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Making Magic -マジック開発秘話-
基本の日々 その1
基本の日々 その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年6月23日
『基本セット2015』プレビュー第1週にようこそ。今週と来週で、最新基本セットのデザインについて見ていこう。その中で、デザイン・チームの紹介や新しいプレビュー・カードのお披露目もしていく。やることは大量にあるので、さっそく始めるとしよう。
この先デザイン
まずは『基本セット2015』を作り上げたデザイン・チームを紹介しよう。
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe (リード・デザイナー)
マジック開発部の上席ディレクターとして、アーロンはマジック開発部の他のメンバーが仕事上必要とするリソースを確保することに忙しい。それでも彼は時折デザインやデベロップに加わって汗を流すのが好きなのだ。彼は毎年プロジェクト1つに関わるぐらいしか時間を取れないのが通例で、今年は基本セットのデザインでリーダーを務めることを選んだ。『基本セット2010』での基本セットの再構成(新カードが基本セットに加えられたセットである)はアーロンのアイデアによるもので、基本セットは彼のお気に入りなのだ。
アーロンのウィザーズでの来歴を知らない諸君のために書いておくと、彼は最初はDailyMTG.comの立ち上げにあたり、それを運営するために雇われた(当時はmagicthegathering.comという呼び名だった)。その後、舞台裏に関する記事を書いてもらうため、我々は彼を『フィフス・ドーン』のデザイン・チームに招いたが、彼があまりに素晴らしい働きをしたので、我々は彼を開発部に招いたのだった。アーロンはそれからデザイナーとして働き、やがて主席デベロッパーの席に着くことになる。それからそう時を置かず、ディレクター職が空席になったので、アーロンは現在の職責であるその席に着くことになったのだ。
アーロンはディレクターとして素晴らしい仕事をしているが、私はデザイナーとしての彼と一緒に働いた日々のことを懐かしく思っている。しかし、彼は今でも『基本セット2015』などの商品に時折参加しており、腕が衰えていないことを私は嬉しく思っている。
マックス・マッコール/Max McCall
私にとって、マックスといえばまずは2度のグレート・デザイナー・サーチの2000人以上の参加者の中で唯一、選択し問題でパーフェクトをたたき出した人物ということが浮かぶ。マックスは『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』や『Magic Online』などのマジックのデジタル・プロダクトに何年も関わってきた。デジタル部にはよくあることだが、マックスは時折アナログ(「紙の」)プロジェクトに関わる機会を得ることを楽しんでいて、『基本セット2015』に関われることにとても興奮していた。マックスは何がゲームを魅力的にするかについて非常に鋭い洞察を持っており、デジタル側で用いていたのと同じ注意力を『基本セット2015』のデザインにもたらしてくれた。マックスは他のゲームで働くためにウィザーズを辞めた。寂しい限りだ。
ショーン・メイン/Shawn Main
ショーンは『基本セット2015』のデザイン・チームで働いていた中核デザイナーである。ショーンはウィザーズ勤務3周年を迎えたばかりで、『コンスピラシー』などを見ると彼が好調だとはっきりわかる。私は、ショーンが第2回グレート・デザイナー・サーチで準優勝したとき、彼には多大な可能性があると強く信じていて、そしてその可能性が実を結ぶのを見ているのは楽しかった。ショーンの作ってきたものにはクールなものが大量にあり、諸君らにとっての未来において私は多くの記事を書くことになるだろう。『基本セット2015』は彼の才能を示す一例であり、彼は例に漏れず素晴らしい仕事をしたのだ。
ジェンナ・ヘランド/Jenna Helland
ジェンナについて書くとき、私はまず彼女がなぜクリエイティブ・チームの代理人となったのか、そしてすばらしいデザイン・チームのメンバーとして結果を残すことになったのかという話をする。この話は、ジェンナはどんなデザイン・チームに迎えてもすごい戦力になるということを誰もが理解するよりもずっと前にだけ有効だった。彼女はクリエイティブ的な要素について深い知識を持っているだけでなく、本当に芳醇なカードをデザインする才能に溢れている。その才能は、全体としての物語性に欠けるとともにカード個別の芳醇さに勝る基本セットでは特に有用だった。だから、今回、ジェンナはデザイン・チームの一員として、いつも通り、期待される通りの、すばらしい仕事をした、というだけにしておこう。
マイク・ギルス/Mike Gills
ほとんどのデザイン・チームには、「5人目枠」と言う枠が存在する。この枠は、マジック関連で長年働いてきた中で、まだデザイン・チームやデベロップ・チームに参加したことのない人のための枠である。「5人目枠」の背後にあるのは、そうすることでデザインに新しい血が流れ、そしてデザイン・チームに今までなかった視点をもたらしてくれるだろうという考えである。マイクは組織化プレイで長年働いてきて、長年「5人目枠」候補の短いリストに名前を連ねていた。私は、ようやくマイクをデザイン・チームに迎えられたこと、そして彼が素晴らしい仕事をしてくれたことを嬉しく思っている。マックス同様、マイクも彼の技術を他の場所で活かすために社を離れてしまった。
プレビューの時間
さて、デザイン・チームの紹介が終わったところで、プレビュー・カードをお披露目しよう。私のお気に入りのメカニズムの再録と、私のお気に入りの能力の組み合わせだ。(さあ、私のプレビュー・カードは何か判るかね?)
