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Making Magic -マジック開発秘話-
私の仕事をゲートウォッチ その2
私の仕事をゲートウォッチ その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年1月18日
先週、『ゲートウォッチの誓い』のカード個別の話を始めた。まだKなので、今週も続きとなる。
「さあ、それじゃ『ゲートウォッチの誓い』で使う伝説のエルドラージの巨人を作ろう。コジレックについて教えてくれ」
「オーケー。彼は現実を歪めるんだ」
「つまり?」
「彼が近くにいると、通常通りには物理法則が働かなくなるんだ」
「つまり?」
「奇妙なことが起こるんだよ」
「つまり、奇妙なことが起こるようなカードをデザインするべきなのか」
「いや。とがったジョニー・カードはいらない。神話レアにふさわしい、強大でエキサイティングな伝説のクリーチャーにしたい」
「それで、コジレックの現実を歪める能力にふさわしいのか?」
「ああ」
『ゲートウォッチの誓い』について最初に決まったことは、コジレックが現れるということだった。誰もがコジレックはゼンディカーから離れたと思っていたが、実は彼はゼンディカーの地下に潜んでいたのだ。ゲートウォッチがウラモグに対する罠を作ったことがコジレックの注意を引いた。そして、オブ・ニクシリスの最後の一押しでコジレックが戦いに加わったのだ。つまり、我々がコジレックの影響を定義してコジレックをカード化しなければならないというのはデザインの前提だったのだ。
まず、この1つ目、コジレックの影響のメカニズム的な独自性を決めることから始めた。これは当然に無色マナに関連するものになった。つまり、コジレックについて最初に決まったことは、(ほとんどのカードで使われている不特定マナではなく)無色マナをマナ・コストに含むということだった。また、『エルドラージ覚醒』で3体の伝説のエルドラージの巨人たちが持っていたのと同じく(そして既に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》に持たせたように)コジレックにはそれを唱えたときの誘発型能力も必要だった。
『エルドラージ覚醒』の《真実の解体者、コジレック》の唱えたときの能力はカードを引くものだったので、今回もそれに近いものにすることにした。新バージョンでは手札を7枚まで増やすようにし、手札を使い切りたくなるようにした。起動型能力については、2つのコンセプトに基づいて考えた。1つ目に、できれば引いたばかりのカードを使えるようなもの。2つ目に、コジレックはウラモグと違う形で破壊的にしたいというもの。《絶え間ない飢餓、ウラモグ》はパーマネントを破壊するので、コジレックは呪文を相手取るというアイデアが採用された。これは「現実を歪める」フレイバーにもあっている。
そして最後に、ブロックしにくくすると同時にその恐ろしさを表すためにコジレックに威迫が与えられたのだった。
ニッサは、いつも物語上の能力とメカニズムが符合していないという点で我々にとって少々難題だった。『ゼンディカー』で彼女が登場したときにはエルフというテーマを持っていたが、彼女には物語上で重要な役割を果たしてもらうことにしたので、今回の彼女はもっと土地に関わるメカニズムに移行することにした。この方がデザイン空間も広くなるのだ。
彼女の1つ目の能力は、彼女が植物を育てることを表している。自然魔道士なので、ニッサはあらゆる植物を加速させることができるのだ。これを表すために様々なメカニズムを試したが、植物・トークンが最適だった。しかも、これはプレインズウォーカーの彼女を守ることもできるのだ。
彼女の2つ目の能力は土地からぐっと離れ、クリーチャーに寄ったものだ。伝統的には、これはガラクが担当していた部分だが、彼は今や黒緑に去ってしまったのでニッサにこの種の能力を与えることになった。これもまた、ニッサらしい成長を表す能力だ。
そして最後の能力は一番奇妙なものだ。土地に関連していて、緑のクリーチャーがよく持っているカードを引く能力を使っている。正直、カードを引くことを土地と関連づけることにはいくらか疑問がある。緑は常に土地を戦場に出すものであり、制限をかけるという意味ではいい選択ではない。この奥義は、我々が緑の、正直恐ろしい新境地を開拓しているものなのだ。
デザイン面で言えば、最初の2つの能力の相性は気に入っている。3つ目の能力がもう少し関連していれば(例えば植物の数を数えるとか、単にクリーチャーを数えるとか)、もっと気に入ったことだろう。
