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Making Magic -マジック開発秘話-
独自の軍勢
独自の軍勢
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年1月13日
『神々の軍勢』プレビュー第1週にようこそ。『テーロス』はブロックの第1セットにすぎず、今週からは第2セットについて話すことになる。デザイン・チームを紹介し、新エキスパンションを説明し、そしてプレビュー・カードをお目になければならないので、時間を無駄にはできない。さっそく始めよう。
生まれ育ち
いつもの通り、まずはセットをただの構想からカードのファイルにまとめ上げた人々のチームを紹介しよう。
ケン・ネーグル/Ken Nagle (リード・デザイナー)
私のところには、大量のメールが届く(まだソーシャルメディアが世に出る前から)。私はいつも全ての手紙やメールに目を通している。8年ほど前のこと、私は白の現状に危機感を持ったというプレイヤーからの一連の手紙を受け取った。彼は白に関して間違っていると感じることを検証し、そしてその問題を解決するためになにができるかについて詳細な説明の書かれた長い手紙を送ってきたのだ。
ところで数年前のこと。第1回グレート・デザイナー・サーチ(GDS)が行われ、100人ほどにまで絞られて、特定の条件(5色全て、6種類のカード・タイプ全て、など)に基づいて6枚のカードを、24時間でデザインするという課題が与えられた。その朝、私が出社すると、既に1通のメールが届いていたのだ。
受験者は24時間の猶予があり、他の全員は時間いっぱいまで使って最高のものを作ろうとしていた。しかし1人だけは、深夜12時を1分過ぎた、提出が認められている中で一番早い時刻に提出してきたのだ。その人物は、かつて白に関する手紙を送ってきた当人だった。そう、課題を可能な限り早く提出することで自分の手の早さを証明したその男こそ、ケン・ネーグルだったのだ。
最初は、少し否定的に感じた。良い仕事をするために与えられた時間を使わない、向こう見ずなデザイナーは一体誰だと。しかしカードに目を向けてみると、その中の1枚ははっきりと私の目を惹いたのだ。とてもいいものだった。よし。私はひとり呟いた。こいつはこの試験を通過させよう。
ケンはその後トップ16に進み、そして決勝進出者の1人が脱落したことでトップ15となった。そのままトントンとトップ3に進み、ウィザーズに来てインタビューを受ける機会を得た。多くはインタビューでケンに否定的だったが、私はGDSを通して彼の評価を高めていた。優勝こそアレクシス・ヤンソン/Alexis Jansonに譲ったが、私は有望だと見てケンにも6ヶ月のインターン権を与えたのだった。
そして6年が経って、ケンはマジックのデザイナーの中で2番目に経験豊富な存在になった。ケンは12個のエキスパンションで働き、4つではリードを務めている(『ワールドウェイク』『新たなるファイレクシア』『ラヴニカへの回帰』『神々の軍勢』)。そして、彼は最初の統率者やアーチエネミーでもリードを務めていた。
ケンはもうインターンではなく、いっぱしのデザイナーである。彼にセットを渡すとき、私は彼ならやってくれるとわかっている。そして『神々の軍勢』も例外ではなかった。今日話すとおり、このセットにはいくつもの難関があったが、ケンはそれらすべてを見付け、笑みを浮かべて解決していった。ケンを褒めるのは簡単だが、ケンは多くのデザイン・チームに所属しているので諸君もその褒め言葉は聞き飽きていることだろう。
イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer
イーサンは第2回グレート・デザイナー・サーチの優勝者で、やはり6ヶ月のデザイン・インターン権を手に入れた。ケンと同じく、イーサンもまたインターンからフルタイムのマジック・デザイナーになっている。イーサンはギリシャ神話に非常に造詣が深いので、彼は『テーロス』のデザイン・チームにもっとも相応しい人材だった。とはいえ、私にはもう一つ目標があった。そろそろイーサンをプールに放り込み、泳げるかどうかを見たかったのだ。
