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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

「Masterpiece Series」の話

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「Masterpiece Series」の話

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年9月12日


 先週、『カラデシュ』のデザインの話を始めた。来週、その続きをする。今週は息抜きに、『カラデシュ』でマジックに導入される、あるエキサイティングなものの話をしよう。それが何なのか、その手法や理由について説明し、そしてクールなカードをお見せしよう。これが諸君の好奇心をそそるものになれば幸いである。

「これこそMasterpiece(傑作)だ」

 『カラデシュ』から今後の予定として、我々は「Masterpiece Series」という新しい要素を導入する。各ブロックごとに独自の名前がつけられるが(例として『カラデシュ』ブロックの「Masterpiece Series」は「Kaladesh Inventions」と呼ばれる)、全体としては「Masterpiece Series」と呼ばれることになる。基本的には、「Zendikar Expeditions」でおこなったことを各セットに適応した形にする。その特徴は以下の通りになる。

  • 「Masterpiece Series」は神話レア以上のレアリティに存在する。例えば、『カラデシュ』の場合、「Kaladesh Inventions」のカードはおよそブースター144パックに1枚存在する(計算上、『カラデシュ』のブースター・パックにはおよそ2160枚に1枚と書かれている)。これは、プレミアム版神話レアよりもわずかに多い割合である。この割合は将来のセットで変更される可能性がある。
  • 「Masterpiece Series」は、1つの例外を除いて既存カードの再録である。(『戦乱のゼンディカー』のレア2色土地が「Zendikar Expeditions」に含まれていたように)その「Masterpiece Series」が含まれるセットのカードが含まれることがあるが、それは「Masterpiece Series」に含まれるだけでなく、そのセットに、通常のカード枠、通常のレアリティでも含まれることになる。「Kaladesh Inventions」には、『カラデシュ』セットの神話レア・カード5枚からなるサイクルが含まれている。「Masterpiece Series」にのみ存在するカード、というものは決して存在しない(もちろん、ここで言っているのはゲーム的な意味でのカードのことであって、クリエイティブ的/カード枠の話は考慮していない)。
  • 「Masterpiece Series」は、表現上もカードの選択においても、そのブロックの舞台となっている世界とテーマ的に関連している。例えば、「Kaladesh Inventions」はすべてアーティファクト・カードで、カラデシュ世界のアーティファクトを表している。カード枠はブロックのテーマと関連した特別なものになっている。「Kaladesh Inventions」を後でお見せするので、この史上初の「Masterpiece Series」について私が言っていることを目にしていただくことになるだろう。カード枠は、その「Masterpiece Series」独特のものになる。
  • 「Masterpiece Series」のカード枚数は固定されていないが、「Masterpiece Series」ごとにブロック全体でおよそ50枚前後になることになるだろう。例えば「Kaladesh Inventions」の場合、『カラデシュ』に30枚、『霊気紛争』に24枚となる。ブロック内の大型セットと小型セットに含まれる「Masterpiece Series」のカードは異なる。
  • 「Masterpiece Series」のカードはすべて英語版であるが、英語版以外のパックにも含まれる。
  • 「Masterpiece Series」のエキスパンション・シンボルはブロックごとに異なるが、そのブロックのセットのものとも異なる。例えば、『カラデシュ』と『霊気紛争』の「Masterpiece Series」のカードは、『カラデシュ』のものとも『霊気紛争』のものとも異なる共通のエキスパンション・シンボルが使われる。
  • 「Masterpiece Series」のカードはすべてプレミアム版である。
  • 「Magic Online」にも「Masterpiece Series」のカードは計画されているが、実物との交換はできず、セットの一部としても扱われない。エキサイティングな新しい方法で手に入れることができるようになる予定だが、まだそれについては告知できる状態ではない。今月中に告知されることになる。
  • 「マジック・デュエルズ」には「Masterpiece Series」は存在しない。
  • 「Masterpiece Series」のカードは、リミテッドでは、開封したなら使用できる。構築フォーマットでは、そのカードを本来使用できるフォーマットで使用できる。

手法と理由

 さて、何をしようとしているかについては説明してきたので、今度は「Masterpiece Series」がどう実現されたのか、そしてなぜそうすることを決めたのかについて話そう。ひとことで言うと、マジックの成長に伴い我々はいくつもの課題に直面していて、それらの課題の多くに対して「Zendikar Expedition」が1つの答えになっていたということに気づいたのだ。まず、我々が直面している課題のいくつかを取り上げて説明していこう。

課題#1:スタンダードを身近なものであり続けるようにする

 スタンダードはもっともよくプレイされている構築フォーマットであり、構築マジックをプレイしたいプレイヤーへの入り口と位置づけられている。市場調査やソーシャルメディアから、多くのプレイヤーがスタンダードをプレイしたいと思いながらも難しくてついていけないだろうと感じているということが分かった。我々はこれを何とかする方法を探す必要があったのだ。

