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プレインズウォーカーのための『タルキール龍紀伝』案内 その2
プレインズウォーカーのための『タルキール龍紀伝』案内 その2
Magic Creative Team / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2015年3月18日
これは『タルキール龍紀伝』におけるタルキール世界を取り扱う、「プレインズウォーカーのための案内」全二回のうち第二回である。第一回はこちら。
龍たちが統べる世界
異なる現在であったなら、タルキールは五人の強大なカン達が支配する世界だったかもしれない。砂漠にも森にも殺戮が満ち、戦で荒れ果てていたかもしれない。各氏族は莫大な富と広大な王国の支配を巡る争いに固執していたかもしれない。だがこれはそのような現在ではない。この現在には統べるカンなどいない。この現在は龍のもの。
コラガン氏族
氏族の概観
彼らの龍王のように破天荒で気まぐれな、コラガン氏族は求めるものを求めたい時に奪う、氏族内の権力と支配も含めて。この恐るべき闘士たちの雑多な集合に内部組織は存在しない。彼らは他氏族と敵対するが、同じ程の頻度で氏族員同士でも戦う。どのような相手であろうと、コラガン氏族は稲妻のような無慈悲で攻撃する。彼らの速度と移り気はその象徴、龍翼に体現されている。
《コラガンの命令》 アート:Daarken |
コラガンの氏族員達は「切望」を口にする――彼らを戦いへといざなう、命知らずの戦士の精神の類を。彼らはそれをしつこい痒みやある種の落ち着かなさ、支配を主張することへの抑えられない要求のように語る。それは彼らの内で絶えることなく成長し、コラガン氏族の龍たちの前で狂乱の限界点へと膨張する。最早それを我慢できなくなった時、彼らはただ一つの目標、流血目がけて戦いに突入する。
龍王コラガン
龍王コラガンの行く所、過酷で予測不能の死がつきまとう。凶暴かつ残忍に、彼女はその結果として生じる食物よりも狩りと殺戮を楽しむ。彼女が敵から奪った領土にも同じことが適用される。ひとたび戦いが終わり、その地が彼女のものとなったなら、コラガンはその興味を失う。しばしば彼女は縄張りを主張するためだけに稲妻の吐息の攻撃で殺し尽くし、燃える様子を眺めて楽しむためだけにその地を焦土と化す。
《龍王コラガン》 アート:Jaime Jones |
他の龍王たちとは異なり、コラガンは龍詞すら喋らない。彼女が伝えたいと望むことで、破壊的な稲妻もしくは切り裂く鉤爪で表現できないようなものは何もない。彼女は周囲に集う氏族にほとんど関心を持たない。彼らは彼女が支配を主張するためにただ傍にいるだけである。氏族に対する彼女の敵意にも関わらず、彼らはコラガンをその捕食的な性質から敬っている。そして彼女も自分の好き放題にできることもよく理解している。なぜなら、彼らは永遠について来るだろうからである。
氏族の価値観
急襲の戦術 コラガンの戦士たちは戦場において抜け目ない戦術を示すが、彼らに長い行軍を取り仕切る才能は持ち合せていない。代わりに、彼らは敵を撹乱し圧倒する速度に頼る。彼らはしばしば夜明け前に行動を開始し、それぞれが一体の龍に率いられた一隊で丘を駆け抜け、油断している敵の側面や警戒の薄い前哨地を急襲する。
破壊することは統べること コラガン氏族はタルキールを支配する力も、他氏族の力を削ぐことすら求めていない。敵の計画をくじき、宿営地を破壊し、新たな龍が生まれる祝賀を打ち砕く――それが勝利とみなされる。コラガン氏族は文明、境界、あらゆる形の儀礼や法からの解放を切望している。
氏族の構造
