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Making Magic -マジック開発秘話-
予示の定め
予示の定め
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年2月9日
予示特集では、『運命再編』の新しい、変異の元となったメカニズムについて語っていく。予示のデザインについてはプレビュー期間中に語っているので、今日の記事ではプレイヤーが予示について抱いている様々な質問について掘り下げて答えていこうと思う。
マナ・コストを支払って表向きにできるのがクリーチャーだけなのはなぜ? 他の呪文は?
これにはいくつもの理由があるので、そのそれぞれを説明していこう。
1.フレイバー
予示は変異の元となったものを表している。顔のないクリーチャーを作り出す龍詞魔法なのだ。本来のタルキールの時間線では、人類はその龍詞魔法を手に入れ、時とともに戦闘で勝つ助けにするために誰だか判らなくするための魔法を作り出していった。この魔法が氏族を助け、龍を絶滅させることに繋がったのだという構想がある。(『タルキール覇王譚』の)変異から表向きになるのがクリーチャーだけだったので、フレイバー的に関連性を持たせるため、予示も表向きになるのはクリーチャーだけにしたのだ。
2.複雑さ
クリーチャーを表向きにしてクリーチャーでないものにするのは、特に戦闘中に起こった場合、非常に込み入った相互作用をもたらす。変化先をクリーチャーだけに絞れば、予示クリーチャーはカード・タイプを変えることはなく、この既に複雑なメカニズムにさらなる複雑さを加えなくて済むのだ。
3.ルール
マジックは、戦場にパーマネント以外のものが存在することを好まない。『オンスロート』のカードと予示を組み合わせるとそういう状況にはなる(から、ルールはその場合にどう処理するか定める必要があった。発生しないので、そのカードは再び裏向きに戻されるのだ)。しかしそのような状況にならないならそれに越したことはない。
4.コスト設定
どんなカードでも表向きにできるというのは非常に強い効果であり、デベロップは呪文のコストを高くし、予示がコスト的に魅力的でないようにしなければならないことになる。
5.ゲームプレイ
ゲーム・デザインはプレイヤーに課題を投げかけることである。そのため、ゲーム・デザイナーはプレイヤーができることに制限を加え、プレイヤーはその制約の中で動くことになる。言い換えると、プレイヤーにやりたいことを何でもできるようにするのは、良いゲームプレイに繋がらないことが多いのだ。
「新世界秩序」的に、予示は複雑すぎませんか?
もちろん、予示はグレーゾーンにある。境界線を押し広げていることは疑う余地もないが、マジックはリスクを取るものであり、そして我々はこのメカニズムを充分楽しく充分テーマ的だと感じたので採用したのだ。我々がパワー・レベルの限界線について時折検討するのと同じように、複雑さについても検討している。常時変更しようというものではないが、時折、グレーゾーンに位置するようなメカニズムを見つけて変更することがありうる。予示はそのようなメカニズムの1つであると信じている。しかし、カードのパワー・レベルを動かすときがそうであるのと同様、後から立場を変えて見直すことがないなどということはない。
予示をコモンで使えると判断した大きな理由の1つが、このブロックの第1セットに変異が存在したことである。現在、変異そのものも新世界秩序におけるグレーゾーンに位置する複雑なメカニズムなのに、と諸君の中には驚くものもいるだろう。なぜ複雑なメカニズムを2つ入れることで改善されるのか? その答えは、それらの複雑さがまったく同じ分類に属するということである。変異を理解することで、予示の複雑な部分のほとんどを理解できるのだ。説明しよう。
その1 - マジックのカードは裏向きになれて、2/2で無色のクリーチャーになる
おそらく、初めて変異(や予示)を見た時に一番把握しにくい概念はこれだろう。なぜなら、これはマジックの根幹を成すルールの1つ、カードの裏面はゲーム上の機能を持たないというルールを根本的に破っているからである。裏向きのカードを扱うメカニズムに初めて触れたとき、マジックにおいてはある条件の下でそれが認められている、そして裏向きのカードは特定の情報を持つ、すなわち無色でカード名やクリーチャー・タイプを持たない2/2のクリーチャーである、ものとして定義される、ということを学ぶことになる。
その2 - 裏向きのカードには表向きになる能力がある
裏向きのカードは単に2/2のクリーチャーというだけでなく、特定の条件の下では表向きになり、そのカードの表側に書かれているものになる。そのためには、特定の量のマナを支払う必要があり、そのマナの量はカードの表の面に記されている。一部の(『未来予知』セットの)ミライシフト・カードを除いて、全ての裏向きのカードは表向きになった際にクリーチャーになる(予示でクリーチャーしか表向きにできないもう1つの理由がこれである)。
その3 - 裏向きのクリーチャーを表向きにするのはスタックを用いない
通常、プレイヤーが何かをしたら、対戦相手はそれに対応することができる。これにはいくつかの例外があり、裏向きのカードを表向きにするのもその1つである。
変異について理解していれば、上記の3項目全てを理解していることになる。これは予示を理解する上でもかなりのアドバンテージになる。実際、我々はその気になれば予示を変異メカニズムの形で書くこともできた。予示に予示という別の名前を与えたのは、より魅力的で、そしてカードを見やすくすることができるからである。しかしここで重要なのは、変異の働きを理解すれば、予示の働きについて非常に簡単に考えることができるということである。
自分のライブラリー以外から予示するカードはなぜ1枚だけ存在するんですか? たとえば手札から予示するとかはできませんか?