ある日、カード技術/cardfrafting(デザインやデベロップに関する本質的な議論をするためデザイン・チームとデベロップ・チームが毎週開いている会議)で、我々はキーワード処理である格闘について話し合った。格闘に最もふさわしい色はと言われれば、誰もが緑と答える。では、なぜ一方的な格闘(1体のクリーチャーが他のクリーチャーにダメージを与えるが、その反撃はないようなカード)を赤に与えたのか。
一方的な格闘は格闘よりも単純に強く、赤は直接火力に富んでいるので一方的な格闘がなければ困るということはない。そこで、我々は新しいことを試すことにした。一方的な格闘を緑に移したのだ。クリーチャーは必要だが(除去は緑にとっての大きな弱みである)緑にクリーチャーへの対処法を与え、しかも自分のクリーチャーを失うこともないことが多くなる。最終的な結果がどうなるかはわからないが、諸君の意見を聞くのが楽しみだ。
先週言ったとおり、この誓いシリーズはチーム結成を表すため、そして誰がゲートウォッチに参加したのかを明確にするためにこのセットに投入された(「キオーラの誓い」がないことにも要注意だ)。デザインの元になったアイデアは単純で、戦場に出たときの誘発型能力を持つエンチャント、というものだ。戦場に出た後はプレインズウォーカーに影響を及ぼす常在型能力を持ち、それによってプレインズウォーカーのチームを組むことを推奨しているのだ。
チャンドラの戦場に出たときの能力は直接火力にしたくて、{1}{R}で3点ダメージというのはちょうど良い。常在型能力は色々と試してみたが、最終的にはチャンドラのダメージを与える能力にこだわり、コントローラーがプレインズウォーカーを唱えたときに相手に追加のダメージを与える能力にした。
誓いシリーズで、戦場に出たときの能力はほとんどがデザインで造られたものだが、常在型能力は全てデベロップ中に変更になっている。元は、コントロールしている全てのプレインズウォーカーに追加の忠誠カウンター(訳注:おそらく、「忠誠度能力」の誤り)を与えるというものだったが、最終的にはそれでは狭すぎるということになったのだ。
《ギデオンの誓い》の戦場に出たときの能力はクリーチャー・トークンを作るものだ。{2}{W}で1/1のコー・同盟者・クリーチャー・トークンを2体得る。これは《チャンドラの誓い》の戦場に出たときの能力より多少弱いが、それは常在型能力が強いからである。一般論として、忠誠カウンターを得るほうが対戦相手にダメージを与えるよりも有用なのだ。
《ジェイスの誓い》の最初のバージョンは、基本的には《予言》({2}{U}でカードを2枚引く)だったが、最終的には多少強すぎるということで《調査》(カードを3枚引いて、2枚捨てる)になった。常在型能力は他の誓いよりも強く、1体あれば実用的になる。私が気に入っているのは、各常在型能力が、そのプレインズウォーカーが参加することでどう助かるのかを表していることだ。
ニッサの戦場に出たときの誘発型能力は、最初《不屈の自然》(基本土地をライブラリーから探し、タップ状態で戦場に置く)だったが、これは強すぎるし切り直しの必要があった。現在のバージョンでは探すものの幅が多少広がっている(無駄になることが少なくなった)。常在型能力は、誓いシリーズの中で唯一、プレインズウォーカーを戦場に出すのを簡単にするものだ。
このカードは変わりゆく世界や環境の興味深い一面を示している。単体で見ると、これは白のカードである。4マナのソーサリーで、クリーチャー1体を追放する、まさに白だ。しかし、マジックの長所の1つが、世界と焦点を変え続けているということであり、つまりそれはときどき物事のあるべき姿を変えることができるということである。
例えば、ゼンディカー世界ではエルドラージの異質さを描きたかったので、追放領域を扱い始め、エルドラージには対戦相手の追放されたカードを食べる能力を与えた。つまり、追放する効果がより多く必要になった。そうするために、追放する能力を持たせる相手を多少増やした。通常は白がほとんどだが、『戦乱のゼンディカー』ではエルドラージに関われば全ての色が追放できるようになっている。通常、黒はクリーチャーを殺せるので、ここではクリーチャーを追放することができるのだ。
こういったわずかな変化を積極的に認めることで、それぞれの世界に独特のフレイバーを与えることができ、さらにそれまで作ったことがないようなカードを作ることができる。カラー・パイを破壊してしまってはならないので注意が必要だが、注意深く染み出させることは重要な役割を担っているのだ。
私のことを知っている人なら、私が伝統主義者であると知っている。私は、マジックが新セットを作ることで変わり続けていることが大好きだが、一方で何度も使われ続けているデザイン上の定番があることも楽しんでいるのだ。定番の1つが、赤のアンコモンで軸となるエンチャントである。そのセットのテーマに関する何かをすると、そのエンチャントは2点のダメージを与えるのだ。ダメージを与える先は、クリーチャーでもプレイヤーでも選べることもあれば、プレイヤーに限られることも、クリーチャーに限られることもある。また、コストの支払いが必要なものもあれば、そうでないものもある。