『ニクスへの旅』はイーサンが初めてリードを務めるマジックのエキスパンションである。その準備のために、私は彼を『テーロス』と『神々の軍勢』の両方のデザイン・チームに配属した。イーサンはさらに先行企画チームにも非常によく関与しており(何のことかわからない諸君は先週の記事を参照のこと)、そのチームが生み出した発想の中には『神々の軍勢』のデザイン・チームが取り組んだ興味深いものもいくつもあったのだ。
イーサンが『テーロス』ブロック全体のデザイン・チームに配属されていることの興味深い教訓は、彼が気に入った発想でまだファイルに入っていないものを見付けたとき、彼はあと2回挑戦してからセットに入れられるのだ。その最後の挑戦が、彼が責任者であるセットになる。これはつまり、イーサンが『ニクスへの旅』の作業を始めるときにはかなりのカードを蓄えているということになる。
イーサンは、元ネタ的にもまた最初から手を着けられる機会的にも『テーロス』に情熱を燃やしているので、『テーロス』ブロックに関わることをとても楽しんでいた。
ビリー・モレノ/Billy Moreno
ビリーはデベロッパーとして雇われていたが、デザインにも同様の興味を示していた。『テーロス』のプレビューの際に彼が先行企画の間に授与メカニズムを作ったと説明したが、彼はカードを作りたくて『神々の軍勢』チームに参加したのだ。定義上は、ビリーはデベロップ代理人としてデザイン・チームに参加しているが、だからといってカードを大量に作ることができないというわけではないし、実際に彼は作ったのだ。
ビリーはウィザーズを去ったが、私は彼とともに働いた2年間を光栄に思っている。デザインとデベロップの両方に同等に長けた開発部員はそう多くないが、ビリーはその「そう多くない」中の1人だったのだ。ビリーは会議に来るたびに新しい発想をもたらし、そしてデザインに関する質問をする機会を逃すこともなかった。
ビリーが去ったことは寂しいが、諸君には彼が『神々の軍勢』に残した果実を楽しんでもらいたい。
ライアン・スペイン/Ryan Spain
ライアンは、リミテッド、特にドラフトに注目したポッドキャスト「Limited Resources」を立ち上げた2人のうちの1人として知られていた。私が初めてライアンに会ったのは、彼の持つ技術から考えるとまったくふさわしくない、まったく違う開発部のポジションに関するインタビューのときだった。ライアンはウィザーズでマジックの仕事がしたかったので、何でもいいから中に入ろうとしたのだ。その仕事は得られなかったが、すぐにより相応しい仕事を手に入れ、『マジック・オンライン』を中心としてマジック・デジタル・チームで働くようになった。
我々がほとんどのマジックのデザイン・チームで試していることの1つに、異なった視点を持つ人物を入れるということがある。これを「5人目枠」と呼び、マジックのデザイン・チームでそれまで働いたことのない人物を入れるのだ。ライアンはまさにこれに相応しく、デザインにかなりの貢献をしてくれた。そこで、今後、彼をデザイン・チームに招くことを企画している。
マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater
はいはい。私もデザイン・チームに所属している。驚くことじゃない。私はいつもこの経歴紹介にいるので、自分の枠を使って今までコラムで書いたことのない自分の話をしようかと思う(これもまた挑戦だ)。一時期、私は新しいゲーム・ショーを試す参加者をしていた。ある日、ジャンブルというパズルを基にしたゲーム・ショーを試すことになった。3つのパズルが出題されて、各単語が何文字からなるか下線で示されていて、ユーモラスな絵が添えられていた。決勝に残った2人がどちらが先に3問解けるかを競う、決勝問題だった。
私が先攻だった。私は言葉遊びが大得意で、このパズルは言葉遊びを使うので、3問を11秒で解くことが出来た。最後の問題は「Buoy Meets Gull.」というものだった。対戦相手が1問目に取り組んでいる間に時間切れのブザーが鳴った。あまりに早かったので、何か手違いがあったと思われたほどだった。私はそれ以降呼んでもらえなくなった。
ああ、神よ!
