MAGIC STORY

イニストラードを覆う影

EPISODE 14

部族再訪

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部族再訪

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年3月18日


 我々が『イニストラードを覆う影』に取り組むにあたって、このセットが初代『イニストラード』の「部族関連」のテーマを引き継ぐことはわかっていたので、各部族ごとにロードを必要としていました。しかしながら、それについて考えるにあたって我々がしばしば見逃してしまうことは、『イニストラード』と『闇の隆盛』の間の分離です。

 確かに、『イニストラード』にはいくらかの部族テーマがありましたが、『闇の隆盛』のほうにはるかに多く存在しました。私は特にこのリミテッド環境は部族カードの強さの多くが『闇の隆盛』にあり、特に同じようにそれらがプレイされると少し楽しさに欠けていたと個人的に信じています。これらの部族は『イニストラード』ではお互いが大きく異なる雰囲気を持っていましたが、そのいくらかは『闇の隆盛』への移り変わりの中で失われてしまいました。


ドラグスコルの隊長》 アート:Peter Mohrbacher

 『闇の隆盛』の部族の問題は量ではなく、単純な強さだと私は思います。アンコモンの部族ロードはパックから出てくる最強のアンコモンであり、かなりやり過ぎです。それらのうち1つをドラフトしてそれと同じ部族をたくさん持っていれば、そのロードを引けば基本的に勝てます。これにより『イニストラード』3つのドラフトにあった多くの繊細さが失われ、「俺の勝ち」ボタンに置き換わってしまいました。

 『闇の隆盛』のアンコモンは40枚しかなく。そのうち4枚がこれらのロードであることにより、1回のドラフトで出てくるロードは2.4枚になります。それらは通常その部族のデッキのプレイヤーのところに行くでしょう――もしくはそれを開けた人にその部族に向かうように伝えるだけになります。

 これらのカードの主な問題は、同じデッキを推奨していて、そのデッキは理想的ではないことです。1つの部族のクリーチャーをたくさんプレイして、その部族のロードを唱えて、たくさんで攻撃します。これは機能はします。これは我々の両親が行い、そして祖父母が行ってきた方法ですが、できうる限り最高に面白いと思うようなものではありませんでした。

一方で我々の曾祖父母には、対になった《アトランティスの王》と《真珠三叉矛の人魚》の他には何もありませんでした。そして彼らはそれが好きでした。

 あなたが誰かに負けたとき、《戦墓の隊長》と《ドラグスコルの隊長》を見分けるのはどちらも似たような動きをするので困難です。私は全ての部族が同じようにプレイされないということが大事だと考えています。人間が横に並ぶアグロデッキに適しているとして、吸血鬼や狼男も同じならば、それらのデッキすべてはごっちゃになってしまうでしょう。これはまた、それぞれの部族で個別のクリーチャーが同じようなマナ・カーブを持っているようにしなければならないということで、結果それらはすべて同じ戦略に対して弱くなるでしょう。

 『イニストラード』を思い返してみると、吸血鬼は擬似スリス(つまりプレイヤーにダメージを与えると+1/+1カウンターが置かれる)、ゾンビは自分のライブラリーを削るテーマ、そして狼男は......そう、変身メカニズムを持っていました。これは素晴らしいことです。人間は(悪名高き《不可視の忍び寄り》と《肉屋の包丁》のコンボを除けば忘れられがちですが)装備品のサブテーマを持ち、スピリットはやや一般的な白青の飛行デッキに落ち着きました。『イニストラードを覆う影』のデザイン段階に起こったことの一部に、その部族にもっと独特なテーマを与えようとしたことがありました。人間は引き続き横に並び、ゾンビは依然として墓地のメカニズム(しかし少し違います)を持ち、吸血鬼はマッドネスを持ち、スピリットは明滅を持ち、そして狼男は......そう、彼らはあなたがよく知り大好きな狼男のままですが、今回は一緒にプレイするインスタントがもっと多くあるようにしようと我々は試みました。

 『イニストラードを覆う影』がデベロップに入るとき、非メカニズム的見地でこれらの部族を見たときに何を目標とするかということが大きな疑問として浮かび上がりました。タイプ行にどれだけ焦点を当てるべきで、そしてどれだけメカニズム的見地に当てるべきなのでしょうか? もしこれが『ローウィン』なら、それが極めて強力でない限り、自分の戦略に合致した自分の使う部族ではないクリーチャーを使わないように圧力をかけられるでしょう。我々はまだ慣れていないプレイヤーが1つの部族だけをピックして成功できるようにしたいのですが、より経験を積んだプレイヤーがドラフトとデッキ構築の両方で興味深い決断を下せるようにもしたいと考えています。

