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『From the Vault: Annihilation』の内幕
『From the Vault: Annihilation』の内幕
Gavin Verhey / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa
2014年8月11日
またひとつ、新たな宝物庫の封印を解くときが来た。みんな、「滅殺/Annihilation」への備えはいいかい?
よろしい。それじゃあ始めよう!
《ハルマゲドン》 アート:Chris Rahn |
『From the Vault』シリーズのリード・デザイナーは、現在私が務めている。この毎年リリースされるセットを初めて引き継ぐ際に、私はこのセットに合うと思うテーマをいくつも挙げ、そのリストを作った。(前任者のマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebもまた彼なりのリストを作っていて、それを私に託してくれた)。中でも「パーマネントを一気に吹き飛ばしたり盤面を一掃したりする」というテーマは最初に思いついたもののひとつであり、誰もがそのアイデアに夢中になった。
つまり、だ。全体除去を放ち、そう......対戦相手の盤面を「滅殺」したら、君たちみたいについ喜びが顔全体に広がってしまう(あるいはもう満面の笑みになったり、狂ったように笑い出したりする)のを抑えられるやつがいるだろうか? 君たちが統率者戦のプレイヤーであっても、キューブ・ドラフトの熱烈なファンであっても、レガシー・プレイヤーであっても、コレクターであっても、あるいはキッチン・テーブルでカジュアルに遊ぶだけであっても、『From the Vault: Annihilation』はうってつけなのだ。
どの『From the Vault』も、収録カードの選択には長い時間をかけて議論を重ねている。本日は『From the Vault: Annihilation』に収録の全15枚をすべてお披露目し――それぞれどのように収録が決まったのか、そのストーリーも添えよう。いくぞ!
ハルマゲドン/Armageddon
全体除去の始まりはマジックの黎明期にまで遡る――中でも《ハルマゲドン》は最古のもののひとつだ。今回のセットのアイデアを最初に提出したときから、《ハルマゲドン》は収録カードに含まれていた。(『アルファ版』時代からの悪友である《神の怒り》の方はちょっと事情が違っているけれど――それはもう少しあとで語ろう)。
《ハルマゲドン》の収録には、ほとんど議論が起きなかった――統率者戦で《ハルマゲドン》を撃ったあとに「友人たち」のこちらを見る目が剣呑なものになったとき、決まって議論が巻き起こるのとは違ってね。君たちがこの光沢ある新バージョンの《ハルマゲドン》をキューブに組み込みたいと思っているにせよ、あるいは単に在りし日を思い起こし、《アーナム・ジン》と一緒に《ハルマゲドン》を使いたいと思っているにせよ、こうして新しいバージョンのものが今君たちの手に渡るのだ。
新野の火計/Burning of Xinye
私にとって、『From the Vault』シリーズには多くの目標がある。中でもとりわけ大切なものが、こうして取り挙げないとプレイヤーたちの手に渡りにくいカードを収録することだ。
『ポータル三国志』のカードは、今や手に入れるのが驚くほど難しい――にも関わらず、この《新野の火計》のようにキューブでの人気を伸ばしているものがある。この手のカードを通常のセットで再録することは極めて難しい。「新野/Xinye」という名前が(最近のスタンダードに組み入れられる類のものでないことは言うまでもないだろう)、開発部を大いに悩ませるためだ。幸いにして、『From the Vault』がそういったカードを普及させる役目を担い、いくつもキューブを組まないキューブ・プレイヤーたちの助けとなる。1枚手に入れるくらいなら、特別なことではなくなるのだ。
『ポータル三国志』のカードに新規イラストを与えるかどうかについては、クリエイティブ・チームと何度も議論を重ねた。そしてその結果、元のイラストを残すことにした。それは最近のカード・イラストとはまったく異なるものだけれど、そのまま残そうと思えるくらい独特の魅力があるのだ。
それから、豆知識をひとつ。《燎原の火》と違い、《新野の火計》は土地を(生け贄に捧げるのではなく)「破壊」する。ついに《土地の聖別》が大活躍するときが来たね!(わかってる、たぶんムリだよね。それよりは、「印鑑」やプレインズウォーカーを繰り出しておくことをおすすめしよう)。
大変動/Cataclysm
『From the Vault』シリーズのリード・デザイナーを務めていると、私はよくマジックの過去を掘り出している気分になる。洞窟の壁面につるはしを振るい、完璧な再録対象を掘り当てるのだ。君たちだってたまにGathererを見ていて、宝石を見つけたみたいに鼓動が高鳴るときがあるはずだ。
《大変動》はそういうカードのひとつだった。
正直ショックだよ。《大変動》がこれまでに再録されたことはなく、再録予定のリストにも入っていなかったなんて。再録するにふさわしいカードなのに!《大変動》が愛された時代のカードで、これまで一度も再録されなかったものはほとんどない。今回のセットへの《大変動》の収録はまさにホームラン級のことであり、このカードは最初期の案からリストに入っていた。素晴らしい新規イラストにも注目してくれ!