コラガン氏族には実権を握る龍たちという基本的原則以上の内部構造はほとんど存在しない。そして一時的な権力は何であろうと、支配を巡る些細な争いで奪われる。龍王は残酷に暴力を用いる恐るべき君主であり、そして彼女を特徴づける気まぐれが氏族を束ねている。コラガン種の他の龍たちはタルキールの風景を稲妻のように駆け、必要に応じて獲物を狩る。人型種族の戦士達は特定の龍に付き従うが、公的な所属や階級が存在するわけではない。
《強迫》 アート:Jason Rainville |
氏族の魔術
稲妻繋ぎ コラガン種の龍たちは稲妻の息を吐き、彼女らの存在はしばしば空から雷雲を召喚する。コラガン氏族の戦士達は稲妻に直接乗ることによってこの混沌の力を利用し、戦旗のようにまとった金属のロッドで吸収した稲妻を敵へと放つ。彼らはこの戦略で常に生き残るわけではないが、その急襲性の効果は高い。コラガン氏族は先祖のマルドゥほど弓術は用いず、その代わりに稲妻の魔術を好む。
地割れ掻き コラガンの龍たちは深い峡谷や地割れを飛んで通過する際、しばしばその鉤爪や翼の鉤で岩の端をかすめる。この衝突によって地割れの岩壁には火花が散りまた傷跡が残され、侵入者を怯えさせる恐ろしい展示物を作り出す。
雷鳴の蹄音 コラガン氏族は戦いにおいて真っ向勝負の哲学を持ち、障害物は直接叩き壊すことで対処する。コラガン氏族の乗り手はこれを一つの芸術へと昇華した。彼らは乗騎の足取りに稲妻を編むことで速度を大いに増し、それらを紛れもない、しばしば爆発的な発射体へと変貌させる。迫りくるコラガン軍の咆哮は雷鳴のように響く。
氏族内の主な役割
ウォーカイト この攻撃的な龍は巨大で力強い、歴戦の存在である。彼女らは時折、螺旋状の編隊で攻撃することによってそれぞれの間に吠えたける風を起こし、瓦礫や岩石の波で敵の戦列を一掃する。
《快速ウォーカイト》 アート:Izzy |
戦士 コラガン氏族の戦士はほぼ全員が熟練の闘士だが、最も大胆不敵で無節操な者だけが潰し屋の称号を得る。彼らはしばしば乗騎を降りて身一つで戦闘へと飛び込み、敵を正面きって殺すことを楽しむ。
金切り声の悪漢 氏族には多くのゴブリンがおり、手や歯が届くものは鎧、武器、糧食、魔法、何であろうと盗み分捕る。この悪漢達は耳をつんざく鬨の声を上げ、敵を気絶させもしくは撹乱し、僅かで貴重な時間を稼ぎ、略奪品を掴んで逃走をこなす。
血顎 コラガン氏族において共食いは珍しくなく、黒のマナを帯びるオークや人間の中には人型種族の肉を求める者もいる。彼らはその饗宴から力を得て、敵への威嚇としてその顎に血の跡を残す。血顎たちの存在は龍が見張る不毛の地において、恐ろしい眺めである。
忌呪の巫師 氏族の真の呪文術のほとんどは巫師たちによって訓練されている。コラガン氏族の巫師たちは独りで長い距離を騎乗し、時折何マイルにも渡って龍を追い、他の戦士達に加わるのは時折の短い間だけである。彼らは奇妙で魔術的な言語で魔術を編む。それはウギンの龍詞へと由来を遡ると考えられているが、何世紀も続いた暗黒の意図によって歪んでいる。
《忌呪の発動》 アート:Daarken |
氏族の重要地点
コラガン氏族は領土を主張しないが、それでもタルキールにおいて彼らの氏族の土地であると一般的に認められている地域はある。
絶叫郷 コラガンと彼女の種は龍王が好む所を飛ぶ。絶叫郷と呼ばれる沼地が、コラガン氏族の地域の中心とみなされている。
氏族の重要人物
鐘突きのズルゴ この新たな時間軸はサルカンのかつての宿敵、別の時間軸におけるマルドゥのカンであるズルゴにとって冷酷なものだった。巨体の短気なオーク、ズルゴは龍王コラガンの従者を務めるまで落ちぶれてしまった。ズルゴは眠りを浅く保ち、コラガンの傍で野営し、その龍のごく僅かな動きへと常に警戒している。コラガンが戦いへと向かう時は、龍鐘を鳴らすのがズルゴの仕事である。彼は氏族の龍鐘をその大剣で突き、戦士達を戦いへと鼓舞する。彼の義務はコラガンに随行し伝令を務めることだが、それでもズルゴは熟達の戦士である。彼には個人的な手下の一団がいる。もし彼が手下たちを殺すことを、もしくは忠誠を試すという目的だけで忠実な部下を残虐な戦いに放りこまなかったなら、彼らの数はもっと増えていることだろう。
