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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:The Madness(スタンダード)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:The Madness(スタンダード)
by 岩SHOW
マジックにはメタゲームという概念がある。ただ遊ぶ分には考えなくてもよいが、賞金制のトーナメント・競技イベントへの参加となると無視できるものではない。メタゲームとは「ゲームの前のゲーム」。お互いが持ち込んだデッキで対戦する、という実際のゲームの手前にまず「どんなデッキを持ち込むのか」「どんなデッキ相手のサイドボードを用意するか」という、環境を読む戦いが始まるのだ。特にスタンダードでは、その環境で強いとされる・結果を残したデッキを選択するプレイヤーが圧倒的に多い。それらの割合はどのようなものなのかを読み、仮想敵を定めたらどう対策するのかを考え、当日に使用するデッキを決定するというわけだ。
このメタゲームを度外視したデッキを持ち込むことで、成功を収めるプレイヤーは少なからず存在する。予想外のデッキに当たって、なすすべなくその「メタ外」デッキに轢き潰されてしまう経験、これまでに味わったことがあるでしょう。10月末、マレーシアはクアラルンプールにて開催されたグランプリ・クアラルンプール2016でも、同じような気持ちになったプレイヤーがいたことかと思う。このデッキに負けたプレイヤーたちは「何だよアレ?!」と驚いたに違いない。
16 《山》 4 《凶兆の廃墟》 -土地(20)- 4 《ボーマットの急使》 4 《ファルケンラスの過食者》 4 《傲慢な新生子》 4 《発明者の見習い》 4 《狼の試作機》 4 《屑鉄場のたかり屋》 4 《無謀な奇襲隊》 -クリーチャー(28)- |
4 《稲妻の斧》 4 《癇しゃく》 4 《密輸人の回転翼機》 -呪文(12)- |
4 《敵意借用》 4 《流電砲撃》 4 《ヴァラクートの涙》 3 《街の鍵》 -サイドボード(15)- |
このデッキリストには驚かされる点が多数ある。一体、どこからツッコミを入れたものやら......とりあえず「赤アグロ」のように呼んでも味気ないので、ここでは「The Madness」と呼ばせていただこう。狂気に満ちたこのぶっ飛びデッキにはお似合いのことかと思う。
このデッキのキーは《ボーマットの急使》だ。このクリーチャーは殴れば殴るほど自分のライブラリーのカードを積み荷にしてゆき、ある程度貯まったらこれを生け贄に捧げることでそれらのカードを手札に加えることができる。複数枚のカードを引き込むことでカード・アドバンテージを得ることができる可能性を持ってはいるが、手札をすべて捨てるという代償があるので気軽に使えるものではない。この使いどころの難しい能力を、「The Madness」は積極的に使用していくというまさしく狂気に満ちたコンセプトで作られている。
マッドネスといえばまず思い浮かぶのが《癇しゃく》。1マナ3点というコストパフォーマンスに優れたこの火力を、ボーマットのみならず《傲慢な新生子》《稲妻の斧》そして《密輸人の回転翼機》で捨ててカードの損失をチャラにしつつ相手のクリーチャーを除去したり、ライフを攻めたり。
これとともにマッドネス・カードとして運用されるのが《ファルケンラスの過食者》《傲慢な新生子》ら8枚の吸血鬼。過食者がいる状態だと手札の吸血鬼はすべてマッドネス持ちになるため、これら1マナ吸血鬼を回転翼機から投下して攻撃の手を緩めぬ展開をしつつ息切れを防ぐなんてことが可能だ。ボーマットからの大量展開なんて、絵的にも面白いに違いない。多分、使用者のDmitry Medvedevがやりたかったことってこういうことなんだろう。このアグレッシブな発想とそれを実行したことに、僕は敬意を表するッ!
手札を捨てるメカニズムと現行スタンダードで組み合わせ得なカードといえば《屑鉄場のたかり屋》だ。手札から捨てて、既に死亡して墓地に落ちているクリーチャーを食わせて戦場に戻してやろう。このデッキの黒の要素はこれだけだ。タッチしてまで使う価値があるということだね。
また、手札を捨てまくる行為とそもそも相性の良い《狼の試作機》が採用されているのも見逃せないポイントだ。2マナ5/6のこのクリーチャーを攻撃させるために、ボーマットの能力を起動し手札を空に......する場面もあるのかもしれない。まあ、軽量クリーチャーを展開しまくっていれば自動的に手札の枚数は減るので、そのうち戦闘に参加できることだろう。しばらくは《密輸人の回転翼機》の操縦をメインの仕事にしてやっても良いしね。
試作機はデカいとはいえ、全体的な打点は1~2マナのクリーチャーばかりなので低めである。そこを補うのが《無謀な奇襲隊》だ。このデッキの最後の押し込みを担うカードであり、絶対に怒濤で唱えたい。ゆえに、1マナクリーチャーを出せるけれどもグッとこらえて奇襲隊を引くことにかけるなど、何も考えていないデッキに見えて細かいプレイング・的確な判断力が問われるデッキだろう。
サイドボードの潔さも愛すべきポイントだ。《敵意借用》をまさか構築シーンで見ることになるとは......誰もこのカードを想定して動いていないので、さぞや奇襲性が高かったことだろう。地上クリーチャー同士のぶつかり合いになるデッキや、てっとり早くライフを0にしないとヤバい《霊気池の驚異》系のデッキを相手にした時に使うのだろう。思い切ったカードチョイスだなぁ......。
《ヴァラクートの涙》は何が何でも《大天使アヴァシン》をはじめとする飛行クリーチャーを除去するぞという強い意志の表れだ。これを4枚使う、そういう宿命から逃れられない時代がやって来たのかもしれない。《炙り焼き》のような定番除去となるのだろうか、今後のメタゲームが楽しみだ!
その末にまた、こういうイカれたデッキが登場するのかもしれない。しかしこれでグランプリ17位の成績は、心底すごいと思うぞ......。
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