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『イニストラードを覆う影』中間報告

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『イニストラードを覆う影』中間報告

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年5月20日


 我々は『イニストラードを覆う影』発売から『異界月』発売の中間点に到着しました。今回は、私がこの記事で実際にあまりやってこなかったこと、つまり現在存在するこのフォーマットについて――我々がデベロップの視点から気づいたこと、改善し得たことについてお話ししようと思います。

 私はこれをいつも行っている素晴らしい仕事に対する後付けの叩きにはしたくありません。重要なのは短所を認め、それらの問題のいくつかに皆さんと一緒に対処しようとすることなので、皆さんは我々が将来物事を改善しようとするためにできることをご存知かと思います。これは次のセットが出るまでにそのことが完璧になるということではありませんが(我々は依然として、もっと前もって作業をしています)、我々は自らの間違いから学び、人々がどのようにこのフォーマットを把握しているかに関する考えを掴むために、ソーシャルメディアの反響を読むことに多くの時間を費やします。

 大抵、この手の評価は1年の終わりに行うので、それが新鮮なものでないなら簡単に去年の物事が犠牲になってしまいます。それを考慮に入れて、私は物事をもっと前に、そして率直に何が機能して何がそうでないかを見る機会を設けたいと思いました。

デッキの多様性

 スタンダードは現在、去年を大きく上回る十分な量のデッキの多様性を持っています。白ウィニーと白緑トークンはアグレッシブなデッキを好む人達に選択肢を与え、赤緑は加速してエルドラージの巨人を素早く出せ、もしくはジョニーっぽく《紅蓮術師のゴーグル》をデッキに投入することもできます。ジャンド、ナヤ、白黒などはグッドスタッフのミッドレンジ戦略をもたらし、コントロール・デッキもいくつかあり、それらの多くはドラゴンに頼っています。

 スタンダードがフォーマットとして大変なところの1つは、よくデッキの単純さや一貫した戦略ではなく「グッドスタッフ・デッキ」中心になってしまうことです。これは分かりにくいことではありません――カードのセットを越えた相互作用に関する余地は(意図的でもそうでなくても)限られています。50以上のセットがあり、スタンダードでは不可能な超強力な戦略を見つけられるモダンとは異なります。

 私が信じるモダン人気が成長を続けている理由の1つは、グッドスタッフではないデッキがたくさんあるからです。親和と感染を見てみましょう。どちらのデッキもドラフトで中盤にピックされるコモンが多く入っていて、その戦略を助けるために様々なセットのカードを組み合わせたとき、簡単にトーナメントで勝ってしまうデッキになります。たとえ単体のプレイが驚異的に難しいものであっても、わかりやすい戦略を持っているということはとても魅力的です。あるプレイヤーが感染をうまく扱えないかもしれなくても、確実にゲームを見て何をしようとしているかを理解できます。

 去年1年を通して、スタンダードには戦略はあっても、何か実際に分かりやすいものよりも単体で強力なカードを頻繁にプレイする3色や4色のデッキだらけでした。私はそれらのうちいくつかは良いものや素晴らしいものさえあると思います。しかし良いものが多すぎることは悪いことです。同様にスタンダードの全てのデッキが直線的なデッキで、異なる種類の戦略を好む人のためにまともな選択肢が存在しないなら、我々は不満であり、何かが間違っているということになります。

 今のところ、私はスタンダードに多様性だけでなくバランスの面でも高得点をつけています。明らかに異なる強さであったとしても事実上「トップのデッキ」が存在しません。このフォーマットの最初の2週間はStarCityGames.comのイベントの結果が白ウィニーとバント・カンパニーばかりで本当に他に何もなく、デベロップ・チームにとしてはかなり悲惨でした。これによりネット上の人々は声高に我々が全てを台無しにして、スタンダードはめちゃくちゃだと主張しました。

 幸運にもプロツアーでは多くの新しいデッキが現れました。それ以来、我々はいくつかの異なるイベントで様々なデッキが勝ったのを見ました――アグロ、ミッドレンジ、コントロール、ランプ、コンボさえありました。全ては良い兆候です。

