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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

物語の時間

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物語の時間

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2014年7月28日


 数ヶ月前、私はWalt Disney Imagineering(WDI)という会社で話をするために招待された。世界中にあるウォルト・ディズニーの遊園地や施設で使われている乗り物や体験を作っている人たちがいた。WDIの開発部は、ゲーム・デザインについての一連の会合を主催しており、その中で私もスピーチをするために招待されたのだ。彼らが私に望んでいたテーマは、我々がいかにして物語をゲーム・デザインに組み入れているのかだった。このテーマのために私自身かなりの時間を費やしてきているので、それについて語るのは望むところだった。


物語の円》 アート:Aleksi Briclot

 スピーチをして、私は、これはいい記事になると気がついた。これまでにもいくつかスピーチを記事にしてきて(娘の第5学年の授業で講義した、基本的なゲームデザインについて(「ゲームに必要な10のこと その1その2」)やキャリア・デーのスピーチ(「夢の仕事を掴むため」))、それらは評判が良かったので、今回もまた記事に仕上げようと考えた。そこで今回、記事の形で、私がWDIでしたスピーチの内容を再現していこうと思う。諸君が、彼らと同じように楽しんでくれたなら幸いである。

はじめに物語ありき

 マジックのセットをデザインするとき、私は複数の目標を心に決める。楽しいゲームの経験を作ること。振り子を新しい方向に推すこと。古いデザイン空間を再探求し、新しいデザイン空間を探求すること。必要以上の複雑さをもたらすことなく、もっとも直截な形で目標を達成すること。しかし、それらすべてと同時に、もう1つ重要なことをしている。それが、物語を紡ぐことである。

 この目標は単独のものではないということは強調しておこう。全体が物語作りとその表現のためのあらゆる手段探しに尽力している、クリエイティブ・チームが存在する。私が直接責任を負うのは、その物語をゲームプレイを通して語るということだけだ。今回のこの記事では、私のまわりで行なわれているあらゆる仕事を踏まえて、この目的を達成するために私がしなければならないことについて語ることになる。マジックのセットを作るという技は、協力しておこなうものであり、また物語を伝えるという技もその例外ではない。つまり、今回、物語を語るということについて、ゲーム・デザインというレンズを通して語っていくことになる。

 まず、マジックのカード・セットにおいて物語を語ろうとするときに必ず直面する問題について掘り下げていこう。

問題点#1

その物語はトレーディング・カードゲームという媒体で語られなければならない

 まずはこれを見てもらおう。

 これはマジックのカードである。映画にはスクリーンがあり、テレビ放送にはテレビの受像器があり、インターネットにはパソコンなりタブレットなりスマホなりの画面があり、そしてトレーディング・カードにはカードがある。それが、我々が描くキャンバスなのだ。

 トレーディング・カードという媒体には長所もあるが、多くの制限も存在する。アート欄を例に挙げよう。これはカードの中で圧倒的に一番描写の多い部分であり、マジックのアートは可能な限り美しく描かれている。1枚絵には多くの制限があるのだ。例えば、両面カードでない限り一瞬のことしか描けないので、移動や変化を含むものを描くのは難しい。もう1つ例を挙げよう。


アート:Jason Chan

 このアートが示すものは何だかわかるだろうか? 正解はこちら

 もう1つ、大きな制約は文章量である。

 このカードは『アングルード』の《Spark Fiend》だ。このカードはクラップスというゲームをさせるもので、カードに入れるためにはアート欄を狭めるしかなかった。これは、カードの外見をどうするかを弄ることができるパロディ・セットだからできたことである。ここで重要なのは、文章欄はつでも大きくできるわけではなく、文字数も限りあるリソースなのだということである。

 現在、もしルール・テキスト全てをカードに書いた時点で文章欄にいくらか余裕がある場合は、そういう場合にのみ、フレイバー・テキストを入れることができる。

 この版の《命令の光》がそうであるように、いつでも余裕があるわけではない。多くのカードにはフレイバー・テキストを入れる余地はないのだ。

問題点#2

その物語はゲームを通して語られなければならない

 まず第一に、マジック:ザ・ギャザリングはゲームである。つまり、フレイバーとゲームプレイの間に齟齬が生じたなら、ゲームプレイが優先されることになる。なぜなら、物語を語り続けるためにはまず商品を売れるものにしなければならないが、ゲームとしての出来が良くなければ売れなくなってしまう。ゲームプレイが常にストーリーよりも上位に置かれるということではないが、ほとんどの場合にはゲームプレイが優先されるのだ。これが問題になるのは、ゲーム上の必要性とストーリー上の必要性が同じではないからである。