《鐘突きのズルゴ》 アート:Jason Rainville |
薬瓶砕き 元の時間軸では足首裂きとして知られる、コラガン氏族のゴブリンは、ここでは瓶詰めの龍火を無謀に振るう「薬瓶砕き」と呼ばれている。彼女は常に龍火の薬瓶を身につけており、彼女へと害を成そうとする者へと叩きつけて割り、燃えさかる死を放つことを躊躇しない。そしてこれまで、彼女はそれに続く大火災からの脱出に常にどうにか成功している。
《龍火の薬瓶》 アート:Franz Vohwinkel |
ガヴァール・バーズィール 別のタルキールにて、ガヴァール・バーズィールは――先祖ウラトにまで遡る、歴代バーズィール一族の一員は――アブザンのクルーマであった。その時間軸ではアブザン兵が彼の父を殺したことにより、マルドゥ氏族から引き離されて養子にされた。この時間軸においては、ドロモカ氏族の中にクルーマの伝統はなく、そして彼は龍王コラガンの忠実かつ恭しい臣下である。ガヴァールは人型種族の一団を従え、龍王へと正しいな栄光をもたらすには弱すぎる者を厳しく罰する。
アタルカ氏族
氏族の概観
与えるか、食糧と化すか。これが、永遠に腹を空かせている龍王アタルカへと仕える氏族の道である。結果として、生き残った者達はタルキールに知られた中でも最も残忍で獰猛な狩人達となった。彼らは証明してきた、彼らの龍王にとって殺すよりも生かしておく方が価値のある存在だと――少なくとも今のところは。アタルカ氏族の並ぶもののない凶暴性は彼らの象徴に表されている。剃刀の鋭さを持つ、龍の鉤爪に。
《アタルカの命令》 アート:Chris Rahn |
アタルカ氏族は彼らが生きる環境のように暴力的かつ移り気な龍王の楽しみのために生きるが、ひるむことはない。彼らはその運命を人生へと受け入れ、奉じさえしてきた。そして彼らは氏族を取り囲む過酷な現実への適応能力を誇っている。氏族が住まう山岳地帯では急速な雪解けがもたらす洪水が頻繁に発生し、従って狩人たちはアタルカを養う適切な狩りの、突然かつ予期しがたい不足に直面する。これは彼らをますますもって放浪へと追い込んでいった。だがアタルカ氏族はその道を好む。彼らは猛烈に独立心が強く、彼らが狩りから得る最大の喜びは、その殺しが彼らだけのものだという事実である。
この氏族は自発的に集まる先天的な必要性を感じることはなく、ほとんどの期間を散り散りに放浪して過ごす。とはいえアタルカは氏族へと、定期的に集合して彼女を讃え、豊富な食事を差し出すよう要求している。彼女はそれを感謝とともに受け取る――少なくともそれを貪るまでは。アタルカ氏族は彼らの龍王が命じることを行う。もし彼女を空腹のままにしておいたなら、彼ら自身が彼女の獲物と化すと知っているために。集会においては、アタルカ氏族は炎を囲んで歌をうたい楽しむ。歌詞は狩りの栄光と身震いを伝えている――彼らが戻りたいと切望する狩りの。
龍王アタルカ
究極の捕食者、アタルカはその昼も夜も、ほとんどの時間を狩りと食事に費やしている。彼女にとって、生とは永遠に続く饗宴であり、彼女こそがその卓の上座につく存在である。貪欲かつ強欲に、アタルカは望むものはいつ、何であろうと狩り、彼女の子らが見落とした残りを摘み取ることも恥と思わない。食事時以外は、彼女は次の食事について、もしくはそれを追うことについて考えている。アタルカが貪らないものは存在しない、彼女自身の氏族も含めて。
《龍王アタルカ》 アート:Karl Kopinski |