アラーラの子/Child of Alara
クリーチャー、しかも伝説のクリーチャーを全体除去のセットに収録するというのは、一筋縄ではいかない提案ではある。それでも《アラーラの子》は確かに存在する!
できることなら毎回、統率者戦で人気を集める伝説のクリーチャーを収録するのが、私は好ましいと思っている。そして《アラーラの子》は、私が求めていた条件にすべて当てはまっていたのだ。(ちなみに、次点は《獅子将マギータ》だった。ごめんよ、マギータ。)近いうちに、新しいプレミアム版バージョンの《アラーラの子》が統率者戦で姿を見せることは、想像に難くないね。
滅殺の命令/Decree of Annihilation
このカードの収録の裏には、ちょっとおもしろい話があるんだ。
このセットを周りに見せ始めた最初の頃、私はこのセットに力のある名前をつけてやりたかった。ここで人生の教訓をひとつ――誰かに何か新しいものを納得させるには、それにクールな名前をつけるといいぞ。そこで、「滅殺/Annihilation」という名前が思い浮かんだ。
その名前は気に入られ、みんな楽しみにしてくれた。そして私がどのカードを収録してほしいか尋ねると、決まってこう返ってくるのだ。「いや、そりゃあ《滅殺の命令》じゃない......? 名前に『滅殺』が入ってる全体除去だし」
その時点では、私は「滅殺/Annihilation」が正式なセット名にはならなさそうだし、クリエイティブ・チームが別の案を出してくるよ、とみんなに言った。《滅殺の命令》は収録カードのリストに入らなかった。
それからあっという間に数か月が経った。私は収録カードのリストを完成させ、すべての準備が整った......そして、その製品は正式に「滅殺/Annihilation」の名を冠することになったのだ。
私はこの名前に心が躍り、それ以上は多くを考えなかった。そう、偶然が次々と重なり、リスト提出前の最後の数分に、収録予定のカードを1枚リストから抜かなければいけなくなるまでは。抜けた穴を埋めるカードが1枚必要になった私は、そこで「滅殺/Annihilation」という名前を聞いたときのみんなの反応を思い出したのだ。再び何人かにお墨付きをもらい、私は《滅殺の命令》を送り出したのだった。
このセットの収録カードに《滅殺の命令》が最後に決まった、というお話はここまで。
さあ、打ち消せない方法で全員の土地を吹き飛ばしてやろうじゃないか!(プレインズウォーカーが戦場にある状態でこいつを放つのも、ぜひ試してみてくれよ)。
炎渦竜巻/Firespout
《炎渦竜巻》はキューブに欠かせないもので、さらにモダンやレガシーでも時折目にするカードだ。私は『From the Vault』シリーズで様々なレアリティや時代を表現するのを心がけている。《炎渦竜巻》はその点から今回のセットにぴったりなのだ。加えて、こいつは貴重な緑の全体除去であり、これで色ごとのバランスを取る助けになる――緑の全体除去はなかなか見つからないのだ!
私がマジックに携わっていて良かったと思う(数ある)瞬間のひとつは、新規イラストが登場したときだ。この絵を初めて見た瞬間、目を見開いたことを今でも覚えているよ。なんて素晴らしい1枚だろう!
引き裂く突風/Fracturing Gust
「親和」デッキが君たちをいじめる? 統率者戦仲間がアーティファクトとエンチャントを多用するって? いいね、そんな君たちにこそこのカードがうってつけだ!
《引き裂く突風》は、現在ある全体除去呪文の多彩さを表してくれる。もちろん、その多くがクリーチャーか土地へのものだけれど――エンチャントやアーティファクトもまた同様に吹き飛ばせるのだ。ついでに言うなら、ライフ総量を上げてくれるものをピック・アップしない理由はないよね?
