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Making Magic -マジック開発秘話-
デザイン演説2014
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年8月18日
私の記事を読み慣れていない諸君のために説明すると、今回の記事は毎年私が書いている「デザイン演説」というものである。これはアメリカ合衆国の大統領が毎年おこなっている、アメリカの現在についての所見を述べる演説に倣ったものだ。私の場合、年ごとに、その前の年のデザインを総覧し、何が成功して何が失敗したかという感想を語り、マジックのデザインのあり方について論じる記事を書く、ということになる。毎年、私は翌年に関して3つの目標を掲げ、そして前年の3つの目標を総覧してその成否を問うている。今回が10回目のデザイン演説となる(思えば遠くに来たものだ)。以下に、これまでの9作の記事を紹介しておこう。(編訳注:2009年までは英語のみ)
私は毎回最初に同じ質問をしている。「マジックのデザインにおいて、去年はどんな年だったか?」 昨年に関して答えるなら、よかったが、素晴らしいとは言えない、だ。現時点で、『テーロス』はマジック史上最も売り上げのいいセットであり、『テーロス』ブロックに関する多くの肯定的な反応が届いている。さらに、この12ヶ月間に我々が作った他のマジックの商品も、プレイヤー諸君はとても好意的に見てくれている。ただし、だからと言ってこの1年が完璧だったということにはならない。多くの点では正しい選択をしているが、いくつかの失敗もしている。マジックのデザインにおける私の目標は常に進歩し続けることであり、各年をその前年よりも良くすることである。いくつかの意味では、これは達成できていると思う。しかし、また別の面においては、達成できていない。その全てについて、これから説明していこう。
伝統的に、この記事はまず正しい選択をしたことについて論じる。
2013/2014年のハイライト
トップダウン・デザインで成功した
『テーロス』のデザインを始めたとき、私の意識には『イニストラード』があった。『イニストラード』でのトップダウン・デザインの出来映えには満足していたが、同様に芳醇なトップダウン・デザインをもういちどできるかどうかには少しばかり不安があった。また、ギリシャ神話はゴシックホラーよりもずっと複雑だ。ホラーというジャンルに関する人々の経験は映画やテレビから来ており、プレイヤーの持っている世界観は共通のものだった。ギリシャ神話に関しては、経験は本から来ていることが多く、本というメディアは読者によって世界の理解が違ってくるものである。つまり、人によって期待しているものが違うことがありえるのだ。
また、マスメディアでゾンビや吸血鬼を見れば、その動きは理解できるが、ギリシャ神話ではそうはいかない。ゾンビの群れがどう動くかは誰もが知っているが、ケンタウルスの生態はそれほど明確ではないのだ。
《蘇りしケンタウルス》 アート:Lucas Graciano |
これはつまり、今回は違う手法でトップダウン・デザインをしなければならないということである。非常に喜ばしいことに、我々はこれに成功したと言えると思う。神々は大成功だった。フレイバーに富んだメカニズムもほとんどは成功だった。神話を連想させる個別カードも非常に評判が良かった。様々な期待がある中で、我々はそれらのテーマを推し進めるようなプレイとなるセットで、そのほとんどを達成したのだ。
メカニズムを再生した
今年我々が達成した中でもっとも重要なことの1つが、かつて失敗したメカニズムを取り上げ、そして新しい装いとともに取り入れたということである。もちろん、そのメカニズムとは信心(『イーヴンタイド』の彩色を元にしている)であり、大成功を収めた。私がこれを重要だと考えていることは、この年の目標として指定したことでも明らかだ。マジックのデザインは限りある資源であり、マジックを永遠に残るものにするためには、デザイン空間を食いつぶす速度に注意する必要があるのだ。
この問題にはいくつもの解決策が考えられるが、その中で重要なものの1つに、いったん使ったメカニズムを再評価する能力を持つ、ということが挙げられる。良い発想がうまく使われなかったのであれば、それを見つけ出して新しい生命を吹き込むことができなければならないのだ。私は私が信じていたメカニズム、つまり、最初に世に出て受けた反応よりも多くの可能性があるとわかっているメカニズムから始めた。とはいえ、この実験で失敗すれば、これを頻繁におこなうという計画を練り直す必要が出てきていたので、成功したことは非常に喜ばしいことである。