デザインの時点では、他の領域からの予示も検討していた。プレイテストの結果、もっとも面白い領域はライブラリーの一番上だということが判ったのだ。その理由を説明しよう。候補となる領域は、手札、墓地、戦場、追放領域、ライブラリーの中、ライブラリーの一番上だ(理論上は、他のプレイヤーのそれらの領域も候補にできる。そうした場合、対戦相手のカードを戦場の自分の側に隠すということになるが、黒枠のカードでは自分のカードを取られて見えないような状況が起こらないようにしている)。
それではこの選択肢について順に見ていこう。
手札
この領域には驚きはない(無作為に選ぶとすると非常に苛立つことになる)。そしてクリーチャーを選んで予示させるということができるようになる。そうなると、予示メカニズムの謎の部分が失われてしまうことになる。また、この領域のカードのマナ・コストは比較的高いので、非常に強力になってしまう。
墓地
この場合、予示の魅力的な部分である謎要素が失われることになる。墓地は公開領域であり、予示したカードが何であるかは一目瞭然となる。墓地から予示するカードは1枚存在するが、そのカードは予示クリーチャーが何であるか隠すために手順を踏んでいることに注目してほしい。
戦場
この領域は驚きも存在せず、コンセプト的にも奇妙なことになる。おそらくクリーチャーでないパーマネントをクリーチャーにするのがメインになってしまうことだろう。
追放領域
追放領域は、ものを送ってもう戻さないという領域である。他のカードやそのカード自身を追放して戻すというカードも存在するが、追放したのと違うカードによって戻すようなことはできないようにしたいと考えている。特に、そのカード自身の効果によって追放されたカードを戻せるようであれば、壊れた相互作用がまず確実に発生することになる。
ライブラリーの中
この領域は教示者のように働くことになり、やはり謎要素が一部失われてしまう。また、手札と同様、この領域から選んだカードはほとんどがクリーチャーになることになる。それに、切り直しも必要になってしまう。
ライブラリーの一番上
この領域にはほとんどの場合驚きがあり、プレイヤーがそれほど操作できない(デッキを操作する手段があればわずかながら可能ではある)。
これらの領域に、将来予示が帰ってきたときにも手をつけないということではないが、初登場の今回に関しては、ライブラリーからの予示が最も簡単で最適だと感じたのだ。
《恐ろしい徴兵》 アート:YW Tang |
予示にはイカサマの余地がないのに、ゲーム終了時に予示カードを公開しなければならないのはなぜ?
ゲーム・デザインにおいて重要なことのひとつが、一貫性である。その理由は次の通り。ゲーム中、プレイヤーには必要な情報を覚えておいてもらいたいものだが、人間の脳には限界があり、覚えておくことは非常に多いのだ。そのため、ゲーム・デザイナーは「まとめる」と呼ばれる脳の働きを利用することになる。
基本的に、「まとめる」とは、何らかの関連性を持つ様々なものを1つのものであるかのように脳が扱う、ということである。電話番号は、単に10~11桁の数字を羅列するのではなく、市外局番、市内局番、4桁の加入者番号の3つのグループに分けて書くものである。
ゲームをプレイしやすくする方法の1つが、プレイヤーがまとめやすくなるよう、ゲームを節に分けて組織化するということである。このために、ゲーム内のよく似た要素を同じように働くようにするという手段が執られる。我々は例えばルールに関してこれをおこなっている。上記の通り、変異と予示はどちらもスタックを使わない。これは裏向きのカードを表向きにする方法に一貫性を持たせることによっておこなわれるのだ。
変異のおかげで、マジックには裏向きカードが戦場を離れるかゲームが終わった時に起こることを定めるルールがある。それを公開せよ、だ。予示を作るにあたって、我々には2つの選択肢があった。予示で裏向きにしたカードは変異と違うように動くのか、それとも同じように動くのかである。同じように動くようにすることで、その裏向きクリーチャーが変異によるものか予示によるものかを覚えておく必要がなくなるので、非常に簡単になる。単に公開すればいいのだ。
そう、競技マジックでは裏向きのカードがそれぞれどうやって裏向きになったかを明瞭にする必要がある。しかし、そうして詳細に気を配るのは、カジュアル・プレイの多くには適用されない。ルールの一貫性のおかげで、意識したくないプレイヤーは意識しなくてもよくなっているのだ。
オーラになるエンチャント3つ(《雲変化》《光変化》《憤怒変化》)は何が起こっているんですか?