生ける屍/Living Death
これもまた、最初期の段階から今回のセットに入っていたカードだ。キューブ・ドラフトでも統率者戦でも見受けられるこのカードが再録されるというのは、実に面白い。私にとってこのカードはマジックの歴史を象徴する一部であり、今回のセットには絶対に欲しいと思っていた。
とはいえ、《生ける屍》はすでに何度か再録されていて、私はこのカードをより特別な1枚に仕上げたかった――そこで私は、新規イラストをリクエストしたのだ。するとジェレミー・ジャーヴィス/Jeremy Jarvisが、すでに『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』に向けて新規イラストを用意してあることを教えてくれた。私はその絵をひと目見るなり、完璧な1枚を手に入れたと確信した。その絵が今回のセットで画面の向こうから出てきてくれて、プレイヤーの手に渡ることを私は心から嬉しく思う――これからのキューブ・ドラフトで、私の手にも帰ってきてくれることを切に願うよ。
軍部政変/Martial Coup
こいつは、すべてのクリーチャーを破壊しつつ戦場に大量のクリーチャーを用意する、というユニークな効果を持っている。そんなカードが今回手に入るんだ! 私はこの《軍部政変》の大ファンで、これはキューブ・ドラフトや統率者戦、そしてカジュアルな場でよく使われている――さらに、『コンフラックス』で登場して以来再録されたことはない。私は今回、このカードをもう少し世に出す機会を得たのだ。
横揺れの地震/Rolling Earthquake
今回のセットに収録する『ポータル三国志』のカードについては、多くの議論が重ねられた。その結果、私たちは《横揺れの地震》と《新野の火計》に決めたのだ。《横揺れの地震》は《新野の火計》以上に通常のセットでは再録しにくく(馬術を愛するみんな、ごめん!)、その上手に入りにくいという、実に独特な全体除去だ。このカードもまた最初期の案からリストに入っていたもので、そのまま最後まで残ったことを私は嬉しく思うよ。
もし飛行クリーチャーに悩まされていても、《横揺れの地震》は容易に一掃してくれるだろう!
煙突/Smokestack
私は、今回のセットにアーティファクトの枠も確保したいと考えていた。アーティファクトが世界を「リセット」してきた歴史は長きにわたり、古くは《ネビニラルの円盤》まで遡る。
アーティファクト枠の選定には様々な議論が巻き起こった。それでも、最終的に《煙突》が他の候補より一歩抜きん出たのだ。
理由はいくつかある。まず、《煙突》はゆっくりと対戦相手のパーマネントをすべて削っていく、極めて「グリーファー的な(訳注:オンライン・ゲームなどで、他プレイヤーへの嫌がらせに力を入れるタイプのプレイヤー、またそういった戦略)」カードだ。私たちは、そういったフラストレーションが溜まる強力なカードをこれ以上スタンダードのセットに印刷するつもりはないのだ。さらに、同じ理由で、『統率者』や『プレインチェイス』のような製品にも収録したくない。この手のフラストレーションが溜まるカードは新規プレイヤーを罠にはめて挫折感を与えてしまうため、望ましくないのだ。
それが選択の決め手となった。今回のセットに収録することで、統率者戦やキューブ・ドラフト用に欲しいプレイヤーがこのカードを手にすることができる。また、世界中で行われる統率者戦のあらゆるゲームでパーマネントを破壊し尽くすなんて事態を引き起こすことなく、このカードが持つ「楽しさ」を余すところなく伝えられるのだ。
続くステップは、開発部の面々に意見を求め、《煙突》が「パーマネントを大量に取り去る」というテーマにきちんと沿っているかどうか確かめることだった。彼らの反応は、見事な回答に彩られた「イエス」の大合唱だった。中でも私が感銘を受けたのは、かつてマジックのデザイナーを務めていたマックス・マッコール/Max McCallの意見だ。「《煙突》が数ターン機能すれば、対戦相手のパーマネントは全滅する。これが『風景を一変させる』とか『滅殺』を意味しないなら、じゃあ何だったらいいのか私にはわからないよ」
まさにその通りだよ、マックス。
そして最後のステップは、ジェレミーに新規イラストを用意してもらうことだった。ああ、なんて見事な、重苦しい《煙突》だろう。新ファイレクシア以上にこの表現ができる世界はあるだろうか? このイラスト枠を通して、多元宇宙の向こう側で起きていることを見て楽しんでくれ。
終末/Terminus
ああ、「ターミナス(終着駅)」ね。生存者たちが行き着くというあの。
......いや、待った。それは「Terminus」違いだ。
こちらの「Terminus」、つまり《終末》は、レガシーのデッキで多く見受けられる(「奇跡」は《渦まく知識》や《師範の占い独楽》と共に使うと極めて強力なのだ!)と同時に、キューブ・ドラフトと統率者戦でもいたるところで姿を見かける。(統率者をライブラリーの一番下に押し込めるというのは、かなり重要だ)。特にユニークな《神の怒り》系のカードを採用することは、今回のセットで私が見せたかったことなのだ。
激動/Upheaval
君たちは去年の『From the Vault』を思い出すかもしれないね。(こちらで当時の私の記事を読み返せるぞ。)去年私は、各年につき1枚ずつカードを収録していった。そして2002年の部分では、《激動》の方が良いのではないかという考えを押し留め、《チェイナーの布告》を選んだ。
