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昂揚発見

昂揚発見
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年3月25日
『イニストラードを覆う影』のデザインに取り組んでいるとき、我々はちょうどいい墓地メカニズムを探していました。しかしながら問題は、初代『イニストラード』とは異なる雰囲気を感じさせるものを見つける一方で、同時に人々が簡単に理解できる素晴らしいカードを可能にしなければならないということでした。
初期の段階では、デザイン・チームは対戦相手に焦点を当てていました。『対戦相手を狂気に追いやる』ためにライブラリーを削っていたのですが、これはとても機能させるのが困難でした。まず最初に、これは自分の墓地から唱えたり墓地に恩恵をもたらすカードを作れないことを意味していました。もしくは《グレイブディガー》のようなカードや、墓地をリソースとして使うカードもです。これらのメカニズム全てが対戦相手のライブラリーを削ることを望んでいませんでした。
また我々はスレッショルドを元にした、対戦相手の墓地のカードを数えるメカニズムも試しましたが、呪文を唱えると簡単に達成してしまうので、墓地が5枚ぐらいになるとゲームが固まってしまうだけになりました。これらにはフレーバー的な要素がいくらかありましたが、楽しいものではありませんでした。しかしながら、それ以上に、これらはイニストラードではなかったのです。将来相手のライブラリーを削り、それらのカードで何かをするセットがあってもいいかもしれないとは思いますが、それがイニストラードに求められているものだとは思いません。
私は以前スレッショルドについて書きましたが、一般的に悪いメカニズムだと認識されているので、ここで触れておきたいと思います。これは厳密には真実ではありません――スレッショルドは『オデッセイ』ブロックの中に多くの問題を抱えていました。墓地に7枚のカードというのはフォーマットによって大きく左右されます。7枚はリミテッドのデッキではかなりの枚数ですが、構築フォーマットではかなり簡単に達成できます――デッキをキャントリップと自分のライブラリーを削るカードで埋めればいいのです。スレッショルドを達成したボーナスはしばしばとても大きく(《薄汚いネズミ人間》、《熊人間》《クローサの獣》)、容赦のないものでした。
墓地に7枚のカードを送ることは普通のプレイでは難しい時もありますが、それを達成するためのカードを多くプレイしていれば簡単です。また、これとフラッシュバックを組み合わせるということは、偶然それが墓地に落ちてしまうことがとても簡単に起きてしまうということでした。これら全てが我々が『オデッセイ』においてスレッショルドを好まなかったことを意味していますが、それはこのようなメカニズムが機能しないという意味ではありません。
墓地との相互作用をもたらす方法を考えるとき、スレッショルドは常に浮かび上がってきます。我々が特に変更したいと思っていることは、墓地のカード7枚を適正な数にすることです。今のところ、我々は『マジック・オリジン』を仕上げたばかりで、そして魔巧などは多くの部分で適正だったと考えています――いくつかの色が魔巧において優れていますが、それを機能させるためにデッキを歪める必要はありません。我々はいくつかのバリエーションを試しましたが(「クリーチャー巧」「緑巧」などなど)、それらは全てデッキを1つの事柄に偏らせてしまう問題があり、通常のマジックのデッキではなくなってしまいました。
誰か(それが誰だったかどうしても思い出せません)が《タルモゴイフ》のようなメカニズムを提案したときは「なるほど」と思った瞬間でした。それは複雑でしたが、自然に異なる種類のカードのプレイを推奨するのは素晴らしいことです。自分のライブラリーを削るカードだけでなく(とはいえそれも選択肢の1つです)、生け贄に捧げるエンチャントやアーティファクト・クリーチャーなどもそれに含まれます。
我々は最初4種類は多いのではないかと心配しましたが、3種類では不十分なことは分かっていました――我々は実際に調整可能な部分がないところに追いやられるはずでした。幸運なことに、生け贄に捧げて効果を発揮するエンチャントなどの、このセットが必要としているサポート・カードを我々が作ると、それは困難であっても不可能でないことがわかりました。
しかしながら昂揚が私の心に突き刺さったところは、ドラフトとデッキ作成の選択肢を与えたところです。似たような強さのインスタント除去とソーサリー除去ならインスタントをほぼ必ず取りますが、昂揚があるとすでに十分インスタントがあるならソーサリーを取ることになるでしょう。このようなデッキ作成のひねりは、今回のイニストラードに初代『イニストラード』のような墓地の雰囲気を持たせることに役立ち、それに新しく楽しいひねりを加えます。
リミテッドでの昂揚