アタルカに駆け引きや妥協をするような忍耐はない。彼女は会話を時間の無駄と、食糧の動物達が馬鹿馬鹿しく顎を動かす演技だと考えている。彼女が好む問題解決の方法は何よりも正直である。吠え、焼き焦がし、貪る。彼女が臣民へと価値を見出すのは、彼らが彼女の皿へと捧げ物を持ってくる時だけである――もしくは彼らが自分自身で皿に「倒れこむ」時だけである。
荒野の雪解け この時間軸では、龍王アタルカの到来と彼女の種を生み出す嵐に伴って、氏族が住まうカル・シスマ境の寒冷地域が広範囲に融解した。今や山頂の氷河の多くは消え失せ、急速な解氷による突然の洪水が頻繁に起こっている。氏族は水や氷よりも、大地やある程度の炎との繋がりをより強くした。環境の変化により、山を住処とする寒冷地に適応した動物群は数を減らした。マンモスは遠い昔、アタルカの食欲の最初の被害となって絶滅した。しかしながら、温暖化が始まってからはトナカイの群れがその地域に渡ってきており、主な食糧源となっている。ヘラジカやムースのような大型の鹿もまた見られる。
氏族の価値観
あらゆる手段を尽くし生き残る かつてのティムール氏族、誇り高い自主自立の生き残り達から、この時間軸の人間達はかなりの数を減らしている。今、アタルカ氏族の戦士達は龍の楽しみのために生きている。このような状況はほとんどの者を打ちのめし、宿命論者となるが、ティムールの末裔達は最も頑健な人々である。彼らは氏族員が常に行ってきたように、生き残るために適応する。彼らは食糧源となりうるほど美味しそうな存在ではないと保証するために足を踏み出す。人々は皆、アタルカにとって死より価値があるために生かされている。通常は一年に渡って、その体重よりも多くの食糧を提供できるために。生き残るのは最高の狩人と戦士のみである。
《切翼の宴》 アート:Ryan Barger |
与えるための狩り この時間軸において、氏族はかつてよりも更に放浪している。龍の絶えない飢えは、一つの地域が相応に狩られてただちに空になることを意味し、全ての者に移動し続けることを強いている。その龍は氏族へと、定期的に集合して彼女を讃え、豪勢な饗宴を提供することを要求している。もし彼らがアタルカを満足させられなかったなら、彼ら自身が饗宴となる。龍を讃えていない時には、氏族員は主に狩りの興奮をうたう伝統的な物語や歌を楽しむ。
龍は概して氏族に、あらゆる種類の隠しごとを許容しない。しかしながら、彼女は狩りに有用となる迷彩は大目に見ている。狩人たちの毛皮のブーツ、上着、手袋は今や茂みや乾いた草の色を大いに模し、新たな、雪のない風景により効果的に混じるのに役立っている。
隠された伝統 アタルカはかつてのティムール氏族の巫師のほとんどを食らった。理由の一部は、彼らは食糧を得るのに役立たないためだが、主に彼らの精霊魔術を恐れたためである。僅かな生き残り達が密かに古の伝統を保持し続けている。彼らはもはや共同の集まりの洞窟の壁画を描くことはないが、その代わりに細工物の類を用いて氏族の歴史と重要な出来事を記録している。狩人たちは動物の死体をアタルカへと与える前に、小さな戦利品を取っておく。鉤爪、牙、枝角の先、もしくは踵の骨を。巫師たちは密かにこれらの小物に彫刻をし、隠された「書庫」に氏族の功績を加える。
氏族の魔術
隠されたエレメンタルの術 アタルカは巫師たちが振るう精霊の力を恐れたが、彼らの「広がる囁き」については知らない――他の巫師全員との霊的交渉を。龍による粛清が始まると、巫師たちは密かに互いへと警告し合い、彼らの真の性質を隠すことによって最も若年の者が生き残った。巫師たちは戦いの中であえて精霊を呼び出すことはない。代わりに、彼らは山の内に精霊の力のある場所を特定し、密かにそれらを記録し、広がる囁きの知識として共有する。
氏族内の主な役割
龍 アタルカの種に知性の優れた個体はいないが、その中でも他より賢い龍も存在する。彼女らはほとんどの時を狩りや、互いの間での戦いに費やす。