課題#2:プレイヤーが古いカードを手に入れられるようにする

 スタンダードがもっともよくプレイされているとはいえ、古いカードを含む大きなフォーマットをプレイすることを楽しんでいるプレイヤーも多い。プレイヤーは古い、そして強力なカードを手に入れることができずにいる(フォーマットのパワー・レベルは、そのフォーマットで使えるカードの枚数に従って高くなる。これが古いフォーマットのほうがパワー・レベルが高くなる理由である)。そういった古いカードを手に入れられるようにするための方法が、再録である。

 しかしながら、古いカードを何枚かスタンダードに入れるという実験をしてみたところ、強力なカードはスタンダードを不健康な形に歪めてしまうということがわかった。そこで、それらのカードを提供する他の方法を探すことにした。『統率者』や『デュエルデッキ』などの構築済みのサプリメント・セットに入れてみたが、その結果は商品の売れ方を歪めることになった。一部は『マスターズ』シリーズや、『コンスピラシー』などのブースターによるサプリメント・セットで再録することができたが、再録を求める需要は高く、他の提供手段を探す必要があるということがわかったのだ。

課題#3:デッキ構築上の新しい形を提供する

 我々がソーシャルメディアで交流している理由の1つは、プレイヤーが意識している問題についてより良く理解することである。そして、常々プレイヤーは、自分のデッキを「自慢する」ことができるものにしたいと望んでいる。マジックには強力な自己表現性があり(「これが僕のデッキだ」)、「Zendikar Expeditions」はプレイヤーに自己表現する新しい方法をもたらしたのだ。

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「Expedition」(探検)から始まる

 これらの課題はどれも微妙なもので、さまざまな要因が関わっていたが、我々はこれらをなんとかしなければならないと気づいていた。そしてできたのが「Zendikar Expeditions」なのだ。『戦乱のゼンディカー』に取り組んでいた我々は、なにか足りないものがあると気がついた。ゼンディカーは本来冒険と宝物の世界として定義されていた。そのイメージをこのセットに組み入れる方法はないだろうか。我々はボーナス・シート(古いカードを新しいカードと組み合わせていた『時のらせん』ブロックで用いられたのが最後だった)をいじってみたが、何か違うと感じたのだった。

 「冒険と宝物」という考えを整頓してみると、ボーナス・シートという概念はいくらか曖昧なものに感じられた。エキサイティングで、ゼンディカー固有の何かを作る方法はないか。ゼンディカーは土地というメカニズム的テーマを中心とした次元なので、クールな土地のエキサイティングな一文だけに絞るというのはどうだろうか。例えば、多くのプレイヤーは敵対色フェッチランドのサイクルが『戦乱のゼンディカー』で再録されることを期待している(旧『ゼンディカー』で登場した土地だからだ)。しかし、それは『タルキール覇王譚』の友好色フェッチランドがあるスタンダードに入れるのは問題が大きすぎる。「Zendikar Expeditions」を使えば、それらのカードが実際にはセットの一部ではないにせよ、ブースターに入れることができるのだ。その後、「Zendikar Expeditions」を特別なものだと感じさせるため、フルアートの土地にして特別な新カード枠を使うというアイデアにたどり着いたのだ。

 我々はプレイヤーが「Zendikar Expeditions」を気に入ってくれるだろうと楽観視していたが、結果は我々が予測していた以上のものだった。そして、我々はいくつかのことに気がついたのだ。

 1つ目に、ソーシャルメディアはパックから「Zendikar Expeditions」を手に入れた人々の話や写真で持ちきりだった。我々はそれを見て、コミュニティの興奮の一環になれたことが嬉しかった。

 2つ目に、人々はただ手に入れたことを喜ぶだけでなく、それをプレイすることも楽しんでいるとわかった。カードをプレイし、対戦相手が腰を浮かして驚くようにするための方法だったのだ。「それ、『Zendikar Expeditions』かい?」「もちろんそうだとも」 我々はプレイヤーが楽しむ「自慢」の方法を作ったのだ。これは課題#3への答えになる。

 3つ目に、「Zendikar Expeditions」のカードは(『戦乱のゼンディカー』のレア2色土地を除いて)すべてが再録を望まれていたカードであった。我々は古く強力なカードをスタンダードで使えるセットに再録しようとしてきたが、スタンダードへの影響は問題があるものだったのだ。「Zendikar Expeditions」は、その問題を起こすことなく、スタンダードで使えるセットのブースターにそれらの再録カードを入れることができた。これは完全な解決策ではないが、少なくとも軽減するための一歩ではあった。通常のセットで使える解決策を見つける助けになったのだ。そう、これは課題#2への答えになる。

 4つ目に、「Zendikar Expeditions」によって多くのプレイヤーが『戦乱のゼンディカー』ブロックに導かれたことがわかった。その結果、「Zendikar Expeditions」以外のカードの流通量が大きく増えたのだ。「Zendikar Expeditions」はスタンダードへの参加障壁も下げた。課題#1への答えになっているのだ。