完全に新しいフォーマットを見付けた
我々にとって、常に新しいことに挑戦し続けることは重要である。しかし、我々が作った全ての商品が大成功を収めるわけではない。従って、我々が大成功したなら、それは祝うべきことである。ショーン・メイン/Shawn Mainは、ドラフトして多人数戦をするための、そしてドラフトに影響を及ぼすリミテッド用商品という非常に突飛な商品の構想を持っていた。ショーンが初めてこの構想を売り込んできたとき、普通じゃないように感じた。そして開発部は強く確信していたが、社内には疑問視する声が多かったのだ。
そして、『コンスピラシー』は大々成功を収めた。永遠にこのような商品をプレイすることはないだろうと思われていたプレイヤーからさえ、多くの好評を受けたのだ。私は、マジックが常に進化し続けることが好きで、『コンスピラシー』はまだまだ素晴らしいアイデアが眠っていることを示す完璧な一例である。
アート:Michael Komarck |
おめでとう、ショーン(と彼の率いるデザイン・チーム、それにデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysと彼の率いるデベロップ・チーム)。君たちは素晴らしい仕事をしたのだ。
こうして昨年、多くのことは成功を収めたが、これほど巧く行かなかったこともいくつか存在した。
2013/2014年の教訓
『神々の軍勢』でしくじった
マジックのデザインにおける難関は、第3セットである。とにかく難しいのだ。8ヶ月前に始まったブロックに新鮮さをもたらすだけの変化が必要で、しかし離れすぎれば関係ないものに思われてしまう。もちろん、『エルドラージ覚醒』や『アヴァシンの帰還』といったセットを見るだけで、第3セットを確立させるためにどれだけのことが必要だったかはわかるだろう。
しかしちょっと待って欲しい。『神々の軍勢』は第2セットではないか? その通り。第3セットを成立させることに専念していた私は、第2セットを早々に終わらせてしまったのだ。我々は第3セットを成功させたが、その代価として第2セットを犠牲にしていたということに気がついたのだった。
この失敗は『神々の軍勢』のリード・デザイナーを務めたケン・ネーグル/Ken Nagleのせいではないということを先に言っておく。これは、主席デザイナーである私の責任である。成功を目指し、どうするかを定めるのは私であり、第2セットに足りないものは第3セットのために温存したからである。これは次の教訓にも繋がってくる。
エンチャント関連の扱いを誤った
プレイヤーはエンチャント・ブロックを長年待ち望んでいた。我々はようやくそれを提示したが、そうするにあたってプレイヤーが期待していたあるものを除いていた。エンチャント・ブロックに臨まれているものは、プレイヤーがエンチャントばかりのデッキを組めるようにするものだということはわかっていたのだ。アーティファクトで、墓地で、部族で、これまで作ってきたものだ。そして、今回のブロックでエンチャントに焦点を当てるというのに、プレイヤーが組みたいと夢見ていたデッキを組めるようにはしなかったのだ。
《樫心のドライアド》 アート:Johann Bodin |
ブロック全体で見た時に、エンチャントばかりのデッキが作れないわけではない。作れる。しかし、それは遅すぎたのだ。第3セットのために何かを温存しなければならなくて、「エンチャント関連」はそれに相応しいと思われたのだ。初期に扱う必要はなく、そして一旦使ったなら全てをつなぎ合わせてくれる。紙の上では完璧だった。問題はただ1つ、デザインは展望を実行すればいいというわけではなく、期待に応えなければならないのだ。
ギリシャ神話を元にしたブロックという面ではプレイヤーの期待に応えることができたと思うが、少なくともブロック全体の3分の2の期間は、エンチャント・ブロックという意味でプレイヤーが期待したものを提供することはできなかった。私は早いうちから、その期待はしないようにというメッセージを送ってきたが、しかしそれは人間の本能に反するものだった。そして、いつも言っているとおり、本能との戦いに勝ち目はないのだ。テーマを再訪する時は何か違うことができるものだが、初めてそのテーマを使う時には、あたりまえの期待に応える必要があるのだ。
