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Magic Story -未踏世界の物語-
スレイベンの戦い
スレイベンの戦い
Nik Davidson / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2016年7月20日
前回の物語:聖トラフトと空駆る悪夢
前回ジェイスを見かけた時、彼はまさに三体目の巨人エムラクールを目撃した所だった。尋常ならざる事態と確信し、彼はゲートウォッチを招集すべくゼンディカーへと次元を渡った。その異界の怪物を倒すには全員の力が必要だった。
イニストラードで目を開けた時、ジェイスは思わず身震いをした。ここの空気は少々冷たすぎた。そしてまた異なる匂いと、異なる雰囲気もまたあった。匂いは奇妙で、ほとんど金属臭にも近いものがあった。ゼンディカーで最後に息を吐き、イニストラードで最初に息を吸ってそれを感じた。この次元の大気には密度もあった。最初の呼吸は、わずかに痛みを伴った。
空そのものが引き裂かれていた。あらゆる方向に突風が吹き荒れているように嵐雲が渦を巻き、地平線に漏れ出る陽光は全くなかった。この次元の永遠の薄暮は紫色の輝きに取って代わられていた。彼の両目はその暗闇に慣れることを拒んだ。ずっとそうだった。彼は地平線を、現実にあいた穴を一瞥し、そして集中しようとした。集中。集中しろ。ここでは心が重く感じた。まるで頭の上に湿った米の袋が置かれているように。滴の音、こする音、滑っていく音......
心の中でチャイムが鳴った。もしくはチャイムの記憶が。自身を思い出し、そして視界が晴れた。
彼は丘の頂上から、スレイベンを囲む緩やかな起伏の平原を見下ろしていた。今その都市が見えたが、その半分は燃えていた。その街路で戦いが勃発している。松明。叫び声。悲鳴。この距離で悲鳴を聞いているのか、それとも感じているのかは定かでなかった。そしてその何もかもの上、空の上には......そこへ視線を集中はさせられなかった。今はまだ。
一連のまた異なる音がジェイスの集中を更に明瞭に、そして現在の問題に向けさせた。唸り声。鼻息。病的な緑色の瞳が暗闇の中に輝いていた。
「また狼男か」 ジェイスは呟いた。彼は暗闇を探り、そこに見つけた精神に軽く触れた。そのうち三体は狂気に蹂躙され、かろうじて認識できる程度の何かに変化していた。それらが暗闇から這い出ると、彼はその狼男達をはっきりと見た。それらの毛皮はつぎはぎ状で、皮膚はイニストラード中の有機物に見て来たものと同じ格子状の構造が融合していた。
ジェイスは呼びかけた。三体の精神に残されているものは多くなかった。容赦のない精神攻撃で彼はそれらの感覚を掴み、一つ一つに負荷をかけた――目が眩む光、耳をつんざく音、窒息するほど酷い悪臭。快いものではなかったが、皆が到着した時のために足がかりをここに築いておく必要があった。
《有事対策》 アート:Ryan Yee |
狼男のうち二体が弱々しい鳴き声とともに倒れた。それらは身をよじり、そして動かなくなった。三体目は......笑っていた? ジェイスはその精神が変化し、適応し、攻撃に反応して増大するのを感じた。精神的接続が切断され、彼はその生物の皮膚が波打ち、四肢が長く伸び、鉤爪が成長し、そしてその皮膚が爛れるのを見た。ジェイスはよろめき後ずさった。一種の反射的な変質を引き起こしてしまったらしかった。今、彼は自分が何を見ているのかすらも定かでなかった。
素早い動作で、彼は十体ほどの映し身に分かれた。怪物は一瞬空気の匂いをかぐと、幻影は無視して真のジェイスへと狙いを定めた。ジェイスは周囲に逃げ道を探ったが、何も見つからなかった。選択肢が心に走るが、彼はそれを一つまた一つと切り捨てた。半ば実体を持つジェイスの幻影達はその獣に群がろうとした。少しの時間を稼げば、そのうちに......
