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岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ビッグ・レッド(ミラディンブロック構築)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ビッグ・レッド(ミラディンブロック構築)

by 岩SHOW

 君は黒田正城を知っているか? いやまあ、大半の方はご存じのはず。ただ、グランプリ参加者数が3000を超えるようになり、日々雨上がりのタケノコのように新規プレイヤーが増えている中、彼のことを知らない、という方々も多くなっていることかと思う。ここでは改めて、日本が誇るプレイヤーを紹介しようじゃないか!

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プロツアー『ゲートウォッチの誓い』 ニコニコ生放送より、黒田正城氏(写真左)と筆者

 黒田正城は1979年、大阪に生まれる。高校生よりマジックと出会い、当時はパックを剥いてはその中のカードをすべてデッキに足していき、ストレージボックス1本を常に携帯していたという「黎明期マジック始めた頃あるある」なエピソードを持つ。真剣にスタンダードを構築しているプレイヤーと対戦する機会を経て、ストレージを卒業。以降は真剣にマジックに取り組むようになり、後のプロツアー殿堂入りプレイヤー・藤田剛史さんをはじめとする関西のトップグループとともにマジックをするようになり、その実力を伸ばしていった。

 2002~2005年には森田雅彦・森勝洋ら同郷の強豪らとチーム「P.S.2」としてグランプリやマスターズに出場し、3度の優勝。そして2004年、プロツアー・神戸にて悲願の日本人初・プロツアーチャンピオンに輝く。以降も、仕事と家庭を両立しつつグランプリ、The FinalsやThe Limits、プロツアーにて複数回TOP8入賞の記録を残している。

 「超起源」を操り「ゴリラが吸い付いてくる」という名言を残したグランプリ・横浜2010の準優勝以来、ここしばらくはタイトルから遠ざかってはいるが......国内の賞金制トーナメントの実況・解説を僕、岩SHOWとともに行い、「顔が怖い」「初代マーダー・フェイス」「怖いけど面白い」「おじいちゃん」「他人に秒速で嫉妬する男」「口癖は『不愉快』」「ダークロさん」「黒ちゃん」などのキャラクター付けがなされ、その魅力が広く知れ渡るようになる。グランプリ・ラスベガス2015、プロツアー『ゲートウォッチの誓い』にも解説おじいちゃんとして参加し、日々問題発言とファン獲得を繰り返している。

 ざっと書いてこんなところだろうか。最近のやりたい放題も、一度天下を取ったから許されている、そんな愛すべきおじいであり、僕の最高の相方で......ってこれではデイリー・エルダーになってまう!というわけで、今日は皆大好き黒田さんを世界の頂点に導いた「ビッグ・レッド」を紹介しよう!

黒田 正城 - 「ビッグ・レッド」
プロツアー・神戸2004 優勝 / ミラディンブロック構築 (2004年2月27-29日)[MO] [ARENA]
16 《
4 《ちらつき蛾の生息地
4 《ダークスティールの城塞

-土地(24)-

4 《真面目な身代わり
4 《弧炎撒き

-クリーチャー(8)-
4 《静電気の稲妻
4 《爆片破
4 《とげの稲妻
4 《減衰のマトリックス
4 《溶鉱炉の脈動
4 《爆破
4 《火の玉

-呪文(28)-
3 《炉のドラゴン
4 《残響する破滅
2 《耽溺のタリスマン
2 《衝動のタリスマン
4 《溶鉄の雨

-サイドボード(15)-

 土地24、その他9種類を4枚ずつと、めちゃめちゃ美しいデッキリストだ。これは先述の通りプロツアー・神戸2004で使用されたもので、フォーマットはミラディンブロック構築(『ミラディン』『ダークスティール』)。これからはエキスパンションセット2つで1つのブロックを形成するようになったため、このブロック構築というフォーマットを遊ぶ機会はほとんど無くなってしまったが......かつてはプロツアーやグランプリの種目に選ばれるほどの大きな存在だったのだ。

 ミラディンブロックは、ご存知の通りアーティファクトを中心に作られており、アーティファクト同士の強烈なシナジーを持ったカードが多数収録されている。それらのカードを搭載したアーティファクト・クリーチャーによるビートダウン「親和」は最強のデッキとして環境を支配していた。何せ、《頭蓋骨絞め》と《教議会の座席》らアーティファクト・土地という様々なフォーマットで現在も禁止されているカードに加えて、現在のモダンでも現役バリバリ活躍中の《電結の荒廃者》《ちらつき蛾の生息地》《霊気の薬瓶》といった強力カードのオンパレードである。「《頭蓋骨絞め》を装備、これを《電結の荒廃者》で生け贄に、2ドロー、《大霊堂の信奉者》で1点。」これを言い続けていれば勝利できる、恐ろしいデッキだった。

 ただ、この「親和」に対して何も打つ手がなかったわけではない。むしろ、強力であるがゆえに環境に確実に存在するこのデッキを圧倒できるデッキを組むことができれば、それは大きなアドバンテージとなる。世界に誇る「藤田剛史ブランド」のこのデッキは、それを見事に最高の形で体現したのだった。振り返ってみればこのプロツアーのTOP8には「親和」が2名、残る6名はアンチ親和デッキという結果に。これだからマジックというゲームは面白い。

 「ビッグ・レッド」は文字通り、赤の《弧炎撒き》や《火の玉》といった重量級カードを決め手とし、その周りを《爆片破》《静電気の稲妻》といった優秀な火力で固めた、言うなればバーン・コントロールデッキである。相手のクリーチャーは焼き、《真面目な身代わり》でアドバンテージを獲得し、残った火力を本体に投げつける......実に漢(おとこ)らしいデッキだ。除去でも勝ち手段でもないカードは《減衰のマトリックス》のみ。このカードについてダークロさんは後年「あのカードが最初4枚入っている意味はよくわからなかった。でも、実際に使ってみて......これは4枚しかあり得ないカードやったんやなって、よくわかったよ」と語っている。「親和」は起動型能力の宝庫であり、これを完封する《減衰のマトリックス》はまさしくマスターピースであったのだ。

 サイドボードにとられた2種類の「タリスマン」にも注目。このマナ・アーティファクトが2枚ずつに散らされているのは、このデッキ自身もサイドに4枚積んでいる《残響する破滅》による1対2交換を取られにくくするため。そもそもサイドボードにマナ・アーティファクト?と意外に思われるかもしれないが、この環境ではアンチ親和のためにアーティファクト破壊呪文がメインから当たり前のように積まれている。この的となるマナ・アーティファクトはサイドに控えさせ、メイン戦を終えた対戦相手に「このデッキ相手にアーティファクト対策は必要なし」と思い込ませてそれらをサイドアウトさせてから、こっちは何食わぬ顔でサイドインして先手と後手をひっくり返すのが狙いだ。

 他の「ビッグ・レッド」よりも一歩先を行くこれらの工夫を振り返れば、このデッキの優勝も大いに納得。今の様々なデッキにも、このデッキの設計思想は応用できそうだ。時には古きデッキリストをおさらいしてみるのも良い勉強となるだろう。

 このデッキで勝利し賞金を手にした黒ちゃんは、仲間を引き連れ神戸牛を食べに行ったとのこと。もちろんおごりだ。ビッグな男である。こういう面も含めて、最高の兄貴分であり憧れの人なのだが......中学生の時、僕は黒田さんの記事を読んで「《黒檀のツリーフォーク》が強い」と信じ込まされ、それを使ったデッキで負け続け......それから10数年後に「いや~自分ではあのカード1回も使ってなくてね(笑)」と言われた時の恨みは、まだ残っているよ。許さん!

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