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Making Magic -マジック開発秘話-
組み上げよう
組み上げよう
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2003年10月3日
(編集より)日頃よりマジック日本公式ウェブサイトの記事をお読みいただき、ありがとうございます。マジックの開発部の生の声をお伝えする週刊連載コラム「Making Magic -マジック開発秘話-」を翻訳してお届けしておりますが、その下地にはより多くの過去のコラムがあります。今回はその中から、「主軸的」と名付けられ、繰り返し参照されている開発部語の解説について、2003年10月の記事を翻訳でご紹介いたします。
マジックに関して私が一番好きな比喩は、おそらく、常に変わり続ける軌道で触れ続ける振り子(砂箱の上に紐で吊るした金属の重りのことだ)、というものだろう。デザインの仕事は、全ての要素がいずれ中心に戻るということを理解した上で、その振り子を常に新しい方向に押し続けることである。ここで(再び)振り子の比喩を取り上げたのは、今日ここでまた別の変化について語るからである。繊細な変化だが、マジックのデザインの鍵なのだ。今日それを取り上げるのは、『オンスロート』ブロックから『ミラディン』ブロックへの変化以上にわかりやすい状況がありえないからである。
破片に機会を
ここで取り上げるデザインの要素は、シナジーである。より単純な言い方を剃れば、カード同士がどう関わるかである。周知の通り、トレーディング・カードゲームで重要なのはさまざまなカードの相互関係である。つまり、デザイナーはカードがどのように関わるのかを強く意識しなければならない。シナジーは、他のデザインの要素同様、ある範囲に分布するものとして扱える。今日の記事では、その分布を導入し、その極限を説明し、それによってどのように異なった種類のセットを作るのかについて語ろうと思う。
主軸的デザイン
一方の極限が、主軸的デザインである。主軸的デザインにおいては、カードは明白なグループにおいてまとめられるようにデザインされ、非常に狭いが集約したシナジーを持つ。そのセットを見ればすぐに、カードがどうまとめられるのかが明らかになる。『オンスロート』ブロックは非常に主軸的なセットの例である。デザインが部族を軸にしていることで、特定のクリーチャー・タイプを共有したり、それによって有利を得たり、それに影響を及ぼすようなカードを自然に組み合わせることになる。主軸的デザインは、主軸的メカニズムが多くなる傾向にある。主軸的メカニズムは、カードの単一の要素を軸にしてデッキを組ませることになる。
理解しやすいように、『オンスロート』ブロックから鍵となるメカニズムを見てみよう。
部族
上述の通り、部族は完全に主軸的なメカニズムである。ゴブリン・カードはさらにゴブリン・カードを集める。エルフはエルフを必要とする。部族カードは、デッキにさらなる部族カードを入れるように指示するものだ。
変異
変異は謎の上で育つものだ。このメカニズムの強さの鍵は、対戦相手が盤面を把握できないようにするところにある。どの変異クリーチャーも、あらゆる変異クリーチャーである可能性があるのだ。つまり、このメカニズムは他の変異クリーチャーを使っていることに依存するということである。非常に主軸的だ。
サイクリング
サイクリングはそれほど主軸的ではない。サイクリング・カードを1枚使ったからといって、他のサイクリング・カードを入れることが推奨されるわけではない。これの例外は、(《霊体の地滑り》や《稲妻の裂け目》などの)サイクリング誘発カードのサイクルである。これらのカードはサイクリング・カードを積むことを推奨するものであり、主軸性を有することになる。
スリヴァー
スリヴァーの強さは、それぞれ1体で全体を強化するところにある。したがって、スリヴァーの能力の利益を得るため、可能な限り多くのスリヴァーを入れたいと考える。これもかなり主軸的なメカニズムである。
増幅
このメカニズムは明白にかなり主軸的である。増幅カードは、そのクリーチャー・タイプを持つカードを大量にプレイしたいと思わせるものである。