最初の版は、デザイン・チームが予示クリーチャーを変更する新しい方法を探しているときにできたものだと思う。早いうちに、我々は+1/+1カウンターを用いる技術を仕上げた。後の大きな問題は、常磐木キーワード能力を与える方法があるかどうかだったのだ。
速攻以外のクリーチャー・キーワードには記憶の問題がつきまとう。複数の予示クリーチャーを戦場に並べることはよくあることなので、「これは飛行持ち、これは飛行を持っていない」というようなことを何の道具も使わずに覚えておくようにするのは特にまずいことだった。
そこで、我々は次にクリーチャー・オーラを用いるという構想にたどり着いた。そのオーラが予示し、そしてそのクリーチャーにつくとしたらどうだろう? 我々はこれを試してみて、実際面白かったのだが、小さな問題が1つあった。ルール上不可能なのだ。オーラは唱える時に対象を取らねばならないが、その呪文の解決時まではその予示されたクリーチャーは存在しないのだ。結局、ルール・マネージャーのマット・タバック/Matt Tabakの助けを得て、解決策が見つけられた。そのカードをエンチャントにして、戦場に出たときにオーラに変化するようにすればいいのだ。これは多少不自然だが、カードは充分うまく動いたので、この不自然さを受け入れるだけの価値があると判断したのだった。
3枚だけにしたのは、ジェスカイの色のサイクルにすると決めたからである。予示は果敢と特に相性がよく、このサイクルは相応しいと思えたのだ。
なぜ2/2なんですか? 変異が2/2です。なぜ違う値にしなかったのですか?
それ以外不可能だった、そしてそれ以外を望まなかったからである。
不可能だったというのは、ルール上、裏向きのクリーチャーが何であるのかは定義されており、定義は一貫していなければならないからである。これは何年も前、ルール・チームが《Illusionary Mask》や《Camouflage》といったカードをきちんと動くようにしたのが原因である。ルール・チームは、ルールによって裏向きのカードの特性を定めるということが重要だと認識したのだ。このことに関して私は、1/1でなく2/2にすべきだと説得するという役割を果たしていた。
望まなかったというのは、裏向きのカードごとに異なるパワー/タフネスを持たせることは(+1/+1カウンターやオーラといった道具を使わない限り)扱うのが非常に困難になるからである。この種の取り扱い上の問題については、トークンを統一するために多大な時間を費やしてきた経験があるのだ。
予示について開発部内で反対意見はありましたか?
あったとも。我々が初めてこのメカニズムを提示したとき、多くの疑念の声が上がったものだ。そして、「デヴァイン」(デザインがファイルを管理するがデベロップもフィードバックを出すために会議を始める時期)の際に、デベロップからのメモを踏まえて、我々はこの能力にクリーチャーを表向きにする機能を加え、このメカニズムをさらに複雑なものにした。この複雑さに関して、このメカニズムにそれだけの価値があるのかという多くの疑問が呈された。我々の答えは、ただ「プレイしてみろ。ああ、これは確かに複雑だ、そして実装上の問題もある、でも面白いんだ。本当に面白いんだ。プレイしてみろ」というだけだった。
『運命再編』のデベロップ・チームはデベロップの開始時には懐疑的だったが、リード・デベロッパーのデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは予示を信じ、そしてチームにプレイしてみるように促した。チームはプレイし、そして非常に面白いと理解したのだ。この手順の間に、「予示はセットに加えるだけの価値があるのか」という指摘は何度もおこなわれたが、答えは一貫して「ある」だった。
つまり、反対意見は大量にあったのだ。
なぜ変異じゃなかったんですか?