《狩りの先駆け》 アート:Aaron Miller |
狩猟の統率者 これは氏族内の栄誉ある役割であり、アタルカの食糧係の長を示す。狩猟の統率者は狩りや略奪を率いるが、それはアタルカが目的を、すなわち食べるための特定の獣か、敵対氏族から奪った宝物かを明示した後である。彼女はお気に入りの雛をあてがい、狩人たちを監視させている。この狭苦しい環境の中であっても、狩猟の統率者は幾らかの自主性を持っている。
鉤爪持ち この戦士達の階級は狩猟隊やアタルカ氏族の国境を守ることで狩りを容易にしている。これらの放浪する戦士達は龍王の領域の外縁に留まり、アタルカ氏族の荒野を安全に保つために家族を即座に移動させる用意を常に整えている。
隠れた巫師 この巫師たちは龍の粛清を逃れ、かつての地位を示す、頭部を隠す装飾をまとっていない。年長者達の頭飾りにつけられていた骨の装身具は隠されてきた。巫師たちは今、斥候として活動し、狩人を導き、そのため絶えず空腹のアタルカにとっても有用な存在となっている。彼らは精霊の繋がりを用いて狩猟場を特定するが、この能力を龍には隠している。彼らはもはや、氷の双子を創造するために精霊の氷の力は用いない。
イフリート 遠い昔にアタルカは炎の縁カダットを征服し、そのイフリート達を従え、炎の栄光を世界中へと広めることを確約させた。
アイノク 辺境のアイノクは今や、ほとんどが熊と同じように龍の食糧として好まれたために姿を消した。より細身の、狼に似たアイノクが今も山峡を放浪しており、彼らは時折人間とともに狩りを行う。彼らは素早く肉の分け前を掴み取り、龍に発見されて捕まる前に住処へと退散する。
《アイノクの生き残り》 アート:Craig J Spearing |
オーガ この好戦的な人型種族は山岳地帯で狩りを行う。アタルカは彼らを食糧の競争相手とみなしており、オーガを見かけたなら攻撃するよう人間をけしかけている。この戦略は双方を弱体化し、彼女に多くの肉をもたらしている。
氏族の重要地点
龍の鉢、アヤゴール 龍たちが斃れなかったことから、この時間軸にカラキク峡谷の圏谷は存在しない。しかしながら、アタルカが最初に巣を構えたこの場所は氏族の主要な集合場所となった。アヤゴールとして知られるそこは、氷が完璧に融けた高い峡谷の内の浅瀬である。それが表すのは晩餐の巨大な皿以外の何でもない。これは偶然ではない。龍は臣下へと参列を命令し、ここに食糧を出させ、また彼女の生ける所有物を注意深く数える。
氏族の重要人物
狩猟の統率者、スーラク この時間軸において、スーラクは狩猟の統率者の地位を保持している。彼は指揮官だが、かつてのように龍爪ではない――その地位はもはや存在しない。龍殺しへと与えられるその敬称をアタルカが怖れたためである。数世紀前、龍王はその称号を用いることを禁じた。今、龍以外の全てを狩る狩人としてスーラクは知っている、彼は龍王が選ぶあらゆる獲物をも殺し持ち帰ることを期待されていると。標的に挑戦するごとに、スーラクはその狩りから更なる喜びを得る。アタルカ氏族の他者が生き残るために狩る中で、スーラクは栄光、栄誉、そして何よりも、楽しみのために狩る。
《狩猟の統率者、スーラク》 アート:Wesley Burt |
サクタ 生き残ったわずかな巫師に長はいないが、精霊の力への感受性が最も高い者が「広がる囁き」の中心を務める。この人間の狩人サクタがその人物である。彼女は若年(思春期を脱したばかりにすぎない)にも関わらず、並はずれた才能を持つ。そして彼女はしばしば斥候長としてスーラクへと助言を行う。
見えざる囁く者、アレル アレルは異端児であり、龍のいない世界を幻視する人間の巫師である。彼女はドロモカやオジュタイのように人型種族が大いに役割を成す氏族ですら、龍王たちは臣下へと負担を強いては悪用していると気付いている。彼女は密かに巫術を鍛え、アタルカの支配から解放されたいと願う者の大きな支えとなることを望んでいる。
