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翻訳記事その他
新世界秩序
新世界秩序
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2011年12月5日
(mtg-jp.com 編集より)日頃よりmtg-jp.comの記事をお読みいただき、ありがとうございます。これまで、マジックの開発部の生の声をお伝えする週刊連載コラム「Making Magic」を翻訳してお届けしてまいりましたが、その下地にはより多くの過去のコラムがあります。今回はその中から、「新世界秩序」と名付けられ、繰り返し参照されている内容について、2011年12月の記事を翻訳でご紹介いたします。
フラッシュバックに関する話を聞こうと思っていた諸君は、申し訳ないが次回まで待ってもらうことになる。先週、突然次の特集週は今週でなく来週だと告げられたのだ。つまり、今週は何でも私の話したいことを話すことができるということである。幸いにして、イーサン/Ethanはその特別記事(リンク先は英語)の中で、私がいつか話したいと思っていたことへの足がかりとなる話題を提供してくれていた。そこで、この自由に使える週を使って、開発部がここ3年(さらにそれから3年間)を費やしてきている、ちょっとしたことについて語ろう。その名を「新世界秩序」と言う。
今回のコラムでは、我々が解決しなければならなかった大きな問題、そしてその問題への解決手段、さらにその解決手段がただ問題を解決するだけでなくマジック全体をよりよいものにしていくという現実について語ろう。内容は盛りだくさんなので、早速始めることにする。
問題解決
問題解決の話なので、まず最初にその問題について語るのが適切だろう。そのために、今から6年前に話を遡らせることにする。私はしばしば、我々が多くの数を扱う方法について語っている。ビジネスをするということには、物事がどう動いているのかを把握することが含まれる。そして6年前、我々は大きな問題に直面していた。我々にとってもっとも大切な数字、すなわちマジックをプレイしている人々の数が減り始めていたのだ。我々は多くの調査をし、そしてその原因を見つけ出した。新規プレイヤーが減っているのだ。言い換えると、マジックを学ぼうというプレイヤーの数が減っているのだ。次なる質問は、なぜ? だった。新規プレイヤーがマジックをプレイしたいと思わなくしている原因はマジックのどこにあるのか?
この問題について研究し、そして原因を見つけ出した。それは私がしばしば話している、「忍び寄る複雑さ」だった。このことについて説明するとしよう。
緑の線はマジックの複雑さを表している。横軸が時間だ(この図は説明のためのもので、実際の数字を反映しているものではないことを書き添えておく)。マジックはトレーディング・カードゲームであり、我々は毎年新しいカードや新しいメカニズム、新しい概念や新しいテーマを投入していく。そして、そうすることでマジックの要素が増えていくにつれて、複雑さがゆっくりと忍び寄ってくるのだ。
赤の線は基線である。これは、新規プレイヤーがマジックを始めるときの状態を示している。新規プレイヤーがマジックについて何も知らないという条件は変わらないので、基線が変化することはない。赤の線と緑の線の間の空間が、開発部の言う「導入障壁」である。この差が広がれば広がるほど、プレイヤーでない人がプレイヤーになるのは難しくなる。このグラフは我々の問題を良く表していた。忍び寄る複雑さは、我々の導入障壁を高めており、新規プレイヤーがマジックのやりかたを学ぶのを難しくしていたのだ。我々が新規プレイヤーを増やすことに失敗しているのは、マジックを始めるのが段々難しくなっているからだったのだ。
開発部はそれがマジックにとっての巨大な問題であり、このまま放置すれば全てのプレイヤーに影響を与えることになるということを理解した。それは、解決しなければならない問題だったのだ。
複雑な問題
これは全て時のらせん・ブロックの間に発見された。我々は状況を鑑み、そして今作っているブロックがまさに史上最も複雑なブロックであるということに気がついた。例えば、未来予知ではそれまでのマジック史上に存在した名前の付いたキーワード・メカニズムと同数近いキーワード・メカニズムが存在していた。時のらせん・ブロックはすでに変更できる状態ではなかったので、次のブロックであるローウィンに焦点を合わせることにした。
ローウィンでの目標は、カードをより直感的にすることだった。そのカードがやることをあらわすルール文章を非常に明瞭なものにする必要があった。意図が単純でわかりやすいものになるよう、かなりの時間を費やした。しかしブロックが完成すると、まだ複雑さの問題を解決できていないということがわかった。マジックの中で別の場所に動かしただけだったのだ。詳しく説明しよう。