挑発
このメカニズムは全く主軸的ではない。挑発カードを使っても、他の挑発を持つクリーチャーをデッキに入れる必要はない。
二段攻撃
これも主軸的ではない。
大きさ関連
これらのカードは重いカードをプレイすることで利益を得る。したがって、このセットは通常よりも重い呪文の比率を増やす方向に誘導している。このメカニズムは主軸的なのだ。
ストーム
このメカニズムは、ある意味で「別方向のサイズ関連」とも言える。ストームは軽いカードを大量に必要とする。したがって、これも非常に主軸的である。
ドラゴン
これは単に中心的な部族テーマの1つである。したがって非常に主軸的である。
見ての通り、『オンスロート』ブロックのメカニズムの大半は、分布の中で主軸的の側に位置している。それでは、逆の端に目を向けてみよう。
部品的デザイン
部品的デザインは自由度が高いものである。部品デザインは、レゴ・ブロックに例えられる。どの部品も、さまざまな別の部品と噛み合うのだ。「レゴの箱がここにある、これで何を作るかね?」といったところだ。
主軸的デザインと違い、部品的デザインを一見で把握するのは非常に難しい。繋がりはそれほどわかりやすいものではない。『ミラディン』は非常に部品性が高いデザインである。部品ごとにずっと広いシナジーを得られるように作られている。部品的デザインは、部品的メカニズムを使う。部品的メカニズムは他のカードと組み合わせたときに用途が最大になるようにデザインされており、特定の種類のカードを大量に入れることを必要としない。『ミラディン』のメカニズムを見てみよう。
刻印
デザイン上、刻印は広く開かれている。例えば《魂の鋳造所》は3000種類以上のマジックのカード(全てのクリーチャー)と組み合わせられる。刻印はメカニズムの限界まで部品的である。
装備品
刻印同様、装備品もその使い方や組み合わせ相手の自由度が非常に高い。しかし、刻印とは違い、(《空狩人の若人》など)装備品を大量に使ったデッキを推奨するカードが存在する。それでも、装備品は主軸的というよりは部品的である。
双呪
多用途性のため、双呪カードは相互作用の可能性が高まっている。加えて、このメカニズムはそれ自身で強烈なシナジーを生むことはない。双呪カードを1枚使ったからと言って、それ以上の双呪カードを入れる必要はない。つまり、このメカニズムは分布の中央、特に主軸的とも部品的ともつかないあたりに位置づけられる。
親和
このメカニズムは、主軸的デザインと部品的デザインがどのように一本の直線上に位置付けられるかを示している。親和の本質は非常に主軸的である。親和カードを使う場合、その特定の種類のカードを可能な限り多く入れたいと思うものである。
しかし、その部分集合の比率が大きくなるにつれ、このメカニズムは次第に部品的性質を帯びるようになる。例えば、『ミラディン』の親和(アーティファクト)では、ゴブリンのようなものに比べてかなり主軸的性質が低く感じられる。これは、このセットの半分のカードがアーティファクトだからである。
さらに、アーティファクトは本質的に部品的性質を持つ(デッキに適当なアーティファクトを1枚入れることはずっと簡単である)。そのため、親和(アーティファクト)はずっと自由度が高く感じられるのだ。もちろん、大量のアーティファクトが必要だが、例えばゴブリンを大量に入れる必要があるデッキに比べると、そのための方法はいくらでもあるのだ。
アーティファクト・土地
これは一見してわかりにくい部品的メカニズムの好例である。この種のカードは単純に、様々なカードとさまざまな形で組み合わせることができる一般的可用性がある。
『ミラディン』のカードは、自由度が高い傾向にあるのだ。
良いもの、悪いもの、醜いもの
デザインの方法にはそれぞれ長所と欠点が存在する。主軸的デザインは比較的直接的で、気楽である。主軸的デザインのパックを開封したら、何をしようとすべきかがすぐに理解できる。さらに、主軸的デザインはゲームのプレイヤー(や、一般に人々)の、ものを整頓したいという共通の動機に合うものである。主軸的デザインの最大の問題は、「開発部がデッキを押し付けてくる」という感じを与えてしまうことである。