『神々の軍勢』のデザインの出発点としてもっとも相応しいのは、『テーロス』の終了点である。『テーロス』のプレビュー記事の中で語ったとおり、デザインの中核をなすのはギリシャ神話の3つの中核的要素、「神々」「英雄」「怪物」である。『神々の軍勢』のデザイン手法を理解するため、この3つの要素にどのように取り組んだかを見ていく必要がある。まずは「神々」から見ていこう。
アート:Eric Deschamps |
最初に我々が神々を創造したとき、万神殿が必要だとわかっていた。ギリシャ神話の鍵となるのは、神々が存在するというだけではなく、何人もの神々が存在し、彼らが異なった階級として存在するということである。そう、ゼウスは神々の王だが、例えばヘルメスは伝令である。このことから、大神と小神が必要だという発想が生まれた。
万神殿をカラー・ホイールと組み合わせているうちに、大神は各色1柱、合計で5柱欲しいということがわかってきた。しばらく考えた後、小神のほうも明らかになった。2色の組み合わせを表すことで、15柱の神ができる。セットごとに5柱で、またこれによって前のブロックのギルドと同じく、2色の伝説のクリーチャーのサイクルができるのだ。
大神を第1セットに置き、小神は後の2セットのために残しておいた。単純にするため、友好色の小神を『神々の軍勢』に、敵対色の小神を『ニクスへの旅』に置くことに決めたのだった。
2色の小神がどのようになるか、さまざまな想像を耳にしている。幸いにして、今日公開するプレビュー・カードは神々の中の1柱なので、それを見せるだけで多くのことを伝えることができるだろう。〈都市国家の神、エファラ〉を、照覧あれ。
まずいくつかの質問に答えるとしよう。『神々の軍勢』に含まれている小神は全てが破壊不能で、2色への信心を参照する。クリーチャーとして顕現するのには7マナが必要で、これは大神の5よりも大きい。また、小神には全体エンチャントの能力がある。小神は2色の組み合わせを助けるようにデザインされており、上述の通り、昨年のギルドのテーマとうまく整合している。
しかし、神々は神々自身だけでは終わらない。その影響はブロックのデザインの大部分を占めている。まずはエンチャント・テーマから始めよう。『テーロス』のプレビュー中にも語ったとおり、我々は神々の影響を表すためにエンチャントを用い、エンチャントをこのブロックの鍵と位置づけることにした。
クリーチャー・エンチャント
クリーチャー・エンチャントをマジックに導入する方法を考えていたのだが、エンチャントらしさをフレイバー面メカニズム面の両方で表す方法が見つからないでいた。ギリシャ神話はフレイバーをもたらしてくれた。ギリシャの神々は夢にとても繋がりが深い。神々の手によるものすべてが夢らしい性質を持つとしたら?
アート:Robbie Trevino |
私が注意したのは、クリーチャー・エンチャントがメカニズム的にエンチャントらしく、またクリーチャーらしくなければならないということだった。我々が見付けた空間の中で、そうする方法はいくつも見つかった。『テーロス』には最初の5柱の神々が存在し、授与メカニズムが導入された。しかしこれが全てではない。ブロックはまだ全貌を見せてはいないので、ブロックの後半で導入するものを取っておかなければならない。
『神々の軍勢』では新しい神々が登場する。また、授与は変化し、正方でない(クリーチャーのパワーとタフネスが違うという意味の開発部語)授与クリーチャーが登場する。さらに新しいのは、継続的効果を持つ新しいクリーチャー・エンチャントの導入である。これらは全体エンチャント(戦場に出て継続的な効果を持つエンチャント)のように捉えることができるだろう。
多くのプレイヤーが、なぜ『テーロス』に全体エンチャントがないのかと質問してきた。答えは、それらの能力をクリーチャー・エンチャントに持たせたいと思っていて、かつそれは『神々の軍勢』で大公開するまで取っておきたかったからである。ブロック計画で重要なのは、何をするかだけでなく、何を取っておくかなのだ。新しいクリーチャー・エンチャントは、授与クリーチャーとはまた違う働きをし、そしてエンチャント・クリーチャーにまったく新しい関わりを生み出すことになる。
