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『イクサランの相克』のプレインズウォーカーをデザインする
『イクサランの相克』のプレインズウォーカーをデザインする
Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2018年1月19日
こんにちは、そして「Play Design -プレイ・デザイン-」へようこそ。今週はわたしたちがどのようにして『イクサランの相克』のプレインズウォーカーをデザインしたかと、一般的にどのようにしてプレインズウォーカーに取り組んでいるかについてお話しします。
セットの他のカードとは違って、プレインズウォーカーはスタンダードに取り組んでいる人たちが(現在はプレイ・デザイン・チーム、以前はデベロップ・チームがフューチャー・フューチャー・リーグでプレイしている人たちの協力を受けて)デザインしています。プレインズウォーカーは物語の重要人物でありスタンダードに大きな影響を与えるので、他のカードよりも過程の後のほうでデザインします。
わたしたちはどのプレインズウォーカーがそのセットに入るのかは知っていても、セットの展望デザインの時点ではプレインズウォーカーが何をしようとしているのかを知らないのが普通です。世界構築はセットが発売される数年前に終わっていて、そのセットの物語に出てくるキャラクターは決定されています。工程が進んでいくにつれて、プレイ・デザイン・チームはスタンダードのニーズに基づき、プレインズウォーカーが実際にどんなことをするのかを考えます。
デザイン過程
プレインズウォーカーは独特なものであり、メカニズムとフレーバーがそのキャラクターらしいものでなければならないので、最もデザインが難しいカードです。
例えば、ガラクとニッサはどちらも緑のプレインズウォーカーですが、メカニズム的には大きく異なります。異なるバージョンの異なるキャラクターを印刷するに際し、それらに与える能力をそのキャラクターらしさがあるようにしなければいけません。例えば、ニッサはマナを生み出すことや土地をクリーチャーにすることに長けた精霊術師です。緑のプレインズウォーカーであってもガラクがそれを行うのは適切ではありません。ガラクは暗殺者でありクリーチャーと格闘したり破壊したりし、そしてそれはニッサにはふさわしくありません。
デザイン・チームはプレインズウォーカーとそのメカニズムの同一性、そして各キャラクターがやっていいことと、やってはいけないことのリストを保持しています。わたしたちはプレインズウォーカーをデザインしている間に問題があればよくこのリストを参照します。カラー・パイの制約とキャラクターの同一性はこれらのカードのデザインを時々難しくすることがあります。
そのキャラクターらしいデザインをすることに加えて、わたしたちは各プレインズウォーカーのカードをそのキャラクターの他のプレインズウォーカーと違った感じがするものにしようともしています。多くのプレインズウォーカーは、わたしたちが伝統的能力配置と呼んでいる「プラス、マイナス、奥義」の能力を持っています。わたしたちは多くの場合この配置に従っていますが、特に特定のキャラクターを違った感じにしたい場合にこれから逸脱することがあります。プラス2つと奥義、あるいはプラスが複数で奥義なし、マイナスだけ、他にもさまざまなバリエーションがあります。
わたしたちがプレインズウォーカーをデザインする最も一般的な方法は「ミニ・チーム」、つまり1~2時間の会議をして新しいプレインズウォーカーが使える能力をブレインストーミングするデザイナーの小さなグループを組織することです。プラス、マイナス、奥義のリストができると、そのチームはそのセットのリードと会議をします。わたしたちはそのスタンダード・フォーマットにどんな穴があるかを話し合い、それに基づいてデザインを考えます。
『イクサランの相克』のプレインズウォーカー
一般的に、スタンダードには2種類のプレインズウォーカーが存在します。
1つ目は強力で用途の広いプレインズウォーカーです。これらのカードはそのプレインズウォーカーの色のデッキのほとんどすべてのデッキで強力です。これらは大抵プラス、マイナス、奥義の伝統的能力配置を持ち、カードを引く、ダメージを与える、パーマネントを破壊するなどの、どんな状況でもやりたいと思うようなことをさせてくれます。これらのプレインズウォーカーには《反逆の先導者、チャンドラ》、《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》などがあります。
わたしたちは全てのプレインズウォーカーをこのようにはしません――実際、強力なプレインズウォーカーのデザインは通常ブロックもしくは年に1度しか現れません。すべてのプレインズウォーカーをこのような幅広く汎用性の高いものにデザインしない理由は、それがフォーマットの多様性を損なうためです。すべてのデッキがプレインズウォーカーをプレイしたいと考えるならば、そのフォーマットは誰がプレインズウォーカーを一番多く引いたかで決まってしまうでしょう。
多用途なプレインズウォーカーの過剰な安定供給はスーパーフレンズ・デッキにつながり、それらが多すぎることはフォーマットを不健全にすることがあります。
例えば、『ワールドウェイク』スタンダードでは《精神を刻む者、ジェイス》、《ジェイス・ベレレン》、《復讐のアジャニ》、《遍歴の騎士、エルズペス》が同時に存在しました。これらのプレインズウォーカーはすべて強力で、時には同じデッキですべてがプレイされました。このフォーマットは多様性がほとんどなく、ほとんどのデッキはこれら3色の組み合わせでした。最終的にはこのフォーマットは《精神を刻む者、ジェイス》ゲーになりました。