 これがその好例である。マジックのゲームに存在するカードは以下のように分類できる。

クリーチャー ― 50%
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土地 ― 5%
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呪文 ― 25%
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その他 ― 20%
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 カードの半数はクリーチャーである。土地の量はわずかで、4分の1が呪文。アーティファクト、エンチャント、プレインズウォーカーが残りの枚数を分け合っている形だ。物語には行動が伴い、そしてインスタントやソーサリーはその行動が描かれているカードではあるが、セットの中に占める割合は高くはない。一方、最大勢力であるクリーチャーは物語という意味ではあまり意味を持たない。スピーチの中で、私は、ディズニーがもしマジックのセットと同じような制約の中で物語を語ろうとしたなら、こんな物語になっただろう、と語った。

問題点#3

マジックのセットでは順番は定まっていない

 映画やテレビ、本などには1つの共通点が存在する。それは、物語を見ていく順番を送り手が決めるということである。単純化のために、物語をA~Zまで26個に分割してみよう。ほとんどのメディアでは、必ずAはBより前に起こり、それからC、というように続いていく。トレーディングカードゲームではそうはいかない。

 物語の中で、最初にブースター・パックから出てくるのはNかもしれないし、Vかもしれないし、Fかもしれない。次に出てくるのがその前なのか後なのか、それどころかその方向性もわからない。順番が定まっていない中で物語を語るのは非常にむずかしいことである。今日説明するあらゆる問題の中で、これがもっとも難しいと言い切っても良いだろう。

問題点#4

世界が常に変わり続けている

 この問題点を説明するために、ここ6年を振り返ってみよう。

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 2008年、『アラーラの断片』は、それぞれ2色が存在しない5つの世界に分断された次元を舞台としていた。

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 2009年、『ゼンディカー』は、土地そのものが危険で、大地の奥深くに古の存在を封印している冒険世界だった。

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 2010年、ファイレクシアの侵略者の手によってゆっくりと『新たなるファイレクシア』に変わっていく金属世界ミラディンが舞台だった。

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 2011年、我々は怪物が跋扈する、闇に包まれたゴシックホラーの世界『イニストラード』にいた。

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 2012年、『ラヴニカへの回帰』は、都市世界ラヴニカと、その10個の2色ギルドが舞台となっていた。

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 2013年、『テーロス』の舞台はギリシャ神話にモチーフを得たのどかな世界だった。

 6年の間に、6つの大きく異なる世界が存在した。物語をつなぐのは困難である。背景が常に変わり続ける中で物語を紡ぐのは、あり得ないほど難しい。なぜなら、物語を語る上で常に背景を説明し続けなければならないからである。

 我々は、順番が決まっていないゲームで、設定が常に変わり続ける中で、トレーディングカードゲームを通して物語を語る必要があるのだ。これは非常に難しいことだ。しかし、幸いにも、我々の手にはいくつかの道具がある。

解決策#1

トレーディングカードの全ての部品を使うこと

 トレーディングカードゲームをメディアとして使うのなら、その使い方を極める必要がある。

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 物語の要素を表すために使える部品は、7つ存在する。

カード名

 カード名はほんの数語だけだが、うまく使えば、かなりの可能性を秘めている。ここで、『ニクスへの旅』から《神討ち》を例に挙げてみよう。《神討ち》は文字通り読めば「神を殺害するもの」という意味である。この1語にはかなりの物語が込められている。

マナ・コスト

 次に、マナ・コストだ。『エルドラージ覚醒』の《引き裂かれし永劫、エムラクール》を例にしよう。《引き裂かれし永劫、エムラクール》はエルドラージの巨人の中でも最大のものだ。それを明確に示すには何が使えるか? そう、マナ・コストだ。ほとんどのクリーチャーのマナ・コストは1~6マナなので、15マナともなれば、巨大で重要なクリーチャーだと強く主張していることになる。

