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Making Magic -マジック開発秘話-
クールな染み出しかた
クールな染み出しかた
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年4月6日
龍特集へようこそ! 今週はマジックでもっとも人気があると思われるクリーチャー・タイプ、そして『タルキール龍紀伝』の焦点について語っていく。前回のドラゴン特集で(2003年(リンク先は英語)のことだ)既にドラゴンについては語っているので、今回は少しばかり違う方向から進めるべく、『タルキール龍紀伝』の(そして『運命再編』の)龍に共通する話題について語っていこう。
その話題とは、カラーパイの染み出しである。マジックの基礎となるのがカラーパイであり、各色の理念だけでなくメカニズム的な性質も定めている。時折、我々はメカニズム的に(そしてクリエイティブ的に)各色に認められているものを拡張している。例えば、ドラゴンは赤の象徴的クリーチャーである。それなら、なぜ赤でないドラゴンの存在が認められたのか? 『アヴァシンの帰還』で天使を扱った時は、全ての天使が少なくとも部分的には白かった。それだけでなく、緑には大型飛行クリーチャーは存在しないものなのに、この2セットでは緑単色のドラゴンまで存在していた。一体何が起こっているのか?
今日の記事では、なぜ我々がカラーパイを染み出させるのかの理由と、その正確な方法について確認し、正しい方法と誤った方法があることを明らかにする。つまり、今日の記事では、染み出しの理由と方法の裏付け理論を通して見ていくことになる。
《仇滅の執政》 アート:Lucas Graciano |
「染み出ないね?」
まず最初に大きな質問から行こう。カラーパイがそれほど重要なら(そして実際に重要なのだ。その理由を詳しく知りたい諸君はこちら(リンク先は英語)を)、なぜ我々は常々染み出すのか? 我々が、通常その色に認められていないことを認めるのはなぜなのか?
染み出しの利点
#1-世界ごとの差別化ができる
常々、マジックは開発部が常に違う方向に動かし続ける振り子(砂のくぼみの上を揺れ動く先の尖った金属片をイメージしてほしい)であるという話をしてきた。我々は常にマジックを新しい場所に動かし続けることで、マジックを新鮮なものにし続けているのだ。私がこの振り子のたとえを使うのは、マジックには中心が存在し、そしてマジックが漂流しないように、長く長らえるように、そして再び中心に戻ってくるようにしたいからである。基本のカラーパイこそがその中心なのだ。しかし、そこから離れ、カラーパイに独自の解釈を持つ新しく独特な世界を作ろうとするなら、物事を変更できるということは重要である。世界Aと世界Bが全く同じカードで全く同じことをするなら、その2つを全く異なるものだと感じさせることなどできはしないのだ。
我々のシステムの性質として、我々は自分たちのやっていることを修正する新しい方法を探し続けている。染み出しはその重要な一部である。新しい世界をエキサイティングなものにする方法の1つが、マジックが通常しない(あるいは長い間してこなかった)ことをする、というものである。現在、これから見ていく通り、各セットの大部分は見慣れた範囲にとどまっている。しかし、異常な部分こそが注意を惹き、違うものだという感じを与えてくれるのだ。
#2-デザイン空間を切り開く
すべてを変更するために、大変化させる必要はない。マジックのセットをデザインする上での課題は、ゲームプレイを新鮮なものに保たなければならないということである。デザインでは多くのものを再利用するが、各セットで何か新しいデザイン空間を掘り下げていくことが重要なのだ。我々が毎回していることは22年間の間に手垢が付いてしまっているので、新しいものを見付ける大きな可能性が秘められているのは未探査の領域なのである。ここで、未探査の領域というのは染み出しだけではないと強調しておくが、染み出しが新しいものに触れる方法となる領域であることもまた事実なのだ。
#3-新しいフレイバーを表現する助けとなる
カラーパイは柔軟で、かなりの変動を許容する。しかし染み出しによってそれまで掘り下げることのできなかった創造的な領域を見付けることができるのだ。例えば、吸血鬼は通常黒である。長年にわたり、我々は様々な黒の吸血鬼を作ってきて、様々な方法で吸血鬼を描いてきたが、『イニストラード』で吸血鬼が赤にも存在するとした瞬間、それまでの吸血鬼とはまったく異なるイメージの吸血鬼を作ることが可能になったのだ。