 最終的に、我々は『イニストラード』と『闇の隆盛』間のレベルをある程度整理して、各部族を支援するがそこまで強くはないコモン2枚と、いくつかのより強力な支援を行うアンコモンとレアを作ることにしました。これの狙いは、人々が部族デッキをドラフトできるようにし、しかし友好色の組み合わせでは部族テーマ以外のデッキも可能にすることです。つまり、赤黒のデッキを吸血鬼に大きく焦点を当てて組むこともできれば、たまたまいくつかの吸血鬼とうまくいったマッドネスでアドバンテージを取ることに大きく焦点を当てて組むこともできるということです。あなたはどちらもやることができて、もしくはどちらでもない除去を多く積んだデッキを組むこともできます。実際、それはあなた次第です。


物騒な群衆》 アート:Ryan Pancoast

構築フォーマット向けに部族を機能させる

 もちろん、リミテッドで機能させることが全てではありません。構築フォーマットはまた別物です。『イニストラード』の部族デッキのほとんどは構築フォーマットで《原始のタイタン》の入った《ケッシグの狼の地》ランプや《秘密を掘り下げる者》デッキに見劣りしていたものの、存在はしていました。人間、スピリット、吸血鬼、ゾンビは全てデッキがあり、これらの部族は明らかにプロツアー・レベルではなく店舗レベルにおいてならば成功を収めていました。我々はこの成功を『イニストラードを覆う影』でも繰り返したいと考えています。

 『イニストラードを覆う影』のデベロップ代理としての私の仕事の1つは、その過程の初期に構築フォーマットでプレイされたら楽しいレアを作り始めることでした。理想的なその目標は、新しいメカニズムをテストして、我々がそのカードを構築向けに推すことになったとき、それらが依然として楽しいものであるようにすることです。

 暗号のように、リミテッドでは楽しくても構築フォーマットにそれを推そうとすると大きな不満が出て、最終的に推すことを諦めたメカニズムはたくさんあります。我々は『イニストラード』ブロックの部族全てをプレイして楽しいものにしたいと考えています。例えばゾンビが全て《墓所這い》のような動きをするなら、そのゲームプレイが楽しいとは気づかなかったでしょう。同時に、墓地のクリーチャーを食べるゾンビのメカニズムはリミテッドでは素晴らしいものでしたが、構築レベルに近づくことはありませんでした。

 理想的な世界では、我々はこれらの部族がリミテッドで行うことを並べられて、そしてそれが構築デッキになる方法を見つけることができます。私は『イニストラードを覆う影』が100%そこに向かっているとは思いませんが、かなり近いところには来ていると思います――もしくは少なくともこのブロックの終わりにはそうなっているでしょう。ネタバレになるかもしれませんが、『異界月』にはあなたのデッキ向けのさらなる人間、吸血鬼、狼男、ゾンビ、スピリットが存在します。

 当時は、ファイルの中には部族ロードの穴埋めが入っていました。最初のバージョンのそれらは上記の『闇の隆盛』のサイクルによく似ていて、自分のコントロールするその部族のクリーチャーに+1/+1と何か他のボーナスを与えていました。これらのゲームプレイが楽しかったり興味深いものではないと思ったので、私はこれが好きではありませんでした。これらはリミテッドのプレイテストのために長い間機能していましたが、ファイルがどんどん完成に近づくにつれて、私が楽しいと考える何か違うものに変更するための提案をいくつか考えました。初代『イニストラード』ブロックを見てみたとき、私は違う種類のロードに関するインスピレーションを見出しました。

 私の《教区の勇者》を好きなところは、これが厳密なロードではなくても部族の恩恵を受けているところです。《教区の勇者》の最大の欠点は、スタンダード最強の1マナ域(1ターン目に出て他の《教区の勇者》か《町民の結集》が続く場合)から最弱の1マナ域(ゲーム後半に引いた場合)の間を揺れ動くところです。にも関わらず、その方向に多くの有望さがありました。

 私がデザイン・チームに投げかけたものは、異なる機能を持ち、各部族を望む方向に支援するレアの部族ロードを5枚デザインするというものでした。つまり、その部族の動きがそれに合ったものでない限り、全体に+1/+1を与えないということでした。ここで1体だけいる、全体に+1/+1を与えるロード《サリアの副官》をご紹介します。

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 さて、《サリアの副官》は確かに横に並べるデッキで最強であり、これはおそらくスタンダードで人間が演じるべき役割です。しかしながらこれのいいところはゲーム後半に引いてきても、それがより良いものではなくても、他の全ての人間に+1/+1カウンターを置くところです。しかし序盤のクリーチャーとしては、このカードは最終的に軽い全体除去に対して強くなり、すぐに《衰滅》で倒されないところまで育ちます。《衰滅》は他のクリーチャーを倒しますが、《サリアの副官》は生き残るでしょう。これは、今後続くプレビューの中であなたが見るであろう『イニストラードを覆う影』の他の部族ロードとは大きく異なる印象を与えます。

 今週はここまでです。来週は出揃った『イニストラードを覆う影』カードイメージギャラリーを自由に使って、『イニストラードを覆う影』を墓地セットにしたことについてお話しします。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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