アート

 この1枚の絵で示されているチャンドラの要素を文章で書こうと思うとかなりの量になる。先ほど、アートの弱みについて説明したが、今度はアートの強みについて説明する番だ。素晴らしく幻想的なアートに彩られたアート欄がなければ、マジックは今のように成功することはなかったと確信している。絵は強い力を持ち、そして物語を語る上で大きな役割を果たすことができるのだ。

クリーチャー・タイプ

 ここが舞台の上なら、私は「デーモン・忍者」とだけ言ってマイクを置くだろう。この2つの単語は強烈に物語を想像させるもので、そしてクリーチャー・タイプにどれだけ人に知りたいと思わせ振り向かせる力があるのかを示している。

ルール・テキスト

 このオブジェクトが物語の上で何をするかを知りたいなら、ルール・テキストを読むべきである。ルール・テキストにおいて、それは非常に簡明に記されている。

フレイバー・テキスト

 私は、はじめてこのカードを見てフレイバー・テキストを読んだときのことを覚えている。このカードがゲームでどういうことをするのかは判らなかったが、1つだけわかったことがあった。もし《ルアゴイフ》に会ったら、他の方向に逃げるべきだ、と。

パワーとタフネス
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 この《B.F.M. (Big Furry Monster)》の巨大さを示すためにルール・テキストでも多くの語が費やされているが、パワーとタフネスはわずか2つの数字で同じように巨大さを物語っている。

 この項目で重要なのは、トレーディングカードは限られたメディアではあるが、マジックのカードには多くの要素があるので、その全てを活用するようにすべきだと言うことである。

解決策#2

芳醇さ

 以前、『基本セット2010』の発売当時に、1記事全体を使って芳醇さについて語ったことがある(リンク先は英語)。しかし、これは今日の話題の中で非常に重要な部分なので、もう一度ここで振り返っておこう。芳醇さのために重要なのは、「人々は既に知っていることにはより自由に反応するものだ」ということである。

 違和感のあること、知らないことに対しては、それを理解するために時間を費やす必要があり、そして受け入れる際にはより懐疑的になるものである。馴染んだものは、ずっとスムーズに把握でき、そして喜んで受け入れるものである。

 物語を伝える際には、芳醇さがその助けになる。説明しよう。平均的な人は、その人生の中で多くの物語と関わってきている。その中で、馴染みのある物語の要素というものが存在している。もしその中のいくつかが諸君の物語の中に存在していれば、それに多少の変化が加わっていたとしても、諸君の物語は受け入れやすいものになるのだ。

 この例として『イニストラード』を取り上げてみよう。ゴシックホラーの世界にすると決めたとき、セットの土台はマジックよりもずっと大きいものになることがわかった。ホラーというジャンルは多くの人々に馴染みのあるものなので、『イニストラード』に吸血鬼や狼男やゾンビが登場しても、プレイヤーの多くはホラーというジャンルに馴染みがあるのですぐに受け入れたのだ。

 そう、吸血鬼、狼男、ゾンビはどれもマジック版だったが、我々はそれらがユーザーの想像通りに振る舞うようにしていたのだ。どんなメカニズムを持たせるか考えたとき、私と私のチームはユーザーが考えるそれらの姿を再現するように心がけた。例えば、ゾンビは、数に任せてゆっくりと犠牲者を圧倒していくということが判っていた。単独では恐いものではないが、無数のゾンビの群れは恐いものだ。つまり、我々が作るゾンビは単体でとても強力なものである必要はないが、ゆっくりと対戦相手を圧倒していくようなプレイスタイルを作るものである必要があったのだ。


終わり無き死者の列》 アート:Ryan Yee

 我々は、ゾンビがゆっくりと成長し、時とともに軍勢を作り上げるという方法を探すために尽力した。最終的には、ユーザーの想像する通りに振る舞うゾンビができ、そしてユーザーはゾンビに愛着を持ってくれるようになったのだ。ゾンビは、ユーザーが見聞きした様々なホラーの物語で語られているようなゾンビの振る舞いをするようになったわけである。

