が彼を待ち受けていないことを願った。彼はゴーが交差点で左に曲がったのを感じた。次に右へ。そして唐突にゴーは立ち止まった。フブルスプは驚いてわずかに目を開けた。彼は身動きできないまま、ゴーを視界にとらえようと身悶えた。彼は何が起こっているのかを理解できず、もう少しだけ目を開けた。
パリーシャが全力疾走で彼の背後に現れた。「ヴァダクス・ゴー」 彼女は荒い息の下から叫んだ。「あなたを逮捕します」 彼女は二人に近づき、ゴーの手からフブルスプを取り返した。フブルスプは身動きのできないゴーを取り巻く青い球体に気が付いた。
「ごめんなさいね、おちびさん」 パリーシャは呟いた。「あの革職人も何か疑わしかったのは間違いないのだけど、追及を始める前に私の部下の一人を攻撃したんだ。少し遅くなってしまったけど、もう大丈夫だよ」 彼らにもう数人の拘引者が素早く加わり、ヴァダクス・ゴーの図体を小路から広場へ引っ張っていった。
フブルスプはリーヴ塔の六階、控えの間に立っていた。それは彼がこれまでに経験した、最も地面から高い場所だった。パリーシャは彼の隣に立っていた。静かに彼女は振り向き、少し腰を曲げて彼へと頷いた。フブルスプが気付かなかった大理石の扉が見えざる蝶番から開くと、ずんぐりとしてローブを纏った役人がその部屋へと入ってきた。
パリーシャは敬礼した。「判事様」 彼女は恭しく挨拶をした。フブルスプはまばたいた。
「拘引者よ。任務成功おめでとう。これが君の報告にあった子かね?」 彼は書類の一枚から覗き込んだ。「クスルシプ君?」
「はい、判事様」
「よろしい」 年長の役人は足元ほどの背丈のホムンクルスに視線をやった。「イスペリアの布告、支給条項III.875.2bに基づき、評議会とラヴニカの忠実なる人々の代表として、私の感謝を受け取ってくれ。金銭的な報酬は許可されていないが、君が死ぬに際して、栄誉ある行いを称える銘板を作ってくれと君の子孫が評議会に請うかもしれないな」 そして彼は踵を返し、退出した。
パリーシャは部屋の南出口を指した。「行こう、君の仕事へと戻ろう」 フブルスプはあの庭園を再び目にしたいがために、扉へと飛び付くところだった。
「少なくとも、次の時までね」
フブルスプはむずかった。
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