オーラ
世界に存する定命の者に神々がもたらす影響は、さまざまなオーラ(授与クリーチャーを除く)によって表される。『神々の軍勢』でもオーラ・テーマは継続するが、また新たな一ひねりが加えられる。『神々の軍勢』に存在する授与以外のオーラの多くは、エンチャントされたクリーチャーにタップをコストに持つ起動型能力を与える。なぜタップをコストとする起動型能力なのか? それは、このセットに2つ存在する新メカニズムのうちの1つと深く関わっている。すぐにそれについても説明しよう。
信心
先週も書いたとおり、私は信心メカニズムの評価に本当に安堵している。初登場時に実力を発揮できなかったメカニズムの再挑戦というのはそうあることではない。信心を信じたプレイヤー諸君に、このメカニズムが帰ってきたぞ、重いカードで信心が増えやすいようにしてあるぞ、と言えるのが嬉しい。そう、5柱の友好色の神々だけのことを言っているのではないのだ。
超英雄
神々は様々な影響をもたらしたが、『神々の軍勢』には多くの英雄が存在する。『神々の軍勢』で勇敢な英雄達に与えられたものを見ていこう。
アート:Mathias Kollros |
英雄的
英雄的は『神々の軍勢』でも戻ってきた。このセットではいくつかの新しい能力が登場したが、英雄的メカニズムは『テーロス』とほぼ同じ形で働くことになる。これによって、ドラフトに幾分の一貫性が保たれることになる。我々はデータ収集にかなりの時間を費やし、そのデータからドラフト・プレイヤーの大半は第2セットでも同じドラフト上のアーキタイプをそのまま残し、それほど離れない形でいくつかの新戦略を追加したいと思っているということがわかった。
占術
占術メカニズムもまた、フォーマットが必要とするデッキの回転を保つために残った。占術と新しい効果の組み合わせは登場することになるが、英雄的と同じく、『テーロス』とそう変わらない働きを見せてくれることになるだろう。
神啓
英雄は馴染みのメカニズムも持っているが、新しいものも手に入れた。神啓は、この能力を持つクリーチャーがアンタップしたときに誘発するメカニズムである。必要なのは、いかにしてタップするかを考えることだ。攻撃するのでも良いが、先述のオーラを使うこともできる。神啓メカニズムは夢の中で神々の世界ニクスと繋がり、神々の啓示を受けた定命の者を表すものである。神啓メカニズムは諸君の英雄に新しいクエストを与え、攻撃のようなことをまた別の角度から検討することになるだろう。また、神啓メカニズムによって、簡単にクリーチャー・エンチャント・トークンが戦場に生み出されることになる。
怪物の頭痛
最後になるが、怪物の話をしよう。『テーロス』のメカニズムであった怪物化は、『神々の軍勢』には戻ってこなかった。その代わりとなる怪物の能力が、貢納である。貢納は、効果を得るかクリーチャーを大きくするか、対戦相手に選ばせるというものだ。どちらの選択結果もありがたいものではない。
アート: Richard Wright |
怪物は『神々の軍勢』でも同じような役割を果たし、英雄の敵として振る舞う。しかし、少しばかり変化させることで感覚も変わってくることになる。
「これは神話だ。神話だ!」「うん?」
諸君が『神々の軍勢』で見付ける最後のものは、『テーロス』にも存在していたものだ。各セットのデザイン・チームは多くのギリシャ神話ネタを仕込むために尽力している。なぜこれが『テーロス』に入っていないのか、と思っていたものは、『神々の軍勢』に入っていることだろう。
さて、諸君が『神々の軍勢』のざっと見を楽しんでくれたなら幸いである。今日は、このセットの「誰」と「何」を紹介した。それではまた次回、「どのように」と「なぜ」を紹介する日にお会いしよう。いつもの通り、このセットの第一印象をメール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で聞かせて欲しい。
その日まで、あなたのデッキに相応しい神があなたとともにありますように。
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