ことの真相としては、開発部は長期的に見たプランを多く抱えていて、『From the Vault』はその最たるものだったということが挙げられる。私には長期的なプランが多くあったのだ。去年の時点で、次の『From the Vault』が今回のセットになることを私は知っていた。今回のセットでは、マジックの歴史を代表する大災害を、その象徴的なカードで代表させることが必要だったのだ。《激動》は恐らく、青で最も有名な、そして最も人気の全体除去だろう。私はそれを、このセットで使いたいと意識していたのだ。こうして私は去年のセットで《チェイナーの布告》を採用し、《激動》を今回のために残したのだった。
心に留めておいてほしい大切なことは、「もし何かが欠けていたら、そこには必ず理由がある」ということだ。私たちはすぐにわかる完全なミスを犯しているのではなく、これからも手がけるマジックの未来全体を見て、どこに何を置くのが良いのかを意識しているのだ。何か再び出会いたいカードがあるなら、そのまま待っていてくれ。再録が現実的になったら、必ずその期待に応えられるチャンスは来る。「馬術」だって『From the Vault: Legends』と『統率者(2013年版)』でその日を迎えたのだから。
この先もずっと、今回の《激動》をキューブ・ドラフトでピックできるのを楽しみにしているよ。
美徳の喪失/Virtue's Ruin
緑のクリーチャーに対する解答としては、《非業の死》が存在する。しかしそれに類するこの《美徳の喪失》は最初の『ポータル』にしかなく、実に手に入りにくいカードとなっている。(《自然の喪失》も同じ状況にあるが、《非業の死》が役目を担っているため再録の必要はないだろう)。
《美徳の喪失》がどこか別の場所で収録されることは、あまり期待できそうにない。そこで『From the Vault』が最高の手段になるというわけだ。加えて、「Magic Online」ではこれが《美徳の喪失》を手に入れられる最初の機会になる! 現時点でも、「Magic Online」ではサイドボードに検討できるカードはほぼすべて網羅されており、これまでなかったものが見つかるのは稀なことなのだ。
神の怒り/Wrath of God
ああ、始まりとごく近いところに終わりがあるとは、まさに完璧だね。私たちは『アルファ』を語る上で外せない「ハルマゲドン/Armageddon」から始めて、その後英語のアルファベットが持つ不思議な力により、最後に同じ『アルファ版』の「神の怒り/Wrath of God」へ戻ってきたのだ。
このカードは『From the Vault: Annihilation』にほぼ収録されないところだった。《神の怒り》は実に象徴的なカードであり、「全体除去」と聞けば恐らく君たちも最初に思い浮かべるものだろう。しかし、そこには大きな問題があった――そのカード名だ。マジックのクリエイティブ・チームは、現実の世界に関連するカードにスポットライトを当てないよう、細心の注意を払っていた。「神の怒り」という宗教的な意味合いを含むこのカード名は、本来ならクリエイティブ・チームが避けようとする側のものに入っていた(たしかに無理もない話だ)。
私はマーク・パーヴィス/Mark Purvis――マジックのブランド・マーケティングを統括する役職にある、『From the Vault』開発を立ち上げたメンバーのひとり――と今回のセットについて話し合うと、彼は他のみんなと同じように、今回のセットに《神の怒り》が入っていないことに衝撃を受けていた。私はクリエイティブ・チームが指摘した問題を彼に説明し、その後解決策を探すため話し合いを続けた。すると、あるアイデアがマークの頭の中に去来したのだ。
「ちょっと待った。我々は文字通り神々のセットを作ったばかりじゃなかったか?」
物語中最大のわがままで、それから(ネタバレ注意!)エルズペスを葬ったヘリオッドを、「怒りを露わにする神」として考える。これが理想的な解決策だと思った。
マークはこのアイデアをクリエイティブ・チームに持ち込み、それは好意的に受け入れられた。こうして、《神の怒り》が今回のセットに収録されることになったのだ。最初の《神の怒り》は、文字通り「マジックの神」がその怒りを放っているところを表現したものだ。これで誰もが納得のいく解決を見たのだった。
宝物庫を閉じるとき
よし、今年の『From the Vault』は以上だ! 再び来年の今頃を迎えその中身をみんなにお見せするときまで、宝物庫を閉じよう。
今回の『From the Vault: Annihilation』に収録されるカードの紹介を楽しんでくれたなら幸いだ! 今回のセットについて何か意見や質問があれば、気軽に私へツイートを送ったり、Tumblrで質問したりしてほしい。お答えできるものには喜んで答えよう。
それでは、また次の「ReConstructed」でお会いしよう。それまで、この15枚のカードでどうやって友達をやっつけてやろうか計画するのを楽しんでいてくれ!
またね!
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight
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