 コンボの余談:《血統の観察者》/《ズーラポートの殺し屋》/《変位エルドラージ》のコンボを我々がスタンダードをテストしていたときに知っていて、意図的にそれを存在させておきました。我々はすべての手段を持っているわけではありませんが――加速するのに《謎の石の儀式》を使いませんでした――驚いてはいません。それと相互作用を持つことのできるカードが存在することは分かっており、それが低い数字で現れたならかなり楽しいことになると予想していました。過去において我々は複雑で相互に作用するコンボに少し怯え過ぎていて、基本的にコンボが少なくなりすぎていたと個人的には思っています。個人的にはこのような不格好なコンボがスタンダードにあるほうがずっと好きで、《欠片の双子》のようなものは好みではありません。我々はこんなコンボが好きな人のかゆいところに手が届くようにしたいのですが、そのコンボをこのフォーマットにおける絶対的な強者にしたくはありません。

 注意するべきはこの多様性とバランスは別物であり、それぞれ独立して存在しうるということです。じゃんけんはバランスの取れたメタゲームですが、多様性はありません。グー、チョキ、パー、トカゲ、スポックはもっと良いと私は思いますが、我々がスタンダードを考えるときはもう少し上を目指しています。理想的には、5つのバケツ(アグロ、ミッドレンジ、ランプ/コンボ、コントロール、撹乱アグロ)にそれぞれトップメタのデッキががあるべきです。


不敬の皇子、オーメンダール》 アート:Min Yum

 もし今のスタンダードにないと思うものを挙げるとすれば、アグロ・デッキの多様性です。白ウィニーは間違いなくそうであり、白緑トークンも普通はアグロに分類されますが、確かにミッドレンジのようにも見えます。そういうものです。これは明らかに、2マナで本体に3点飛ぶ赤い呪文に加えて、赤いデッキの他のいくつかの要素の不在が、それを基本的にトーナメントのトップメタから排除しています。確かに、それはあちこちで見かけますが、我々が基本的に期待するような成果を挙げてはいません。とはいえ、そのことは赤いデッキから解放されたい人々にとってはいいことなのかもしれません。赤いアグロ・デッキは少なくともここ4年間常に存在していましたが、熱烈なファンのためにもう少し強くてもいいと思います。

色のバランス

 スタンダードのいいところをたくさん書いてきましたが、この部分は『イニストラードを覆う影』スタンダードの我々の期待に応えられていない部分です。白と緑は現在のスタンダードでぶっちぎりの最強色であり、そのどちらも入っていないデッキを大量に見つけることはできません。幸運にも、全てのデッキが2色ともを使っているわけではありません。赤緑ランプ、赤緑ゴーグル、白黒コントロール、黒緑サクリファイスなどで、赤と黒は適正な比率でプレイされています。

 青は今明らかに一番つらい時期にある色です。青赤ゴーグル・デッキやドラゴン・コントロールなどを見かけますが、ほとんどのデッキは《ヴリンの神童、ジェイス》と《反射魔道士》のためだけに青をプレイしています。理想的な世界では、青はスタンダード最強の2枚をタッチするためだけでなく、多くのデッキの基礎になっていたでしょう。デベロップ・チームはこの問題と間違ってしまったことについて相当量の時間を費やして、このことについて将来改善しようとしています。

 このセットをデベロップするときにメタゲームがどうなるかについて我々が正確な知識を持っていたなら、青にいくつかできることを与えて、少なくとも白からそして恐らく緑からも少しできることを減らしていたでしょう。これらの変更でこのフォーマットが良くなるかどうかは分からないので後知恵に意味はそんなにありませんが、我々の目標は、セットが発売されたときにスタンダードで何をするのが正解かを我々が伝えられない場所にたどり着くことです。