ドロモカ氏族
氏族の概観
ドロモカ氏族は一つの真の共同体を成す。龍たちと砂漠に生きる人々が、敬愛する龍王への共通の忠誠で繋がっている。氏族は龍の「忍耐」の面を体現し、彼らの象徴もそれに相応しく龍の鱗である。彼らが戦いでまとう鎧には同じその鱗が編み込まれ、防護を与えている。彼らは密集した一団で進軍し、ドロモカ種の龍たちの助力と協力とともに戦う。
《ドロモカの命令》 アート:James Ryman |
氏族内における、ドロモカ種の龍たちと他種族との間にある相互依存の家族的な関係はタルキールの他のどの地でも滅多に見られない。龍たちは疑いようもなく支配的だが、氏族が生き残るためには他種族の働きと才能が不可欠だと大枠で認めた。ドロモカ氏族の者は忍耐と栄誉を何よりも重んじる。彼らは長く生きようと努力し、死に目的を持たせるよう志す――彼らの龍王の利益となる目的を。
龍王ドロモカ
龍王ドロモカは、慈悲と傲慢が同等に存在する支配者である。古の強大な龍である彼女は命令下におく領土の隅までを支配している。戦いにおいて、彼女はその全てを消し去る光線の吐息を放つことをためらわず、勇敢にも彼女の前に立ちはだかろうという者を抹消する。過酷な砂漠の気候で長年を生き、耐えてきたことにより、彼女は生き残るため忍耐を学んできた。彼女は他の、劣った氏族はいずれ弱って滅び、そして彼女の庇護下にある者達だけが存続していく強さを持つと信じている。
《龍王ドロモカ》 アート:Eric Deschamps |
ドロモカは彼女の氏族の情勢に親密に関わっている。彼女はしばしば領土を放浪し、龍種の監督たちや最高位の臣民と交流する。とある高楼の状態が良好と判断したなら、彼女は飛び去る。しかしながら弱点を見つけたなら、彼女はそれをそのままにはしておかない。可能であれば、状況を正そうと試みる。それが不可能であれば、彼女は一連の弱点を即座に貪る。いずれにせよ、彼女が訪れる際には、氏族は生き残るためにいっそうの準備を整えることになる。
氏族の価値観
栄誉 ドロモカ氏族の戦士たちは何よりも生存と栄誉を重んじる。人型種族の理想は長命と目的ある死、彼らが鱗王と呼ぶ龍たちのためである。見返りとして、龍たちはその卓越した不屈さと長い経験をもって、敵対する龍やその他思いもよらない脅威から人々を守る。
家族 ちょうど、龍ドロモカが氏族を統べるように、彼女の龍種は「家族」――共通の祖先よりも忠誠と相互的な保護で一つに結ばれ、組織された人型種族の一団――の長として座す。一つの家族は特定のドロモカ種の龍一体への共通の愛着で定義され、氏族の巨大な高楼の一つに共通の住居を持つ。彼らには親類関係にはない人々や、しばしば他種族すら混じるが、この家族はドロモカ氏族にとってとても現実的なものである。アイノク、人間、そしてエイヴンが互いを兄弟姉妹と呼び、彼らの過酷な砂漠の環境で生き残るために支え合い、龍たちの共通の防護の中で進軍する。
氏族の構造
それぞれの龍の家族の中で、人型種族の子供たちは――アイノク、エイヴン、人間――共に育てられる。小さな子供達はしばしば家族の間で交換され、産みの親から離されて別の高楼へと移される。外部の目からは、ドロモカ氏族は孤児たちの氏族のように見える。だが氏族員たちは言うだろう、彼らの中に孤児などいないと。氏族こそが彼らが知る唯一の親であり、彼らにとって、氏族が死ぬことは決してない。この交換の制度により、彼らに血による相続という考えは存在しない。従って、あらゆる人型種族が等しい地点から歩き始め、氏族内での昇進は厳しい能力主義による。才能ある生徒は階級を昇り、ドロモカのあらゆる編隊は持久力、勇敢さ、統率力を兼ね備えるその地位に相応しい一人の兵に率いられる。
《ドロモカの贈り物》 アート:Winona Nelson |