 一歩引いて「Zendikar Expeditions」の成果を分析してみたところ、「Zendikar Expeditions」はスタンダードを身近にし、プレイヤーが古いカードを手に入れられるようにし、デッキ構築の新しい形をもたらした。すべての課題への完全な回答ではないが、すべての課題への対処にはなっていたのだ。このことから、当然「これをもっと頻繁にできないか」という疑問が浮かんできた。

 我々は何度も会議を重ね、「Zendikar Expeditions」を継続的キャンペーンにすることのあらゆる影響について議論した。賛成意見、反対意見、利益、損害、考えうるすべてのことについて話し合った。最終的に、我々は問題ないと判断し、「Masterpiece Series」が誕生したのだ。

 いくつかのことを、今後の予定として決定した。

「Masterpiece Series」のカードそれぞれを、そのセットの一部だと感じられるようにする

 『カラデシュ』などの一部のブロックには明白なテーマが存在するが、そうでないブロックでは困難になる。これは現在進行形のことだが、我々はそのブロックに相応しい形にするためのバランスを探している。メカニズム的なテーマからはふさわしくても、クリエイティブ的にふさわしくないカードが存在するということである。例えば、《梅澤の十手》は素晴らしいアーティファクトだが、これがカラデシュにあるのはフレイバー的に意味がわからないので、「Zendikar Expeditions」の選別からは外れた。

「Masterpiece Series」を見るだけで素晴らしいものにする

 「Zendikar Expeditions」はフルアートの土地という優位性があったが、それは他の「Masterpiece Series」に適用できるものではない。我々はこの新しいキャンペーンでクールなカード枠を広げたいと考えている。アート・チームは、「Masterpiece Series」を見た目でも素晴らしいものにするため、プレミアム版の実装を含むあらゆる面から掘り下げている。

「Masterpiece Series」を使うか使わないか選べるものにする

 「Masterpiece Series」に含まれるカードは、他の、より手に入れやすい形でも提供される。「Masterpiece Series」を無視したとしても、マジックのセットは通常通り楽しいものである。「Masterpiece Series」は、望むなら無視できる価値を加えるものである。

「Masterpiece Series」を、他のグループを満足させるものにする

 大きな課題の1つがカードの選択である。例えば、「Kaladesh Inventions」はすべてアーティファクトである。何を入れるかは、それがカラデシュにあるかもしれないという判断から来るものもあるが、一部のプレイヤーが満足するようなものを見つけるという意味もある。すべてのカードがすべてのプレイヤー向けというわけではない。我々は、あらゆるプレイヤーが我々が選んだもののどれかは気に入ってくれるように組み合わせているが、すべてを気に入るプレイヤーは多くないこともわかっている。

「Masterpiece Series」をエキサイティングなものにする

 他のトレーディング・カードゲームの多くには、マジックよりも高いレアリティが存在する。我々は、その存在はゲームの障害になるので、それを避けている。カードは手に入るべきなのだ。「Masterpiece Series」で高いレアリティを導入してさらなる楽しみを提供することができるようになるが、それに含まれるカードはすべて他の方法でも手に入るものであり、マジックのゲームとしてのクオリティを下げることにはならない。

 これが、「Masterpiece Series」を作った理由である。あとは1つだけ、「Masterpiece Series」がどういうものになるかお見せすることだけだ。

 これからの予定を説明しよう。我々は今日のことを「Masterpiece Monday」とあだ名している。というのは、今日中に『カラデシュ』のブースターに含まれる「Kaladesh Inventions」の全カードが公開されるからである(『霊気紛争』に含まれるものについては、また後日)。まず最初に、私は4枚をお見せしよう。残りも今日中に公開されることになる(太平洋時間午後2時/日本時間午前6時をお楽しみに)。

 プレビュー・カードをお見せする前に1つ。「Masterpiece Series」の「Kaladesh Inventions」はパソコンの画面上では再現できないようなクールな印刷工程を採用しているので、これから見てどれほどクールだと思っても現物はもっとずっとクールである。銅色は、実際のカードでは金属光沢で描かれているということを覚えておいてもらいたい。

 それでは、いよいよ「Kaladesh Inventions」のカードをお目にかけよう。

さあご覧あれ。

 さて親愛なる読者諸君、これが「Masterpiece Series」、さらには「Kaladesh Inventions」だ。我々が作ったことに興奮しているのと同様、諸君もこれを見ることに興奮してくれていれば幸いである。私はいつも反響を期待しているが、その中でも今日はすごいことを発表したところなのでいつになく期待している。「Masterpiece Series」と「Kaladesh Inventions」についてどう思ったか、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『カラデシュ』の作成に関するデザインの話の第2部でお会いしよう。

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