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Making Magic -マジック開発秘話-
コンスピラシーの話
コンスピラシーの話
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年5月19日
『コンスピラシー』特集へようこそ。今週は、まもなく諸君が手に入れることになる新サプリメント商品について話すことになる。これは非常に特殊なセットなので、今日はまずプレビュー・カードを紹介し、それからデザイン・チームを紹介し、そして『コンスピラシー』を例にとってサプリメント商品の成り立ちについて少々話させてもらうことにしよう。『コンスピラシー』のデザインの詳細に興味のある諸君は、このセットのリード・デザイナーを務めたショーン・メイン/Shawn Mainが特集記事を書いてくれるのでそちらを参照してくれたまえ。
さて、それではまず今日のプレビュー・カードをお見せしよう。このセットの雰囲気を正しく掴んでもらうには、何より実際にカードを見てもらうのが一番だろう。
これが〈取引仲介機〉だ。
このカードを見てもわかるとおり、『コンスピラシー』は通常のマジックのエキスパンションではない。なぜそうなったかを説明する前に、まずはこれをデザインした面々を紹介していこう。
ショーン・メイン/Shawn Main
通常、ショーンの話をするときは、彼が第2回グレート・デザイナー・サーチの準優勝だ、というところから話を始める(ああ、今回もそれを枕にしてしまったよ)のだが、今回はショーンがマジック開発部内で果たしている役割の話をしよう。ショーンは素晴らしいデザイナーで、デザイン・チームで素晴らしい働きを見せる。また、彼はデベロップ・チームやデジタル・チーム、先行デザイン・チームにおいても素晴らしい働きを見せてくれる、つまりどのチームでも優秀な人材なのだ。私が彼の監督をしていた頃(今はマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebがデザイン・マネージャーとしてその任に就いている)、ショーンの時間はいつでも足りなかった。何をするチームかに関わらず、あらゆるチームが彼の手を借りたいと言っていたのだ。
ショーンは開発部にルネッサンスをもたらした。彼は任せたことを何でもこなしてくれる。私が彼をはじめてリード・デザイナーにするにあたって、どんな心配があったというのだろう? ただ1つは、彼の第一子のことだった(これについては後で述べる)が、ショーンは準備万端だと示してくれたし、実際に見ればわかるとおり、問題はなかった。『コンスピラシー』は難しくて普通でないデザインだったが、ショーンは場外ホームランをかっ飛ばしてくれたのだ。
ダン・ヘランド/Dan Helland
開発部には様々な仕事がある。長年、デザイナーやデベロッパーは自力でそれを管理してきたが、さらに仕事が増え続けたため、専門の助けが必要になった。ダンは最初、一時的な助力として参加したのだが、彼の能力が欠くべからざるものとなり、フルタイムに昇格することになった。例えば、私は現在あるセット("Blood"だ)の「デヴァイン」期間中で、つまり毎週ファイルを更新し、プレイテストをしなければならない。そこで私がしなければならないのは、ダン宛にメモを残しておくことだけだ。そうすればプレイテスト前には必要なもの全てが準備されているのだ。ダンの助力がどれほど必要か、言い表すことはできないほどだ(ああ、うん、言い表してるけどさ)。
ダンは多人数戦が好きなので、ショーンがデザイン・チームを組むときに声をかけたところ、ダンは熱狂的に参加したいと言ったのだ。ダンは情熱の男で、マジックと多人数戦を愛していて、そして彼が示しているとおり、とても効率の良い人材だ。このチームへの貢献は素晴らしいものとなった。
デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys
デイブは元プロツアー・プレイヤーで、プロツアー殿堂顕彰者として称えられるほどの成績を残している。デイブはデベロップ・マネージャー(デザイン・チームでマーク・ゴットリーブが果たしているのと同じ役割)であり、(『アヴァシンの帰還』『ギルド門侵犯』、"Dewey"(2015年冬セット)など)数多くのセットでリード・デベロッパーを務めてきた。そして、『コンスピラシー』でも。
デイブはマジックに関する深い洞察力を持ち、デザインにおいては当を得た質問を投げかけてくれる。私自身、デイブと数多くのデザイン・チームで同席して、彼と協力して作り上げることを常に楽しんできた。『コンスピラシー』のデベロップは非常な困難が伴うので、デイブをセット全体に関わらせることは非常に有益なことなのだ。
ケン・ネーグル/Ken Nagle