#4-エキサイティングだ
プレイヤーは(あるいは異論はあるかもしれないが人間はと言ってもいい)新しさに惹かれるものだ。今まで目にしたことのないものを見るのはエキサイティングだ。色の染み出しがプレビューにもってこいなのは、多くの変化を引き起こし、プレイヤーの話題になるからである。カードの中でも目立つのは、それらがプレイヤーが知っているどんなものとも似ていないからなのだ。
ああ染み出しは素晴らしい。なぜ毎回染み出しをしないのか――それは、非常に大きな欠点が存在するからである。
染み出しの欠点
#1-マジックを殺す危険性がある
まず最初に最大の理由から始めよう。これは危険なのだ。カラーパイが重要なのは、カラーパイがあるからマジックが成立しているからである。マナというシステムのために、プレイヤーは色を減らそうとし、カラーパイのために、プレイヤーは色を増やそうとする。この微妙な均衡が重要なのだ。この均衡のおかげで、我々は様々な形で意味を持つ様々なカードを作ることができる。このおかげで、強すぎた時に突けるような弱点が全てのデッキにあるようにして、ジャンケンのようなメタゲームを作ることができる。このおかげで、テーマに焦点を当てたデッキが作れるようになり、フレイバーを強化することができるのだ。
一言で言うなら、カラーパイは多くの非常に重要な役割を果たしており、染み出しは火遊びなのだ。これから見て行くとおり、全ての染み出しが同じというわけではないが、いずれにせよ力を弄べばマジックに致命的な損害を与える可能性があるのだ(カラーパイがマジックにおいて重要な部分を担っているということについて詳しく知りたい諸君は、こちら(リンク先は英語)を読んでくれたまえ)。
#2-カラーパイに関するプレイヤーの理解を混乱させる
その色のしないようなことをするカードを印刷するたび、我々は、その色はそのことをするのだ、という情報を出していることになる。ほら、このカードが存在している。テーマとしてカラーパイを弄ったセット『次元の混乱』は、私の絶え間ない頭痛の種だ。ある色が何かをできるという照明としてプレイヤーが『次元の混乱』のカードを示すたびに、私はその色がそれをしない理由を説明しなければならなくなる。私のブログでは、カラーパイについて論じる時に『次元の混乱』のカードを引用してはならない、というルールまであるのだ。
#3-色と色の均衡を弄ることになる
色の長所や弱点は、均衡を作れるように慎重に作られている。色が通常できないようなことをし始めたら、この均衡は歪み、問題が生じることになりうる。
#4-他のカードの魅力を削いでしまう
注目を集めることがいいことなのは、それを狙っていた場合だけだ。染み出しは注目を集めてしまい、プレイヤーに注目してほしい他の要素から注目を奪ってしまうことになる。
つまり結局、染み出しをうまく使うこともできるが、まずくなってしまうこともあるのだ。まずくなってしまった場合の危険性はうまく使ったときのメリットよりもずっと大きいリスクとなるので、我々は非常に慎重にならなければならない。これから、染み出しを分類して、そしてそれぞれの分類を使う理由と方法について語っていこう。
第0分類-「毎セット」のカード
これを第0分類としたのは、この分類は染み出しをしていないからである。これは各色の基本的な効果であり、どのセットでもしていることである。再録であることもあれば修正版であることもあり、修正版なら1つかそこらの新しいメカニズムが入っていることが多い。これはデザインの主食だと言える。これらはセットに入ることがわかっているような効果であり、例えばデザイン骨格(これが何か判らない諸君はこちら(リンク先は英語)を読んでくれたまえ)に入れる類の効果である。カードの大多数はこの分類に入ることになる。
第1分類-「毎ブロック」のカード
この分類は、比較的頻度の低い、けれども存在する効果である。毎セットするというわけではなく、平均してブロックに1回ぐらいするというものだ。これにはいくつかの理由がある。スタンダードにあまりたくさん存在してほしくないような効果かもしれないし、魅力的なので入れすぎて飽きられるようなことがないようにしているものかもしれないし、狭い効果なのでそのカードが1枚あれば充分というものかもしれない。この分類は第0分類ほどカラーパイの中核ではないが、これを染み出しであると呼ぶことはない。これらの効果は、毎回あるというわけではないというだけでその色の効果なのだ。
第2分類-「必要に応じて」のカード
