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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:アブザン(モダン)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:アブザン(モダン)
by 岩SHOW
楽しかったなぁ世界選手権2016。シアトルに行くこと自体が初めて、またこの世界選手権が併催されている本イベント「PAX West」の空気も味わってみたいという思いがあったので、それらをまとめて体験できた1週間は僕にとっては至福のひと時。本戦自体も、世界中の選りすぐりのプレイヤーたちが一進一退の攻防を繰り広げ、観る者を魅了する素晴らしいトーナメントだった。
個人的に手に汗を握った試合は3日目、モダン・ラウンドにおけるルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasとティアゴ・サポリート/Tiago Saporitoの「アブザン」対決だ。この試合についてはテキストカバレージにもなっているので、ぜひそちらも読んでいただきたい。未読の方のために勝敗についてのネタバレはここでは避けるが、「アブザン」らしい除去呪文・クリーチャー・プレインズウォーカーの応酬は観ていてハラハラドキドキさせられたものだ。
ルイスは僕が尊敬するプレイヤー・解説者であるのは過去にこのコラムでも述べたことがあるが、ティアゴにもプロツアーの際に泊まるホテルのフロアがいつも同じで、朝にエレベーターで一緒になることが度々あるという不思議な縁があって、密かに応援しているプレイヤーだ(よくエレベーターで友人と何やら話しているのだが、ポルトガル語なのでさっぱりわからない)。
そんな両名が選んだデッキが「アブザン」。「モダンは魔境」などとよく耳にするし、最近のモダンでは「死の影アグロ」「感染」「親和」と開幕からエンジンが火を噴きながら猛進してくるタイプのデッキや、その他コンボデッキが隆盛を迎えているので、世界選手権でもそれらが3ターンキルなんかを連発するんじゃないだろうかと思っていたのだが......ところがどっこい。それら多数のわんぱくな......最近の流行りで言えば"アンフェア"なデッキを相手取って、豊富な除去・手札破壊・骨太クリーチャーで対抗可能な「アブザン」を選択したプレイヤーは、同トーナメントでは最多の8人。3分の1がこのデッキを選択したわけだ。それだけ手堅いこのデッキ、何はともあれリストを見てもらおう。
1 《平地》 1 《沼》 1 《森》 1 《神無き祭殿》 1 《寺院の庭》 2 《草むした墓》 4 《新緑の地下墓地》 3 《湿地の干潟》 3 《吹きさらしの荒野》 3 《乱脈な気孔》 2 《黄昏のぬかるみ》 -土地(22)- 3 《貴族の教主》 4 《残忍な剥ぎ取り》 4 《タルモゴイフ》 2 《漁る軟泥》 1 《先頭に立つもの、アナフェンザ》 -クリーチャー(14)- |
2 《ミシュラのガラクタ》 4 《流刑への道》 3 《コジレックの審問》 3 《思考囲い》 2 《突然の衰微》 1 《集団的蛮行》 4 《未練ある魂》 1 《残忍な切断》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(24)- |
3 《大爆発の魔道士》 2 《外科的摘出》 1 《仕組まれた爆薬》 2 《石のような静寂》 1 《集団的蛮行》 1 《盲信的迫害》 1 《大渦の脈動》 1 《滅び》 1 《最後の望み、リリアナ》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -サイドボード(15)- |
以前に紹介した「ジャンド」とも似た構成であり、基本的な思想は変わらない。1ターン目に手札破壊、2ターン目にクリーチャーという安定したスタートを切って、以降の対戦相手の展開を除去で片っ端から捌いていくのである。
「ジャンド」との違いは3色目を赤ではなく白にしている点で、これにより1マナの除去は《稲妻》から《流刑への道》に置き換わり、確実性は増している。このあたりが、世界選手権に臨むプレイヤーにこのデッキを選択させた要因ではないかなと。
《コジレックの審問》《思考囲い》で対戦相手の手札を確認し、最大の脅威を抜き去る。デンジャラスなデッキが蔓延るこの環境では、生存するために必須のアクションだ。この度、この「アブザン」に新たに採用された手札破壊が1つ。《集団的蛮行》だ。
手札からインスタントorソーサリーを捨てさせるモードを軸に、何かしらのカードを捨てることで2点のライフを吸ったりクリーチャー除去が行えるオマケ付きな万能カードだ。もちろん、このカードが持つ3つのモードから状況に合わないのであれば手札破壊は選ばなくても良いが......まあ大方のデッキはインスタントかソーサリーを握っているので迷ったらこのモードを選ぶと良いだろう。露骨なバーン系デッキへの対抗策で、《溶岩の撃ち込み》を抜きながら《ゴブリンの先達》も除去って2点回復、なんてムーブをわずか2マナで決めてやりたいところだ。
新戦力で言えば《残忍な剥ぎ取り》も重要なカードで、これは「ジャンド」の回でも述べたが、墓地を肥やしながらライブラリーの上にあるカードを操作してドローの質を高め、自身と《タルモゴイフ》の成長を促す......と文句のないアタッカーだ。このクリーチャーが昂揚を達成するのを助けるために、《ミシュラのガラクタ》が採用されているのもポイント。ライブラリーの上にあれば剥ぎ取りの能力で墓地に落とすカードだが、もし手札に引いてしまっても0マナでカードの損失無く墓地に置ける、気軽に使えるのが良い点だ。また、最高の相性を誇る《未練ある魂》も墓地に落としてアドバンテージを稼いでやりたいところ。よりアグレッシブなデッキリストだと、これにより生み出されるスピリットを《ガヴォニーの居住地》でモリモリ成長させるプランも取れる。
この《残忍な剥ぎ取り》のダメージを通すことをサポートしつつ、その他の展開も手助けするのが《貴族の教主》だ。トランプル持ちの剥ぎ取りと賛美の相性は素晴らしい。サイズが上がって嬉しいクリーチャーの代表格としては他に《乱脈な気孔》がある。これで3点4点とダメージを与えつつライフを回復すれば、劣勢からの捲り返しも見えてくることだろう。4枚は多く感じるが、3枚あれば手札破壊と併せて1マナの能動的なアクションが合計9枚。この数字であれば1ターン目に動くことがほぼほぼ可能なので、これが絶妙なバランスなのだと思われる。
これら3種類を増減させて、自分に合ったバランスに調整するのもひとつの手か。2ターン目に《未練ある魂》や《ヴェールのリリアナ》という動きはアブザンカラー(黒白緑)の特権だ。サイド後の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が唱えやすくなるのも素晴らしい。
このデッキを用いたモダン・ラウンドを終えて、ルイスはしばらくの間プロツアーへの参戦を休憩し、カバレージチームの一員として携わっていくことを発表した。しばらくの間、この「アブザン」が彼の最後のデッキ、ということになりそうだ。難易度の高い局面で最善の一手を導き出して逆転、それを瞬時の判断で行う彼のキレのあるプレイングを見ることができなくなるのは寂しいが......若造たちに真のマジックというものを教えてくれる伝説のオヤジとして現役復帰する、そんな来るべき日が今から楽しみでもある。4大会連続プロツアーTOP8の夢は持ち越しだ!LSV!LSV!
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