HALL OF FAME

ジョシュ・アター=レイトン

Josh Utter-Leyton

選出 2017年
出身 アメリカ合衆国、カリフォルニア州ロアート・パーク
プロツアー・デビュー プロツアー・ハリウッド2008
生涯獲得賞金 【記載なし】
生涯獲得プロ・ポイント 408点

世界選手権トップ4入賞2回
プロツアー・サンファン2010から始まり、5度のプロツアー・トップ8入賞を達成
2012-2013年シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤー獲得
プロツアー参戦以前より、Magic Onlineで恐れられるプレイヤーだった
グランプリでは、グランプリ・バンクーバー2017優勝を含めトップ8入賞9回

PROFILE

 2017年の殿堂投票では、今年初めて候補に挙がったアメリカのジョシュ・アター=レイトンの「プロツアー・トップ8入賞5回」という成績が大いに話題となった。いつも冷静沈着なアター=レイトンだが、チーム「ChannelFireball」の仲間たちと並んで殿堂入りすることについては自信たっぷりだったようだ。

「必ず殿堂入りできると思っていました」とアター=レイトンは頷く。「候補者たちの中で自分が抜きん出ているのを確信していました」

 自分がこれだけの偉大な選手になるとは、地元のコミック店でマジックと出会った高校生の頃のアター=レイトンには想像もつかなかったことだろう。当時の彼は『リバイズド』のスターター・デッキだけを手に、ルールブックを頼りに独学でマジックの遊び方を知ったという。

「最初は、あらゆる土地を《水蓮の花びら》のように生け贄に捧げて使っていました。その後ルールをしっかり学んでから学校の友人たちを引き込み、仲間内で遊んでいました」

 ある時期を境に彼は一度マジックを止めたが、大学1年の帰省中にこのゲームと再会した。家のインターネット接続の悪さが、アター=レイトンを再びマジックの世界へいざなった。やがて彼は、プロツアーの舞台へ上がるよりも前に、Magic Onlineで「Wrapter」の名で恐れられるプレイヤーになる。

「大学から帰省した私は、お隣さんのWi-Fiを借りて夏の間遊べるゲームを探しました。そこで偶然見つけたのがMagic Onlineでした。すぐに夢中になり、ひたすらにプレイを重ねました」

 そこから数年にわたりMagic Onlineだけでマジックを楽しんだアター=レイトンは、Magic Onlineのコミュニティで圧倒的な名声を得た。その評価は、ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasやジェリー・トンプソン/Gerry Thompsonのようなプレイヤーまで一目置くほどだった。

「LSVは私のことを知っていて、私たちは同じグループに入りました。当時私がやり込んでいたのはエクステンデッドです。Magic Onlineでエクステンデッドをプレイするグループは小さく、中でも『相殺』デッキを使いこなせるプレイヤーはごくわずかでした。ルイスとジェリーは当時こう思っていたそうです。『いつもやられるこの“Wrapter”って何者だ? このデッキのことを知り尽くしてる』と」

 そんなアター=レイトンが初めて体験した大型イベントは、彼が大学卒業後に住んでいたサンノゼで行われるグランプリ・サンフランシスコ2007だった。

「2日目へ行けませんでした」と、アター=レイトンは笑う。「そのグランプリの前に一度プロツアー予選に参加していましたが、たしかその直後からプロツアー・ハリウッド2008の予選シーズンに切り替わったと記憶しています。私はそのシーズン中の予選に出場し続け、最後の週末で優勝できました。当時のエクステンデッドでは『相殺』が最強のデッキとされており、私もシーズン中ずっと『独楽相殺』を使っていましたが、最初に出た予選では3試合も引き分けていましたよ。その中の対戦相手のひとりが、デイヴィッド・オチョア/David Ochoaでした。それが彼との出会いです」

アター=レイトンは初めて参加したプロツアー・ハリウッド2008でスター揃いの初日を体験し、その後プロツアー招待選手をつなぐ才能を開花させた。のちのスーパーチーム「ChannelFireball」の中核が芽生え始めた瞬間だった。

「パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa、ジョン・フィンケル/Jon Finkel、マーク・ハーバーホルツ/Mark Herverholzと対戦し、全員に負けたのを覚えています。結果は4勝4敗。デビュー年のプロツアーはどれもこれくらいの成績でしたね。プロツアー・ハリウッド2008では2日目にiPod争奪大会が行われ、そこで私は9戦全勝できました。ここから私のレーティングは伸びていき、次のプロツアーの参加権利も獲得できました」

 アター=レイトンが記録した5つのプロツアー・トップ8入賞のうち最初の1回は、プロツアー・サンファン2010で果たされた。それは、ちょうどチーム「ChannelFireball」が頭角を現し始めた時期だった。今でこそ、プロツアーに臨むプレイテスト・チームは2週間前にプロツアー開催地へ集まり、開催直前まで練習に専念するという準備が当たり前のように行われているが、それが当たり前でない時代もあったのだ。