なぜ必ずエンチャントなのか、なぜ必ず2点なのか、というと、必ずというわけではない。しかし、何度も使えるほどにこの枠組みが有効なことは証明されているのだ。ソーシャルメディアで、この枠組みには飽きたので新しいことを試すべきだ、というコメントをもらうことがある。実際、新しいことを試している。しかし、だからといってうまく行っている古典を投げ捨てる必要は無いのだ。
《紅蓮術師の突撃》は、この類いのカードを作り続けるべき理由の好例と言える。これは、1ターンに複数の呪文を唱えることを推奨するメカニズムである怒濤と組み合わせてプレイするようにデザインされているが、大量の軽いクリーチャーや呪文を入れたアグロ・デッキでも、また特定のターンに複数の呪文を作るために溜めるようなデッキでも問題なく働くのだ。
欠色をすると決めたときの最初の計画は、《幽霊火》をブロックに入れる方法を探るというものだった。《幽霊火》は欠色の元になったカードであり、また『未来予知』のカードでもあったので、このブロックに入れることはデザイン・チームにとって魅力的だった。問題は、欠色カードは全てがエルドラージ関連のもので、《幽霊火》は呪文を欠色にするための条件を1つも満たしていなかったのだ。
最終的に《幽霊火》を『ゲートウォッチの誓い』に入れたのは、《幽霊火》を唱えられそうだと思えるチャンドラが入ることが決まったからである(チャンドラはこの無色の呪文を使ったことがあるのだ)。最終的に、このカードは場違いになり(同じことをする複数のカードがあるなら1つでいい)、欠色呪文に変わることになった。興味深いことに、この変更がなされた時に、我々はこの呪文がエルドラージらしく見えるようにするため、追放するというおまけをつけた(この呪文でクリーチャーが死亡したなら、それを追放する)。しかし、デベロップがファイルをシンプルにする工程の中で取り除かれ、このカードは再びエルドラージとはメカニズム的に無色であること以外には何も関係ないものになったのだった。
デザイン時のこのカードは、探した土地が《荒地》なら戦場に出す、というものだった。文章量も少なく一見するとエレガントだったが、プレイテストしたところすぐに問題が見つかった。
土地を探してくる処理には2つの意味がある。マナの量を増やすだけでなく、他の色をタッチする助けになるのだ。より有利になる効果を使えるときに使いたいとして、そのためには《荒地》を出さなければならないとすれば、色をタッチする助けとしてこのカードを使うことができなくなる。柔軟性が失われることによって、このカードはずっと弱くなり、プレイするのに充分な強さとは言えなかった。そこで、デベロップは《荒地》を出したときではなく《荒地》をコントロールしているときに有利になるように切り替えたのだった。
このカードが驚きを呼ぶものであることは間違いない。カードを引けないことが白の弱点であると常々言ってきたからだ。なぜこれが弱点なのかを理解するため、白の理念に基づいて説明しよう。白は法と秩序の色である。白は全てを区分し、正しい位置に置くことを好む。従って、白の弱点は柔軟性なのだ。法則を重視しすぎるあまり、急いで適用することは苦手なのである。これをカードで再現した結果、白は対策手段を豊富に持つが、それらは様々なカードに分散している。白の解決法は狭いものであったり、元の状態に戻せてしまうものだったりするのだ。
これはつまり、白が問題を理解し、事前に準備しておくことができれば、非常に有効だということである。白は他の色よりも多くの対策手段を持っているが、不意打ちを受けると使える対策手段を持っていないことがあるのだ。カードを引く能力を白に与えていない理由は、カードを引いて使える枚数を増やすことで必要な対策手段を常に持っていることができるようになり、弱点を克服できてしまう可能性があるからである。
《岩屋の装備役》はカードを引くことができるが、使えるようにするためにはそのためにデッキを作らなければならず、そのようなデッキにはかなりの制約が課せられるので、これによって白が必要な対策手段全てを手に入れることはできないようになっている。
開発部が気に入っていることの1つに、カード名の中に何度も同じ冗談を潜ませることがある。その一例が、クリーチャー化した土地を強化するカードのことを「土地ロード」などと呼ぶというものだ。この伝統は『オンスロート』にあった、土地をクリーチャーにし、そして全てのクリーチャーを強化する《クローサの拳カマール》に遡るものだ。
