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MAGIC STORY
カラデシュ
密輸人の回転翼機
密輸人の回転翼機
Sam Stoddard / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年9月9日
新しいプレビュー・シーズンの、新しい「Latest Development」にようこそ。今回は、機体のデベロップについて、そしてなぜそれが素晴らしいと思うのかについて説明しようと思います。
過去数年間で装備品カードの数がどんどん減っている、特に強力な装備品カードが減っているのは、装備品カードがかなり振れ幅が大きく、そして対処が難しいからです。強力なクリーチャー1体に対処するのは簡単ですが、強力な装備品が1つあると自軍のすべてのクリーチャーが対戦相手にとって対処しなければならない問題になります。これは、装備品カードのコスト付けを正しく行っていれば必然的な問題にはならないのですが、残念ながら私たちは最初の数セットで装備品のコスト付けに大きく失敗していました。それは『ミラディン』がひどくアーティファクト寄りだったことが大きな要因ですが、現在、各種火と氷の剣》++《光と影の剣》++《肉体と精神の剣》++《饗宴と飢餓の剣》++《戦争と平和の剣》" target="_blank" style="font-weight:bold;">剣のようなカードに対処するのは非常に困難です。『ミラディンの傷跡』ブロックの剣は装備コストを1マナ重くできたでしょうし、そうしてもスタンダードで使われたでしょうが、過去のサイクルに合わせる必要のようなものがあったのです。
装備品カードの問題は、対戦相手のクリーチャーそれぞれを本質的に同じ脅威に簡単に変えてしまうというところにあります。剣が出ていたら、何度も何度もプロテクションに対応しなければならないのです。あなたのデッキの天敵というような装備品カードが1枚あると、クリーチャーすべてが同じような働きをすることになり、まず勝てなくなるでしょう。それにもまして、装備品を作る上で調整できるところは、特にリミテッドでの影響の広がりを抑えられるほどは大きくありません。《レオニンの円月刀》は問題ありませんが《ヴァルショクの鉄球》に対処するのは難しく、《ヴァルショクの戦具》はほとんどのフォーマットでゲームを支配してしまいます。
装備品を作ることを止める予定はありませんが、装備品はやり取りが難しいので他のカードの多くのように強いものは作りません。色やデッキによっては、対戦相手がプレイするクリーチャーすべてを除去して装備品を無効化するのは困難です。
機体はそれと真逆の方向を向いています。搭乗能力の数字のおかげで調整できる部分は大きく、さまざまな能力を持たせることもできます。最も重要なことに、搭乗した後なら対戦相手は機体に対応することができます。さまざまなデッキで対処できるのです。装備できるクリーチャーすべてを除去する必要はなく、適切なタイミングの除去呪文1枚で対処できます。
リミテッドで機体を成立させる
私は機体をプレイするやり方を本当に気に入っていますが、それが現在の形になるのは簡単なことではありませんでした。このセットのデザインやデベロップの間に、このカードは基本的に採用できないと感じたポイントは間違いなくありました。その多くは、機体のデザインによる実装が最終的に印刷に至ったものと違っていたことによりますが、デザイナーとデベロッパーのカードの見方が大きく異なっているという問題もありました。
最初の機体がどのようであったかを理解していただくために、この最初のルール文章をご覧ください。
乗車N(あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャーをN体タップする:ターン終了時まで、これは乗車された状態でクリーチャーになる。この能力は戦闘中にしか使用できない)
フレイバー的には非常に筋が通っています(大型の機体に乗るには多くの人が必要です)。しかし、ほとんどのデッキでは機体カードがずっと弱くなってしまいますし、これはトークン戦略を強く推すことになります。当時、製造が1/1飛行機械を生成していて、人々はそのモードばかり選ぶという問題があり、これでは製造カードに「実質的に選択ではない」という問題をさらに加速させることになるだけです。これはこのセットをかなりトークン寄りにしてしまいますが、それは私達が望んだことではありません。
一方、この機体のほとんどはかなり弱いものでした。デザイナーは5マナ6/6の乗車2だけを持つバニラの機体をデッキに入れ、プレイして満足したかもしれませんが、デベロッパーからすると、そのカードをわざわざ使おうと考えさせるには8/8トランプルぐらいは必要だと感じたのです。カードのクールさと強さの間にはそれほどの振れ幅があるということです。乗車コストが大きかったので、デッキに1枚~2枚以上入れることは非常に難しかったのです。そして、『カラデシュ』のシールド戦でこういう「クールなこと」をしようとした結果は、乗車されない機体を盤面に残して負ける、というのがほとんどでした。
《楕円競走の無謀者》 アート:Winona Nelson |
全体として、デザイン・チームがメカニズムに非常に興奮するのはいいことですが、デザイナーとデベロッパーの間でカードの扱いにあまりに大きな差が開くと、なにか解決しなければならない問題が潜んでいることがほとんどです。デザイナーは、新しくて興味深いものであれば多少弱くてもぜひ採用したいと考えることが一般的です。そしてデベロッパーはすぐにそれを確認し、それが実際にトーナメント・レベルの場合にだけすることが多いのです。これは、その逆の場合よりはたちの良い問題です。