これまでにも彼の経歴を書いてきたが、あと書くべきことはなんだろうか? 彼はもはや私の教え子の、経験の浅いインターンではなく、結婚もしたデザイン・チームの重鎮となっている。ケンはマジックをデザインするのが好きで、変わったフォーマットでプレイするのが好きで、多人数戦が好きなので、『コンスピラシー』はまさにうってつけだ。ケンについて私がもっとも言うべきことは、彼とともに働いてきた年月の間、彼は一度も仕事への情熱を絶やすことなく、奇抜なカードをデザインし続けたということである。そして、幸いにもこのセットは奇抜なセットなのだ。
マット・タバック/Matt Tabak
ショーンは、新しい地に踏み込もうとしているとわかっていた。そうなれば、デザイン・チームにルール・マネージャーを招かない手があろうか? 『コンスピラシー』はそれまでどのセットも扱ったことのないところを扱うことになる。そのためには、まだ誰も知らないことを理解できる人材が必要なのだ。さらに、マット・タバックは実に良いデザイナーなのだ。どういうわけか、ルール・マネージャーは、ルール・マネージャーに頭痛を起こさせるようなカードをデザインすることに長けている。ルール・マネージャーであるマット・タバックと、『コンスピラシー』のマネージャーであるマット・タバックには共通点があるのだ。
舞台裏のささやき
今日の記事の後半は、『コンスピラシー』に関する質問に答えることにしよう。
『コンスピラシー』とは一体何か?
『コンスピラシー』は多人数戦ドラフト用商品である。つまり、ドラフトをしてから多人数戦でプレイするためにデザインされたブースター商品なのだ。想定された遊び方は、8人でドラフトを行い、そのあと4人ずつの無差別戦を行うというものだ。
何が入っているのか?
『コンスピラシー』は新規カード65枚を含む210枚のカードからなる。このセットには3つの新しいメカニズム(廃位、議決、協議)と、1つの新しいカード・タイプ(策略)が存在する。また、新しい伝説のクリーチャーが5体、新しいプレインズウォーカー〈ダク・フェイデン〉が1体存在する。再録されたカードは、多人数戦、キューブ・ドラフト、レガシー、ヴィンテージで人気のあるものが選ばれている。
3つの新しいメカニズムと1つの新しいカード・タイプ?
1つめのメカニズムは「廃位」である。注釈文はこうなっている。(このクリーチャーが最多あるいは最多と同点のライフを持つプレイヤーを攻撃するたび、これの上に+1/ +1カウンターを1個置く。) これの第1色は赤で、第2色は青だ。これは、あまり敵を作ることなく攻撃できるようにするためにデザインされた。
2つめのメカニズムが「議決」だ。このメカニズムを持つカードを使うときは、示された選択肢に各プレイヤーが1票ずつ投票することになる(もちろん、この投票数を増やす方法も存在する)。投票の中にはAかBかの選択もあれば、いくつかの選択肢が提示されることもある。この能力の第1色は白、第2色は青だ。
このメカニズムをこのセットに提示したのは私だ。このセットをショーンと見ている時に、私はお蔵入りになった(詳しくはこちら)ジョーク・セットの『Unglued 2』のために作った、プレイヤーが呪文の結果をどうするか投票するという一連のカードを提示した。ショーンはこの発想を気に入り、同時にそれがこのセットの目的に合っていると感じたのだった。
3つめのメカニズムは「協議」だ。これは以下のテキストを持つ能力語である。「各プレイヤーはそれぞれ自分のライブラリーの一番上のカードを公開する。これにより公開された土地でないカード1枚につき、[なにか有利になることをする]。その後、各プレイヤーはそれぞれカードを1枚引く。」
このメカニズムは、このセットで巧く働く2つのことをこなしている。まず、これは参加しているプレイヤーの数によって効果が増大するので、多人数戦に向くようになっている。2つめが、この効果はプレイヤー全員にいいことが起こる(もちろん一番いい目を見るのは自分だ)ので、外交的な駆け引きが内包されている。このメカニズムは、多人数戦で重要なカードの回転をよくするためにデザインされている。色は緑と白だ。
しかし、これらのメカニズムはどれも当たり前のものだ。『コンスピラシー』が真に革新的な部分は、ドラフト関連のカードにある。ドラフト関連のカードは2種類に分けられる。アーティファクト・クリーチャー・カードと策略・カードである。これらのカードには、ドラフトに影響するものと、ドラフトに影響されるものがある。例えば、上記のプレビュー・カード〈取引仲介機〉は、ドラフトの最後にカードを1枚トレードできるようにするものである。これはアーティファクト・クリーチャーなので、ゲーム中にはドラフトと関係ない能力を使うことができる。
策略・カードは、ゲームの開始時に統率領域に置かれることになる。それらの中には、ゲーム開始時に何か能力を与えるものもあれば、「秘策」を持って、実際にゲームで使われるまで裏向きで置かれるものもある。このセットには13枚の策略カードが存在する。ドラフト関連のカードはリミテッドのコンスピラシー戦だけのためにデザインされたわけではなく、キューブ・ドラフト(などのドラフトを行うフォーマット)で使いたいプレイヤーは使うことができる。
〈ダク・フェイデン〉? いったいどこから?