 トレーディングカードゲームが内包する混乱を抑えるための最大の方法の1つが、プレイヤーの知識を利用して物語の隙間を埋めることであるから、芳醇さは重要なのだ。

解決策#3

アーキタイプ

 様々な意味で、この解決策は上記の解決策の延長にすぎない。ユーザーに物語を理解しやすくするために、作り手はアーキタイプと呼ばれるものを用いる。アーキタイプとは、既にユーザーに馴染みのある物語の類型のことである。私がアーキタイプについて語る場合によく例に挙げるのは、ラブコメである。

 2人の人物がバラバラに(場合によっては敵対して)始まり、物語の終わりで2人は結ばれる。結ばれると言うことはもう最初から判っているので、彼らが結ばれるかどうかが面白いのではない。面白いのは、どうやってそうなるかという部分である。昔から、いくつものラブコメが作られてきた。読者は飽きないのだろうか? 飽きない。なぜなら、それは人生の重要な部分を表したものであり、人々はそれを見たいと思っているからである。

 アーキタイプを取り上げたのは、それがトレーディングカードを通して物語を伝えることにおける最大の問題の1つ、順番の不確定性を解決してくれるからである。物語が順序通りに並んでいない場合、それをつなぎ合わせられるようにするにはどうしたらいいか? 受け手に、よく知られた基本的な大枠を持つ物語を伝えればいいのだ。全体像なしでジグソーパズルに取り組ませるのではなく、よく知られた全体像を与えるのだ。

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 この例が『テーロス』ブロックである。物語を伝える必要があった。舞台はギリシャ神話を元にした世界。受け手にわかりやすいようにする最も簡単な手段は、世界に相応しいアーキタイプを選ぶことだった。今回の場合、ジョセフ・キャンベル/Joseph Campbell(人生をかけて物語のアーキタイプを調べた男)曰く、「英雄の旅」と呼ばれる神話の旅である。

 エルスペスが彼女の問題から逃れるためにテーロスに来たが、人々を死から守るためにハイドラを倒すことになった。そしてそのことが神々の1柱の目にとまり、その神は彼女を旅へと送り出すのだ。物語の各部分は我々が伝える物語を補強するために作られているので、プレイヤーが物語を追うのはずっと簡単になっているのだ。

解決策#4

環境の物語を紡ぐこと

 学生時代、私は執筆の授業を多く受けていた。本のために書く、大画面のために書く、小さな画面のために書く。どの講義でも最初に学んだのは、自分の使うメディアにあわせるということである。例えば、映画で重要なのは視覚表現である。最高の映画とは、物語を巨大な映像で見せるもののことだ。一方、テレビの場合、より聴覚に寄ったものであり、台詞や音が重要になる。よい映画にできる物語と、テレビで映える物語は違うのだ。

 では、トレーディングカードというメディアの長所は何か、というと、環境である。人々、クリーチャー、オブジェクト、場所といった世界の様々な要素を見せるという面で、トレーディングカードは非常に優秀なのだ。トレーディングカードで物語を伝えようと思ったなら、環境が物語の上で役割を持つような物語にする必要があるのだ。

 『ミラディンの傷跡』ブロックを例に取ろう。この物語は、戦争に繋がる侵略の話であり、1つの存在を通してではなく世界全体を通して語られるものである。この世界の場所やクリーチャーが変化していくのを見ることができるのだ。『ミラディンの傷跡』から『ミラディン包囲戦』そして『新たなるファイレクシア』へと変遷していく中で、我々は物語の進展とファイレクシア軍がゆっくりとミラディン人を打ち倒していく有様を見ることができたのだ。これは一部のカードだけで描かれたものではなく、このブロックのほとんどのカードを使って描かれたものである。

 ここでの教訓は、我々の描く物語は、我々が持つ要素の中で物語を著すことにもっとも秀でている環境というものを必ず使っているということである。

解決策#5

プレインズウォーカー

 舞台が変わり続ける中で、現在進行中の物語を伝えるためには、他の要素の1つを維持する必要がある。すなわち、主役を維持することになる。私は、プレインズウォーカーが物語にいくつものいい影響を与えていると考えているが、その中でももっとも重要なものの1つが存在の継続性である。世界と世界の間を旅することができるので、ユーザーはプレインズウォーカーに思い入れを持つことができる。例えばテーロスは完全に新しい世界だが、エルスペスは見知った相手だ。タルキールも見たこともない場所だが、サルカンはよく知った人物である。