振り返ってみると、私は『ニクスへの旅』には別の魅力を与える必要があった。「エンチャント関連」はブロック全体で扱うべきことだった。『テーロス』では使わずに温存してもよかったかもしれないが、それでも『神々の軍勢』では扱うべきだったのだ。プレイヤーが最初に手にできると期待していたものを8ヶ月もお預けにした(しかもいつそれが手に入るか判らない状態で)ということだ。
怪物化をブロック全体で使うべきだった
ブロックにおける問題の1つが、導入した全てを使いたい、その一方で各セットで新しいことをしたい、という矛盾である。私は『テーロス』ブロックで、ただ追加するだけでなく取り除くことにも尽力した。振り返ってみると、怪物化の扱いは間違っていた。本来の計画では、怪物化を第1セットで、貢納を第2セットで、そして「+1/+1関連」のメカニズムを第3セットで導入するということになっていた。これは巧く行かなかったので、最終的には怪物化を再び投入することになったのだ。
完全に後知恵だが、貢納を入れるべきではなかった。貢納はまた別の機会のために温存し、そして怪物化を使い続けるべきだった。そうなると『神々の軍勢』での新しいメカニズムは神啓だけとなるが、それで問題ないと私は考えている(特に、それがデッキの軸になるようにデザインされていればなおのことだ)。怪物化には多大なデザイン空間が残されており、しかも非常に芳醇だったのだ。
3つめ、目標
さて、この1年間のよかったところと悪かったところを示してきたので、今度はこの1年の目標を振り返り、その評価をする番である。これらの目標における成功は意図に基づくものではない。なぜなら、私が目標を定めたときには、その意図は判っているからである。成功かどうかを判断するのは、プレイヤーの声である。諸君が示されたものを気に入ったかどうか、我々の成果を見ていこう。見ていけば判るとおり、これらの目標は本年の長所短所と関連している。
2014年度目標#1:トップダウン・デザインの方法を理解していることを示す
私のブログで常に人気の話題は、現実世界の流行の中で何が良いトップダウン・デザインを作るか、である。この話題は、プレイヤーがトップダウン・デザインに示している反応の象徴だと感じている。「もっとやるべきか?」という質問ではなく、「なにをやるべきか?」というものであり、そのことは『イニストラード』『テーロス』の両ブロックがプレイヤーに受け入れられたことを教えてくれていると思う。
ただし、別の基準で評価してみたい。プレイヤー諸氏からの反響は何を示しているのかというと、神々、特に単色の神々の評価が非常に高かったということである。ギリシャ神話の色の濃いカード(《岩への繋ぎ止め》《死の国からの救出》など)の評価も高かった。特に『テーロス』において、フレイバーとの関連性の高いメカニズムも評価が高かったのだ。
最大の不満は、カードを作る上で扱わなかった部分についてのものだった。ヘラクレスはどこだ? 黄金の羊毛は? 迷宮に住むミノタウルスは? とはいえ、全体としては、期待されていたギリシャ神話の話のほとんどを取り上げたことに満足していたようだった。私はこの目的について、成功と評価したい。
《岩への繋ぎ止め》 アート:Aaron Miller |
2014年度目標#2:エンチャント・ブロックを作れることを示す
この目標の成否は少しばかり曖昧だ。私は、クリーチャー・エンチャントでいい仕事をしたと感じている。自然な形で導入し、そして独特のプレイ環境を作る助けになった。授与は想像よりも少しばかり複雑だったが、プレイヤーはそのメカニズムを気に入ってくれたのだ。
プレイヤーが気に入っていなかったのは、最初の2つのセットに全体エンチャントが存在しなかったことだ。そして上でも述べたとおり、「エンチャント関連」のカードが『テーロス』にも『神々の軍勢』にもなかったことはプレイヤーにとって本当に残念だったのだ。
言い訳をさせてもらえば、これが2つめのエンチャント・ブロックであり、すぐに手の届くところにあるものは1つめのエンチャント・ブロックで使い尽くしていたと思っていた。実際は、真のエンチャント・ブロックと呼べるのはこれが1つめで(つまり、『ウルザズ・サーガ』ブロックは数に入れないということだ)、手の届くところにあるものを第3セットまで温存した結果、少なくとも初期には、可能な限りプレイヤーの期待に応えたとは言えない結果になったのだ。この目標については、半々としておこう。
2014年度目標#3:メカニズムに再び生命を吹き込めることを示す