『戦乱のゼンディカー』で「無色関連」テーマを作ったとき、2つのアーキタイプに集めることにした。黒赤と青黒である。前者はアグロ寄りで、無色のパーマネントを戦場に並べることを求めるもの、後者は比較的遅くてコントロール寄りの、無色の呪文を唱えることに寄せたものであった。《思考刈り》は無色デッキにライブラリー破壊の要素を加えるもので、コントロール寄りの青黒「無色関連」アーキタイプにうまく噛み合うようになっている。
これは単体でも使えるがセットのテーマとのシナジーもあるという面白いデザインである。タップしたときに1点のライフを得られる1/4の飛行クリーチャーであり、これで攻撃することで誘発させることができ、飛行を持っているので攻撃することは簡単である。その一方、これは同盟者でもあるので、盟友を持つカードがあればそのコストとしてタップすることもできるのである。シナジー的カードをデザインする場合、可能ならそれ単体でも使えるようにすることは重要である。そうすることで、その特定の戦略を使っていないプレイヤーのデッキにも入れることができるのだ。
『ゲートウォッチの誓い』では多くのことが起こっているので、イーサン/Ethan率いるデザイン・チームはキーワード全てを使うことなく『戦乱のゼンディカー』のテーマを延長する方法を探った。《復興の壁》は、覚醒メカニズムを使わずに覚醒メカニズムを延長したカードの好例である。
この2部作の最後に控えていたのが、この『ゲートウォッチの誓い』で一番驚かれるであろうカードである。6種類目の基本土地という話は長年にわたって議論されてきた。最初に話題に上ったのは『インベイジョン』ブロックで、版図呪文(戦場にある基本土地の種類を数える呪文)の参照する数を6にする方法を探していたときのことである。版図メカニズムの元になったセット『Spectral Chaos』をデザインしたバリー・ライヒ/Barry Reich(マジックの初期のプレイテスター)にちなんで「バリーのメカニズム/Barry's Mechanic」と呼ばれていたのに倣い、この土地の最初のバージョンは「バリーの土地/Barry's Land」と呼ばれていた。『Spectral Chaos』は完成しなかったが、その要素は『インベイジョン』のデザインに引き継がれたのだ(バリーのメカニズムについての詳しい話は、こちらの記事(リンク先は英語)で読むことができる)。
私がバリーのメカニズムについて書いたのは遠い昔のことで、何かができない理由について聞くのは誰も好きではないことなので、しばしばこの話は議題になっていた。『ゲートウォッチの誓い』のリード・デザイナーであるイーサン・フライシャーが無色マナをコストとして使うというアイデアを探求することにしたとき、私はバリーの土地の問題を繰り返すことになると知っていた。しかし、今回大きく違ったのは、「6種類目の基本土地」を作る理由が版図ではなく、基本土地に作用するカードがこのカードにも作用できるようにする、というものだったことである。焦点がこう変わったことで、このカードを実際に形にすることができたのだ。
《荒地》はバリーの土地ではない。版図で参照する数を6にすることはない。『ゲートウォッチの誓い』には版図は存在しないので、セット内ではそれも問題にならない。『ゲートウォッチの誓い』と『戦乱のゼンディカー』のリミテッドで必要なことは《荒地》だけで事足りるのだ。スタンダード範囲内で必要になるあらゆる相互作用も問題ないと思われる。このカードに関する次の疑問は、「これはどうバリーの土地と違うのか」だろう。
一言で答えるなら、《荒地》は基本土地ではあるが基本土地タイプを持たない、ということである(版図が参照していたのは基本土地タイプである)。なぜ持たないのか、というと、そのためにはルールやマジックに変更を加える必要があるが、そうしたくないからである。数年後には6つめの基本土地タイプはほとんど関係なくなるというのに、マジックには6つの基本土地タイプが存在する、と永遠にルールに書き残したくはないのだ。マジックは即座に説明すると誤解を招く可能性のあるルールなしでも、既に充分複雑なのだ。マジックにおいて、直近でクールになるかもしれないことではなく、長い目で見て最適なものを選ばなければならないことはしばしば存在する。そして、これがバリーの土地とは全く違うと言える理由なのだ。
これがゲートウォッチだ
あるいは、この光景が。『ゲートウォッチの誓い』のカード個別の話はこれで終わりである。この記事やこのセットについて何かコメントがあれば、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、マジックの百万言について語る日にお会いしよう。
その日まで、あなたの無色マナや同盟者が充分にありますように。
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