龍の守護 ドロモカの龍たちは氏族の人々を食べることは滅多になく、実際のところ積極的に彼らを守っている。鱗王たちは高楼内での軍事的訓練に立ち合い、氏族内のより弱い龍たちの世話をする。ドロモカ種の龍の中には人型種族へと彼女らの鱗を少量だが与え、象徴的かつ実際的な守りとして鎧に使用することを許すものすらいる。
王たちの言葉、龍詞 ドロモカ氏族の人々は他のどの氏族よりも龍と密接に関わっており、そのため彼らは轟く、かつ身ぶりを含む龍詞の実用的な知識をある程度身につけている。同様に、人々の近くで働く龍たちはしばしば人語を流暢に話す。通常、龍は人へと龍詞を、人は龍へと人語を話し、そして誰もが互いを理解している。ドロモカ氏族の人々は他氏族よりも、龍詞の音と身ぶりを彼ら自身の言葉に組み入れることに熟達している。
氏族の魔術
生存の魔術 ドロモカ氏族の魔術は防護を固め、氏族員を守ることに集中している――鎧を強化し、武器を研ぎ澄まして導き、戦意を高揚する。ドロモカ氏族の司祭たちは世界でも最も熟達した癒し手である。彼らの小さな、だが効果の高い攻撃魔法はしばしば氏族の龍の眩しい光の吐息を模倣する。ドロモカ氏族の兵たちは戦闘の中で倒れることのない戦士達として名高い。
《太陽運びの接触》 アート:Lucas Graciano |
禁忌の魔術 現在ドロモカ氏族となった人々の遠い祖先がかつて使用した祖先の魔術は、屍術の一種だとして龍王によって禁じられた。だがドロモカの法をものともせず、精霊語りとして知られる反逆者の小集団が秘密裏に祖先の魔術を訓練し、内々に人間の血統を辿っている。精霊語りたちは、ドロモカの領土内の森の中に隠された、秘密の「族樹」が祖先の魂を保持していると互いに囁き合う。発見は死を意味することを承知の上で、彼らはこれらの樹を世話し敬っている。
氏族内の主な役割
鱗王 堂々として誇り高く、保護的なドロモカ氏族の龍たちは忠誠には安全を、裏切りには死をもって報いる。彼女らは支配者かつ庇護者であり、遠く離れた下等種のあらゆる主よりも気高く、だが忠誠の連環の中で従う彼らを気にかけている。彼女らは氏族の兵士達と共に前線にて獰猛に戦う。彼女ら自身の生命こそがずっと価値あるものとはいえ、他氏族と激しい戦いにおいて龍たちは時折、かなりの危険へと飛び込む。あらゆる龍が尊敬される中、鱗王たちはドロモカの種でも最も古く最も信頼されている。
鱗衛兵 鱗衛兵は氏族の一般的な歩兵、重装備の戦力である。彼らは盾を構えて堅牢に立ちはだかり、一瞬の隙に固い防御隊形をとる。一般的な戦士の装備はありふれた金属を用いて鱗の形状を模しているが、精鋭部隊は鎧に龍鱗を組み入れている。
《ドロモカの戦士》 アート:Zack Stella |
太陽運びと砂運び ドロモカ氏族の魔道士たちは攻撃と防御の技を等しく学ぶ。太陽運びとして知られる魔道士たちは慎重に太陽の力と繋がり、暖かな光で傷を癒し、精神を増強し、もしくはそれを焼けつく光の爆発として放つ。砂運びと呼ばれるまた別の魔法使いたちはアイノクの間で使われていたものに遡る魔術の伝統を継ぎ、砂嵐を呼び起こしてドロモカ軍の移動を隠蔽する、もしくは氏族の敵を蹂躙する。
先頭に立つ者 ドロモカ氏族の最高階級の兵士たちは「先頭に立つ者」として知られている。彼らは他氏族との戦争に参加して生き残ってきた、戦闘に鍛えられた歴戦の兵である。彼らはドロモカ氏族の他の人々の模範とみなされている。彼らは鱗王たちとドロモカへと謁見し、龍の鱗を直接受け取り、鎧を強化する。
氏族の建築物
高楼 砂が吹きすさぶドロモカの領土の風景には、石造りの逆角錐型の建造物が点在している。高楼と呼ばれるこれらの建造物は、人工的オアシスであり、また龍と人、氏族員全ての家を兼ねている。高楼は龍が到達しやすいように頂上が開いており、地上階は軍勢が戦争へと進軍する時だけに開く重い扉があるのみである。その分厚い壁と過酷な砂漠はドロモカ氏族の人々を内へ、敵を外へと遠ざけている――そして人々のほとんどが、高楼を離れることに僅かな興味も持たない。