どちらかと言えば、信心については成功しすぎたと言える。デベロップはこれが本当に楽しいと思って推した結果、このメカニズムはスタンダードでもっとも影響力を持つ『テーロス』のメカニズムになった。信心についての反応は非常に肯定的なものだった(スタンダードをねじ曲げてしまうまでは)。しかし、この記事はデベロップではなくデザインの話なので、最初の反応について注目していくことにしよう。
《アスフォデルの灰色商人》 アート:Robbie Trevino |
ところで、ここで私が経験から得た教訓を紹介しよう。
- フレイバーは鍵である ― 彩色はフレイバー的でない単語だったが、信心はそうではない。信心は、彩色には存在しなかったメカニズムの情緒性をもたらしているのだ。
- 焦点は重要である ― 彩色はどこででも働いたが、信心は戦場にあるパーマネントだけに注目している。こうして焦点を絞ることで、何を意識すればいいのかが明白になり、デッキの作成が非常に単純になる。つまり、マナ・シンボルの多いパーマネントをデッキに入れればいい、単色に絞ればいいのだ。
- 実装が肝要である ― エリック・ラウアー/Erik Lauerは彩色の失敗の最大の理由の1つ、「どのカードも強くなかった」ということを意識していた。我々はデベロップとともに、推せるようなカードを作ることに尽力していた。
この目標が大成功だったのは明らかだ。
つまり、3つ中の2つ半は成功だった。かなりいい結果である。それでは来年の目標を見ていこう。
2015年度目標#1:過剰な複雑さをもたらすことなく量を扱えることを証明する
『タルキール覇王譚』ブロックはやることが多い。本当に多い。ブロック構造はこれまで取り組んだ中でも最も難関の1つである。このセットではこれまでのメカニズムの中でもっとも複雑なものの1つ、変異が帰ってくる。『タルキール覇王譚』には5つの、独特で様々な3色の「楔」のグループが存在し、それぞれが独自のメカニズムを持っている。我々は「新世界秩序」を守りながら、同時にメカニズムを物語と深く関連づけていく。そしてこれは『タルキール覇王譚』ブロックの第1セットなのだ。
1つめの目標は、我々が取り組む全てを、プレイヤーを混乱させることなく達成することである。テーマを一貫させることができるか、メカニズムはこちらの狙い通りに相互作用するか、全体として芳醇にできているかどうか。
アート:Jason Chan |
私はできると信じているのでこの目標に関しては楽観的だが、これまでの中で最も流動的なもの「新世界秩序」ブロックである。この目標は基本的に、「プレイヤーを大きく混乱させることなく、全てをやり通すことができるか?」ということになる。
2015年度目標#2:現在のブロック様式が働くことを示す
このブロックの3つのセットは複雑なメカニズムの網を通して繋がっている。まだ現時点ではその意味について説明することはできないが、このブロックが進んで行くにつれて諸君自身が見付けることができるだろう。あらゆるメカニズム的断片がこれほどまでに関連していたことはない。この目標は全てのメカニズムの間の繋がりを見て、そして「この実装は理想的だったか?」とというというものになる。我々はクールなブロック構造を持っている。うまく行っただろうか?
2015年度目標#3:『Dewey』をうまく実行する
2年前、『ラヴニカへの回帰』ブロックで問題のセットが『ドラゴンの迷路』の実行だったということについて語った。私の目標の1つは、その実行に関するものだった。私は『タルキール覇王譚』ブロックにおける『Dewey』も同様だと考えている。文字通り、ブロック全体の要となるセットである。異なる大型セットに繋がる異なる小型セットを作ることはできるだろうか? 『タルキール覇王譚』と組み合わせてうまくドラフトでき、そして、後に、『Louie』と組み合わせてもまた違う形でうまくドラフトできるだろうか?
『ドラゴンの迷路』はその実行上の目標を達成できなかった。『Dewey』はうまくやれるだろうか? 2つのそれぞれ大きく異なる大型セットとうまくやっていける独自性を持つセットを作れるだろうか? この目標で計るのはそこである。
そして今年はこうだった
私の「デザイン演説」記事は内省的なものであり、従って諸君が昨年のデザインについてどう考えているかを非常に聞きたいと思っている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、諸君すべてが話題にすることになる記事でお会いしよう。
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