MAGIC STORY

ダスクモーン:戦慄の館

EPISODE 02

サイドストーリー ようこそ、館へ

Seanan McGuire
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2024年8月19日

 

 ようこそ、痛ましき……いえ、栄誉ある……お客様方。応接室で皆様がお騒ぎになられているのを聞き、我々の……あまり文明的ではない住民たちを怒らせてしまう前に、私のところまで来て頂けることを願っておりました。我々はずっとここにおりました。他の場所への扉が発見されるようになったのはごく最近のことなのです。長い間を孤独に過ごすと礼儀作法は損なわれてしまうもの。そうは思われませんか?

 どうやらそれは私も同じようです。どうぞ、お座りください。今のところ、ここは安全です。この状態がどれほど長く続くかは断言できません。ダスクモーンにおいて安全は一時的なものです――とはいえ、一息つくだけの時間は約束致します。今は他者から提供されない時間の方が遥かに良いものであると、いずれお客様もお気づきになられるかと思います。どうぞ、お寛ぎください。

 ここは私の晩餐室です。私はこの場所を所有し、他の住民たちから守っております。彼らも私を放っておくことを学んでおります――その方が自分たちにとっても利益となりますので。館のこの区域はボイラービルジと呼ばれております。暑さにつきましてはご容赦願います。室温を下げることは全く不可能なのですが、悪影響を感じるまでここに留まる方々はほとんどおられませんので、こういった様々な場所でできた世界の中では些細な問題です。

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アート:Ralph Horsley

 世界? そうです。ダスクモーンです。ああ、その名前はこの館を指していると思われましたか? そうです。館は世界であり、世界は館であり、その両方を示す言葉がダスクモーンなのです。太陽が手から滑り落ち、寒さと不幸せが到来する悲しみを示す名前です。

 いえ、ずっとこうだったわけではございません。かつてこの次元は他の次元と同じように、安全もあれば危険もあり、友好的なものも敵対的なものもございました。山や海、都市や海岸がございました。図書館を見つけることができるなら、写真が載っている本がございます。きっと美しい風景だったのでしょう。

 ですがその人々は不満を抱いておりました。魔法は希少な資源であり、ごく少数の者によって統制されておりました。他の人々は魔法がもたらすであろう安楽を、つまり人生という漆喰の表面を滑らかにする手段を切望しておりました。そして自分たちで魔法を利用する方法を見つけ出そうとしまして、非常に残念なことに、その方法を見つけ出したのでした。

 後にダスクモーンとなった地の人々は、命なき虚無からある種の生物を召喚する術を学びました――飢えと荒々しい力を持つ生物です。それらは必ずしも邪悪な存在ではございませんでしたが、貪欲でした。契約と同意を糧にしておりました。招待を切望しており、その招待がなければ何もできませんでした。当初は小さなものでした――奇妙な機械を機能させ、生活を楽にし、照明を点し、食料を保存してくれる生物です。そこで止めていたなら、ダスクモーンは楽園になっていたかもしれません。虚無の飢餓の上に築かれる楽園であろうとも、楽園であることに変わりありません。

 ですが悲しいかな、強欲とは知的生命体のあり方。それらが自由を得たなら何が起こるかも考えず、人々はますます強大な存在を召喚するようになりました。そしてある日、制御できないほどに強大なものが、ごく普通の街の郊外にあるごく普通の家に、ここに束縛されました。その時点であっても、物事は全く異なった違った方向に進んでいた可能性はございました。ですが何者かがその生物――いわゆるデーモンに遭遇し、デーモンは契約を持ちかけ、相手は応じました。代価が支払われ、ついにデーモンは意のままに食すことが可能となりました。

 召喚、束縛、契約、殺戮、裏切り、そして結果――ダスクモーンはこれらより生まれました。自身でも理解できない何かを最初のその人物が要求した時点で、この場所は必然となったのです。その生物は、すべきことをしました。食い尽くし、約束を守りました。館は安全でした。館は保護されました。

 館は膨れ上がった死体となって世界のすべてを飲み込みました。やがて食べるものはなくなり、残ったのはダスクモーンそのものと、その壁の中にいるネズミのような生存者のみとなりました。

 そして、何かが変化しました。何が起こったのかは存じ上げません。ただ突然、館は新たな場所に新たな扉を開くことが可能となったのです。これまでにはなかった場所から仲間を求めることが可能となりました。自分たちのものではない肉を食すことが可能となりました。

 ああ、そうですね。長く座っておりますと、立ち上がるのは困難になってしまいます。椅子は与えられたものを捕えておきたがりますし、お客様はその通り、進んで座られました。契約と結果です。とはいえお客様は少し前に息を整えられました。それは私が約束した安全のすべてでした。

 ご覧の通り、館は飢えております。そしてその人々を説得できたなら――館が最初の数口を食べ終わるまで戦わぬように、と――私は自分の小さな空間と、自由という見せかけを保つことができるのです。私は死にたくないのです。誰も死にたくはないでしょう、ですが賢い私はここで生き残る方法を学びました。一方、お客様は何処の世界から来られたのかは存じませんが、教訓を逃したようですね。さぞかしお優しい世界だったに違いありません。

 あまり飢えてはいなかったに違いありません。

 ですが、私の話はまだ終わりではございません。ダスクモーンは目覚め、ダスクモーンは飢え、そして成長して自身以外の虚無の破片すべてを飲み込み、その壁の中に大切に仕舞い込んでおります。ひとつひとつの食欲は小さく、ですがどれほど食べようとも満たされません。それらは館に仕えているのです。長き時を経て、それらは館となったのです。お客様も間もなくそうなるでしょう。

 ああ、叫んではいけません。非常に厄介ですし、先程まではとても楽しい会話をしていたではありませんか。それでも、どうしても、どうしても叫ばなければならないのであれば、それはお客様の権利でありましょう。

 ダスクモーンは叫び声が大好きですので。

 さて。晩餐に残って頂きまして、本当に感謝致します。とはいえ私はまだ一緒に行くことはできません。私が晩餐室に食物を与え続けられる限り、晩餐室は私を食べる必要性を感じないでしょう。それでは、ここでお別れです。お客様の霊がお代わりを欲して戻ってくるのでなければ。

 もしもそうなりましたら、私はお待ちしております。


(Tr. Mayuko Wakatsuki)

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