このブロック計画において重要な点の1つが、現在/過去/もう1つの現在という構想を仕上げることだった。そのために、この旅のメカニズム的バックボーンとなるメカニズムがあることは重要だった。そこにも現在/過去/もう1つの現在が必要だったのだ。
変異をこのメカニズムとするために、過去において何か根本的に異なることをしなければならないとわかっていた。変異を採録するだけでは充分ではないと感じたのだ。ここで、我々が「変異の源」を掘り下げるにあたって、我々は変異のバリエーションも試していたが、そのどれも予示のようにうまく必要性を満たさなかったのだということを添えておこう。
予示は変異より複雑だと思います。本当に「元となった」バージョンなんですか?
予示が複雑に思えるのは、それが新しいからだろう。変異と予示が逆の順番で登場していたら、変異は、現在予示が変異の派生物に見えている以上に、予示の派生物に見えたに違いない。時系列的にこの順番で登場したので、この質問のような感覚が生まれたのだろう。
予示・上敷き用カード アート:Raymond Swanland |
予示のフレイバーについて私が気に入っているのは、変異ではないこの魔法が元になって変異ができるという部分である。予示は別の目的で作られたものだが、人類はその秘匿性に目を付け、そしてその魔法を変化させて味方の軍勢を敵から区別できなくするために使ったのだ。
変異を知らず、予示を先に知ったと想像してみてほしい。変異が登場したとき、それは予示のうちクリーチャー部分だけを取り出し、クリーチャーにその能力を与えたものに見えることだろう。時々クリーチャーが当たるのではなく、このメカニズムがクリーチャーにだけあるとしたら?
変異クリーチャーを予示したらどうなりますか?
変異能力は、そのカードを、裏向きの2/2として{3}で唱えられるようにすると同時に、そのクリーチャーを表向きにするという能力も持つ。この2つめの能力は、そのカードが戦場においてどういう方法で裏になったかには関係なく働く。つまり、もし変異カードを予示で裏向きに出したら、そのカードは変異コストか、クリーチャーであればマナ・コストで表向きにすることができる。どちらのコストでも問題ない。
なぜ予示はライブラリーの一番下でなく一番上からするんですか?
最大の理由は、ライブラリーの一番上を操作できる方法のほうがずっと多いからである。マジックの奥深さはカードの相互作用から来ているので、カード間にシナジーができるような選択が作れるならその選択を取ることが多い(常ではない、というのはシナジーがあることによってパワーレベルの問題が生じることがあるからである)。
予示がウギンの魔法を表すと決まったのはいつですか?
時間旅行のブロック構造は、世界がどのようなものかという個別の選択より前に決まっていた。予示(最初は採用と呼ばれていた)が作られたのも、ウギンがセットに入ることが決まるよりもずっと前である。ドラゴンを絶滅させた大将軍たちの世界ということが決まると、そこがサルカンの世界だということになり、サルカンの物語の重要な登場人物であるウギンが登場することになったのだ。
《魂の召喚》「ウギンの運命」ブースター版 アート: Johann Bodin |
このブロックの裏向き要素を物語の中核と結びつけたかったので、後半の中心になるのが龍だと決まった時点で龍詞魔法と結びつけることになった。その後で、龍の中の主役がウギンであるということが決まったのだ。つまりこの質問への答えは、「ウギンが物語に登場することが決まった時点」ということになる。
両面カードを予示したらどうなりますか?
マジックに存在するあらゆるものの中で、最も予示で扱いにくいのが両面カードだろう。両面カードをどうすれば「裏向き」にできるのか? 両面カードはライブラリーの中で「裏向き」に存在しているので、これはありとあらゆる議論の対象となった。実際にプレイするまで、対戦相手には両面カードのどちらの面もわからないのだ。予示はこれを活かせるだろうか?
マット・タバックがこの問題にかなりの時間を費やしたことは知っている。彼はよく私に、セットに入ってもいない相互作用のためにどれだけ時間をかけたことか、と冗談を言っていた。最終的に、マットは、ライブラリーにある間、カードには未知の面が存在するのだから、両面カードはその性質を公開することなくライブラリーの一番上から予示することができる、という考えに落ち着いた。ある日彼は言ってきたものだ、「どうだい? この、3面カードの出来は」と。
予示されたとおり
今日はここまで。予示メカニズムに関する様々な疑問に答えることができていれば幸いである。諸君が予示をプレイし、そして予示が面白くてセットに入れる価値があるということに同意してくれることを願っている。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、我々の指導者に諸君を引き合わせる日にお会いしよう。
その日まで、あなたが多くのクリーチャーを予示しますように。
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