デベロッパーが、シールド戦での強さを元にカードをプレイし、デザイナーが魅力的でないからと放置したとしたら、最終的には本当に退屈になってしまうでしょう。ただ強いだけで面白くないスパイクなメカニズムです。弱くても楽しいメカニズムを採用し、それを構築でプレイできるレベルまで強化し、人々の反応を見るほうがずっといいことです。それがうまくいかないこともあります。ちょっと弱いときは楽しくて、実際に強くなるとムカつくというのはよくあることです。当面の間、私たちは機体をそのまま残すことにしました。乗車2以上の機体をデッキに入れて使えるようにするためのパワーはとてつもなく大きいものでした。そして、そのカードのバランスを取れるポイントを考えると、「乗車できなければいずれ死ぬ」というレベルのものでした。
そして、デベロップ・チームはクリーチャーの総数ではなくパワーの合計を使うという結論に達しました。これでこのメカニズムは一気に成立に近づいたのです。パワーに変更したことで、リミテッド向けに、いろいろなデッキで使うための、防御的なもの、攻撃的なもの、多用途なものなど、様々な機体を作ることができるようになりました。また、大きな搭乗コストを持つ、非常に強力になりうる、それでいてデッキ内にあるクリーチャーで使えるような機体を作ることもできるようになりました。同時に、『カラデシュ』のゲームにおいて「トークン最大化」が基本的に最高の戦略だとは言えなくなりました。それ以来、私たちは可能な限り多くの人々を満足させられるような楽しい機体を作るための有意義な変更を重ねてきたのです。
構築戦での機体
リミテッドで成立させたら、次は楽しい構築向け機体を作れるようなデザインとコストを探す必要があります。幸い、剣と違い、対処が難しくなりすぎることを恐れずにカードを単体で強くすることができました。いくつキーワードを持たせようが、あるいはどれだけ巨大にしようが、インスタント速度のクリーチャー除去で破壊されるのです。つまり、構築で使える装備品の多くのようにパワーやタフネスを+1/+1や+2/+2の範囲に収める必要はなく、自由度はずっと高く、それ自体で非常に興味深いようにすることができます。また、装備品のようにコスト付けすることなく、二段攻撃を1/1も9/9にも同じぐらい簡単につけられるようにしてしまうことなく、サイズとキーワードを整合性があるようにすることもできるようになりました。4/4で二段攻撃の機体を作りたければ、単に作って、それが最も楽しくなるようにコスト付けすることができるのです。
機体には単にバランスを取るための調整ができるというだけではない多くの利点があります。ブロックするためにクリーチャーにするという判断をしなければ、ソーサリー除去で死ぬことはありません。敵味方いずれの全体除去にも耐性があるので、コントロール・デッキに入れても、またそれに対しても有効です。また、召喚酔いや「殴るには小さすぎる」クリーチャーにも役割を与えます。中盤戦、大型のブロッカーがいて殴れないマナ・エルフが集まって何かに搭乗することができるのです。
構築戦で見かけられることが想像されている機体のイメージを伝えるため、ここで《密輸人の回転翼機》をご紹介します。
このカードのクールなところは、非常に積極的に設定された数値です。2マナ3/3飛行で、ルーター能力までついているのは非常に強力です。搭乗コストは非常に低いので、様々なデッキに入れて使ってダメージを稼いでもいいですし、《密輸人の回転翼機》から簡単に身を守れるプレインズウォーカーは少ないので、対戦相手がプレイしたプレインズウォーカーを攻撃してもいいでしょう。
ルーター能力は、カードを引くのに比べれば(当然)強くはありませんが、様々な選択肢をもたらします。まず第一に挙げられるのはマッドネスです。《密輸人の回転翼機》で攻撃して《癇しゃく》を捨てれば、ほとんどのプレインズウォーカーは除去できるでしょう。また、どの色でも昂揚を成立させることができるのも有効です。《群れの結集》や《ヴリンの神童、ジェイス》がスタンダードから消えても、《密輸人の回転翼機》は長期戦のカードや昂揚を成立させるのに必要なタイプのカードを簡単に捨てる手段として働きます。
《密輸人の回転翼機》 アート:Florian de Gesincourt |
機体にも弱点はありますが、それは対処しにくい強力なカード・タイプにとって重要です。1つ目は、搭乗するために必要なだけのクリーチャーを必要とするということです。コントロール・デッキ向けの機体もいくつかはありますが、いくら両方とも強力だからといっても《密輸人の回転翼機》4枚と《高速警備車》4枚をデッキに入れるのは難しいでしょう。自分のデッキにふさわしい機体を選び、そして《密輸人の回転翼機》3枚とクリーチャー1枚だけを引いたあげくそのクリーチャーが除去されるというリスクを受け入れなければなりません。
機体は毎ターンカードをプレイできたときに一番うまく働きますが、必要以上に展開することが求められることになります。機体は全体除去に対して非常に強いとはいえ、すぐに態勢を立て直せるというわけではありません。機体を2個出していたら、クリーチャー2体をプレイして両方に搭乗する(充分なパワーがあるという前提です)ことになりますが、相手が除去を持っていればあまりに脆弱です。機体を有効利用するためにはクリーチャーを必要以上に並べることになり、全体除去に弱くなります。対戦相手がインスタント速度であなたの機体を破壊し、そのあとで全体除去を唱えてきたら、その後もダメージを与え続けるのに必要なリソースがあなたの手元に残っていないかもしれません。機体は『カラデシュ』のスタンダードやリミテッドにおける多くのデッキにとって重要な道具ですが、活用するには充分なクリーチャーを持っているようにしなければならないのです。
新しいカード・タイプに対してはこの種の対策が非常に重要です。そして、機体に対抗する上でかなりの働きを見せており、それが『カラデシュ』の重要な要素になっています。プレイヤーにはデッキ構築上の多くの興味深い選択と、多くの興味深いゲームをもたらしてくれるでしょう。
今週はここまでです。来週はセット全体が公開されます。『カラデシュ』のエネルギー・メカニズムと、それに関してデベロップがしたことについてお話しします。
それではまた来週お会いしましょう。
サムより (@samstod)
Kaladesh カラデシュ
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