知らない諸君のために説明すると、〈ダク・フェイデン〉は多元宇宙でも最高の盗賊であり、IDWから発売されたマジック:ザ・ギャザリングのコミックの主人公である。クリエイティブ・チームが『コンスピラシー』のための新カードのコンセプトを考える時に、新カード全てをフィオーラ次元の高層都市パリアノに存在するものにする、という面白いことを考えた。この都市はコミック中で現在〈ダク・フェイデン〉が根城にしているところだ。そしてこの『コンスピラシー』の舞台をフィオーラにすれば......。
サプリメント商品にプレインズウォーカーを入れることについてはかなりの議論を重ねており、今回は最高のテストケースである。プレイヤーが〈ダク・フェイデン〉をどう捉えるか、非常に興味深く思っている。
他に新カードについて面白い話は?
上述の通り、統率者戦プレイヤーのために新しい5体の伝説のクリーチャーを投入した。これらは全てフィオーラ世界の存在である。そのうち3体は2色、1体は単色、1体は3色である。
アート:Michael Komarck |
65枚の新カードを含む210枚ということは、残りの145枚は?
それらは全て再録カードだ。これらのカードの目的は2つあって、1つめが、この商品は独特の新しいプレイ経験、多人数戦ドラフトのためにデザインされているということ。再録カードの中には、このフォーマットを最大にするために選ばれたものがある。2つめが、再録カードは『Modern Masters』に含まれなかった様々なカードに触れる機会をプレイヤーに与えるためのものである。
昔の、多人数戦で面白いカードもあるし、キューブ・ドラフトでよく用いられるものもある。レガシーやヴィンテージで使うためのものもある。また、再録カードは、リミテッド環境を強化するために選んだ昔のメカニズムを使えるようにするものもあるのだ。こうして再録されたメカニズムが、多重キッカー、土地サイクリング、陰鬱である。
『コンスピラシー』はどうやってできたの?
我々が新しくデベロッパーを探すとき、プロツアーで探すことが多い。つまり、デベロッパーはよく似た視点を持っていることが多いのだ。デザイナーを探すときは、グレート・デザイナー・サーチを行う。資格があれば誰でも参加できるので、マジックのプレイに関してさまざまな背景を持ったデザイナーを採用することが多くなる。例えば、ショーン・メインは多人数戦をよくプレイしていた。
ショーンがウィザーズに来た時、彼はまず他の人々に自分が最も楽しいと思うマジックのプレイスタイルを広めようとした。何度もゲームをしているうちに、人々はショーンにある考えをもたらした。この多人数ドラフトをセットにまとめることはできないだろうか? マジックを違う形でプレイするというサプリメント商品(『統率者』、『プレインチェイス』、『アーチエネミー』など)は既に作っている。このドラフトをそのラインナップに加えられないだろうか?