光の閃きが一つ、そして刃が風を切る音と肉を切り裂く音があった。怪物はめった切りにされ、情けない声とともに崩れて塊と化した。ギデオン。
「大丈夫か、ジェイス。ようやく追い付いた」
ジェイスは上着を整えた。「俺を見失ったのか? それともラヴニカに寄り道して飯か?」
「行ったことのない場所へ君を追いかけるのは容易ではないんだ。ふむ」 ギデオンは丘の向こう、スレイベンを見据えた。何か困難なものを感じ取っていたとしても、彼はそれを態度には出さなかった。「あの二体より大きいな。それに私達とあれの間は敵だらけだ。作戦はあるのか?」
大気が熱に揺れ、その中から一人の女性が踏み出した。
チャンドラは両手をこすり合わせた。「前と同じ作戦で行くの? 燃やす? 思うにあの時はそういう計画じゃなかったけど、上手くいったじゃない。いつも通りよ」 彼女は両手を腰に当て、眼下の混沌とした風景を見下ろした。
彼らが立つ丘がわずかに震えた。ニッサが到着した兆候はそれだけだった。彼女は眉をひそめて膝をつき、掌を地面に当てた。「ここのマナは暗くてねじれてる。土の中も、木の中も......エムラクールの仕業、だけど......」
「イニストラードに来たのは初めてだよな? ここでは『暗くてねじれてる』ってのは割といつもの事だ」 ジェイスは続けて言った。「それで、大体は前回と同じ筋書きで行く。少しのひねりを幾つか加えて。エムラクールはスレイベンへ移動しているから、俺達もまずそこへ辿り着く必要がある。ニッサは次元規模の印を使って力線のネットワークへ繋がる。ギデオンは近づくための道を切り開く。俺達は次元のエネルギーをチャンドラに流して、チャンドラはやるべき事をやる」
ニッサはかぶりを振った。「それは無理だと思うの。力線はもう曲げられてる、あれに向けて」
ジェイスは笑みを作ろうとした。「ああ、その通りだ。謎の石のネットワーク。あれは今、全部の力線をスレイベンへ集中させている。加えてスレイベンはイニストラードで一番の人口密集地だ。つまりエムラクールは、ほぼ確実にそこに引き寄せられるだろう。その中心点は印の効果を増幅できると思う。実際、面晶体のネットワークとほぼ同じことだ」
「十分近づくことができれば。でも近づいたなら、エムラクールに殺されてしまう」 ニッサの声は穏やかだが、断固としていた。「もし近づけないなら、何処か良い場所から私が使える力線は一本か二本、頑張っても三本。それでは足りなそう」
チャンドラはニッサの肩に手を置いた。「ね、力線が一本でも二十本でも、私に繋げてくれればそれで大丈夫だから」
ギデオンは溜息をついた。「ニッサ、それは可能だと思うか? 全員が専念できない作戦を試すことはできない」
ニッサはひと握りの土をすくい、指の間から落とした。見上げると仲間の顔があった。心配するギデオン。冷静なジェイス。興奮したチャンドラ。彼女は目を閉じ、そしてしばしの間耳を澄ました。自身の心拍に、足元の汚れた土に、自身の記憶に。
「大丈夫」
「御覧なさい、ガレド。ある意味素晴らしい風景ね、あなたの世界が終ろうとしているのよ」 スレイベンに火の手が上がり、嵐から触手が伸ばされてその下の大地をかき回す様を、リリアナは見つめていた。空には天使が群れ、そして地面にも、あの巨人の下にも大群がいた。この距離から彼女が把握できるのはその動きだけだった。生物の悶える塊がどこまでも続き、この世界の終末の源へと力の限りに近づこうとしていた。
「はい、お館さま。このあたりも、もう、なりそうです」 霊魔導士の弟子は膨れた片目で、心細そうに眼下の混乱を見下ろした。
「ああ、あそこ。炎と光のひらめきが見えて? ジェイスの大好きなお友達でしょうね。お揃いで何もかもの中心をまっすぐ目指しているようね」
ガレドは首を傾げた。既に左右非対称の身体にとっては趣深い動作だった。「はい、お館さま。それでどうしても気付いたのですが、お館さまはお助けのためにこの軍を作られました。でも私達はここにいて、あの方々は向こうに」