この分類のカードは、時折存在するが毎ブロックというわけではない効果を持つ。これらの効果はさらに狭いものであり、必要な時にだけ使うようなものである。これらのメカニズムのもっともよくある使い方は、全ての色に共通するテーマをセットに持たせたい場合に使う、というものである。例えば、通常は白、黒、緑が墓地を扱う色だが、『イニストラード』のように墓地をテーマあるいはサブテーマとして持つセットを作る場合、青や赤にも何かさせる必要がある。このテーマは通常の基盤に基づくものではあるが、青や赤はメカニズム的に少し踏み出すことになる。私はこれらを、必要な時に持ち出すような補足的メカニズムだと考えている。これらを、長い期間のうちに使うために作っておいた軽い染み出しだと考えてもいいだろう。
第3分類-「ブロックのテーマを扱う」カード
この分類のカードは、その色が通常することを比較的普通でないことと関連づけたものである。この好例が、『テーロス』の《岩への繋ぎ止め》である。このカードのメインの能力は《忘却の輪》のもの(そのパーマネントが戦場にある間、選んだ対象を追放する)であるが、《山》をエンチャントしなければならないという一ひねりが加えられている。前半部分はいかにも白であり、ほとんどのセットに登場している。後半部分はこのカード独特のものだ。このカードが印刷に到ったのは、全体として非常にフレイバーに富んだカードであり、ギリシャ神話を元にしたセットらしさを醸し出しているからである。言い換えると、この分類に入る効果はそのブロックにしか存在できないカードを作るのだ。
第4分類-「2+2は4ではない」カード
この分類のカードは、フレイバー的な能力を2つ選び、そしてそれを組み合わせてその色のフレイバーに反する何かをするというものだ。ここで取り上げる例は『テーロス』の《死の国からの救出》である。クリーチャーを生け贄に捧げるのは間違いなく黒で、クリーチャーを(今回は2体)墓地から戦場に戻すのも間違いなく黒だ。しかしこれを組み合わせた効果により、このカードはクリーチャーを明滅させるようなことになり、これは白か青の能力であって黒の能力ではない。上記の《岩への繋ぎ止め》とと同様、《死の国からの救出》が印刷に到ったのはカード全体がフレイバー的にブロックのイメージに相応しいものだったからである。
第5分類-「めったにない」カード
この分類は通常はカラーパイの範疇外だけれども、稀に、通例として特殊なカードで存在を認めているものだ。赤以外のドラゴンや緑の大型飛行クリーチャーというのはこの分類に入る。これらの効果は非常に稀に使うものなので、我々は慎重であろうとし、そしてそのインパクトを最大にするために出し惜しむのだ。これが、私が『基本セット2015』の《女王スズメバチ》を否定しながら『運命再編』や『タルキール龍紀伝』の緑単色のドラゴンを肯定する理由である。《女王スズメバチ》は、単体ではフレイバーに富んでいると言えるが、『マジック2015』全体のテーマにはほとんど寄与していない。対照的に、『タルキール覇王譚』ブロックは龍の存在によって定義づけられている。緑の大型飛行クリーチャーが5年かそこらに1度しか使わないようなものだとするなら、『タルキール覇王譚』ブロックが正しい選択なのは明らかである。
第6分類-曲げているカード
私はこの分類のことを、色を曲げるカード、と呼んでいる。これらは明確にカラーパイを外れたことをしているが、その色の弱点を埋めてしまうようなことのないカードである。これらのカードでも理由なくカラーパイを曲げるべきではなく、大局的な目的のためでなければならない。この分類の好例が『スカージ』の《ドラゴン変化》である。このカードはフレイバー的に、この呪文を唱えた者をドラゴンに変えるというものだ。飛行を持っているので、飛行を持たないクリーチャーによって攻撃されることはなくなる。この《Moat》系の効果は赤の能力ではないが、全てを組み合わせるといかにも赤だったので、我々はこのカードの染み出しを認めたのだ。赤には破壊や飛行を持たないクリーチャーをブロックする能力はいくらでもあるので、この染み出しは色の例外ではあるけれども、赤が本質的に苦手としていることをすることができるようにするものではないということを明記しておこう。
第7分類-破っているカード
この最後の分類は、個人的には敵であり、私はこれらのカードのことを、カラーパイを破るカード、と呼んでいる。これらのカードは、色の例外であるとともにその色が本来持つ弱点を乗り越えることを積極的に助ける効果を持っている。この分類の古典的な例を挙げるなら、《スズメバチの一刺し》が当てはまる。緑の弱点の1つが、相手のクリーチャーを対処するのに自分のクリーチャーが必要だということである。格闘や《寄せ餌》効果、あるいは単に比較的大きなクリーチャーを出すことでクリーチャー戦を有利にするのだ。呪文を使って直接クリーチャーを除去できるべきではない。《スズメバチの一刺し》はこのルールを破っている。その結果、一見すると非常に弱く見えるこのカードが、効率は悪くても緑が切望する効果を持っているので、構築戦のサイドボードに入ってしまうのだ。私がマジックを危険にさらしたカードについて話すとき、色間の壁を壊し始めているこれらのカードについて語ることになる。