「今思えばおかしな話ですよね。それまではプロツアーといえど、もっとカジュアルだったんです。当時は、プロツアー前に2週間、缶詰でプレイテストを行うことを他に誰もやっていませんでした。私たちはその常識を覆したんです。力を入れれば結果につながることを最高の形で示しました。これを機に他のプレイヤーもみな、時間と労力を注ぎ込むようになりました。それが当たり前のことになったのは素晴らしいですね。転機となったのはプロツアー・パリ2011の『Caw-Blade』デッキでしょうか。私たちが明確な実績を残した大会です」

 プロツアー・パリ2011では、上位16人のうち6人が「Caw-Blade」デッキを使用しており、そのデッキはベン・スターク/Ben Starkに優勝をもたらした。さらにチームメイトのブラッド・ネルソン/Brad Nelsonがプレイヤー・オブ・ザ・イヤー決定戦を制する武器となった。このデッキは、前シーズンを締めくくる世界選手権2010で活躍を見せた「Caw-Go」デッキが元になっている。デッキ作成の経緯をアター=レイトンはこう振り返る。

「マイケル・ヘトリック/Michael Hetrickがプロツアー直前のSCGイベントで使っていたデッキのサイドボードに、《石鍛冶の神秘家》が2枚入っていました。その後プロツアーの前の週にパリへ向かう飛行機の中で、キブラー(ブライアン・キブラー/Brian Kibler)がヘトリックのリストに興味があると言い、《石鍛冶の神秘家》は魅力的だと言いました。私も本当に良いアイデアだと思ったので、パリへの飛行機の中でリストを作り上げたのです」

そしてアター=レイトンがそのデッキを使うと、強烈な可能性を秘めていることに気づいた。
「最初にプレイしたゲームで、ブラッド・ネルソンが2ターン目に《石鍛冶の神秘家》を繰り出し、4ターン目に《饗宴と飢餓の剣》を装備させて攻撃、アンタップした土地で《精神を刻む者、ジェイス》をプレイしました。続くターン、彼は《ギデオン・ジュラ》をプレイし、《饗宴と飢餓の剣》でアンタップした土地で打ち消し呪文を構えました。この1ゲームだけで、とんでもないデッキだと理解できました。私たちはすぐさま《石鍛冶の神秘家》を4枚に増やしました。たった1ゲームのテストの直後のことです」

 このように協力してデッキを作った話もあるが、アター=レイトンが特に気に入っているのは、ひとりで作り上げ世界選手権2014で使用した「ジェスカイの隆盛」コンボ・デッキだという。

「《時を越えた探索》と《宝船の巡航》のおかげで実現しました。私はこのデッキが大好きです。私が自分ひとりでデッキを作るのは珍しいことで、たぶんもう二度とないと思います。通常は多くの人とプレイテストを重ね、協力してデッキを作り上げるからです。世界選手権では大きなプレイテスト・グループがなかったので、ひとりMagic Onlineでプレイを重ねました。自分ひとりで作ったと言えるような経験は他になく、だからこそこのデッキは特別なのです」

 トップ8入賞5回、デッキビルダーとしての名声、そして現代マジック史に最も大きな影響を与えたチームの創立メンバー。これだけでも殿堂入りに相応しいアター=レイトンだが、彼はさらに2度の世界選手権トップ4入賞と2度のアメリカ選手権優勝、2012-2013年シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤー獲得、Magic Online王者という華々しい実績を持っている。彼が今年の候補者の中で最も票を集めたのは当然のことであり、彼が長きにわたりマジックを人生の中心に置いてきたことを示している。

「私は、マジックで強くなるために多くの時間と労力を注ぎ込んできました。マジック史上最高のプレイヤーのひとりとして称えられることは、信じられないほどの喜びです」

そう述べたアター=レイトンは、感謝したい人物は多くいるとしながらも、まずは名字を同じくするある人に感謝したいという。

「一番を決めるなら、あらゆる協力を惜しまなかった私の母です。彼女は本当に全力で私を応援してくれました。心からありがたいと思っています。そして、もちろんチームメイトのみんなに感謝したい。私が積み上げた結果は私だけのものではありません。彼らがいなければ絶対に成し遂げられなかったでしょう。私が殿堂入りしたのは彼らのおかげという部分もあるので、彼らもともに評価されたと思ってもらえれば嬉しいです。チームメイトの中から一番を選ぶなら、ルイスです。彼こそがチーム『ChannelFireball』の筆頭であり、私が競技の世界に参入した当初からお世話になっています」

 アター=レイトンは昨年、多忙のためマジックからいくらか離れた。まだ達成していない仕事があるとは感じていないようだ。

「世界選手権やプロツアーで優勝するのはもちろん素晴らしいことですが、私はそれを目標にはしていません。マジック人生の中で達成したいことはもう残っていないと感じています。以前のようにプレイすることからは一歩引きました。毎年ゴールド・レベルを維持することに気を揉む必要はなくなったので(実際最近は維持できていませんが)、グランプリの参加回数は減るでしょう。それでも、プロツアーで戦うのは大好きです。今後もプロツアーの準備にはしっかり時間をかけ、最高レベルの舞台を楽しみたいと思います」

サイト内検索