「ふん。その通りなのだけど」
チャンドラは叫んでいた。他の三人には、それが苦痛なのか喜びなのか怒りなのかを言い当てることはできなかった。彼らはただ叫びを聞いて圧倒的な熱を感じていた。彼女は白熱し、歩く業火と化し、全方向に炎を放ち、友人達を焦がしつつ数日前にはスレイベンの住人であったよじれた残骸を幾重もの波で焼き尽くしていた。
《炎の散布》 アート:Chase Stone |
その叫びが止まり、炎が消えた。チャンドラは両手と両膝をついて崩れ、ギデオンは彼女を守るべくその前に飛び出した。彼らは市場であった場所に閉じ込められていた。四つの入口のうち二つは瓦礫と崩れた建物で塞がれていた。街の中央部へと続く敷石の道の上には格子状の傷のある塔が崩れかかって傾いていた――だがそこと、入ってきた道の両方はエムラクールの軍勢が絶え間なく押し寄せ、塞がれていた。
中にはまだ人間と認識できる者達もいた。彼らの声は叫びと無意味なわめき声を甲高く渦巻かせていた。あるものは獣や天使、もしくは何か認識できないものの名残をとどめていた。あるものは目的を持って移動していたが、他はただうめきながら力のない肢と蝋のように溶けた身体を引きずっていた。
そしてそれらの背後に、嵐が迫っていた。
巨人の身体の大半はまだ視界の外だったが、その存在はそこかしこにあった。エムラクール。嵐は怒り狂い、ありえない枝分かれをした稲妻がその下の都市を打ちのめし切り裂いていた。黒い雲から触手が現れて地面低くを削り取り、震えとともに都市の一角が灰と石に帰した。
《約束された終末、エムラクール》 アート:Jaime Jones |
「作戦、別の作戦が要る」 ギデオンは広場を見渡し、スーラを放った。「ニッサ、エレメンタルは?」
彼女はかぶりを振った。「呼ぶことはできるけど、良くないものしか応えてくれなそう」
ギデオンは苛立ちにうめいた。「チャンドラ? もう一発いけるか?」
チャンドラは身体を折り曲げ、両手を膝につき、息は荒かった。彼女は片手を掲げて弱々しく親指を立てて見せた。「モチロンよ、ボス。すぐに始めるから」 彼女は咳込むと背筋を伸ばした――その顔は煤と灰に覆われ、だが彼女の笑みは正真正銘のものに思えた。
「ジェイス、どうだ?」
ジェイスは辺りを再び見渡した。「前へは行けない。ここは守りが固くて開けているから、ここで印を使うべきだ」
ギデオンは頷いた。「ニッサ、できるか?」
ニッサはひざまずき、両の掌を地面に押し付けた。緑色の輝きが地面からうねって上がり、彼女の両腕を新緑の光で包んだ。「力線は二本。頑張れば三本」
「やってくれ」 ギデオンの声にはほんの僅かな躊躇があった。「私達三人はニッサを守る。ここまでの戦いは偶発的なものだ。敵が私達を意識しているのかも、正直わからない」
ジェイスは広場の入口の一つを見下ろす塔へと身振りをし、幻影の目印がそこに二つ現れた。「チャンドラ、あれとあれを打ってくれ。あの格子で石が変質して頑丈にはなったが、熱には弱くなった。崩れて道に瓦礫が落ちるだろう」
「何?」 チャンドラは肩越しに振り返った。その両手は既に燃えさかっていた。
「本で読んだ。信じてくれ」
チャンドラは両の拳を塔めがけて突き出し、そして二つの火球が弧を描いて、ジェイスの目印へと正確に命中した。数秒後、塔の構造は完全に崩壊し、向かい側の宿屋へと墜落して道の大半を塞いだ。
市場は生き返った――踏みしめられた土と敷石から新たな芽吹きが弾け、酸っぱく汚い空気はわずかに澄んだ。ニッサはその中央にじっと立ち、輝く文字が彼女の周囲の地面に現れ、その足元から線を描き、やがて複雑な印が完成した。