サイドボーディング

 ここ数年、我々はサイドボードの方向性を考え直して、強力な色対策から異なる戦略に圧力をかけるカードへと向かってきました。そのことの問題の一部は緑の色対策カードはほとんど常に他の直接除去にアクセスできる色よりも大きく劣ることでしたが、他の一部は黒単コントロールが最強のデッキだった場合に、同じカードで黒単アグロ・デッキをプレイしていても対策されるとかなり苛立つことでした――原因はそれらの対策カードが戦略を無視してその色だけを対策する傾向にあったためです。

 《無限の抹消》、《神聖なる月光》、《悪性の疫病》、《侵襲手術》、《翼切り》のようなカードは単体で見ると相対的に弱めにデザインされていますが、メタゲームが適正ならば姿を現すことができます――そして、そう......その多くにとって適正でした。我々はトークンが最強の戦略であることを分かっていたので、強力な対策カードを用意しました。《翼切り》は《龍王オジュタイ》への回答としてデザインされましたが、《大天使アヴァシン》に対しても良い働きをし、《無限の抹消》は単一のクリーチャーに比重を重く置くデッキに対する回答として機能します。《過ぎ去った季節》や《闇の誓願》に昂揚した《侵襲手術》を打ったことがありますか? 私には弱いプレイとは思えません。

 私にとって、これは我々のサイドボード用カードに種を蒔く戦略が基本的に機能してきたという証拠です。これらのカードの中にこれらが有効なデッキをトーナメントから締めだしてしまうようなものはありませんが、強力な回答に対して異なる軸で接触することで競いたいデッキを可能にすることで、メタゲームの多様化を助けています。

これからの展望

 結局のところ、今のスタンダードはとてもうまく行っていると言えるでしょう。完璧ではありませんが、このようなフォーマットを私は他に知りません。私がとても健全なスタンダードと呼ぶ範囲にうまく収まっています。

 我々が『イニストラードを覆う影』で(デザインのどこかで)ミスをしていて、調整したいと願うものの1つは部族デッキです。確かに人間はかなりの大当たりなのですが、人間デッキに向けて蒔いた種の多さからいえば驚きではありません。結局我々は多くの人間を毎セットごとに印刷していたということが分かりました。スピリット、ゾンビ、吸血鬼、狼男はそれらの戦略に沿った十分な数のクリーチャーがいなかったか、存在するために十分な活力がなかっただけなのです。

 さて、我々は「この親和デッキが機能するのに十分なだけのアーティファクト・クリーチャーがいない――『ダークスティール』にはいくつか入れよう」と「何てこった、何枚か禁止しないといけないな」との微妙な境界線を踏んでいますが、後から考えるとこれらのカードのうちいくつかにもっとリスクを負っておけばよかったと思います。イニストラードの部族という面はある意味でその墓地の要素と同じだけ重要ですが、それに近いだけの「行うべきクールなもの」の重さを背負っていません。ここで我々が完全に間違っていると指摘できる決断があるか分かりませんが、私は我々がそれがトップメタのデッキでないにしても、それぞれの部族の愛好者がもう少しこだわるようにもっと良い仕事ができたと思います。

 ネタバレ注意:幸運にも、『異界月』にはスピリット、ゾンビ、吸血鬼が人間と同じく収録されています。うまく行けばそれらはその部族のデッキを満たすのに十分な働きをするでしょう。大抵の場合、それらのデッキがどれぐらいの強さになるのかを伝えるのは困難です。前の『イニストラード』ブロックを振り返ると、それらは少しでたらめでした――しかしプロツアー予選やグランプリ、プロツアーレベルではなくても、少なくともフライデー・ナイト・マジックのレベルの競争力がありました。またこれらのデッキは新しいプレイヤーやカジュアル・プレイヤーがこだわるのに最も魅力的で簡単なデッキの1つであり、それが私がイニストラードの部族に対して少なくともこれらのプレイヤーへ訴えかけ、彼らをよりスタンダードへ引き込むための十分な牽引力を望む理由です。

 今週はここまでです。来週は『エターナルマスターズ』についてお話しします。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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