このカードについて話すべきことは色々とあるが、まずは召集の再録の話をしよう。召集は『ラヴニカ』のデザイン時、デザイン・チームの一員だったリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldの手によって作られたものだ。彼はこれを「生き物唱え」と呼び、ボロス(赤白)のためにデザインしていた。軍隊が全体として動くイメージで作ったのだ。私はボロスでもいいと思ったが、それ以上にセレズニア(緑白)のメカニズムとして相応しいと感じた。その理由として、次のようなものがある。
まず、ボロスは最もアグレッシブなギルドにしたかったので、呪文を唱えるためにクリーチャーをタップすることで攻撃する足が止まるのはその目的に反するものだった。一方、セレズニアはより遅い、マナ加速を軸としたデッキである。つまり、大量のクリーチャーを並べ、そして最終的に一気に決めるのだ。巨大クリーチャーを素早く出すという召集はまさにこの種のデッキに必要なものだった。長期的な戦力を整えるために、デッキ内のいくらかをタップして攻撃を諦めるのには何の問題もなかった。
セレズニアがよい選択である理由には、他にもこのメカニズムがクリーチャーを並べることによって有効になるものだということもあった。セレズニアの特徴は、まさに大量のクリーチャーを並べることろにある。緑白のギルドなので、組織と、召集が表す協力して戦うクリーチャーの力には密接な関連がある。召集はまたどのカード・タイプにもつけられて、大量に入れても食い合わないという点でも素晴らしかった。
召集はいくつもの役割を果たしていた。タップアウトしていても軽い紀州呪文をプレイすることができたし、巨大クリーチャーを通常よりもずっと軽く戦場に出すこともできた。また、強力な呪文を使うためにクリーチャーを全て使うこともできたのだ。
実際、『ラヴニカ』のデザイン時に召集は非常にうまく働いたので、いつか再録できるということはわかっていた。明瞭で、文章も少なく、巧く働き、そしてクリーチャーをマナに帰るという独特なことをしていたのだ。後の問題は、いったいどんな環境でなら召集を戻すことできるのか、だった。
『基本セット2011』の時。アーロンは基本セットの意味を塗り替える『基本セット2010』を組み上げたばかりだった。『基本セット2011』のリード・デザイナーとして最初にやったのは、基本セットに加えられる、去年やらなかったことはないか考えることだった。そのとき、メカニズムの再録という発想が浮かんできた。知っての通り、開発部は古いメカニズムを使うよりも新しいクールなメカニズムを作るほうが早いということを知っていた。つまり、我々はいつか再利用したいと思っていても枠が足りないため、クールなメカニズムが溜まっていったのだ(ちなみに、これはもう1つ、なぜ我々が『テーロス』ブロックのように複数のメカニズムを再録しているのか、の答えでもある)。基本セットがマジックの過去に存在した、出来がよくて単純なメカニズムを使うとしたらどうだろう?