周囲の群れから金切り声が上がった。一斉に、それらは向き直ってニッサへと向かってきた――そしてギデオンがそれらを防ぐべく駆けた。彼は力強い垂直の切り込みを群れの最前線に作り、そしその中へと飛び込んだ。攻撃が彼の身体で跳ね返ると、黄金色の火花が夜の大気へと散った。彼は大きな円で切り裂きながら挑発を叫び、可能な限りの損害を与え、そして可能な限り自身へ注意を引きつけようとした。
《一所懸命》 アート:Tyler Jacobson |
だがその生物は簡単には倒れず、そして倒れたものもそのままではいなかった。肢を全て切断されたものでさえ、じっとしていたのはほんの僅かな時間だけだった。それらは新たな傷から新たなおぞましい肢を生やし、ニッサとその印へと直接引き寄せられるように歩き、かきむしり、駆けた。
「ニッサ、いける? こっちはもう、かなり、いい感じだから」 ニッサが目を固く閉じながら聞き取れない節を呟く中、チャンドラは輝く印の端を速足で進んだ。そしてギデオンへと警告を叫ぶと、街路を炎の波で一掃した。肩越しに振り返ってニッサを見ると、彼女は地面へと手を伸ばして棘のある半透明の蔓らしきものを引き出していた。その太さは木の幹ほどもあった。彼女は身体を緊張させてそれを地面から引き出し、それらの半透明な棘が腕を切ると痛みに息をのんだ。
ニッサは歯を食いしばり、声をしぼり出した。「もうすぐ......だから......」 彼女は再び手を伸ばし、二本目の蔓を呼び出した。この一本は引き上げられてねじれ、彼女の拳の中で蛇のように前後に鞭打った。苦闘の末に彼女はそれを腰に巻きつけて錨とし、そして三本目を呼び始めた。
次に何をすべきか定かでなく、チャンドラは行きつ戻りつを繰り返した。ニッサにしてやれる事は何もなく、ギデオンは向かってくる生物塊の流れを止めるべく全力を尽くしていた。彼女は空を見上げ、瞬時にそれを後悔した。肢、触手、そして格子状になった様々な末端がそこかしこで建物や瓦礫を登りはじめていた。何百と。チャンドラはニッサへ視線を戻し、そして彼女が膝をつくのを見た。
もう二本よりも暗く、棘の鋭い三本目の半透明の蔓が現れたが、その動きは更に悪意と混沌に満ちていた。ニッサはそれを手懐けようとし、だがそれは暴れた末に彼女の首に巻き付き、地中へ引きずり込もうとしているかのようだった。
「生命は止まらない......止まらなければならない時でも......間違っていると知っていても! 孤独に不調和に! そう知っていても!」 ニッサの声が響き、両眼を病的な紫色に輝かせ、そして彼女は地面に力なく倒れた。蔓は消えた。印は直ちに暗くなった。そして生物の群れは迫り続けた。
「撤退よ!」 チャンドラはニッサの隣に駆け寄りながら叫び、そしてその頭部を精一杯穏やかに持ち上げた。「急いで、急いで、起きて!」
「撤退する所なんてない、チャンドラ!」 ジェイスが二人の隣に立ち、ニッサの額へと手を伸ばした。「彼女はまだいる。少し気絶しただけだ。数分すれば良くなる」
怪物の群れがゆっくりと迫る中、ギデオンも三人へと駆け寄った。「ニッサが起きるまで見守る。君達二人は安全な所までプレインズウォークを」
両手を燃え上がらせ、チャンドラは立ち上がった。「そんな事はしないわ。全員一緒にここから離れるか、でなければ......」 彼女の虚勢は言葉とともにかき消えていった。
「でなければ」 ジェイスが彼女に代わって続けた。「全員一緒か、誰一人脱出できないか」
チャンドラは返答しようと口を開きかけ、そして首を横に向けた。「待って......あれは?」
目にするよりも早く、プレインズウォーカー達の耳にそれは届いた――唸り、うめき、噛み、引き裂きながら、死者の軍勢が広場になだれ込んだ。それらは密集した編隊で移動し、プレインズウォーカー達を取り囲む歪んだ怪物へと飛びつき、噛みつき、かきむしり、恐るべき腕力で引きちぎった。
《リリアナの精鋭》 アート:Deruchenko Alexander |