部品的デザインの強みは、探索できる部分がずっと深くなることである。選択肢の自由度が非常に高いので、選択の樹形図は非常に大きくなる。これは同時に部品的デザインの最大の弱みでもある。プレイヤーを強く怖気づかせるのだ。例えば、『ミラディン』のシールドデッキは通常よりずっと選択肢が多いため、プレイし始めたときにはとっつきにくいのである。
加えて、部品型デザインはもう1つ大きな欠点がある。開発部がデベロップするのが難しいのだ。『オンスロート』のようなセットはテストするのが非常に単純である。ゴブリン・デッキはどうだ、ビースト・デッキはどうだ、というようにやればいい。しかし、『ミラディン』は全く異なる。探索の方法が増えることで、開発部の限られた時間やマンパワーにさらなる負荷がかかることになるのだ。
なぜ開発部がこの両端の間を揺れ動いているのかというと、プレイヤーによって重視するシナジーの種類が違うからである。ほとんどのティミー(この用語がわからない諸君は、「ティミー、ジョニー、スパイク(リンク先は英語)」の記事を読んでくれたまえ)、あるいはカジュアル寄りのプレイヤーは主軸型デザインの気楽さが好きである。ほとんどのジョニーや上級プレイヤーは部品的デザインの複雑さを重視する傾向にある。このゲームのさまざまな性質がそうであるように、マジックがあらゆるグループに(時間をかけて)ヒットするようにするのが開発部の仕事である。
また、もう一つ重要なのは、全てのセットに両方の種類のシナジーが存在するということを忘れてはならない。どのセットにも、プレイヤーをそれぞれの方向に誘導するようなカードが存在するのだ。デザインにおいて、どちらのシナジーを採用するかということが問題になることはない。ただ、その比率をどうするかという議論が存在するだけなのである。
『ミラディン』にて
ミラディンは非常に偏っている。主軸的要素はいくらか存在するとはいえ(マイア・デッキはすでに見ての通りである)、このセットはかなり濃い部品的デザインになっている。これまでのセットの中で一番かもしれない。なぜこうなったのか、その答えは3つある。
1.アーティファクトのフレイバー
歴史的に、フレイバーは常にデザイン上の自由度が高い傾向にあった。これはその実利的、道具的フレイバーから来ていると思われる。アーティファクトは、魔術師が戦闘の助けにするために使う道具だ。そのため、デザイナーはアーティファクトに基本的な道具らしい機能を与えたいと考えるのである。
2.アーティファクトの無色性
アーティファクトはプレイするために色マナを必要としないので、(土地以外の)他のパーマネントよりもずっと融通が利く。この性質のためにコンボの可能性が大きく高まり、その部品的性質も大きく強まるのだ。
3.『オンスロート』ブロックと違う方向に向かう狙い
上述の通り、デザイナーの役割は振り子を別の方向に押し続けることである。つまり、振り子が一方の極限にあるのであれば、デザイナーはそれを真ん中に向けて押し戻す必要がある。『オンスロート』ブロックのフレイバーから離れるために、『ミラディン』のデザイン・チームは部品的デザインを受け入れていったのだ。
『ミラディン』の部品的性質を説明しているのは、諸君に『ミラディン』をよりよく観察する機会を与えるためである。デザインの記事を書き始めた動機の1つが、デザイナーが素敵なあらゆることをしているということが、プレイヤーの多くに知られていないことである。時間をかけて説明することで、セットに含まれる繊細な要素を評価してもらえるようにする助けになればと思う。
いずれにせよ、今日はここまで(2000語以下に? 問題なかろう)。この記事が諸君にデザインを見る新しい視点をもたらしてくれれば幸いである。この記事で示そうとしたとおり、デザインにはさまざまな、本当に多くの側面が存在する。今後の記事でも、もっとあらゆることを示していきたい。
それではまた次回、ちょっとした思考実験を紹介する日にお会いしよう。
その日まで、あなたのカードAがカードBを見つけられますように。
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