2番目の種類のプレインズウォーカーは、デッキの軸となるプレインズウォーカーです。これはニッチな役割を埋め、1つのデッキタイプでのみ使えるプレインズウォーカーです。その一例が《ドムリ・ラーデ》です。このプレインズウォーカーは、クリーチャーを探したりクリーチャーを格闘させたりするので、一番輝くデッキはほぼすべてがクリーチャーのデッキです。ミッドレンジやコントロールではこのようなプレインズウォーカーの恩恵を受けられないでしょう。
わたしたちはプレインズウォーカーのデザインにおいて大きな進歩を遂げてきました。よりたくさんのキャラクターが物語に追加されて、開発部はそれらをデザインする中で方法論を学習し適応しなければいけませんでした。デッキの軸となるプレインズウォーカーはより一般的になりました。またわたしたちはプラス、マイナス、奥義の伝統的能力配置からどんどん逸脱し、プレインズウォーカーの忠誠値を増減させる他の方法を見つけました。
『イクサランの相克』には、セットに2人のプレインズウォーカーがいます――ファートリとアングラスです。わたしたちは1つをさまざまなデッキに適応する強力なものに、もう1つをデッキの軸になるものにしたいと考えました。
わたしたちはデッキの軸になるものとしてファートリを選びました。わたしたちは伝統的なプラスやマイナスではなく、新しい方法で忠誠値を加える能力にとても興味を持っていました。彼女が白緑であることは知っていたので、わたしたちは彼女を(『イクサラン』の《戦場の詩人、ファートリ》が「一点突破」志向だったのとは対照的に)「横並べ」志向のプレインズウォーカーにしました。
わたしたちは忠誠値を増やす新しい方法を模索していたので、自分のコントロールする各クリーチャーのぶんだけ忠誠値を増やすことを試してみることにしました。このことはプレイヤーに特定のデッキ構築を要求します。彼女の強さはあなたの戦場によって完全に左右されます。あなたのクリーチャーが戦場に多ければ多いほど、彼女の得られる忠誠値も多くなります。そして既存のプレインズウォーカーのほとんどとは違って、ファートリは適切な戦場がある限り、出た次のターンに奥義を放つことができます。加えて、彼女のマイナス能力もあなたがクリーチャーを多くコントロールしていれば強力です。適切な盤面にあれば、ファートリはゲームに完全に勝利することが可能です。この手のプレインズウォーカーは強力ですが、特定のタイプのデッキ構築が求められます。
アングラスはその逆です。これは新しいキャラクターで、初めての海賊のプレインズウォーカーでした。またスタンダードには長い間赤黒のプレインズウォーカーがいなかったので、わたしたちはアングラスを幅広いデッキで強力にして、ファートリのように1つだけのタイプのデッキ向けにするという制限をかけませんでした。
わたしたちがアングラスに与えたメカニズム的同一性の基準は、「対戦相手のクリーチャーを利用して咎める、具体的には《反逆の行動》効果」でした。
彼をデザインする上でのわたしたちの目標は、
- 野放しにされていればゲームに勝てる能力を持たせる。
- アグレッシブな盤面で劣勢を覆す助けになる。
- 1つに対してだけでなく全てのアーキタイプに対して強力なもの(言い換えれば、メインデッキでプレイして満足のいくカード)にする。
プレインズウォーカーをデザインするとき、わたしたちが意識することの1つがプレイパターンです。わたしたちはアングラスが何ターンも野放しにされていてもそのゲームが楽しさを残しているようにしたいと考えました。
《炎鎖のアングラス》の場合、「奥義が決まるようになるまでプラスし続ける」というプレイパターンがをうまく機能しています。この奥義はアングラスを何度もプラスしていればあなたに勝利をもたらしてくれるはずです。対戦相手は起動されるたびにライフを失いながら捨てたカードで墓地を増やしていきます。これのようなものをデザインするときにわたしたちが避けている事柄の1つは、プレイヤーが奥義を使いたがらないようになることです。プラスが必然的に勝利をもたらすならば、奥義を使う理由はあるでしょうか? わたしたちはそれをアングラスで避けたいと考えました。
アングラスの2番目の能力は、彼がそのキャラクターらしくあるために必要でした。彼はクリーチャーを奪って罰するので、《反逆の行動》効果は必須でした。プレイテスト時、わたしたちは《反逆の行動》がそのクリーチャーでゲームに勝てないととても弱いことを発見しました。奪ったクリーチャーの点数で見たマナ・コストが低い場合にそれを生け贄に捧げるというところに到達するまでに、さらなる反復工程が行われました。この能力は劣勢を覆す助けになるという目的を達成しました。
このようなプレインズウォーカーをデザインすることの最終目標は、ほとんどの状況で使えてメインデッキに入れて満足できるカードにすることです。
アングラスの場合、空の盤面で強力(対戦相手の手札を捨てさせ、奥義への仕込みをします)で、ミッドレンジの盤面で強力(一番いい状況は相手のクリーチャーを奪ってプレインズウォーカーを攻撃し、そのクリーチャーを生け贄に捧げることです)で、相手に軽いクリーチャーが1体いる盤面で強力です。彼はアグロの群れに直面している時は弱く、5マナはクリーチャー1体を殺すには割高ですが、理想的にはあなたのデッキには単体除去、全体除去、クリーチャーが入っているはずで、最悪の状況はそんなに頻繁には起こりません。
『イクサランの相克』のプレインズウォーカーについては以上です。この記事がわたしたちのプレインズウォーカーのデザインへの取り組みと、わたしたちが直面する可能性のある制約の種類に関する洞察をあなたにもたらしていれば幸いです。お読みいただき、ありがとうございました。来週はMファイルが始まります。
それではまた来週。
メリッサ・デトラ (@MelissaDeTora)
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