ゲームには3種類の複雑さがあるということがわかってきた。
理解上の複雑さ
この種の複雑さは、カードがすることをプレイヤーが理解するということに関連している。乱暴に言ってしまえば、プレイヤーはカードを読んで、ゲームにおけるその働きが理解できるかどうか、である。これは馬鹿げたことに聞こえるかもしれないが、マジックの歴史上この種の問題はつきまとってきている。その一例として、時のらせん・ブロックの待機メカニズムを見てみよう。
これは理解してしまえば簡単に思えるが、多くのプレイヤーにとっては大きな障害となるメカニズムの具体例である。デザインがこのメカニズムを作ったのは、「マナの代わりに時間を払う」ということがイカした共感できるアイデアだと思えたからであるが、領域の変更を伴う処理、そして長く複雑なテキストは多くの人々を圧倒してしまったのだ。
この種の複雑さは、ローウィンが追求したものであった。
時を経て、理解上の複雑さにはもう一つの側面があることがわかってきた。私が「直感的理解」と呼ぶものの一部である。その一例を挙げよう。
スカージの《軽蔑する利己主義者》は、混乱を招くものではない。これは{7}{U}で1/1の変異持ちクリーチャーである。多くのプレイヤーが8マナというコストを理解できないのが問題なのだ。スカージに詳しくない諸君のために添えると、スカージには「点数で見たマナ・コストを参照する」というテーマがあった。《軽蔑する利己主義者》の点数で見たマナ・コストが大きいことは、そのカードにとっては利点なのだ(戦場に出すのには変異を使えばいい)。不幸にして、このテーマはあまり興味をそそるものではなかったので、プレイヤーの多くはこのカードの目的を把握できず、ただ当惑するだけに終わったのだった。
直感的理解とは、プレイヤーが読んだ内容を理解し、受け入れることである。文脈からいって意味がわからない場合、本質的に理解できないのと同じように混乱させることになる。私はここで、この種のカードを作るべきではない、と言っているわけではなく、一見したときに認識するほど単純なものではないと強調しているのである。
盤面の複雑さ
これは、ローウィンおよびモーニングタイドの間に頭をもたげてきた問題であった。この種の複雑さはカードができることに関わるのではなく、複数のカードが戦場にあるときの相互作用のありかたに関わるものである。この問題は、モーニングタイドの社員プレリリースの間に開発部が気がついたものだ。カジュアル・プレイヤーは1、2回戦やったあとで席を立っていた。よく見ていると、彼らは何をすべきかがわからなくなっているようだった。関連し合う相互作用が多すぎたのだ。
盤面の複雑さに関するもう一つ重要なポイントは、この種の複雑さが問題になるにはそれほど多くのカードは必要ないということだった。例えば、たった1枚のカードが2〜3個の選択肢を何重もの選択肢に増やしてしまうようなこともある。
マジックは相互作用のゲームである。この種の複雑さは、あまりに多くの相互作用が存在すると、理解するのに何度も読み返す必要があるようなカードと同じように精神的負荷になるということを明確に示している。
戦略的複雑さ
この種の複雑さは、自分のカードの最適な使い方を理解することに関したものである。マジックにプレイの深みがある理由の一つが、カードの最適な使い方を決めるにあたって様々な要素が絡むことである。カードをプレイできる状況になったらすぐにプレイするのがいいのか、それともより活用できる状況になるまで持っておいた方がいいのか? リソースを生け贄に捧げて長期的なアドバンテージを得るべきはいつなのか? ある特定のドラフト戦略において、そのカードは最適なのか? この種の疑問は、すべてが戦略的複雑さの例なのである。
この複雑さは、カードの実用性を最大化することであり、テンポやカード・アドバンテージ(リンク先は英語)を理解することであり、どちらが先に仕掛けるべきか(リンク先は英語)を知ることである。この複雑さは、マジックの最奥を理解することである。これこそが、プロ・プレイヤーと平均的なフライデー・ナイト・マジック参加者の違いなのだ。
一般的知識
しばしば、一般的知識が問題解決の助けになることがある。今回の知識は、導入障壁を低くしなければならない、ということだ。ただ高くなりすぎていたのだ。マジックにはあらゆる複雑さが詰まっており、そのそれぞれが導入障壁を高めていた。その一方で、マジックには既存のプレイヤーがいる。複雑さを作っているものの多くは、既存のプレイヤーを引き留めるために重要なものに起因しているのだ。マジックは新しい要素を増やし続けなければならない。拡張セットには新しいメカニズムや新しいキーワード、新しいテーマや新しい戦略が必要である。それでは、その両者を幸せにするためには一体どうすれば良いというのか?