 プレインズウォーカーはもう1つ大きな特徴を持っている。プレインズウォーカーは、ゲーム上におけるプレイヤーなのだ。これまでにもゲームプレイに物語を絡めるための方法について話してきたが、マジック全体のコンセプトと物語の関連性もまた重要なのだ。

解決策#6

カラー・パイ

 マジックのもっとも重要な部分がカラー・パイであると私が考えていると知らない諸君、ようこそ「Making Magic」へ。なぜカラー・パイがとてもすばらしいものなのかのもう1つの理由がこれである。芳醇さやアーキタイプが重要なのは、そこに多くの情報が詰められているからである。人々が我々の物語を理解できるよう手助けするのは、彼らが最初からその要素を知っているようにするためである。カラー・ホイールも同じような役割を果たしているのだ。

 はじめて《見えざる者、ヴラスカ》を見たとき、マナ・コストを見て、黒緑だと判る。このことからいろいろな情報が掴める。彼女がもし赤緑、あるいは緑青だったなら、彼女がどういう存在であるかもまったく違うものになっていただろう。これが、色の理念を注意深く定めていることの意義である。色の意味が定まっているので、キャラクターや世界についてすぐに伝えることができるのだ。

 カラー・パイそのものが芳醇さによるものであるということも忘れてはならない。リチャードは色の理念を考えたわけではないが、色と理念の関連性は見いだしていた。マジックの基礎を色の理念に基づくものにしたことは、物語を伝える上で素晴らしい役割を果たしたのだ。

解決策#7

ゲームプレイを通して物語を紡ぐこと

 最後の解決策は、頭の中でまとめるのに何年も要したものである。カード名、アート、クリーチャー・タイプ、フレイバー・テキスト、パワー/タフネス、どれも物語の要素を成しているのは明らかである。また、ルール・テキストもカードのフレイバーを鮮やかに際立たせているということも理解している。私がなかなか気付くことができなかったのは、物語を伝えるための最大の道具の1つはカードではなくゲームそのものにあるということだった。

 それが、ユーザーにどう感じさせたいかを定義するデザインにおいて、ビジョンを定めるときにどれほど重要なのかということは何度も語ってきた。ゲームプレイ中の行動が何を想起させるべきなのか? 私が脚本家時代に自分の物語を扱っていたのと同じように自分のゲーム・デザインを扱っているということに気付くのには時間がかかった。物語を語っていたころは、どんな感情を想起しようとしているのかを常に意識していたのだ。

 読者の感情を揺さぶらないなら、物語とは一体何の意味があるだろう? 芳醇さに関する記事の中で、登場人物にとっての問題に読者を移入させる方法を教えてくれる先生がいたという話をした。映画を見て感動するのは、映画の中で起こることに繋がりを感じるからだ。観客が涙を流すのは、登場人物の身の上に起こった悲劇が自分にも起こりうると感じ、そしてその人物が自分自身であるかのように感じるからなのだ。

 感情を揺さぶるゲームプレイというのも同じことである。『イニストラード』で恐怖を感じ、『テーロス』で栄誉を感じるのは、我々がゲームプレイを通して提供している感情の動きが物語上のそれと一致しているからである。物語上で、あるいは環境を通して、何かを感じてもらいたいと思ったら、我々はゲーム内での行動を通してそう仕向けることができるのだ。


境界なき領土》 アート:Cliff Childs

 この認識から、デザインの第5の時代が始まり、そしてマジックのデザインに関する私の考え方、やり方が大きく変わることになったのだ。

めでたしめでたし

 私のWDIでのスピーチの目的は、この記事と同じものだった。つまり、聴衆/読者に考えてもらいたいのだ。私は多くの情報を提示した。あとは諸君が自分の手で進めて欲しい。これらすべてを吸収すれば、マジックにおける物語の技法というのが複雑なものであるが、その一方で私が絶え間なく取り組むほどにエキサイティングなものであるということが判ってもらえると思う。

 いつもの通り、今日の内容に関する諸君の意見を楽しみにしている。メール(making.magic@hotmail.com(英語で))、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で聞かせてくれたまえ。今回の記事は特に濃いものなので、いつも以上に反響が楽しみだ。

 それではまた次回、狩りの時間にお会いしよう。

 その日まで、あなたの未来に多くの物語がありますように。

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