ただ魅力的なだけではなく、これは基本セット同士をどう差別化するかという別の問題も解決してくれる。基本セットがクールなカードで特徴付けられるとしたら、全体としての雰囲気を作り出すのは難しい。ここに単純なメカニズムを導入することで、デザイン・チームはリミテッドの軸となるものを作ることができる。アーロン率いるチームは、再録メカニズムの候補一覧を作った。そのリストの一番上に書かれていたのは、単純で理解しやすいが新しいプレイ・パターンをもたらすメカニズム、新しい基本セットの色づけとして働くものだった。その一覧の一番上付近にあったのが召集である。こうして、基本セットに召集が入るのは決まった。あとは、それがいつになるかだけだったのだ。
《戦列への復帰》の能力に関しては、これとはまた異なるが、同じくらいに面白い話がある。白は、対処法の一番多い色である。白は構造の色なので、先を見て、何が起ころうと対処できる方法が武器庫にあるようにするのだ。これが組織力の強みである。
それとひきかえに、我々は白をカードを引くことが苦手な色にした。白がカードを簡単に引けるようであれば、いつでも対抗手段を手に入れることができるようになってしまう。一方で、白には軍隊の色になって欲しかった。クリーチャーが最も多く、その多くは小さくてお互いに協力するものなのだ(緑もクリーチャーの色だが、こちらは単一の巨大クリーチャーを出す色だ)。小型クリーチャーを並べるデメリットは、すぐに種切れになってしまうという点だった。
小型クリーチャーを大量に並べればカードが尽きてしまう中で、いかにして白に絶え間なく小型の白クリーチャーを出させるか? 一番わかりやすい答えは、白でカードを引けるようにすることだが、前述の通り、他の理由から白にはカードを大量に引かせたくはなかった。鍵は、白に解決策として働く呪文でありうるカードを引かせないようにしたまま、さらに多くの小型の白クリーチャーを出させる方法を見付けることだった。1つめの答えはトークン生成だった。トークンを用いることで、白にカード1枚あたり1体以上の割合で小型クリーチャーを出させることができた。パーマネントでもトークンを生成できたが、トークンだけでは足りなかった。
そこで我々は他の手段がないか探すことになった。『アルファ版』の白に、こんなカードが存在した。
白は、黒ほど効率的ではないが、クリーチャーを墓地から復活させることができる(黒には2マナで使える《動く死体》などのカードが存在していた)。しかし時を経て、墓地からのクリーチャー利用には大量のマナがかかるべきだということがわかってきた。そして今は黒で4マナ〜5マナで、アンコモン以上にだけ存在するものであり、白に入れる余裕はなくなっていた。
そこで、我々が気付いたのは、元々軽くて小さいカードが多い白には、墓地から大型クリーチャーを戻す必要はないということだった。白が小型クリーチャーだけを墓地から戻せるとしたらどうなる? 白に手に入れさせたくないものを与えないまま、白の軍勢を復活させることができる。パワーが低いもの、点数で見たマナ・コストが低いもの、それぞれ行き来して試してみた。最初はよりわかりやすいパワーを見る方向に傾いていたが、パワーは低くても強力でマナの重いクリーチャーは存在し、そしてそれらのクリーチャーを戻せるようにしようと思うとこの呪文のコストを重くする必要が出てきて、このカードでやりたい使い方ができなくなってしまう。
《戦列への復帰》がこれほどクールなデザインになった理由は、両方の性質が白の軍隊というテーマとうまく整合したからである。この呪文は、大量のクリーチャーを出している時だけ、大量のクリーチャーを戻すことができる。これによって、白は小型クリーチャーを大量に並べることが楽になり、そして、弾切れになったときにはゲームの序盤で失われたクリーチャーを戻すためにクリーチャーを使うことができるのだ。また、召集呪文でコストに{X}を含むのは、特に大量のクリーチャーを並べる色では、単純に面白い。
おっともうちょっと
『基本セット2015』では、『基本セット2010』と同じように新しいカードを作り、『基本セット2011』と同じように人気の高いメカニズムを再録している(アーロンがリード・デザイナーを務めた最新2つの基本セットだ)が、アーロンはまだ何か斬新なことを探していた。それまでやったことのない何をセットに加えることができるだろうか?