その解決策は、トレーディング・カードゲームが常に持っている道具にあった。つまり、レアリティである。経験の浅いプレイヤーを圧倒してしまうことなく、経験を積んだプレイヤーの手にそれを届けるためにはどうしたらいいのか? 単純に、それをコモンでなくすればいいのだ。新規プレイヤーはブースターを買う数も少ないということがわかっている。つまり、彼らが手にするカードの中でコモンの占める割合が高いということなのだ。
「コモンでなくする」というのは正確ではない。新世界秩序の背景にある理論は、「コモンに入れるものについては非常に慎重であれ」だ。我々は、どの程度の複雑さが許容できるのか、もう一度線を引き直す必要があった。コモンにもいくらかの複雑さは認めることにしたが、それは過去よりも少なくした。言い換えると、複雑さは慎重に取り扱わねばならない資源であったのだ。
複雑さの変化を埋め合わせるため、新世界秩序においては高いレアリティ、特にアンコモンでは複雑さを高めてもよいということになった。目標は、複雑さをなくすことではなく、マジックの中で複雑さのありかを変化させることなのである。複雑さのありかを動かすことで、複雑さを減らす必要のある相手には減らし、複雑さを求める経験豊富なプレイヤーには複雑さを与えたままにする、という考えだったのだ。
複雑さをコモンにおける限られた資源であると考えると、コモンの作り方が劇的に変化することになった。「もしテーマがコモンで見られないなら、それはテーマではない」としばしば言っている。これは、テーマというものは複雑さを含みがちな性質を持つからであり(テーマというものは普段意識しないなにかをプレイヤーに意識させるものであることが多い)、従ってコモンで使える複雑さの中のある一定量をそのテーマを扱うために割り振らなければならないということになる。
ここでもう一度強調しておきたいのは、コモンにもいくらかの複雑さは許容されるということである。新世界秩序での大きな変化は、開発部はどこでどうやって複雑さを使うかにより意識を払うようになった、ということなのだ。コモンのカードを複雑なものにする場合、理由が必要である。何か目的が必要なのだ。そして、コモンに入れることのできる複雑さの量には上限がある。各カードが審判され、そして全てのコモン・カードを合わせて審判されることになる。
もう一つ大きな変化は、全ての複雑さが等価ではないという認識であった。理解上の複雑さや盤面の複雑さは初心者にとって問題であるが、戦略的複雑さはそうではない。なぜか? なぜなら、戦略的複雑さは初心者の目に入らないからである。戦略的複雑さに気付くには、ある程度のゲーム知識が必要となる。つまり、これはコモンの複雑さ制限のほとんどから除外されていたのだ。そのための鍵は、理解上の複雑さや盤面の複雑さなしで戦略的複雑さをコモンに入れる方法を探すことであった。
完全に新しい世界
新世界秩序には、マジックの拡張セットを見るまったく異なった方法が必要であったが、一旦開発部が考え方を改めてみると、そこにはさらにエキサイティングなものがあった。新世界秩序で変化したセットに取り組んでみると、さらに面白いということがわかったのだ。初心者から見て、という話をしているわけではなく、開発部の、つまり長年マジックを遊んできたプレイヤーの目から見て、である。なぜか? 単純に言うと、新世界秩序はマジックに明瞭さをもたらしたのだ(このフレーズを使ったのは、諸君には挙動を導くための言葉が必要だと強く信じたからである。何かについて語ることができなければ、それについて考えることは難しい。言葉を与えることで、開発部の考え方を具体的にすることを助けたのだ)。
起こっていることを理解するために、マジックのデザインから離れてデザイン一般の話をしよう。昨年、私は高名な工業デザイナーのディーター・ラムス/Dieter Ramsの言うデザインの10の原理についての記事を書いた(その1、その2(リンク先は英語))。原理その10は、「良いデザインは可能な限り小さいデザインである」というものだった。
デザイナーの役割は、どうしても必要なものだけを使うことである。何かを使うことなく創造できるのであれば、良いデザイナーはそれを取り除くものだ。ゲーム・デザインに関しては、これはそのゲームをする上でどうしても必要なものだけをゲームの要素として残す、ということを意味する。コモンをその本質にまで煮詰めたとき、我々はより明瞭なゲームを作ったのだということに気がついた。細かなアドバンテージを与える細かな要素たくさんに注目するのではなく、有意義な重点に注目することができるようになったのだ。