《平地》 アート:Sam Burley |
移動式の巣 戦時には、氏族の龍たちは人々の隣で戦う。彼女らが休息十分な状態で戦いに到着し加わるために、龍たちは戦争へと巨大な役畜が牽引する、これまた巨大な移動式プラットホームによって運ばれる。このプラットホームはまた龍たちの食糧と水を運び、彼女らは緩慢に移動する戦列に宙からついて行くよりも、望む時に休んでは飛ぶことによって進む。
氏族の重要地点
アラシンと大高楼 古の時代より権力の座であるアラシン市は砂漠の砂から飛び出した岩がちの丘の頂上に座している。市を取り囲むのはドロモカ氏族の領土最大の高楼であり、その丘の天然の防護を利用しながらも巨大な建造物がそれを強化するように伸びている。その要塞は地上からの攻撃には難攻不落と言ってよく、空もまた龍とエイヴンによって厳重に監視されている。ドロモカは自身の巣を大高楼に置き、彼女の領土最大の都市を支配している。経済的、政治的、軍事的に、アラシンは氏族の中心である。
自由の高楼 岩がちの峰の頂上に、ドロモカの土地の中で唯一、龍たちだけの家として「自由の高楼」が存在する。自由の龍と呼ばれる彼女らは様々な理由から、誰からも忠誠を受けず、どんな人々も守らない。その状況を罰や事情から受け入れる龍もいるが、この高楼の多くの龍は自身の選択でそこにいる。彼女らは単純に、劣った種との生に興味を持たないために。ドロモカへと熱心な忠誠を持つとはいえ、自由の高楼は独立している。彼女らのかつての氏族の祖先がそう生きてきたように。彼女らは他の龍との戦いに特化し、地上から遥か上空で、人型種族の軍勢の助力なく――足手まといもなく――ドロモカの領土の至る所で戦う。
塩路 ドロモカ氏族は荒野を貫く街道を支配している。中でも常に最も重要とされる塩路はドロモカ氏族の戦線への中心地の一つ、プルギル高楼への補給線となっており、糧食と兵器が運ばれる。
氏族の重要人物
アナフェンザ 別の時間軸にてアナフェンザはカンであったが、この歴史においては龍王ドロモカがその地位に就いている。ここでは公的な統治者でないながらも、アナフェンザは有能な戦士であり才能ある指揮官であった。しかしながら、彼女は古の族樹崇拝を学んでおり、そのため彼女は処刑された。それで終わりかに思われたが、ドロモカ氏族の軍はアナフェンザによく似た幽霊のような人影が彼らの傍で戦い、また鼓舞しているところを見たと報告している。精霊語りたちはアナフェンザの魂は族樹の中に収まり、そのため死後にすら彼女は氏族を手助けし続けているに違いないと言う。ドロモカはアナフェンザの霊の存在を否定しているが、族樹への注意を常に払い続けている。
《族樹の精霊、アナフェンザ》 アート:Ryan Yee |
バイヒール・マルザ このアイノクはドロモカ氏族の熟練の魔道士であり、また太陽運びと砂運びの伝統の両方の熟達者でもある。彼女は何百人もの兵の肉体と精神を同時に強化し、もしくは光と砂の嵐を召喚して土地から氏族の敵を一掃することができる。
司令官ファイソ この人間はドロモカ軍の一団を率いる者としては同世代で最も若年の兵である。彼はまさしく手強い戦士だが、彼の真の天才的知略は軍事的戦略と戦術で発揮される。特に、空中戦への超自然的な把握力から、ファイソは何千もの兵と何十もの龍を率いて、五回の作戦を成功させてきた。ドロモカ自身の命令により、氏族の龍たちは戦略的な問題を彼へと委ねている。彼は日の出の勢いにあるが、いつか大きな敗北を被った時、彼や彼の主がどのような行動をとるかは誰も知るよしもない。
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