そのとき、アーロンは閃いたのだった。
アート:Lars Grant-West |
長年にわたり、他のゲーム・デザイナーがどれだけマジックに影響を受けてきているか色々と耳にしていた。マジックはゲーマー向けゲームの世界では巨人であり、この業界でマジックを知らずにいることは難しくなっていた。また、マジックは自由度が非常に高いので、ゲーム・デザイナーのゲーム愛を刺激して魅了するのだ。我々は他の古典的ゲームのデザインにマジックがどれだけ影響しているかという話を耳にしていた(たとえば、かつて話題にしたこともある「Plants vs. Zombies」がそうだ)。基本セットに新たな息吹を吹き込むクールな方法として、マジックのデザインをしたことがない人を探し、彼らにカードを作ってもらう、というものがある。クールなデザインを手に入れられるよう、お願いする人々はマジックをプレイしている有名なゲーム・デザイナーにしよう。
そして、マジックをプレイしていてカードのデザインに興味のある(そして能力と時間のある)ゲーム・デザイナーを探すことは時間のかかる複雑な工程だった。最終的に、カードをデザインできる外部デザイナーを14人見付けたが、14という数は奇妙なものに思えた。幸い、このプロモーションが行われている間に、もう1枚作ることができた。
2002年、私はウェブサイトで実行するちょっとしたプロモーションを思いついた。ウェブサイトを使ってプレイヤーにより直接にマジックに関わってもらうことを目的として、プレイヤーの声をより直接反映させる方法を探していたのだ。私はそのアイデアを「You Make the Card」と呼んでいた。単純な話で、プレイヤーの投票によって様々なことを決め、その結果を最終的に1枚のカードとしてセットに投入するというものだった。最初の「You Make the Card」の結果できたのがこのカードだった。
(デザイン名が《ミスター・ベビーケーキ》だった)《忘れられた古霊》は、『スカージ』で印刷されることになった。その後、第2回、第3回の「You Make the Card」を実行し、《世界のるつぼ》(『フィフス・ドーン』)、《記憶への消失》(『コールドスナップ』)が作られた。「You Make the Card 2」は第1回とほぼ同じ形式で行われ亜ヶ、「You Make the Card 3」は少し変更があった。色やカード・タイプから始めるのではなく、イラストから始めたのだ。イラストを選び、それを元に読者にトップダウン・デザインをさせたのだった。
《記憶への消失》は最終的に大失敗となった(トップダウン・デザインはとても難しい)。そして「You Make the Card」プロモーションはそれで立ち消えになった。「You Make the Card」をやろうとは思ったが、保留のまま何年も過ぎていた。当時のDailyMTG.com 編集長、トリック・ジャレット/Trick Jarrett(トリックは昇進した―ようこそ、ブレイク・ラスムッセン/Blake Rasmussen)は開発部を訪れ、「You Make the Card」を再開したいかと聞いていた。我々は、あまりに長い時間やっていなかったことを認め、第4回のために何をすべきか考えるところから始めることになった。
その途中で、我々はこの2つのプロモーションが同時に行われることに気づいた。そして、この「You Make the Card」で選ばれたカードを『基本セット2015』で印刷できるかと聞いてきた。結局、プレイヤー全員よりも良い外部デザイナーがいるのだろうか?
最初は大胆な予想を立てていたが、そのほとんどは的中した。《忘れられた古霊》は緑のクリーチャーで、《世界のるつぼ》はアーティファクトだ。《記憶への消失》は白青の多色インスタントだった。読者はそれまでに作ったことのないものを作りたいだろうと思った。つまり、黒か赤、そしてエンチャントか土地かソーサリーになるだろうと(しっかりコントロールしなければならず、またコミッティーでデザインするのは非常に難しいプレインズウォーカーは選択肢に入れていなかった)。結果的に諸君が選んだのは、黒のエンチャント、そう、この黒のエンチャントだった。
ほぼ1年かかったが、部分部分、すべてが諸君のデザイン(リンク先は英語)による《無駄省き》は非常にクールなカードになった。
まだ終わりじゃない
『基本セット2015』のデザインについてはまだまだ語り足りないが、誌面が尽きてしまった。幸い、プレビューは2週ある。いつものとおり、今日の記事について、メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で意見や感想を聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2で、『基本セット2015』のデザインについてさらに語る日にお会いしよう。
その日まで、(ウィザーズの内外を問わず)私たちが作るのを楽しんだのと同じぐらい、あなたが『基本セット2015』を楽しめますように。
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