私がデザイナーに強調したいことの1つに、良いデザイナーであるという中にはどこにでも可能性を見つけるということが含まれる、ということがある。作ろうと言うまで、それは存在しないものなのだ。誰にも手を着けられていないアイデアがあれば、その可能性を追求すべきである。何か有望なものが見つかったなら、それを提示するのだ。これはショーンが実際にやったことである。彼は自分のアイデアをまとめ、他の人々とプレイテストを重ねた。そして、準備が出来てから、彼はそれを開発部の上層部に提示したのだ。そして、我々はそれを気に入った、というわけだ。
なぜ『コンスピラシー』のカードは全て新カードではないの?
新カードを作るには時間もリソースもかなりかかる。さらに、多くのプレイヤーが手に入れたいと思っている古いカードは大量に存在している。『コンスピラシー』は、新カードを提示するだけでなく、マジックの過去にアクセスする手段をもたらすのだ。これら全てが組み合わさって、新しいプレイ経験が生み出されるのである。
『コンスピラシー』は過去5年の多人数戦商品の流れに乗っているものだと思いますが、なぜですか?
過去5年のマジックの成功をもたらした大部分は、マジックの作り方の変化によると思っている。長年にわたり、まず我々が楽しいと思うゲームを作り、そして可能な限り多くのプレイヤーにそれをプレイしてもらおうとしていた。5年前に開発部が行った変化は、まず「人々は何をプレイすべきなのか」ではなく「人々がプレイしているのは何なのか」から始めることへの変化だった。
開発部は、プレイヤーにとってマジックとは何なのかを掴むために努力を重ね、そしてそのニーズに応える様々な商品(セット、メカニズム、カード)を作っていった。『統率者』はその好例である。統率者戦に人気があると認識したので、我々はその存在に気付いていないプレイヤーたちに紹介することができる商品を作ったのだ。そして、人気の元になったものは、それにはじめて触れたプレイヤーたちにも伝わるのだということがわかったのだった。
しばしば語るとおり、マジックは単一のゲームではなく、同じルールと道具を共有するゲーム群なのである。マジックを広げるという中には、さまざまなプレイヤーがマジックをどのようにプレイしているかを知り、そして商品などの道具を通してその情報を他のプレイヤーと共有するということも含まれているのだ。
〈ダク・フェイデン〉 アート:Eric Deschamps |
でも、『コンスピラシー』は今まで存在しませんでしたよね?
『コンスピラシー』は文献調査とデベロップの賜物である。ショーンは様々な多人数戦をよく知っていた。そして、彼はドラフトの人気も知っていた。『コンスピラシー』は、ショーンが複数の要素を組み合わせ、そして新しい姿を作り上げたものである。組み合わせは新しいものでも、その要素自体はどちらもマジックに長年存在してきたものだ。
『コンスピラシー』について私が好きな点は、まさに私がデザイン一般に関して好きな点そのものだ。発明の多くは車輪の発見ではなく車輪の再発明である。既に証明されている要素を取り上げ、それを組み合わせて何か新しいものを作るのだ。そう、私は『コンスピラシー』に非常に興奮している。マジックにまだ進化の余地があることを示しているのだ。20年も進化し続けるゲームはそうはない。マジックが生き残り、そしてその栄光に安住していないことは驚異的なことなのだ。
『コンスピラシー』について他に何かありますか?
あと1つある。新しいものを作り出したとは思うが、それは諸君がやること全てを把握しているということではない。例えばドラフト・カードは初めての挑戦だ。これを『コンスピラシー』のリミテッドで使うのは当然として、他のフォーマットではどうだろう? キューブ・ドラフトでは人気が出るだろうか? まだ存在しない新しいフォーマットが誕生するかもしれない。わからないが、それもまた興奮する話だ。
マジックは今年で21年目を迎える。そして、それでもまだ驚けるというのは素晴らしいことだ。だから、『コンスピラシー』を手にとってみて欲しい。これは諸君がこれまで見たこともないものに違いないのだから。
闇の中の秘密
いつでもフィードバックを楽しみにしているが、時に今回は『コンスピラシー』について諸君が思ったことを教えて欲しい。肯定的、否定的、どんな意見でも聞きたいと思う。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で聞かせてくれたまえ。
来週は(訳注:アメリカで)祝日なので、このコラムもお休みを頂くことになる。再来週、いくつかのウソの混じった真実を伝えた翌週にお会いしよう。
その日まで、未経験のことへの挑戦があなたとともにありますように。
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