これについて別の考え方もある。コモンを単純化することで、管理すべきものがぐっと減ったのだ。管理するというのは、ゲームに影響を及ぼすこともあり得る要素に注意を払う必要があるということである。一般に、管理などというのはゲームに入れたくない要素だ。様々な情報を記録しておくというのは楽しいことではないものだが、ゲーマーは勝利を追求するためにそれをしているのである。
プレイヤーは、その行為が楽しいかどうかにかかわらず、ゲームにおいて有利になることならなんでもするものだと言ってきた。ゲーム・デザイナーの目標は、ゲームにおいて有利になることがゲームにおいて楽しい部分に向かうようにするということだ。多くの情報を記録することはマジックを楽しいものにすることではないし、不適切な場所にある複雑さは焦点を奪ってしまうものだ。コモンから複雑さを減らしたことで、焦点を戦闘や呪文といった本来の場所に戻すことができたのだ。
退屈になるのではないかと不安に感じた諸君に、こんな実験をしてみることをお薦めしよう。バニラ・クリーチャーとコモンのソーサリーだけのデッキを2つ作ってみてくれたまえ(これは遠い昔に我々が作った入門用商品のポータルとよく似たものだ)。そして同じような技量を持つプレイヤーをもう1人探してきて、そのデッキで対戦してみるのだ。やってみると、その対戦は非常に面白いものになる。多くの場合、マジックのあらゆる複雑さに巻き込まれ、マジックの基本の面白さや熟達さを忘れてしまっているものなのだ。
それでもなお、平均的なマジックのゲームに、驚くべきほどの選択があることに気付くべきである。新世界秩序はマジックの技術を減らすものではない。新世界秩序は、能力の焦点を凄まじい量のデータを記録することではなく正しい方向に向けるものだったのだ。チェスに新しい駒を4つ追加したり、あるいはチェス盤のサイズを倍にしたりしても、より技量的なものになることはないのはわかるだろう(そもそも楽しくなるとも思えない)。
過去3年間、マジックはかなりの成功を収めてきた。そして開発部は新世界秩序がそれに大きく寄与していると強く信じている。新世界秩序はマジックの本質に再び光を当てることを助けてくれた。そして、新世界秩序にはもう一つ大きな影響力があると私は信じている。アーロンがマジック2010の作成にあたってアルファ版に強く影響を受けているのは既報の通りだが、その商品は我々を現在の芳醇さに向けたものである。私は、新世界秩序、そしてそれによる再評価の流れが、アルファ版を意識するという変化をアーロンにもたらしたのだと信じている。
新世界秩序はマジックにありとあらゆる波紋をもたらした。もう一つ例を挙げれば、私は、現在のリミテッドで使えるカードを増やすという流れは戦略的複雑さをコモンにもたらす方法を探していたことの成果だと信じている。ある種のデッキで使いやすいが他のデッキでは使えないというカードを作ることで、コモンは新規プレイヤーを惑わすことなく戦略的なダイナミックさを手に入れた(戦略的複雑さが高く、理解上の複雑さや盤面の複雑さが低くなっている)。
さまざまな意味で、新世界秩序が開発部にもたらした興奮は、コモンだけでなく、マジック全体を通しての我々のリソースの使い方を完全に再考させた。何が複雑なのか、複雑さとは何なのかを理解することで、マジックのデザインやデベロップのあり方が完全に再構築されたのだ。
すべてを一つに
本日の話の本当の教訓は、デザインの全体的なあり方というこのコラムのもう一つの共通のテーマに通じる。開発部は把握した問題を解決しようとし、そしてマジックの本質を活性化させる方法にたどり着いたのだ。ある一部の顧客にとって良いゲームにしようとしたことが、あらゆる顧客にとって良いものに繋がったのである。
今日のコラムに関する反響を募集している。メール、ツイート(@maro254)、TumblrやGoogle+でも構わない。諸君がマジックの現状をどう考えているか知りたいと思う。
それではまた次回、ようやくフラッシュバックについて語るとしよう。
その日まで、あなたがちょっとした整頓をされますように。
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