爆発のような衝撃とともに、壊死した肉が歪んだ四肢に激突した。両軍とも苦痛や損壊には無頓着だった。だがゾンビは正確さと目的をもって動いており、刻まれたものは直ちに補充された。そしてそれらがプレインズウォーカー達まで達すると彼らの前で分かれ、取り囲むように防衛線を形成し、外へ押し広がり始めた。
そして、彼らの将軍が姿を現した。
《闇の救済》 アート:Cynthia Sheppard |
リリアナは両腕を大きく広げて軍の前方へ浮かび上がり、その指先すぐ上には鎖のヴェールが静止していた。その身体の文様は光で輝き、血を滴らせていた。拳を軽く振るうと屍術のエネルギーが大きな弧を描いて走り、よじれた生物の屍を灰へと帰した。悪性腫瘍のような成長、よじれた生命力はあっけなく吹き消された。終わりのない不自然な生命の最中に静寂と死が姿をもって現れ、そして君臨した。
優雅に地面へ立つと、リリアナの表情は瞬時に熱狂的な歓喜から上品な笑みへと和らいだ。文様が消え去り、ヴェールは縮んだように見えた。「あら、ジェイス。なるべく急いで来たのだけど」
「ここで何を?」 ギデオンは今も戦闘の体勢にあり、彼のスーラは吹き込まれた力を流していた。
《集団的努力》 アート:Eric Deschamps |
「ギデオン、ちょっと落ち着きなさいよ。その気持ち悪いドレスの御婦人が救ってくれたんだから」 チャンドラはリリアナに背を向けるように二人の間に割って入った。
ニッサは身動きをして立ち上がろうとした。「その......連れてきたもの。忌まわしいもの」 ニッサはヴェールにたじろぎ、そちらに目を向けようとすらしなかった。
リリアナは笑みを広げた。「それは『ありがとうございますリリアナ様、命を救って頂いて。このご恩は必ずお返し致します』 の変わった言い方ね」
ギデオンは不満そうに唸ったが、スーラを引っ込めた。
「リリアナ、俺は......また会えるとは思ってなかった。でも来てくれたのか」 ジェイスはフードを脱ぎ、その両目から輝きが消えた。その下には隈が際立っていた。
「いつもながらお上手ね。そう。あなたは助けられた、私の力でね。今こそどこか安全な所へ逃げていいのよ」
ジェイスはかぶりを振った。「そうするつもりはない。これを終わらせる。もうすぐなんだ。そして君が俺達を守ってくれるなら、できると思う。できるって俺は知ってる」
リリアナは額に指をあてた。「ジェイス、今は馬鹿なことを言っている場合じゃないでしょう。必要なのはここから離れること」
「あなたが必要なのは、この呪われたものを連れて帰ること」 ニッサはふらつきながら立ち上がり、だが彼女は剣を手にしていた。「それと一緒には戦えない」
ギデオンは戒めるように片手を挙げた。「ニッサ、君は海門で吸血鬼や海賊やもっと悪いものと共に戦っただろう。得られる仲間は何であろうと受け入れるべきだ、それが信頼に値するのであれば」
「あら、そこの筋肉には分別があるじゃない!」 リリアナはにこやかに笑った。
「ですが、あなたが信頼に値するかはわかりません。ニッサの本能は滅多に外れることはない。私も彼女に同意したい気分です。お持ちになっているそれも......問題です。それに私はあなたを存じません。ですが彼なら」 ギデオンはジェイスへと向き直った。「君が決めてくれ。ジェイス、教えて欲しい。彼女は信頼に値するのか?」
ジェイスが返答するよりも早く、リリアナは高笑いを上げた。「馬鹿げた質問ね! わかっているでしょう。周りを見てごらんなさい、私の合図一つであなたたち全員押し潰されるのよ。今すぐ私を信頼しなさいな、でもここから離れる気がないなら、強制はしないわよ。だから決めなさい、勇敢な英雄さん達。どうしたいの?」
彼女はそれぞれの顔を見た。憤慨するギデオン。消耗したチャンドラ。怒り狂うニッサ。そして、苦悩するジェイス。
「あら素敵」 そこに肯定的な感情が無いことを知り、リリアナは笑みを浮かべた。「終末が来るわね」
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