リミテッドで昂揚を機能させるには、このセットにそのようなカードを配置することと、通常パーマネントが行うよりも幅広い効果を許容することが関係してきます。例えば「印章」は、効果を発揮するために生け贄に捧げる歴史的なカードです。これらは使う用意が整うまで戦場にあり続けます。我々はそれらに起動コストがないことは好みませんが(「ガードが下がる」瞬間がないので)、起動コストがあってもそれらを作ることを好まない傾向にあります。
『イニストラードを覆う影』はこれらのデザインの一部を使うのに完璧なセットです。《分かれ道》はほとんどのセットではちょっと無意味なデザインをしていますが、土地を墓地に置くことに大きな価値があるこの場合では素晴らしい働きをします。《天使の粛清》のパーマネントを生け贄に捧げるコストは割高に見えるかもしれませんが、昂揚達成に近づくために土地や装備品を処分する能力はいくつかのデッキでは大きな利点になります。《ねじれ地帯》は《進化する未開地》よりも弱いですが、我々は昂揚を達成するのが少し難しいほうが楽しくなると発見しました。
カードにおけるこれらの細かい選択全てと、我々のこれらのカードを特定の状況において強くしたり弱くしたりしてバランスを取る能力が、いくつかのドラフトでの選択を伴った、とても楽しく健全なリミテッド環境につながったと私は信じています。
我々は昂揚を達成したボーナスを『オデッセイ』でスレッショルドを達成したときのものよりも基本的に弱くしようと試みました。その理由の1つは、7枚のカードを墓地に置くのは4つのカード・タイプを置くことと大きく異なる(そしてより信頼性がある)からです。我々は実際に昂揚を達成したときにデッキにいくらか追加の力を与えるようにしたいのですが、それが軽い昂揚クリーチャーを1体か2体プレイした後、《パズルの欠片》が偶然アーティファクト・クリーチャー1枚と土地1枚を落としたときに、そのゲームがまだ決着しないぐらいにしたいとも考えています。ボーナスを得てもまだやりあう余地のあるレベルです。
『オデッセイ』の問題を見てみると、フラッシュバックで唱えてスレッショルドを失い、その後クリーチャーを何体か失うようなことがよくあったので、我々は1対1交換をすることなく墓地から離れるカードの枚数を制限しようとしました。確かに、墓地から追放することでスピリットを作り出すクリーチャーは存在します――どのみち我々はクリーチャー最も墓地に多くあるカード・タイプであると想定しています。
また我々は昂揚でタフネスが上がるクリーチャーを作らないことに決めました。その理由は2つあります。1つ目は偶発的にクリーチャーが死なないようにするためですが、これはまたこのセットにある多くの両面カードを正当化する助けにもなります。「スレッショルド――パワーとタフネスが上がってキーワード能力を得る」は、「誘発して変身、裏側はもっと大きくてキーワード能力がつく」にとても似ています。『イニストラードを覆う影』の両面カードのパワー/タフネスのボーナスを残すことは、(うまく行けば)昂揚カードが両面カードの失敗作のように感じられず、それら独自の事柄を感じさせることに大きく役立ちます。
構築フォーマットでの昂揚


構築フォーマットでは、昂揚はいくつかの素晴らしい可能性をもたらします。デベロップ中我々は頻繁に、セットのテーマが機能するためのサポートがそのセット単体で多くなりすぎた時の「ブロックの怪物」のことを心配します。昂揚の最高の部分の1つは、スタンダードにある全てのセットから昂揚デッキに合うカードが簡単に見つかるところです。
例えば《搭載歩行機械》は、自然に死亡し2種類のカード・タイプを墓地に加える強力なアーティファクトです。《進化する未開地》は去りゆくフェッチランドほど強くないかもしれませんが、実際に2色をプレイして墓地を土地に送りたいデッキを(いくらかの欠点とともに)可能にします。《ニッサの誓い》は伝説のエンチャントなので、2枚目を出すとカード・アドバンテージを維持するだけでなく墓地にエンチャントを送ることができるのが利点です。
人々が自然に様々なタイプの呪文を唱えて昂揚を達成しようとすることに頼るだけではなく、我々はまた『イニストラードを覆う影』に昂揚から恩恵を受けるカードとそれを助けるカードを多く印刷しました。《精神壊しの悪魔》は自分のライブラリーを削り昂揚を達成していないとひどい目に会う最も基本的なバージョンですが、《ウルヴェンワルド横断》はあまり目立ちません。
これは昂揚が達成されているほうがずっと強力ですが、これの目立たないところは昂揚ボーナスを受けるよりも昂揚達成を支援するよう実際にデザインされているところです。これはリミテッドでは素晴らしいデザインではないかもしれませんが、この類のカードは構築フォーマットに最適です。 昂揚を達成するために、単に戦略に合うわけでもなく普通のカードとして機能しない変なカードをたくさんデッキに入れることを強制せずに、昂揚を達成する能力を持っています。
昂揚が『マジック・オリジン』の《スフィンクスの後見》のような主ではない戦略であれば、大丈夫だったでしょう。しかし、このフォーマットの柱として、このようなカードを多く作ることで異なる恩恵を受け、異なる方法で昂揚を達成する幅広い昂揚デッキの存在が望まれています。
墓地関連といえば、私は『戦乱のゼンディカー』ブロックに《先祖の結集》に対する素晴らしい回答がないことについて人々が不満を言っているのを多く見かけました――そしてそれは真実です。ラリー・デッキはいくつかの理由で我々の想定よりも強かったデッキですが、そのうちのいくつかは『イニストラードを覆う影』が次のセットだったので、このデッキに対する使いやすい幅の対策カードがなかったからです。
我々はいつから......そう前回イニストラードを訪れた時から、再びここに訪れた時は墓地セットになるだろうとわかっていました。セットが出たときにそれを機能させるための要素の1つは、その環境にそのセットへの対策要素が多すぎないようにすることです。『戦乱のゼンディカー』ブロックに強力な墓地対策がたくさんあった場合、我々は『イニストラードを覆う影』の墓地関連を、実際『イニストラード』のようなスタンダード環境にするためにパワーのインフレを起こす必要があったでしょう。それは我々がスタンダードを大きく変える秋の大型セットに取り掛かろうとするときに、多くの問題を引き起こす原因になってしまうでしょう。
今週はここまでです。来週は『イニストラードを覆う影』の再録メカニズム――マッドネスと、このセットのためにそれをデベロップしたものについてお話しします。
それではまた来週お会いしましょう。
サムより (@samstod)
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