「染み出しカードだ!」
問題をさらに複雑にしているのは、プレイヤーがこの話題に強い関心を持っていることである。その中でも声の大きいグループ2つのことを、私は「混沌代理人」と「秩序代理人」などと呼んでいる。
混沌代理人
このグループはカラーパイを不要で無用なルールだと考えている。これらのプレイヤーは、カードが作れない理由を説明すれば必ず文句を言う。特にフレイバー面で正当化できるようならなおのことだ。彼らは、マジックのことをあらゆるおもちゃがある砂場であってほしいと思っているのだ。このグループは常に、それまでやらなかったことをするカードを作るように求めてくる。色に特定の弱点があることは愚かなことだと考え、特定の色が常に持つ問題を解決できるようなカードを探し続けているのだ。『運命再編』や『タルキール龍紀伝』の龍のサイクルに対しては、「素晴らしい、さあ次は天使やスフィンクスやデーモンやハイドラだ」と思っている。
秩序代理人
このグループはカラーパイを聖なるものだと捉えている。これらのプレイヤーの考えでは、色の染み出しは起こってはならないものだ。色の染み出しが起こっているカードが印刷されると、指摘し、コメントをする。これらのプレイヤーは常に、色の染み出しを二度と起こさないように求めてくる。『運命再編』や『タルキール龍紀伝』の龍のサイクルに対しては、「あり得ない、あり得ない、あり得ない、次は何だ、黒の攻撃強制クリーチャーか、赤のブロックできないクリーチャーか?」と思っている。
《権威の微光》 アート:Jakub Kasper |
正解は、中庸にある。染み出し、特に誤った類の染み出しが多すぎれば、マジックは本当の危機に陥ることになる。足りなければ、全てのセットは同じようなものになり、マジックの魅力の多くが失われることになる。今日説明してきたとおり、私は、よい染み出しの鍵となるのは以下のことを理解することだと考えている。
カラーパイを曲げているのか、破っているのか
この区別は非常に重要だ。その染み出しは色の区別を無価値にしていないか? このカードの存在により単色のデッキを組みやすくなり、他の色を混ぜる必要がなくなってはいないか? そのカードはその色固有の弱点を和らげていないか? 一言で言うなら、その染み出しは長期的に見て色と色の違いを減らしていないか、ということである。このどれかに当てはまるようであれば、そのカードを作るべきではないのだ。
そのカードは全体としてその色らしいか
染み出しをする時にも、その目的はカードをフレイバーにそぐうものにすることである。要素は染みだしてもいいが、カード全体の効果はその色に相応しいものでなければならない。《ドラゴン変化》はこの実践的な好例である。《Moat》は赤ではないが、ドラゴンに変化させるのは赤なのだ。
その染み出しはセットを助けるのか、単体で魅力的なカードを作るのか
デザインにおけるあらゆるもの同様、色の染み出しはリソースであり、慎重に使わなければならない。従って、使うのはセット全体を前進させるためであるべきで、そのカード単体のためであるべきではない。そのカード自体を魅力的にするだけなら、そのカードが大局的に意味を持つようなセットを作る時まで取っておけばいいのだ。
染み出しがセットの必要に応じているのか、染み出しを正当化するためにセットがあるのか
染み出しは、染み出しをしたいからするのではなく、する必要があるからするものであるべきである。まだやったことのないことをやりたいから、という理由で何かをするのは、悪いデザインである。あらゆる道具、中でも染み出しは、全体のデザインを前進させるためにこそ使うべきなのだ。
最後になったが、色の染み出しは間違いなくマジックのデザインにおいて意味を持つものである。しかし、それは同時に非常に慎重に、そして意識的に使われるべきものなのだ。
いつもの通り、この話題についての諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、倍付けにする日にお会いしよう。
その日まで、あなたが慎重に染み出しますように。
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